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第四話 1 「おそらく、再会」

 第二層への階段は、第一層の最奥にあった。


 踏み込んだ瞬間、空気が変わった。湿度が上がり、壁の石が黒ずんでいる。松明の間隔も広く、光の届かない場所が増えた。


「なんか、雰囲気が違いますね」


 セラが杖を両手で握り直した。


「無理そうなら引き返す」


「はい」




 第一層とは敵の密度が違った。ゴブリンが二体、三体と同時に出てくる。動きも速い。


 トクナは敵全員のターゲットを自分に引きつけるように動いた。隙を見て攻撃し、食らいながら前に立ち続ける。多少のダメージは織り込み済みだ。セラは距離を取りながら回復を絶やさない。


 消耗が積み重なっていく戦い方だったが、セラの回復がそれを補っていた。


「行けますね」


「まだ油断するな」


 二体を片付けた後、通路が二股に分かれた。

 右の壁の継ぎ目から、薄く金色の光が漏れていた。


「左に行こう」


「右じゃないんですか?」


「たぶん右は行き止まりだ。左の方が先だ」


 左の通路の奥から、かすかに金属音がする。誰かいる、と直感でわかった。





 左の通路を進むと、広めの空間に出た。


 目を凝らすと、人がいた。


 片膝をついて壁際に追い詰められている。短く切りそろえた黒髪、細身だが鍛えられた体つき。足首から腕にかけて、床から伸びた蔓草が絡みついていた。自力では剣に手が届かないようだ。


 その正面に、ゴブリンとは明らかに異なる敵が立っていた。


 背丈は普通のゴブリンの倍近い。手に持っているのは剣でも爪でもなく、光を帯びた杖だ。魔法を使うゴブリン——ゴブリンメイジ。杖の先に魔力が収束し始めていた。


 縛られた女の体には、すでに浅い傷が散っていた。長いこと戦っていたらしい。相討ちの末に罠を踏んだのか、その顔には悔しさと疲弊が混じっていた。


 魔力の光が膨らんだ。


 トクナは考える間もなく走っていた。


 ゴブリンメイジが振り返った瞬間、ナイフを叩き込む。詠唱が乱れ、魔法が霧散した。怯んだ隙にもう一撃。ゴブリンメイジは普通のゴブリンより硬かったが、怯みが長かった。三撃目で体勢を崩し、動かなくなった。



 空間に静寂が戻った。


 セラがすでに縛られた女のそばに膝をついて、杖をかざしていた。


「回復します」


 光が女の体を包んだ。散らばった傷口が、ゆっくりと塞がっていく。割合で回復するセラの魔法は、失ったHPが大きいほどその恩恵が増す。消耗戦を生き延びた体に、光がじわりと染み込んでいった。


 女が目を見開いた。


「……お前、セラか」


 セラが顔を上げた。


「リナさん」


 リナはしばらく、自分の体に広がる光を見ていた。


「回復量が上がってるな」


「はい。武器の限界突破をしたら——」


「★1を凸したのか」


 遮るような言い方だった。興味のない声だった。凸でスキルが変わることは知っている。ただ所詮★1の話だ、という空気がそこにあった。


「……はい」


 セラが少し萎んだ。リナはそれ以上聞かなかった。


「蔓、切ってくれないか」


 今度はトクナに向かって言った。ぶっきらぼうに、しかし「頼む」の形で。


 ナイフで蔓を断つ。リナが立ち上がり、地面に転がっていた剣を拾って腰につるす。傷はもう塞がっていた。


「もういい」


 リナがトクナを見た。値踏みするような目で、腰のナイフを一瞥した。それだけで視線を切った。



 そのときだった。



 床に転がっていたゴブリンメイジが、身を起こした。


 仕留めたと思っていたが、息を殺して隙を待っていたのだ。杖を拾い上げ、最も近くにいるセラに向けて魔力を収束させ始めた。


 セラが気づいた瞬間、すでにリナが動いていた。


 一歩。剣を抜く。薙ぐ。剣の軌跡が光った。


 それだけだった。


 ゴブリンメイジは音もなく崩れた。リナは剣を鞘に収めながら、セラを一瞥した。助けた、という素振りはまるでなかった。ただ当然のことをした、という顔だった。


「行くぞ」


 リナが先を歩き始めた。

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