第三話 2 「魔法石と招き猫」
翌日と、その翌日。
二人は同じことを繰り返した。クエストをこなし、宝箱を探し、ガチャ石を集め、招き猫の前に立つ。地味な作業だった。他の冒険者たちが高難度クエストで一攫千金を狙っている横で、二人は黙々とFランクの依頼をこなし続けた。
三日目の夕方、十個のガチャ石が揃った。
「今日こそ」
セラが招き猫の前に立つ。石を一個ずつ置いていく。あと一本だけ回復杖を引ければいい。ただそれだけなのに、なかなか出なかった。七個目も、八個目も、別の武器だった。
確率が変わったのか。それとも今日が外れ日なのか。
トクナはソシャゲで何時間も同じ画面を見続けた夜のことを思い出した。信じるしかない、という感覚だけが手の中にある。
九個目——光が弾けた。
回復杖だった。
「やった!」
セラが思わず飛び跳ねた。
光が、これまでより少し長く続いた。
【★1 回復杖「古びた癒し杖+10」】
【攻撃力:2 回復力:20】
【スキル:割合回復(最大HPの15%を回復)】
セラが画面を見たまま、動かなかった。
「セラ」
返事がない。
「セラ」
「……見えてます」
声が、少し変だった。
振り返ると、セラは泣いていた。声も出さず、ただ静かに涙が流れている。
「ずっと、役立たずって言われてきたんです」
セラが言った。ぽつりと、独り言のように。
「回復量が少いって。いてもいなくても同じって。でも……これって、私の魔法に関係なく15%回復できるんですよね」
「そうだ」
「じゃあ、これからはもっと役に立てるんですよね」
「ああ」
セラがゆっくり頷いた。もう一度、ステータス画面を見る。それから顔を上げて、袖で目を拭いた。
「ありがとうございます」
「俺は石を集めただけだ」
「それだけじゃないです」
セラがまっすぐ言った。トクナは何も答えなかった。
招き猫の目が、静かに光っている。残り一個の石が台座に残っていた。トクナがそれを置くと、★1の短剣が出てきた。アイテム袋に入れる。誰も見ていない。
◇
その夜、食堂で夕飯を食べながら、セラが聞いた。
「トクナさんって、転生前は何をしてたんですか」
「フリーター」
「フリーター?」
「アルバイトで生活してた。特にやりたいこともなくて、なんとなく過ごしてた」
セラがふうんと言いながらスープを飲む。
「私は学生でした。大学に入ったばかりで、まだ何も始まってなかった感じで」
「それで転生か」
「そうなんですよね。なんか、損した気分です」
セラが笑った。トクナも少し笑った。
損した気分。それはよくわかった。
ただ——今は、そうでもない気がした。
翌朝、ギルドの掲示板の前でセラが言った。
「今日はどのクエストにしますか」
トクナは掲示板を眺めた。昨日まで手が届かなかったEランクの依頼が、今日は視野に入る。
セラの回復力が上がった。自分の短剣も、少しずつ強くなっている。
二人でいる意味が、数字として見えてきた。
「Eランクにしよう」
「行けますか?」
「行ける」
セラが頷く。その顔に、三日前の路地裏の表情はもうなかった。
ギルドの扉を開ける。外は晴れていた。




