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第三話 1 「魔法石と招き猫」

 ギルドに戻ると、スライム討伐の報酬を清算してもらった。受付嬢は銅貨を一枚ずつ数えながら、「お疲れさまでした。一日で二件もこなしていただいて助かります」と言った。


「生活のためなので」とトクナは答えた。


 報酬を受け取り、ついでに聞いてみる。


「ガチャって勝手に回していいんですか」


「はい、魔法石一個で武器が一つ出ます。石の種類によって出る武器のレアリティが変わるんですが——」


 受付嬢が少し言いよどんだ。


「今日のように低難易度のクエスト報酬の石だと、レアリティの低い武器しか出ないので、回さずに捨ててしまう方も多くて」


 苦笑いだった。

 やはりそうか、とトクナは思った。★1や★2の武器は、誰も集めようとしていない。


「武器の強化はしてますか? 強化と限界突破の二種類があるんですよ」


「どうやるんですか」


「強化は鍛冶師に頼む方法で、お金がかかりますし★3以上の武器じゃないとできないんですが」


 受付嬢がちらりとトクナの腰のナイフを見た。


「もう一つの限界突破は、同じ武器を二つ合わせると攻撃力が上がります。★1からできてお金もかかりませんが、レアリティが上がると同じ武器を集めるのが大変で、やっている方は少ないですね」


 凸はこの世界でも知られた仕組みらしい。ただし誰もやろうとしない。しかもわざわざ★1の武器なんて。★3以上なら別の強化方法もあるのにだ。


「いい武器が出るように祈ってますね」


 受付嬢が笑顔で締めくくった。





 宿は二人で一部屋にした。


 別々に部屋を取ると銅貨が四枚かかるが、相部屋なら二枚で済む。セラに提案すると「私も同じこと考えてました」と即答だった。

 食堂で夕飯を食べた。黒パンとスープ、それと干し肉が少し。贅沢ではないが、温かかった。


「やっと屋根の下で寝られます」とセラが言った。


「俺も昨日も外だったから」


「私も一昨日からずっと外でした。追い出されたとき、どこにも行けなくて」


 セラがスープを一口飲む。


「でも今日、銅貨が四枚あります」


「明日も稼げば増える」


「増えますね」


 当たり前のことを言い合っているだけだった。それでも、今日の昼間には考えられなかったことだ。

 しばらく黙って食べていると、セラが「一つ聞いてもいいですか」と言った。


「なんだ」


「パーティー、続けますか。その、正式に」


 トクナは黒パンを置いた。


「続ける。セラの回復があると戦いやすい」


「私もそうしたいです」セラが頷く。


「役に立てるよう、頑張ります」


「さっきも役に立ってた」


 セラが少し驚いた顔をして、それから「ありがとうございます」と笑った。


「じゃあ、もっと役に立てるように」


「うん」


 正式なパーティー名はまだなかった。でもその夜、二人の方向は決まった。





 翌朝、町の人に声をかけて集めた情報を頭の中で整理した。


 魔法石を集める方法はクエスト報酬と宝箱の二つ。宝箱はフィールドやダンジョン、町中にも点在しているが、ほとんどはレアリティが低い。ダンジョンの奥になるほどいい宝箱も出る。

 「運と経験で見えない宝箱があるという噂もある、開けると見えるようになるらしい」という話も聞いた。また、宝箱から直接武器が出ることもあれば、強い敵を倒すとレアな武器を落とすこともあるとか。


(見えない宝箱、か)


 トクナはそれ以上考えるのをやめた。




 浅層ダンジョンの第一層に入ると、昨日と同じ湿った石の匂いがした。セラが回復杖を構えて隣に立つ。


「今日は何体倒せますかね」


「やってみないとわからない」


 スライムを二体倒してから先へ進むと、行き止まりになった。


「行き止まりですね。何もないです」


「引き返そう」


 と言いかけて、目の端に光が滲んだのに気づいた。壁の継ぎ目から漏れる薄い金色。石の凹凸に埋もれるように、木製の宝箱が一つ、ほとんど壁と同化して置かれていた。


(ゲームじゃ行き止まりによく宝箱があるな)


「どうかしましたか」


「いや、ちょっと待ってくれ」


 ウロウロしながら壁の石を順番に押していくと、かちりと音がして一部が引っ込んだ。奥に小さな空間。蓋を開けるとガチャ石が二個と、くすんだ短剣が一本入っていた。宝箱はキラキラと光の粒子になって消えた。


「宝箱だ」とセラが声を上げた。


「どうしてわかったんですか」


「勘だ」


 嘘ではなかった。説明するには、まだ自分でもよくわかっていないことが多すぎた。




 その日、二人は第一層を隅々まで歩き回った。


 スライムを倒しながらクエストをこなし、宝箱を三つ見つけた。合計でガチャ石が七個。セラも動きが昨日より板についてきて、詠唱のタイミングが早くなっていた。


「だいぶ慣れてきたな」


「そうですか? まだ足がもつれますけど」


「最初よりはずっとましだ」


 セラが少し嬉しそうな顔をした。

 ギルドに戻り、クエスト報酬のガチャ石と合わせると、十個になった。





 招き猫は、冒険者ギルドの端の壁際に鎮座していた。


 陶器でできた白い猫。片手を上げ、もう片方の手に小判を持っている。目が金色に光っている。台座の上に石を置くと、猫の目がカッと輝いて石が消え、目の前に武器が現れる仕組みだ。


「十個、全部回しますか」


 セラが石を手の中で転がしながら聞いた。


「セラの杖を優先で」


「わかりました」


 一個目。★1の短剣。トクナのナイフと同じだ。アイテム袋に入れておく。

 二個目。★1の回復杖「古びた癒し杖」。セラが目を輝かせた。


「合成します」


 セラが二本の杖を重ねる。光が弾けて、一本になった。



【★1 回復杖「古びた癒し杖+6」】

【攻撃力:2 回復力:16】

【スキル:なし(解放まであと4)】



 三個目から七個目。短剣が二本、別の武器が二本、回復杖が一本。


 「あと一本」


 セラの声が少し緊張していた。手を合わせて祈るようなポーズ。残り三個。トクナは黙って見ていた。

 八個目。回復杖。



【★1 回復杖「古びた癒し杖+8」】

【攻撃力:2 回復力:18】

【スキル:なし(解放まであと2)】



 九個目。短剣。


 「あと一個か」


 セラがぽつりと言った。十個で二本引けるかどうか。確率の話だ。どうにもならない。


 十個目。


 光が弾けた。


 出てきたのは——回復杖だった。



【★1 回復杖「古びた癒し杖+9」】

【攻撃力:2 回復力:19】

【スキル:なし(解放まであと1)】



 セラが小さく息を吐いた。


「あと一回か」


「今日集めた分は使い切りました」


「上々だ。明日また集めよう」


 トクナはそう言いながら、アイテム袋の中身を確認した。今日引いた短剣が三本。ナイフと合わせると——誰も見ていないのを確かめてから、合成する。



【★1 短剣「刃こぼれしたショートソード+3」】

【攻撃力:21】

【スキル:なし(解放まであと7)】



 さらにもう1つ。ずっと使っている「くすんだナイフ」。+はどこまで増えるのだろうか。ちょっとした興味本位。+10まで強化されたそれは、しかしさらなる光を放つ。



【★1 短剣「くすんだナイフ+11」】

【攻撃力:19】

【スキル1:見えない宝箱が見えるように】

【スキル2:なし(解放まであと14)】



 静かに、着実に。

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