第三話 1 「魔法石と招き猫」
ギルドに戻ると、スライム討伐の報酬を清算してもらった。受付嬢は銅貨を一枚ずつ数えながら、「お疲れさまでした。一日で二件もこなしていただいて助かります」と言った。
「生活のためなので」とトクナは答えた。
報酬を受け取り、ついでに聞いてみる。
「ガチャって勝手に回していいんですか」
「はい、魔法石一個で武器が一つ出ます。石の種類によって出る武器のレアリティが変わるんですが——」
受付嬢が少し言いよどんだ。
「今日のように低難易度のクエスト報酬の石だと、レアリティの低い武器しか出ないので、回さずに捨ててしまう方も多くて」
苦笑いだった。
やはりそうか、とトクナは思った。★1や★2の武器は、誰も集めようとしていない。
「武器の強化はしてますか? 強化と限界突破の二種類があるんですよ」
「どうやるんですか」
「強化は鍛冶師に頼む方法で、お金がかかりますし★3以上の武器じゃないとできないんですが」
受付嬢がちらりとトクナの腰のナイフを見た。
「もう一つの限界突破は、同じ武器を二つ合わせると攻撃力が上がります。★1からできてお金もかかりませんが、レアリティが上がると同じ武器を集めるのが大変で、やっている方は少ないですね」
凸はこの世界でも知られた仕組みらしい。ただし誰もやろうとしない。しかもわざわざ★1の武器なんて。★3以上なら別の強化方法もあるのにだ。
「いい武器が出るように祈ってますね」
受付嬢が笑顔で締めくくった。
◇
宿は二人で一部屋にした。
別々に部屋を取ると銅貨が四枚かかるが、相部屋なら二枚で済む。セラに提案すると「私も同じこと考えてました」と即答だった。
食堂で夕飯を食べた。黒パンとスープ、それと干し肉が少し。贅沢ではないが、温かかった。
「やっと屋根の下で寝られます」とセラが言った。
「俺も昨日も外だったから」
「私も一昨日からずっと外でした。追い出されたとき、どこにも行けなくて」
セラがスープを一口飲む。
「でも今日、銅貨が四枚あります」
「明日も稼げば増える」
「増えますね」
当たり前のことを言い合っているだけだった。それでも、今日の昼間には考えられなかったことだ。
しばらく黙って食べていると、セラが「一つ聞いてもいいですか」と言った。
「なんだ」
「パーティー、続けますか。その、正式に」
トクナは黒パンを置いた。
「続ける。セラの回復があると戦いやすい」
「私もそうしたいです」セラが頷く。
「役に立てるよう、頑張ります」
「さっきも役に立ってた」
セラが少し驚いた顔をして、それから「ありがとうございます」と笑った。
「じゃあ、もっと役に立てるように」
「うん」
正式なパーティー名はまだなかった。でもその夜、二人の方向は決まった。
◇
翌朝、町の人に声をかけて集めた情報を頭の中で整理した。
魔法石を集める方法はクエスト報酬と宝箱の二つ。宝箱はフィールドやダンジョン、町中にも点在しているが、ほとんどはレアリティが低い。ダンジョンの奥になるほどいい宝箱も出る。
「運と経験で見えない宝箱があるという噂もある、開けると見えるようになるらしい」という話も聞いた。また、宝箱から直接武器が出ることもあれば、強い敵を倒すとレアな武器を落とすこともあるとか。
(見えない宝箱、か)
トクナはそれ以上考えるのをやめた。
浅層ダンジョンの第一層に入ると、昨日と同じ湿った石の匂いがした。セラが回復杖を構えて隣に立つ。
「今日は何体倒せますかね」
「やってみないとわからない」
スライムを二体倒してから先へ進むと、行き止まりになった。
「行き止まりですね。何もないです」
「引き返そう」
と言いかけて、目の端に光が滲んだのに気づいた。壁の継ぎ目から漏れる薄い金色。石の凹凸に埋もれるように、木製の宝箱が一つ、ほとんど壁と同化して置かれていた。
(ゲームじゃ行き止まりによく宝箱があるな)
「どうかしましたか」
「いや、ちょっと待ってくれ」
ウロウロしながら壁の石を順番に押していくと、かちりと音がして一部が引っ込んだ。奥に小さな空間。蓋を開けるとガチャ石が二個と、くすんだ短剣が一本入っていた。宝箱はキラキラと光の粒子になって消えた。
「宝箱だ」とセラが声を上げた。
「どうしてわかったんですか」
「勘だ」
嘘ではなかった。説明するには、まだ自分でもよくわかっていないことが多すぎた。
その日、二人は第一層を隅々まで歩き回った。
スライムを倒しながらクエストをこなし、宝箱を三つ見つけた。合計でガチャ石が七個。セラも動きが昨日より板についてきて、詠唱のタイミングが早くなっていた。
「だいぶ慣れてきたな」
「そうですか? まだ足がもつれますけど」
「最初よりはずっとましだ」
セラが少し嬉しそうな顔をした。
ギルドに戻り、クエスト報酬のガチャ石と合わせると、十個になった。
◇
招き猫は、冒険者ギルドの端の壁際に鎮座していた。
陶器でできた白い猫。片手を上げ、もう片方の手に小判を持っている。目が金色に光っている。台座の上に石を置くと、猫の目がカッと輝いて石が消え、目の前に武器が現れる仕組みだ。
「十個、全部回しますか」
セラが石を手の中で転がしながら聞いた。
「セラの杖を優先で」
「わかりました」
一個目。★1の短剣。トクナのナイフと同じだ。アイテム袋に入れておく。
二個目。★1の回復杖「古びた癒し杖」。セラが目を輝かせた。
「合成します」
セラが二本の杖を重ねる。光が弾けて、一本になった。
【★1 回復杖「古びた癒し杖+6」】
【攻撃力:2 回復力:16】
【スキル:なし(解放まであと4)】
三個目から七個目。短剣が二本、別の武器が二本、回復杖が一本。
「あと一本」
セラの声が少し緊張していた。手を合わせて祈るようなポーズ。残り三個。トクナは黙って見ていた。
八個目。回復杖。
【★1 回復杖「古びた癒し杖+8」】
【攻撃力:2 回復力:18】
【スキル:なし(解放まであと2)】
九個目。短剣。
「あと一個か」
セラがぽつりと言った。十個で二本引けるかどうか。確率の話だ。どうにもならない。
十個目。
光が弾けた。
出てきたのは——回復杖だった。
【★1 回復杖「古びた癒し杖+9」】
【攻撃力:2 回復力:19】
【スキル:なし(解放まであと1)】
セラが小さく息を吐いた。
「あと一回か」
「今日集めた分は使い切りました」
「上々だ。明日また集めよう」
トクナはそう言いながら、アイテム袋の中身を確認した。今日引いた短剣が三本。ナイフと合わせると——誰も見ていないのを確かめてから、合成する。
【★1 短剣「刃こぼれしたショートソード+3」】
【攻撃力:21】
【スキル:なし(解放まであと7)】
さらにもう1つ。ずっと使っている「くすんだナイフ」。+はどこまで増えるのだろうか。ちょっとした興味本位。+10まで強化されたそれは、しかしさらなる光を放つ。
【★1 短剣「くすんだナイフ+11」】
【攻撃力:19】
【スキル1:見えない宝箱が見えるように】
【スキル2:なし(解放まであと14)】
静かに、着実に。




