表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/36

第二話 2 「路地裏のゴミ」

 ギルドに戻り、二人のレベルなどを伝えると受付嬢がスライム討伐の依頼票を取り出した。


「スライム三体討伐、報酬は銅貨二枚になります。お二人でお受けですか?」


「ああ」と、トクナは答えてから、セラに向いた。


「報酬は半分ずつでいいか」


 セラは少し驚いた顔をした。それから「はい」と小さく頷く。当然のように言われると思っていなかったらしい。



 依頼票を受け取ったとき、ちょうど《蒼狼の牙》が奥の報告窓口から出てきた。


 クレスがトクナを見て、口の端を上げた。


「まだいたのか。レベル1の転生したばかりの初心者がゴミ武器で何するつもりだ」


 セラに目が移ると、今度は鼻で笑った。


 「おっと、二人揃ってゴミか。お似合いだな」


 セラが唇をぐっと噛む。トクナは何も言わなかった。言葉を返すより、さっさとクエストをこなすほうが早い。


 クレスは笑いながら歩き出した。仲間たちが後に続く。

 その中のひとり——後ろから三番目を歩く痩せた男が、トクナの横を通り過ぎる瞬間に、視線を動かした。

 まっすぐ前を見たまま、しかし目だけが、ギルドの入口脇の壁——何もない石壁の一点で、ほんの一瞬止まった。


 トクナは息を止めた。


 その壁の継ぎ目から、緑色の光を帯びた宝箱の一端が見えていた。自分にしか見えないと思っていた、隠し宝箱だ。壁の向こう側にあるらしく、こちらからでは手が届かない。


 男はもう歩いている。振り返らない。仲間と話すわけでもなく、ただ無表情のまま、ギルドの扉の向こうに消えた。


(……今、あそこを見たか?)


「どうかしましたか?」


 セラが隣で首をかしげている。


「いや」


 トクナは首を振った。確証はない。気のせいかもしれない。

 ただ、その視線だけが頭に残った。





 浅層ダンジョンの第一層は、湿った石の匂いがした。


 松明のない薄暗がりの中、スライムが三体ゆっくりと近づいてくる。青く半透明の体が、壁の染みから滲み出るように現れた。


「いくぞ」


 トクナガはナイフを構えた。昨日と同じ足のすくみが来るかと思ったが、来なかった。


 一体目に踏み込む。スライムが体当たりしてくる。横にずれてかわし、ナイフを叩き込む。昨日とは違う手応えがあった。ひるんだ隙にもう一撃——息つく暇なく、背後からの衝撃でバランスを崩す。二体目が飛びついていた。


「回復します」


 セラの声がして、背中に温かいものが広がった。擦り傷の熱が、すっと引く。


 残り二体。トクナが一体を引きつけ、もう一体がセラに向かう。セラは杖を盾にしながら後退し、詠唱を続けた。足元がおぼつかない。転びそうになりながら、それでも詠唱を切らさなかった。


「セラ、左!」


 声をかけると、セラは足をもつれさせながらも動いた。トクナがすれ違いざまにナイフを走らせる。二体目が崩れる。最後の一体は二人で挟んで、仕留めた。


 静寂が戻った。


 二人ともひざに手をついて、息を整えた。




「怪我はないか」


 トクナは絞り出すように聞く。


「……楽しかったです」


 顔を上げると、セラは少し驚いたような表情をしていた。自分でも予想していなかった言葉が出てきたらしい。


「初めて、自分の力で倒せました。ずっとパーティーの後ろで、ただ回復するだけで……こんな気持ち、初めてです」


 声が少し震えていた。笑っているのか泣きそうなのか、その境界あたりにいる顔だった。

 トクナはしばらくその顔を見てから、前を向いた。


「俺も同じだ」


 短くそれだけ言った。




 ダンジョンの奥から微かな風が来た。まだ見ぬ階層から来る風だ。その先に何があるのか、今はまだわからない。


「もう一本、クエスト受けてくるか」


「はい」


 セラの返事は、さっきより少しだけ明るかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ