第十四話 2/3 「開かない扉」
トクナはロングソードを抜いた。
クレスはトクナの武器を見て笑った。
「見てなかったのか、聞こえなかったのか。相当頭が悪いのかどれだ? ゴミ武器だと死ぬぞ?」
「ゴミ武器が怖いのか?」
トクナは無理に笑顔を作る。
極度の緊張感。他の冒険者たちは誰も動くことができない。
目の前でガイの剣が真っ二つになっている。それは見ていた。だが、トクナの頭には以前の経験があった。カメ型の魔物と戦った時はクレスの★5武器はひび割れていたが、自分のロングソードはびくともしていなかった。凸は武器の強度に影響を与えている。
クレスは改めてフランベルジュを構え直した。刀身の波打った形が、光を不規則に反射する。
一撃のみ。スキル「見えない刃」は気づかれたらクレスほどの冒険者なら予測して避けられるだろう。そうなったら圧倒的に不利だ。
クレスが一気に距離を詰めてきた。トクナはあえて剣を前に出さず、回避する動作に入る。
「遅い」
一撃目は難なく避ける。さすがに武器の差で機動力はトクナの方が高い。
だが、空ぶったもクレスは無理やり体重移動で方向を変え、続けて踏み込む。勢いのまま今度は縦に振り下ろす。トクナは横へ転がった。床に火花が散った。
「逃げるだけか」
三撃目。クレスの剣が赤く光ったアーマーブレイクを発動したのがわかった。ロングソードを直接狙って壊すつもりだ。大ぶりだが、避けづらい踏み込んでの横なぎ。
「頼む……!!」
トクナは他の人には聞こえないほどの声でつぶやいて攻撃を剣で受けた。頭で分かっていても受けきれなければ真っ二つだ。手が震えていた。
金属がぶつかる音。衝撃が腕を伝って全身に広がる。しかし剣は折れなかった。
勢いが完全に消されてクレスの顔が変わった。
「なんで」
「なんでだろうな!」
クレスがもう一度叩く。また弾かれる。クレスが想像していたロングソードが真っ二つになる場面は訪れなかった。トクナはクレスが三度目を叩いた瞬間、剣の威力が落ちていることに気づいた。さすがのクレスでも疲れが出ているのか。
「アーマーブレイク!!!」
クレスは大声で叫び、力任せに押してきた。武器が壊れなくても押しつぶされる。
トクナは焦る。
「トクナ!」
叫んだのはリナだった。
クレスの気が一瞬それたのを見逃さず、トクナはクレスをおもいきり蹴り飛ばす。
「今度はこっちの番だ。受けられるなら受けてみろ!」
トクナは大袈裟にロングソードを上段に構える。あえて剣の長さを見せるように。
「来いよ雑魚」
クレスは剣を斜めに構えた。一発受けてみせるという自信。だが油断しているわけではなく、受けてからカウンターを入れるつもりなのが分かった。
「うわああああ!!!!」
トクナはとりあえず叫んで突っ込んだ。わかりやすい上段からの切りおろし。
しかしトクナの剣がクレスの構える剣に当たる前に、クレスの肩を切り裂いた。
「ぐっ!」
声にならない声をあげ、苦悶を見せながら続くトクナの剣を受ける。
「どういうことだ」
「気づいたんだ。この世界は思ってるより深いってな」
トクナは構わず体重をかける。クレスはカウンターする力が出ないのか受けるのみ。
そして、ピシッと音が確かにトクナの耳に聞こえた。
クレスのフランベルジュにヒビが入っていた。
「燃えろ!」
クレスが叫ぶとフランベルジュの刀身から炎が上がる。トクナも思わず離れた。ロングソードに火が移っていた。何度か振ると炎は消える。
「よく気づいたな。あのまま受けてれば燃やせたのに」
クレスは肩を抑えながら立ち上がる。なおも燃え続けるフランベルジュを構える。
「今度はこっちの番だよなぁ?」
クレスも上段から振り下ろす。
トクナは一歩下がって「見えない刃」の部分で受けた。ここなら炎が上がってこない。そう踏んだのだ。
「なっ」
クレスは動揺していた。当然だ。何もない空中で剣が止まったようにしか見えないのだ。
「見えない刃でもあるのか!?」
気づいた時には遅かった。刀身にヒビのある状態でスキルを発動し、800凸の武器と撃ち合ったのだ。
「まだ俺の番だ!」
トクナは前に踏み込んで力を込める。
最後はあっけなかった。フランベルジュから悲鳴のような金属音がして、灯っていた炎がシュッと誕生日ケーキのロウソクを吹き消したように消え、パンッという思いの外軽い音共に刀身が二つに割れた。
止めるものがなくなったトクナのロングソードはそのままクレスの身体に吸い込まれた。




