第十四話 1/3 「開かない扉」
「やっぱりここまで来たか」
聞き覚えのある声にトクナは振り返る。
声の主は、やはりクレスだった。
長すぎる特大の剣を右手から下げ、先端を引きずっている。刃は炎のように波打つ。フランベルジュという武器だ。刀身には魔物のものであろう血がべっとりとついている。道を切り開きながらきたのか、どこか疲れが表情に浮かんでいた。だが、目は血走り、まるで追い詰められた獣のようだった。
広間にいた冒険者たちが静止した。ギルドの処分を知っている者がほとんどだ。冒険者ギルドの監視により自由な行動が制限されているはず。そう考えていたが誰も声を出さなかった。
「クレス」
トクナが言った。
「なんでここにいる」
「手伝いに来た」
短く言った。クレスの口角がゆっくりと上がり、視線はトクナに固定された。
◇
クレスは歩き出した。
他の冒険者たちが左右に割れる。意図してではなく、本能的に道を空けた。クレスは冒険者たちの間を当然のように進んだ。
トクナの前まで来たとき、二人を遮るように動く者がいた。
ガイだった。
クレスの前に立ち、クレスの前進を身体で遮った。
構わず身体からぶつかりに行ったクレスだったが、体格差は如何ともしがたく、押し返されるようにして止まった。
「どけ」
ガイは何も言わない。
「邪魔するな。そもそも何でここにいる。お前もお前も、お前まで俺を裏切るのか」
クレスは声を低くして周りを見まわし、元《蒼狼の牙》のメンバーを睨みつけた。怒りと信じられない、という表情が混じり合っていた。
「何年一緒にいたと思ってる。図体だけでかいお前を拾って剣の振り方から教えてやった。俺が、お前に」
「世話になった」
ガイは静かに言った。
「ならなぜ」
「町のため、お前の失態を詫びるためだ」
クレスの顔が歪んだ。
「俺の失態だと? 俺だって町のためにここまで来た。今まで尽くしてきたのにちょっとミスをして怪我人が出たら犯罪者扱いかよ」
ガイは何も言わず、否定もしなかった。
「もう一度言う、どけ。冒険者ギルドの本当の悪を倒しにきた。町のためにな」
クレスはフランベルジュを持ち上げた。剣先がガイに触れる。
「もう、町を脅かす魔物はいない」
ガイは背中の両手剣を握り、正面に構えた。
二人は睨み合う。
そして、クレスが吠えた。
「じゃあ、お前も、お前らも全員敵だあぁぁぁ!!!!」
◇
最初に動いたのはクレスだった。
長大なリーチの特大剣が、その重さを感じさせないスピードで横なぎに振られる。さすがに《蒼狼の牙》のリーダーだけある。技、能力については文句なしの力が見て取れた。
ガイも構えていた両手剣を握り直し、クレスの斬撃を一度目はかわしてカウンター気味に切り掛かる。クレスもガイの攻撃を難なく避けた。どこかガイの剣には迷いが残っているようだった。
それが仇となったのだろう。迷いのない殺意が込められたクレスの剣は、今度はガイを正確に捉え、避けられないと見たガイは両手剣でガードした。
金属が悲鳴を上げるような音が広間に響き渡る。耳を塞ぎたくなるような高音父と共に、バキッという何かが壊れる音。ガイの両手剣の刀身にひびが走り、次の瞬間、刀身が真ん中から二つに折れた。
「っ!」
クレスの攻撃はガイの両手剣ガードを貫き、ガイの身体へと直接当たった。ガイは咄嗟に飛び下がるも受け損なった一撃は肩を直撃し、壁に叩きつけられた。ずるりと崩れ落ちる。鎧の肩の部分が切り裂かれ、隙間から血が流れてくる。
「ガイ!」
リナが声を上げる。セラが駆け寄った。
「大丈夫です、意識はあります」
セラはすかさず回復をかける。ガイは手で払おうとするが、自分の身体がうまく動かせない。見た目以上にダメージは大きかった。
トクナはクレスを見る。特大剣フランベルジュは火を纏ったように刀身は赤く燃え上がっていた。
「アーマーブレイクだ。ゴミ武器なんか使ってると真っ二つだぞ」
クレスはガイの方をちらりと見て、それからトクナに向き直った。
「次はお前だ」




