第十三話 4/4 「鉄の巨人」
今回は違った。
削る。落ちる。拾う。
そのサイクルが広間全体で同時に回り始めた。鉄巨人が一人を攻撃しようとする間に、別の三人が削る。削れた欠片が武器として落ち、トクナが拾う。鉄巨人が足を踏み出す頃にはもう床には何もない。
「小さくなってる」
誰かが言った。
確かに、鉄巨人の表面が削れたままだった。吸収できる素材がなく、補充ができない。少しずつ、少しずつ、表面の鉱石が減っていく。
ガイが前衛の中心に入った。★4の両手剣と戦利品スキルを組み合わせて、鉄巨人の胴体を大きく削る。欠片が複数落ちる。
鉄巨人は体勢を崩し、さらに重い一撃をくらわせた。相手がわかっているからか、ハンマーのような武器を持ち込んだ者もいた。硬い鉄巨人の表面を容赦無く叩き砕く。さすがのベテランハンターたちといったところだ。
時間はかかっていた。とにかく硬いしデカい。しかし鉄巨人は確実に削れていた。
三十分ほど経った頃、鉄巨人のサイズが半分以下になっていた。岩と金属の塊だったものが、細い芯のような形に変わっていく。バランスを維持するのがやっとで、冒険者側での怪我人もほとんどいなかった。
「中に何かある」
リナが指差した。
鉄巨人の胴体の中心に、赤く光る球体が見え始めていた。コアだ。表面の金属がなくなるにつれて、徐々に露出してきている。
「あれがコアか」
「壊せるか」
「やってみよう」
トクナの声かけで、何人かが試みた。遠距離から矢を放ち、魔法を撃つ。確かに届いてはいるようで、煙が上がったがコアは割れない。
「フォローを」
前にでたリナへの攻撃を魔法で逸らす。リナは接近して剣を当てた。火花が散ったが、傷がつかない。
「硬い。単純に火力が足りない」
リナは★4武器を持っていることをトクナにみせる。
「どうする」
トクナはロングソードを構えた。「盗賊のナイフ」を作る際に、ガチャから出たものをもらってきていた。どうせ誰も使わないからと。さらに鉄巨人の体からドロップしたものにもロングソードはあった。ここ数日で凸があり得ないくらい伸びていた。
【★2 片手剣「ロングソード+800」】
【攻撃力:1630】
【スキル1:鈍化+4】
【スキル2:出血+3】
【スキル3:見えない刃+1(攻撃時リーチが刀身の3倍に伸びる)】
通常冒険者が持つ★5武器で鍛冶屋で強化したものが攻撃力700前後とリナが教えてくれた。
おそらくこの場で一番強いのは、トクナだった。
覚悟を決め、背中の杖をアイテム袋へ入れた。さすがに杖を背負って戦うのはしんどく、トクナはすでに息が上がっていた。深呼吸する。
「決めちゃってください」
セラが近くに来ていた。ほとんどダメージをくらっていないトクナへ回復魔法をかける。
コアの大きさはこぶし二つ分ほど。中心に向かって光が集まっている。コアは露出しているものの、まだ周りは硬い鉱石で覆われている。
突く。
一点に力を集中させ、一撃でやるしかない。
「俺がいく!」
声に合わせてコアまでの道が開いた。
トクナは三歩の助走をつけ、ロングソードを絞るように構えて踏み込んだ。全力でのダッシュ。鉄巨人は止めようと体を動かすが、他の冒険者たちがすかさず妨害に入る。みなを信じて、トクナ真っ直ぐに突っ込んだ。
剣先がコアの表面に触れる感触。全体重を乗せて押し込む。
「壊れろっ!!」
音がした。
ガラスが割れるような、高い音。それから低い振動が床を伝わってきた。
コアに亀裂が入った。
光が溢れ出した。鉄巨人の体が内側から光り始め、残っていた表面の金属が一斉に剥がれ落ちた。欠片が一斉に床に散らばる。それは大量の武器に変わって。
鉄巨人が崩れた。
膝から折れ、前に倒れ、床に激突した。轟音が広間に響いた。
静寂。
誰も動かなかった。
それからゲイルが息を吐いた。それが合図のように、広間のあちこちから声が上がった。
「倒した」
「やった」
「本当に削り切れた」
笑い声と歓声が混じった。疲弊しきった顔で笑っている者もいた。ガイは表情を変えなかったが、両手剣をゆっくりと鞘に収めた。
◇
広間の奥に、扉があった。
戦闘の前は鉄巨人の体に隠れていたのか、今まで気づかなかった。石造りの扉で、表面に文様が刻まれている。鍵穴らしきものがあるが、鍵は持っていない。
「これが異変の原因か」
「わからない。閉まっているし。鉄巨人が現れたこと自体が良くなかったのかも」
「鉄巨人はここを守ってたのかな」
ゲイルは砕けたコアを拾いながら、
「元々自然界にいる生物じゃない。誰かが置いたんだ」
興奮冷めやらず、誰が帰ると言い出すか、お見合いの状態の中、声が聞こえた。
広間の入り口から。
「やっぱりここまで来たか」
全員が振り返った。
入り口に人影が立っていた。
誰だ、と声に出そうとして、しかしトクナには聞き覚えがあった。
「お前……」




