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第十三話 3/4 「鉄の巨人」

 翌日、予定通り対策会議が開かれた。


 広間に鉄巨人の下見に向かったパーティー全員が集まっている。トクナは全員の顔を見渡す。昨日のこともあり、みな不安そうな表情だった。口々に戦った時の感想や、回復しているところを見たという話をしていた。


 トクナたちが遅れて顔を見せると一気に場が静まり、


「で、どうするんですか、リーダーさん。昨日背中向けて逃げてきたんだ。対策はあるんだろうな」


 と声が上がった。彼らは意地悪で言っているのではない。


 冒険者が依頼の途中で敵に背を逃げて帰還してきたのだ。当然ダンジョンから冒険者ギルドに戻るまでの間にも何度かトクナは同じことを言われていた。それくらい冒険者にとっては恥ずかしいことなのだと、ゲイルはそっとトクナに耳打ちした。


「昨日はありがとうございました。おかげで準備ができました。明日、改めて倒しに行きましょう」


「鉄巨人は攻撃しても回復していた。あんたも見ていたはずだ」


「でも、ダメージは確かに通っていました。回復は攻撃した際に落ちた鉱石を吸収していたからです。なので回復を邪魔してしまえばいい」


「どうやって?」


「これです」


 トクナは「盗賊のナイフ」を掲げてみせた。


「★2の武器がどうした」


「この武器には戦利品のスキルがついています。昨日戦利品のスキルを持った状態で攻撃したところ、鉱石ではなく武器がドロップしました」


 そう言いながらトクナはもう一本「盗賊のナイフ」を取り出す。


「こうです」


 そして合成する。ナイフは二本から一本に。


「消してしまえばいい」


「おお!」


 あちこちから感嘆の声が上がる。


「ただ攻撃しながら武器を拾って合成してってというのはどうにも」


「皆さんには攻撃に専念してもらいます。武器を拾って合成は私の方で行います。まずはこの戦利品スキルのついた武器を持っている人はいませんか。★3、★4、★5の手持ちの武器の確認をお願いします」


 何人かが手を挙げた。★3、★4、★5の武器で戦利品スキルが付いているのをトクナが確認する。


「では、その他の持っていない人にはこれを」


 盗賊のナイフを配った。受け取った冒険者たちがステータスを確認する。初めは訝しんでいた冒険者たちが手にしてから顔色が変わっていく。


「★2なのにスキルがあるんだな」


「25凸までしています。スキル2が戦利品になるようです」


 ざわめきが起きた。低レアリティでもスキルが機能するなら話は別だ、という空気が広がる。受け取った者が武器を持ち替えたり、試しに振ったりしている。


「このスキルは腰につけておくだけで発動します。アイテム袋には仕舞わず、腰につけた状態で普段の武器で戦ってください」


 そこで一人が手を挙げる。


「すみません、★4に戦利品がついている武器を持っていると言ったのですが、普段は弓で、スキルは両手剣だったので担いで戦うのは厳しく。私もナイフを頂けないでしょうか」


 トクナは返答に困っていた。武器屋を回って集めたのだが、全員分のナイフが足りなかったため、皆に確認してもらっていたのだ。


 すると一人が手を挙げた。


「今からガチャするってのは? 盗賊のナイフって低レアだろ? どうせ低レア用の魔法石なんか使わないからみんな余ってるんじゃないのか?」


 手を挙げた男がぐるりと見回すと、皆アイテム袋を漁って魔法石を取り出した。




 たっぷり数百連分が瞬時に集まり、招き猫の前に魔法石を置いて大ガチャ大会が始まった。


 両手剣や杖が出るたびにため息が聞こえ、「盗賊のナイフ」が出ると歓声が上がる。何事かとギルドマスターが覗きにきたくらいだった。


 ひとしきり盛り上がりも収まり、無事に「盗賊のナイフ+25」が手に入り、弓使いの冒険者に渡したところで、解散の空気になった。


 そのとき、冒険者ギルドの扉が開いた。


 全員が振り返る。そこに立っていたのはガイだった。


 年季の入った革鎧。腰に両手剣。いつも通りの無表情で、広間の入り口に立っていた。それだけで部屋の空気が変わった。


 ガイはまっすぐ前に進み、広間の中心で足を止めた。全員の前で、頭を下げた。


「クレスの件で迷惑をかけた。長い間、見て見ぬふりで止められなかった。詫びる言葉もないが、これだけは言わせてくれ。申し訳ない。もし償いになるなら今回の戦いに協力させて欲しい。盾でも捨て駒でも構わない」


 誰も何も言わなかった。


 しばらくして、ベテランの冒険者が口を開いた。廃坑の生き残りだ。


「ガイさんが助けてくれたから、俺たちは今日ここにいる」


 別の冒険者が続いた。


「一緒に戦ってきた仲間だ。今さら何を言ってるんですか」


 また別の声。彼は《蒼狼の牙》のメンバーだった。《蒼狼の牙》はパーティーでの参加はできないが、リナのように複数のパーティーに所属している者もいるのだ。


「今回は《ダスト・エッジ》がリーダーだから決めるのはこいつらだ。俺たちは異論ない」


 全員の視線がトクナに集まった。


 トクナはガイを見た。頭を下げたまま、まだ顔を上げていない。


「顔を上げてくれ」


 ガイが顔を上げた。


「一緒に行こう。うちのパーティーの所属でいいか?」


 ガイは短く頷いた。受付嬢が早速羊皮紙を持って近づいてくる。ガイはサインを済ませた。


 広間がざわめいた。歓迎の声、笑い声。昨日まで重かった空気が、少し軽くなった。


 ダンジョン最奥調査に参加しない冒険者たちもつられて拍手していた。


 ただ、クレスはいなかった。





 さらに翌日。準備を済ませ、再びダンジョンへ向かった。


 今度は全員が盗賊のナイフか戦利品スキルつきの武器を持っている。トクナはヒイラギの枝杖を背中に括りつけた。武器としては使わない。ドロップ自動回収のスキルが機能すれば、トクナの周囲に落ちたアイテムが自動で袋に入る。自分は合成だけしながら走り回ればいい。


 四層を進みながら、道中の魔物を倒してみると、戦利品スキルが機能するたびに武器が落ち、落ちたそばから回収される。範囲は思ったより広めで、数メートル先から引き寄せられて目の前で消えてアイテム袋に入る、という仕組みのようだ。


 広間に出た。


 鉄巨人が先日と同じように佇んでいる。だが、その体は前回よりも大きく見えた。いや、足元に散らばる魔物の亡骸。奴は「食事をして」待っていた。


「いくぞ!」


 トクナが声を出す。


「おお!!」


 皆が一斉に走り出した。


 トクナがこの世界に来て一番大きな戦いが始まる。

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