第十四話 3/3 「開かない扉」
広間の入り口から複数の足音が来た。
外見から冒険者ギルドの職員とわかる。三人で駆け込んできた。
「クレスを確認。捕縛する」
クレスは抵抗しなかった。職員が腕を掴んでも、動かなかった。
「待ってください!」
すぐそばにセラが寄っていた。そっとヒールをかける。誰も止めなかった。それほどクレスは重症に見えた。ガードなく剣が突き刺さったのだ。当たりどころによっては死んでいただろう。
「トクナさんが殺したことになっちゃいます」
セラは完全な回復はできなかった。だが出血は止まり、クレスはモゴモゴと口を動かしたがなんと言ったのかは誰にも聞こえなかった。
「すみませんでした。隙をつかれて逃げられてしまい」
冒険者ギルドの職員は深々と頭を下げるとクレスの両脇に職員が入り引きずるように連れて行った。
クレスは引かれていく途中で一度だけ振り返った。
ガイを見た。
ガイは壁にもたれて座ったまま、クレスを見ていた。
二人は何も言わなかった。
クレスが連れていかれた。足音が遠ざかっていく。騒々しかった気配は広間から、完全に消えた。
◇
リナがガイの傷を診ていた。再びガイの元に戻ったセラは、
「肩の骨にひびが入っているかもしれません。回復魔法で体力は回復しましたが、しばらく安静が必要です」
「わかった」
ガイは痛みはあるのか苦悶の表情を見せたが、そのまま立ち上がった。
「わかったじゃないです。本当に安静にしてください」
ガイは素直に頷いた。
「盾になるとは頼んでいない」
「盾にもなれなかったな」
ガイが笑ったように見えた。冗談とかも言うんだな、とトクナは考えていた。
「怪我もしてほしくなかった」
「なれてる」
ガイは壁に頭を預けたまま、天井を見た。
「クレスの償いのつもりが、また迷惑をかけたな」
トクナは何も言えなかった。
「あいつの罪償いなんて人生の無駄だ」
リナはガイの腹を軽く小突いた。
「身に染みた」
ガイはそれ以上何も言わなかった。
他の冒険者たちも口々に謝罪や驚嘆の言葉をあげながら近づいてきた。
◇
しばらくして、広間に落ち着きが戻った。
怪我人の確認をして、全員が動けることを確かめてから、トクナは扉に向き直った。
石造りの扉。文字ではない文様が刻まれており、ドアノブに鍵穴がある。
「鍵が必要だな」
リナが覗き込む。
「どこにあるんだろう」
トクナはそう言いながらもすでに分かっていた。少し離れたところに宝箱が見えていた。今まで見たことないような豪華な装飾。宝箱のそのものに価値がありそうな見た目だ。
しかし悩んでいた。この扉、開けても大丈夫なものなのだろうか。
「気になっていたんだが」
横に立ったのはガイだった。
「お前は宝箱が見えるよな? 固有スキルか?」
トクナは小さく首を横に振った。
「どうやって」
トクナは少し悩んで、
「ガイ、盾になってくれないか?」
と言った。
ガイは今までで一番驚いた表情をした。
ガイの影に隠れながら宝箱の位置まで進む。鍵についてはまだ秘密にした方がいいとトクナは判断したのだった。
「ここだ」
言われるまま何もわからず着いてきただけのガイだったが、
「これ」
トクナはガイに「くすんだナイフ」を渡した。首を傾げるガイだったが、ナイフのステータスを見て驚いた。
「8、9、桁が……8219凸……!? これは」
鉄巨人を倒すための準備から鉄巨人のドロップをひたすら集めた結果これほどの数値になっていたのはさっき気づいた。さすがのトクナでも驚いたのだからガイが驚いたのも無理はない。★1武器とはいえ、宝箱や敵からのドロップがドロップ増加と相まって一度に五本とか手に入るのだ。
「そこはいいんだ。目の前に宝箱が見えないか?」
「ああ、ナイフのスキルなんだな。それにこんな宝箱は見たことない」
ナイフを受け取り、トクナは宝箱を開ける。中には鍵が一つだけ入っていた。扉と違い、ほとんど装飾がない、金一色の質素な鍵。すぐにポケットへしまう。
「俺はなんでここに立つ必要があるんだ?」
「宝箱が見える秘密はあまり知られたくないだろ」
ガイは納得したように再びトクナを隠しながら扉まで戻った。
トクナは鍵を持って扉の前に立った。鍵穴に差し込むとすんなり奥まで入る。軽くひねるとカチッとハマった感触が伝わり、慌てて引き抜く。
「開きそうか?」
リナが聞いた。
トクナは鍵をポケットにしまった。
「やめておこう」
「なんで」
「何があるかわからないし、鉄巨人と戦ってみんな疲れている。戻ってギルドマスターの判断に委ねようと思う」
リナが少し考えてから、頷いた。ガイとセラも異論はないようだった。
「帰るぞ!」
疲れで地面に座っていたり、元気が有り余って広間を探索していた冒険者たちを集め、帰り道も気を抜かないように喝を入れて帰路についた。




