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第十二話 1/3 「ダンジョンでの暗明」

 狼の襲撃から、四日が経った。



 ギルドの掲示板には「調査中につきダンジョン立ち入り制限」の紙が貼られたままだった。



 手持ち無沙汰になった冒険者たちが昼間からギルドに溜まり、噂話と愚痴を交換している。トクナたちは毎朝ギルドに顔を出して状況を確認し、午後は町の外周や周辺の森で素材集めと武器強化の時間にあてた。



 宝箱を開けるだけでもドロップアップの効果が乗り、ナイフと魔法石が今までの何倍も出るようになっていた。ひたすら集めて合成を続けることで、ナイフの凸は着実に積み上がっていた。


 100凸になっていた「くすんだナイフ」だったが、101凸でスキル欄に新しい行が増え、次は1000凸での解放と表示されていた。果たしてどこまで行くのだろうという興味が湧いたのだ。


 500凸を超えると、ナイフがわずかだが光を帯び始めた。軽いはずなのに、芯が通ったような重みも感じた。さらに既存のスキルも徐々に強化されていた。もはやくすんだところなどない。


 ナイフを何度も取り出して眺めていたのがリナに気づかれて「なんか変な顔してるぞ」と言われた。


 そして四日目の夜、1000凸に届いた。


 宿の部屋で、三人でナイフのステータスを覗き込んだ。



【★1 短剣「くすんだナイフ+1000」】

【攻撃力:1008】

【スキル1:見えない宝箱が見えるように+5】

【スキル2:探索強化+3】

【スキル3:地形感知+3】

【スキル4:識別】

【スキル5:戦利品(魔物を倒すと低確率で武器を落とす)】



「戦利品」


 トクナは声に出して読んだ。


「魔物を倒すと武器が出るらしい」


 リナが眉を上げた。


「どういうことだ?」


「戦って倒すだけで武器が手に入るんだと思う。今までって魔物を倒しても素材しか落とさなかっただろ?」


「凸をさらに進めると……どこまでいくんだろうな」


「戦えば戦うほどナイフの凸が進む。ナイフの凸が進めば強くなる。強くなればもっと強い魔物を倒せる」


 セラがしばらく考えてから、


「まだまだ強くなりますね!」


「上限はあるかもな」


 三人がナイフを見た。ナイフはきらりと刃を光らせる。それでも握るグリップは手に入れた時のまま使い古されて擦り切れている。あまりにもアンバランスな見た目だが、リナももう馬鹿にすることはなかった。


「このナイフ、★5武器より攻撃力高いな……」


 リナがぼそっとつぶやいた言葉に、トクナが驚いたのはしばらく後だった。





 ロングソードの強化も並行して進めていた。


 レアリティの違いもあり、ナイフほど素材が集まらないため、四日間で200凸が限界だった。それでも100凸のあとも新しいスキルが解放されるようだった。



【★2 片手剣「ロングソード+200」】

【攻撃力:430】

【スキル1:鈍化+2】

【スキル2:出血+1】

【スキル3:見えない刃(攻撃時リーチが刀身の2倍に伸びる)】



「見えない刃?」


 リナが首を傾けた。


「まあ、リーチが伸びるだけでしょ」




 翌朝、宿の裏で試すことにした。


 石壁から二歩分ほど離れて構えて、剣を振る。どう見ても届かない距離のはずが、壁に薄く傷がついた。


「こっちに向けないでくれよ」


 リナが身体を引きながら言った。


「自分でも怖いな。間合いを体で覚え直さないといけない」


「でも対人では強いぞ。相手が安全圏だと思っている距離から届く」


 セラが少し引いた顔をしながら、


「確かに強いですけど……使いこなせるんですか」


「慣れるしかない」


 その日の午後、ギルドから呼び出しがかかった。





 ギルドマスターの前に、七つのパーティーが集まっていた。


「ダンジョン内部の調査のため合同チームを編成する。各パーティーが連携して動くこと、これを必須条件とする」


 淡々とした説明が続く中、トクナは部屋を見回した。見知った顔もある。廃坑の生き残りのパーティーが一つ、昨夜の狼討伐で一緒になったパーティーが二つ。


「《蒼狼の牙》も参加します」


 後ろからクレスの声がした。


 部屋の空気が微妙に動いた。ギルドマスターは表情を変えなかった。


「パーティーでの条件を満たしている。参加を認める」


 クレスは満足そうに腕を組んだ。隣にガイがいた。いつも通りの無表情で、クレスを見ていなかった。





 出発前、城門の前で各パーティーが準備をしていた。


 クレスがトクナの隣に来た。用事があるというより、ただ目に入ったから声をかける、という感じだった。


「まだそのナイフ使ってるのか」


「使ってる」


「★1だろ。よくそんな雑魚武器で来る気になるな」


 クレスは腰に下げた片手剣を見せびらかすように身体を捻った。過剰な装飾がチャラチャラと音を立てるが、一方で刃は魔法を帯びているのかゆらゆらと陽炎のように揺れる。


 トクナは答えなかった。ナイフを一度握って、離した。


「まあ足手まといにならない程度に頑張れ。俺たちの邪魔さえしなければ文句は言わない」


 クレスは笑いながら先頭の方へ歩いていった。周りにいた他パーティーの冒険者が、こちらにちらりと視線を向けた。同情なのか、値踏みなのか、判断がつかない目だった。


 セラが小声で言った。


「クレスさん、先日は武器が壊れてあまり活躍してなかったですけど、今日も変わらないですね」


「そういうやつだ」


 リナは興味なさそうに武器のチェックをしている。


「お前は腹は立たないのか?」


 リナはトクナに話をふる。


「腹は立つさ。でも今は関係ない」


 トクナは立ち上がる。


「町のために頑張るだけだ」

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