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第十二話 2/3 「ダンジョンでの暗明」

 ダンジョンに入ると、すぐに空気が変わった。


 普段と違う。魔物の気配が濃く、通路の奥から聞こえてくる音も多い。逆に宝箱の数は少なく、分岐が多くなっている。ダンジョンが普段よりも複雑な構造になっていた。


「いつもより複雑で広い。魔物も多いかもしれない」


「強い奴も多いな。昨夜の狼の件と関係があるかもしれない」


 各パーティーが手分けして通路を進んでいく。トクナたちは二層への入口に近いルートを担当となった。


 最初の魔物との戦闘はスムーズに片付いた。


 トクナがナイフで仕留めた直後、魔物の体が光の粒になって消えた。と同時に、地面に短剣が一本落ちた。


「出た」


 くすんだナイフと同じ、★1の短剣だった。拾い上げてその場で合成する。凸数が一つ上がる。


「戦闘中に凸が進む」


 セラが目を丸くした。


「これ、終わる頃にはどのくらいになってるんですか」


「どのくらい倒せるかによる」


 トクナはチラリと短剣を確認し、


「あまり凸は進まない方がいいかもね」


 お互いの装備を確認し、《ダスト・エッジ》はさらに奥に進む。





 中層の広間に差し掛かったとき、前方で怒声が上がった。


 クレスのパーティーと別のパーティーが共同で魔物の群れを包囲しようとしていた。じわじわと追い詰め、左右から同時に仕掛けるタイミングを合わせている。


 そこへクレスが割り込んだ。


「遅い、俺がやる」


 包囲の輪を無視して正面から突っ込む。群れの中心が崩れ、端の二体が囲みの外へ弾け出た。


「逃げた」


 一体は壁際へ走り、もう一体がこちらへ向かってきた。


 対応する間もなく、近くにいた別パーティーの冒険者に飛びかかる。短い悲鳴と、倒れる音。


「セラ」


 トクナが呼ぶとすでにセラは走り出していた。


 リナは足元の石を投げて魔物の気を逸らす。一瞬の隙でトクナとリナが間に入り、魔物を引き離した。何も言わずに動く連携は、三人で協力して依頼をこなしてきた経験が如実に現れていた。


 セラが倒れた冒険者に駆け寄った。身体を抑えてうずくまる。息はあるが腕に深い傷と出血があった。


「動かないでください、今回復します」


 ヒールの光が走る。倒れた冒険者の顔から苦痛の色が和らいでいく。


 クレスは群れの残りを片付けて、こちらを一瞥した。


「何やってんだ、早く来い」


「怪我人が出た」


「俺のせいじゃない。あそこにいたのが悪い。冒険者なんだから自分のことは自分でできるだろ」


 周りにいた冒険者が黙っていた。声を上げる者はいなかったが、クレスを見る目が変わっていた。


 トクナは魔物を追った。壁際へ逃げた一体が、通路の奥で息を潜めている。地形感知で位置は確認できている。回り込むとほとんど抵抗なく一撃で沈めた。また武器がドロップし合成する。


「まだまだ序盤だ」





 奥の広間に出たとき、それはいた。


 四足で立つ大型の魔物。甲殻に覆われた胴体、三対の目が暗闇の中で鈍く光っている。一見するとカメのようだ。普段第二層にいるはずのない種類だった。


「これが異変の原因か」


 誰かが呟いた。


 クレスが前に出た。


「《蒼狼の牙》が相手をする。他は下がってろ!」


 腰の剣を抜く。ダンジョンに入る前に見せびらかしていた剣。トクナは頭の片隅で既視感を覚えていた。


「あれ、俺から奪った剣か」


 転生してすぐに魔法石を奪われて、クレスがガチャを回した時に出ていた「エクセルカリバー」と言っていたか。使い慣れていないのだろう。どこか構える姿は重心がずれていて不安定に感じた。


 クレスが踏み込む。剣を横薙ぎに振った。魔物の甲殻に当たった瞬間、金属音がして火花が散る。剣が弾かれ、クレスは後ろへよろける。


「硬いな」


 もう一度振る。また弾かれる。クレス以外の《蒼狼の牙》のメンバーも各々攻撃をするが、ことごとく弾かれた。


 一方的に攻撃されていた魔物も反撃の体勢に移った。クレスが体勢を立て直している間に近づくと、見た目とは裏腹に鋭く腕を振るった。爪がクレスの装備を掠め、革鎧に傷が走った。


「くそっくそっ!!」


 三度目のクレスの攻撃はめちゃくちゃだった。剣を振るというより叩きつける攻撃。当然のように刀身に細かいひびが入ったのが遠目にもわかった。


「なんだこの剣。やっぱり雑魚が」


 クレスは舌打ちして後退した。魔物がそちらへ向き直ろうとする。


「お前らなんとかしろ!」


 クレスが叫ぶと、傍観を決めていた《蒼狼の牙》以外のパーティーも武器を構え直す。


「行くぞ」


 最初から気を抜いていなかったトクナが最初に前に出た。


 リナがすぐに並ぶ。セラが後衛に回る。


 クレスが戦っている時から魔物の動きを見ていた。速くはないが一撃の威力が大きい。だが甲殻で動きが制限されている部分もある。また、甲羅の上部分と下部分は繋がっているが、通常のカメのように薄くなっている部分もありそうだった。


「リナ、弱点を探ってくれ」


 リナが暗殺者のナイフを抜き、魔物の周囲を回り始めた。距離を保ちながら、じりじりと動く。目が細くなる。スキルが働いている。


「腹の下だ。四本足の付け根の間、甲殻が薄くなってる」


「届くか」


「低く入れば」


 トクナは動きを計算した。正面の反応は早く接近は難しい。魔物を一度横に向けて、腹の下に潜り込む隙を作る。


「セラ、左の前足を狙って一発。足を止めたい」


「わかりました」


 セラが詠唱した。火球が左の前足に直撃し、魔物が体を傾けた。一瞬だが、腹の下に空間ができた。


「今だ、リナ」


 リナが滑り込んだ。低く、速く、ナイフを腹の下に押し込む。甲殻の薄い部分に刃が入った。


 魔物が大きく体を揺らした。


 トクナはその瞬間にロングソードで正面から踏み込んだ。何度もクレスが甲羅に剣を弾かれているのは見ていた。


 つまり、斬るのではなく突く。


 リナが作った甲羅の隙間に、一気に差し込んだ。ロングソードの根本まで思い切り押し込む。他の人たちは剣が奥まで刺さっていないように見えるだろう。敵のサイズの半分にも満たない長さだ。


 だが、トクナには確かな手応えがあった。「見えない刃」のスキルで臓器を貫いたのがわかる。


 リナももう一度攻撃を入れる。今度は深く、確実に。


 カメの魔物が倒れた。


 広間が静まり返る。


 しばらく誰も動かなかった。それからぽつりぽつりと声が上がり始めた。


「倒した」


「あいつらが」


「《ダスト・エッジ》がやったのか」


 クレスが壁際に立っていた。傷ついたエクセルカリバーを手に持ったまま、動いていなかった。

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