第十話 1/4 「新たな力」
町に戻ったのは夕暮れ前だった。
馬車を降りると、ギルドの方から声が聞こえた。ざわめきというより、押し殺した緊張のようなものが通りにまで漏れ出している。
「なんか、様子がおかしいな」
リナが呟いた。
セラはまだ目が赤かった。ギルドに入るとすぐに、受付の脇にできた人だかりが目に入った。冒険者たちがひとかたまりになって、何かを待っているようにそわそわとしている。
トクナ達が見えると、何人かが近寄ってきた。
「もしかして、廃坑ダンジョンに行きましたか?」
トクナはいきなり聞かれてドキリとする。
「は、はい」
近寄ってきた中のひとりの女性が前のめりに聞いてくる。
「ステイを見ませんでしたか? このくらいの身長で斧を持っていて」
「すみません、報告を先にしたいので」
トクナは逃げるように受付に向かった。
「あの、何かあったんですか」
顔見知りになった受付嬢に声をかけると、彼女は少しだけ表情を曇らせた。
「クレスさんが、報告書を出されました。廃坑の依頼のことです」
「どんな内容で」
「……ダンジョンを制圧し、核を破壊して依頼を完遂した、と。途中で何人かがオークにやられてしまったと」
トクナは何も言わなかった。
「それで、メンバーの家族や、同じパーティーだった方々が戻りを待っていて……」
受付嬢が視線を人だかりの方へ向けた。
よく見ると、輪の中にいるのは冒険者だけじゃなかった。買い物帰りらしき中年の女性。まだ子どもの年齢の男の子。鍛冶師の格好をした老人。ギルドには似合わない人たちが、それぞれ誰かを待つように立っていた。
ディーンの顔が浮かんだ。あのぶっきらぼうな笑い方が。
「依頼の報告ですね。《ダスト・エッジ》は無事《蒼狼の牙》を見つけられたようですので依頼達成となります。ガイさんからも「助かった」と伝えてほしいと頼まれました」
受付嬢はそれ以上何も聞かず、報酬をカウンターに乗せた。トクナも無言で受けとる。
「ありがとう」
トクナはそれ以上言わなかった。人だかりをもう一度だけ見てから、目を逸らした。
◇
クレスはギルドの奥のテーブルに座って、ダンジョンで見つけた★5武器を見せびらかしていた。依頼完遂の報酬を受け取った直後らしく、上機嫌だった。
「しっかしまだ冒険者続けられてたとはな」
セラの顔を見ながら言った。セラはなにも言わずにクレスを睨み付ける。
「お前のせいで何人死んだかわかってるのか?」
リナが先に口を開いた。
「物騒なことを言うな。俺は依頼を完遂した。それだけだ」
「ディーンさんたちは」
「知らないな。俺はダンジョンを破壊して出てきただけだ」
クレスは持っていた剣をトクナに向ける。
「それよりダンジョンを壊さずに帰ろうとしてたお前らは何しに行ったんだ? 冒険者失格だろ」
少し意外そうな顔をした。
「お前を信じて戦ってたパーティーメンバーに、お前は3日も援軍を送らなかった」
クレスと一緒のテーブルに座っていた他の冒険者達の顔がこわばる。
「依頼するのが初めてでな。ギルドにいろいろ聞かれて遅くなったんだ」
「嘘をつくな」
トクナはテーブルを強く叩く。クレスは持っていた剣を握り直す。
「俺は今、戻ってきて休憩中だ。お前らと違って町のために次の依頼を受けないといけない」
「ディーンさんや、あの場に残ってた人たちの家族が、あそこで待ってる」
ギルドの入り口の方を指で示した。クレスはちらりとそちらを見て、また目を戻した。
「それが俺に何の関係がある」
「彼らが死んだのはお前がダンジョンを」
「弱いやつがオークにやられたんだ。報告書を見ろ」
「嘘の報告をしやがって!」
トクナはもう一言だけ言おうとしたが、ほとんど力の入っていない、それでも強い意思のこもった手が肩にそっと乗せられた。
「トクナさん、冒険者ギルド内では他のパーティーとの発言は気を付けてください。トラブルにしかなりませんので」
トクナが横を見るとリナも拳を握っていたが、同様にセラが押さえていた。
そのまま冒険者ギルドの外まで連れていかれた。
「怪我した人を助けようとしていたんですが、先にクレスがダンジョンを壊してしまって、崩壊に巻き込まれてしまって」
冒険者ギルドの外で、受付嬢は何があったのかを聞いてきた。トクナは怒りを押さえて冷静に伝えようとする。
受付嬢はただ黙って聞いていた。一通りトクナが話し終えると受付嬢は口を開いた。
「以前からも、同じようなことが何度かあったんです」
受付嬢は小声で言った。
「ただ、正式な報告書がない限り、ギルドは動けなくて」
「今回は動けるか」
受付嬢は下を向く。
「依頼を受けたパーティーの報告が絶対です。また、同じ依頼でもパーティーの評価が高い方の報告が優先されます」
この言い方では《蒼狼の牙》の報告は最優先だろう。クレスの報告通り、オークにやられた、と冒険者ギルドには記録される。
「……でも、出きる限り確認します」
受付嬢は聞こえるか聞こえないかの声でそっと付け足した。




