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第九話 1 「救出」

「ここか」


 《蒼狼の牙》が受けた依頼の場所は、町から馬車で二時間ほどの廃坑だった。


 かつて鉱石を掘っていた場所らしく、坑道が複数走っている。Bランクの依頼内容は「坑道に巣食った魔物の群れの殲滅とダンジョンの破壊」。トクナたちは《蒼狼の牙》の安否確認という名目で来ているため、依頼はCランクになっている。ボスを倒したりダンジョンを破壊したりするところまでは、依頼内容に含まれていない。


 トクナはダンジョンに入って地形感知を使った。うっすらと坑道の構造が頭に入ってくるが、複数の通路が入り組んでいて、奥がどうなっているかまではわからない。


「複雑だな」


「戦った跡がある」


 リナが地面に残った足跡や松明の残骸、壊れた装備を指した。


「まずは跡を追おう」





 坑道の中は暗く、ところどころに掲げられた松明が足元を照らしていた。敵はほとんど倒されており、戦闘もなくスムーズに奥へ進めた。


 トクナはナイフのスキルである地形感知で普段なら宝箱がありそうな横穴を見つけたが、宝箱の気配はなかった。代わりに何か生物がいる気配を感じ取っていた。


 壁を触り、横へスライドさせると動くものが見えた。


「大丈夫か?」


 飛びかかってくることはなかったので声をかける。


 エレベーターほどの広さの小部屋に、男が一人座っていた。こちらに剣を向けているのは急に壁を動かしたので警戒したのだろう。目が合うとすぐに剣を下ろした。


「もうだめだ」


 男は力なく言った。見てわかるほどの負傷だ。すぐに回復薬を取り出して使うが、骨折もしているようで、すぐには動けそうになかった。


「他のメンバーは」


「奥だ。ガイさんが率いてる」


 聞けば、《蒼狼の牙》だけでなく複数のパーティーに同じ依頼が投げられており、共同で探索を行うことになっていたという。彼らはCランクの依頼で来たのだが、敵はかなり強く、激しい戦闘で負傷者が多数出た。そこでクレスがさらにメンバーを集めると言って戻っていったとのことだった。


「後で必ず助けに戻って来る」


 男と約束して、さらに奥へ向かった。





 広めの空間に出ると、そこに人がいた。


 四人だ。廃坑の壁を背にして、オークの群れと対峙している。全員消耗しきっていた。装備は傷だらけで、まともに立っているのが精一杯という様子だ。


 その中心に、ガイがいた。


 痩せた体に年季の入った革鎧。右手の★5両手剣だけが鈍く光を放っている。三日間ここにいたとは思えない構えで立っていたが、よく見ると剣を持つ手が微かに震えていた。


 三人が入ってきた気配に、ガイが一瞬だけこちらを見た。視線がリナで止まった。次にトクナで止まった。


 何も言わずにまた前を向いた。




「加勢する」


 トクナが指示するより早くリナが飛び出した。オークは以前戦ったオーガより小柄だったが、当然人間より遥かに力強い。一撃でも食らえばただでは済まない相手だ。


 ガイが攻撃をいなし、できた隙をリナが刺す。噛み合った連携だった。


「回復します!」


 セラが杖を掲げた。ガイや他のメンバーの体に光が走り、動きが戻っていく。




 群れを退けると、ガイはすぐに「こっちだ」と言って坑道のさらに奥へ向かった。


 ついていくとガイは壁の何もないところを押し、隠された空間へと入った。


 そこには十人ほどの冒険者がいた。みな怪我をして俯いたり横になったりしている。重苦しい空気の中、トクナたちの姿を見て、少しだけ表情が緩んだ。


「どれだけ戦ってたんだ」


「三日だ」とガイが答えた。


「クレスが戻ってくると言ったから待っていた」


「帰ろうとは思わなかったのか」


「歩けない者も多い。見捨てるわけにはいかなかった。だからオークの処理を優先していた」


 《ダスト・エッジ》の三人で買い込んできた回復薬を配った。ホッとした表情になる者、緊張の糸が切れて眠ってしまう者もいた。





「帰ろう」


 トクナが言ったが、皆の表情は暗かった。


「この依頼には失敗すると罰金がある」


 ガイが告げた。


「なんでそんな」


「クレスが、《蒼狼の牙》のメンバーが抜けて足りなくなった穴を埋めるため、冒険者ギルドにサポートしてくれるパーティーを集める依頼をした。その条件が、そうなっていた」


「あんたらのせいだ」


 立ち上がったのは、先ほどオークと戦っていた初老の男だった。装備はボロボロだが、ところどころにある古傷からかなりの猛者だとわかる。ディーンという名乗った。


「依頼を取り消せ」


 ガイは首を横に振った。


「なんども説明したが、私では取り消せない。進行中の依頼を無断でキャンセルすると、冒険者ギルドからの信頼を失う。それは関わった全員にとって痛手だ」


 依頼を受ける冒険者に制約があるなら、依頼する側にも制約がある。簡単に「やーめた」とするわけにはいかない。


「先に進むか」「諦めるか」で何度も話が平行線になり、消耗が続いてきたのだとわかった。



「クレスが援軍を呼んだんだろ。彼らがそうじゃないのか?」


「俺たちは《蒼狼の牙》を助けに来た。ボスと戦うところまでは依頼に入っていない」


 しん、と部屋が静まり返る。


 絶望が部屋を支配した。




「ボスの情報は」


 トクナが聞いた。


「ゴーレムだ」


 ガイが答えた。石と土でできた人工的な生物。並の剣では攻撃が通らない。何度か挑んだが、ダメージをほとんど与えられなかったという。一度、足への攻撃で体勢を崩すことに成功し、背中の弱点に一撃入れられた。しかしその直後に部屋全体を薙ぎ払う大技が来て、大勢が怪我をし、パーティーが壊滅した。


 トクナは考えるふりをしながら、アイテム袋から両手剣を取り出して合成を始めた。しかし25凸達成時の光が大きく、ガイに「何をしている」と睨まれた。


「これ、使えないか」


 取り出したのは「ディフェンダー」という★2の両手剣だった。武器にしては珍しい防御特化の設計で、刃よりも盾に近い形をしている。



【★2 両手剣「ディフェンダー+25」】

【攻撃力:18】

【防御力:45】

【スキル1:防御力10%アップ】

【スキル2:完全ガード(1秒間無敵・クールタイム10分)】



「★2武器か」


 最初は興味なさそうだったガイが、スキルの内容を見た瞬間に表情が変わった。「わかった」とだけ言って受け取った。★5の両手剣をしまい、ディフェンダーを構える。その姿を皆が不思議そうに見た。


 次にトクナはディーンに向かって別の武器を差し出した。「ブレイカー」という★2の両手剣。刃がついておらず、鉄の板に棒をつけただけの無骨な見た目だ。



【★2 両手剣「ブレイカー+10」】

【攻撃力:52】

【スキル:ゴーレム特攻(ゴーレム系への攻撃力が大幅に増加する)】



「両手剣はあまり使ったことないがやってみるか」


 ディーンがブンブンと剣を振った。


「おっさん怪我するなよ」


 誰かが茶化すと、誰からともなく笑いが溢れた。


「一回だけです」とトクナは釘を刺した。



「無理なら、帰ります」

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