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第八話 3 「宝箱ダンジョン」

 地形感知が機能している。


 通路の構造が頭に入ってくる。行き止まり、分岐、隠し扉——壁越しに輪郭が掴めた。そして——奥の方に、広い空間と今までで一番レアな宝箱の反応がある。ボス部屋の可能性が高い。


「見つけた」


「どこだ」とリナが即座に言った。


「この先の壁に隠し扉がある。その奥にボス部屋がある」


 入り口からはそれほど深くない場所。昨日もすぐ横を通り過ぎていた。スキルがなければ気付かなかった。


 壁に近づき、石を順番に押す。三つ目でかちりと音がした。壁の一部が動いて、隠し通路が現れた。


「こんなところに隠れてたのか。ボスのくせに臆病だな」とリナが言った。


「気を引き締めろよ」


「はい」


 リナが隠し通路に踏み込んだ。「なら行くぞ」





 ボス部屋は広かった。


 中央に、七色に輝く大型スライムが鎮座していた。周囲には三種のスライムが群れをなしている。女王スライム——ダンジョンのボスだ。


「セラのMPを温存する」とトクナが言った。「使うのは最後だけでいい」


「わかりました」とセラが頷いた。


「リナ、取り巻きを頼む。俺が女王を引きつける」


「わかった」




 トクナが踏み込んだ。ロングソードを振る。鈍化が発動する。女王の動きが鈍くなる。ナイフを差し込む。25凸の攻撃力が、これまでとは違う手応えをもたらした。さらに小さな傷から液体が溢れる。新たなスキル出血でHPが削れているのだ。


 リナが取り巻きを衝撃波で薙ぎ払う。一撃で三体が崩れる。また三体来る。また薙ぎ払う。


 女王が膨張した。全方位に粘液を飛ばす。


「避けろ!」


 三人が同時に跳んだ。粘液が床を濡らす。毒だ。


「セラ!」


「はい!」


 セラの回復が走った。MPの残りを惜しまない全力の一発。割合回復と状態異常回復が瞬時に三人を包み込む。


 その隙にトクナが踏み込んだ。鈍化が最大まで重なった女王スライムに、ナイフを深く差し込む。


 自分たちの女王がピンチだと気づいたのか、取り巻きたちの動きも乱れ始めた。リナはその隙を見逃さなかった。素早く切り込み、女王スライムに一撃を加える。


 逃げる暇もなく、女王スライムは粉砕されてただの液体へと変わった。




「やったな」


 三人は見合ってお互いを称え合った。


「これがダンジョンの核か」


 女王スライムの奥に紫色に怪しく光るサッカーボール代の玉が鎮座していた。トクナはロングソードを叩きつけると粉々に砕け散った。


「宝箱はいらないのか?」


 リナが聞く。トクナは何のことかわからないというふうに首を傾げると、直後、ダンジョン全体が揺れた。壁の光が消えていく。地形感知が出口までの道を示した。


 三人は走った。


「ダンジョンの核を壊したらダンジョンは崩壊する。宝箱を開けてから壊すのが普通だ」


 リナは走りながらもいたずらっぽい笑みを見せる。


「知らなかったんだ!先に言ってくれ!」


 外に出ると、昼前の陽光が畑を照らしていた。


 老人が手を振っている。


 探知していた一番レアな宝箱は拝むことすらできなかった。





 「ありがとうございます。本当に、本当に——」


 声が震えていた。


 セラが「よかったです」と笑った。怪我をした腕を少し庇いながら、それでも笑顔だった。リナは黙って頷いた。トクナは畑を見ていた。




 帰り道、リナがぽつりと言った。


「あの依頼を持ってきた男、クレスと繋がってたんだろうな。ランクを誤魔化して私たちに受けさせた。嫌がらせのつもりだ」


「たぶんな」とトクナが答えた。


「でも俺たちが強かった。かぼちゃも山ほど手に入ったし」


 トクナは背負ったかぼちゃのつまったかごを指す。村を出る際に、育つ前に畑が荒らされて形が悪かったり小さいままのかぼちゃをいくつかもらった。売り物にならないからとのこと。


「あとはボスの宝箱も拾えてたら満点だったな」


 リナが嫌味っぽく言った。


 セラが「なんか笑えますね」と言った。少し間があって、続けた。


「でも初めて、他人の役に立てました」


 三人の間に、珍しく軽い空気が流れた。




 ギルドに戻ると、受付嬢がトクナたちを見つけて近づいてきた。いつもより少し表情が硬かった。


「お帰りなさい。実はご相談があって」


「こっちも」


 トクナが報告をしようとするが、リナが遮った。


「なんだ」


「《蒼狼の牙》のことなんですが」


 リナの表情がわずかに動いた。


「Bランクの依頼に挑んで、崩壊してしまったみたいで。クレスさんは戻ってきたんですが、数人がまだ現場に取り残されているそうで……」


 受付嬢が続けた。


「バーガンディーさんはいつも町のために色々してくださっていて、冒険者ギルドとしてはどうしても見捨てられないんです。お二人は嫌な気持ちもあるかもしれないので無理にとは言えないのですが、できるならお力を借りできませんでしょうか」


 三人の間に沈黙が落ちた。


 リナが一番先に口を開いた。


「……ガイもいるか」


「わかりません。ですが何日か姿を見ていません」


 リナが視線を床に落とした。しばらくそのままでいた。


「トクナ・・・・・・すまない、一度抜けさせて」


「行くぞ」


 トクナはまっすぐリナを見て言った。


「でも」


「俺たちのわがままに付き合ってもらったんだ。これくらいはさせてくれ」


「わかった」


 セラが「私も行きます」と言った。怪我をした腕をそっと押さえながら、迷いのない声だった。

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