第八話 2 「宝箱ダンジョン」
日も明るいうちに戻ってきた三人の姿に、村長は驚いていた。元々、半日で終わらせて夜には町に戻る予定と伝えていたからだ。
しかし事情を話すと、村の空き家を使わせてくれて、食事も振る舞ってくれた。
夕飯をご馳走になりながら、セラがずっと俯いていた。
「私のせいで一日無駄になってしまって」
「無駄じゃない」とトクナが言った。「ミミックがいることがわかった」
「でも怪我をして、迷惑を——」
「セラ」
リナが箸を置いた。
「謝るな。お前が開けなくても、どこかで誰かが開けていた。今日わかっただけ良かった」
セラが顔を上げた。リナはもう汁物を飲んでいた。
トクナは何も言わなかった。
一晩の宿に腰を下ろすと、トクナはアイテム袋から短剣を取り出して、合成を始める。光が弾けるたびに、数字が積み上がる。
【★1 短剣「くすんだナイフ+95」】
【攻撃力:107】
【スキル1:見えない宝箱が見えるように+1】
【スキル2:探索強化(周囲の隠しアイテムの感知範囲が拡大する。アイテムのドロップ数がわずかに増加する)】
【スキル3:なし(スキル解放まであと5)】
【★2 片手剣「ロングソード+23」】
【攻撃力:57】
【スキル1:鈍化(ダメージを与えた敵の移動速度・攻撃速度を低下させる)】
【スキル2:なし(スキル解放まであと2)】
どちらも少し足りない。怖がらずあといくつか開けられていれば。
「明日はどうする」
重苦しい空気の中、リナが聞く。
《ダスト・エッジ》最大の困難に直面していた。ここで諦めて帰ってしまえばパーティー結成最初の依頼で失敗したことになる。とはいえリナはこの依頼はランクB相当だと言った。無理をしてもいい事はない。
「私は諦めてません」
セラは回復杖を握りしめて搾り出すように言う。
「無理だ。少なくともこの三人では」
「でも……」
「そもそもかなり奥まで探索したけど、ボス部屋だって見つけられてない。何か作戦はあるのか?」
トクナは考え、リナに伝えることにした。
「これ」
「★2の片手剣がどうした」
「これ、あと少しで25凸なんだ。おそらく新しいスキルが出る」
リナは驚きと困惑の入り混じった表情で聞いた。
「25凸……? そこまで強化した奴は見たことがない」
「だから明日ダンジョンに戻って★2のロングソードを探して合成する。役に立つスキルなら探索続行、役に立たないなら撤退」
「リナさん、お願いします!」
リナはトクナとセラの真剣な表情を交互に見て、ため息をついた。それから自分のアイテム袋に手を突っ込んだ。
「これか?」
取り出したのはロングソードだった。しかも二本。
「それは——」
「集めてたんだ。大事そうにしてたからな」
トクナが手を伸ばすが、リナはひょいとロングソードを遠ざけた。
「その前に説明してもらおうか。宝箱のことを。固有スキルなんだろ?」
リナが確かめるように言った。トクナは観念してくすんだナイフのステータスを見せた。
リナは絶句していた。
「このナイフの10凸効果なんだ。みんな知ってることだと思ってた」
「……知らない」リナが静かに言った。
「少なくとも私は聞いたことがない」
沈黙が落ちた。
「ガイには似たような固有スキルがある」
リナがぽつりと言った。「だから気になってたんだ」
トクナは何も答えなかった。ロングソードを受け取って、合成した。
◇
翌朝、昨日と同じ入口から入った。
結局ロングソードの二つ目のスキルは【出血(HPの1%のダメージを追加で与える)】というものだった。固い敵には有効そうだが、今回の探索で特別役立つわけではない。
一方で、リナは「くすんだナイフ」も持っていた。その結果、ナイフの方は——凸が100に届いた。
【★1 短剣「くすんだナイフ+100」】
【攻撃力:112】
【スキル1:見えない宝箱が見えるように+2】
【スキル2:探索強化+1(感知範囲がさらに拡大・ドロップ数増加)】
【スキル3:地形感知(ダンジョンの構造・隠し通路を感知する)】
【スキル4:識別(擬態した敵を見分けることができる)】
スキルが二つ解放されていた。探索に使えそうな効果のため、ダンジョン攻略を続行することになった。
違いはすぐにわかった。宝箱の光の質が変わっていた。通常の宝箱は金色。ミミックは——赤みがかった橙色だ。昨日「違う気がした」と感じた感覚が、今日ははっきりと色で見える。
最初の曲がり角に、橙色の光が一つあった。
「あの宝箱はミミックだ」
「本当か」とリナが言った。
「見た目は普通の宝箱だが」
リナは宝箱の前で立ち止まった。宝箱を剣でつついてみると、隙間からうっすらと歯が覗いた。
「俺には違う色に見える」
リナがトクナを見た。セラも見た。
「……信じる」とリナが言った。
セラが「よかったです」と小さく言った。昨日より表情が明るかった。




