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第八話 1 「宝箱ダンジョン」

 村はギルドから半日歩いた先にあった。


 十数軒の家が寄り集まった小さな集落で、周囲を畑が囲んでいる。村長だという老人が三人を出迎えた。


「来てくださって、本当に助かります。夜になると魔物が這い出してきて、畑を荒らしてしまって」


「どのくらい出てきますか」とセラが聞いた。


「スライムばかりなんですが、種類がいろいろで。普通のは大したことないんですが、黒いやつは毒を吐いて、赤いやつは火を——」


「わかった」とリナが遮った。


「中を見ればわかる」


 老人が少し驚いた顔をしたが、トクナが「すぐに始めます」と言うと、深々と頭を下げた。

 案内された村の外れには、畑を二つに割るように亀裂が地面に走っていた。丸々と育ったかぼちゃが無惨に荒らされている。


その亀裂の奥へ続くように、ダンジョンの入口が口を開けていた。





 入った瞬間にわかった。


 宝箱だらけだ。


 通路の壁際に、床の隅に、曲がり角の奥に。これまで見てきたどのダンジョンとも違う密度で、金色の光が滲んでいた。


「本当に宝箱がいっぱいありますね。私でもすぐに見つけられます」


 セラが言った。ナイフの効果だけではない、とトクナは確信した。このダンジョン自体が宝箱の密度が高い場所なのだ。


「やっぱり低レアリティばかりだな」


 リナは興味なさそうに言う。


「開けてみるまでわからないさ」


 リナが横目で見た。何も言わなかった。


 トクナはさっそく近くの宝箱を開けた。




 はじめは順調だった。


 青いスライムを片付けながら、トクナは宝箱を開けて回った。★1の短剣、回復杖の残骸、魔法石、消費アイテム——次々とアイテム袋に入れていく。


 しかし宝箱が多すぎた。


 前方の宝箱に気を取られていたとき、足元の光を踏んだ。見えない宝箱だ。思わず躓いて、前のめりに転ぶ。


「っ——」


 スライムが飛びかかってくる。体勢を崩したまま受けた一撃が、脇腹に入った。


「トクナさん!」


 セラが回復を飛ばす。リナがスライムを蹴り飛ばす。


「……気を付けろ」


 リナが短く言った。


「ごめん」


 見えすぎるのも考えものだ、とトクナは立ち上がりながら思った。宝箱の光が多すぎて、足元への注意が散漫になっていた。




 その後は宝箱を全部開けるのをやめた。光の密度が高い場所だけを選んで立ち寄る。それだけでも、アイテム袋は十分に膨らんでいった。





 奥に進むにつれ、スライムの種類が変わった。


「ポイズンスライムもいるのか」


 黒いスライムが現れた。ズルズルと這いずって移動すると、床に黒い液が残る。おそらく触れると毒状態になるだろう。数も多い。


「散らばるな」とリナが言った。


「固まって対処する」


 トクナはセラに目配せした。セラは首を傾げたが、すぐに理解したようだ。


「あ、あれ? 杖のスキルが増えてます!」


「昨日凸を増やしておいた。状態異常回復も頼む」


「はい!」


「いくぞ」


 リナが号令をかけ、剣を振るう。衝撃波が一体を弾き飛ばし、トクナのデバフで動きを鈍らせ、セラが毒を受けた箇所を即座に回復する。三人の連携が噛み合った。

 毒スライムの群れを退けたとき、セラが「MPが半分を切りました」と言った。

 そのころには通路が複数に分岐していた。


 左、右、中央。どれも似たような暗さだ。トクナは視界を動かした。右の通路の奥に光が見える。大きい宝箱だ。


「右から行こう」


「なんで右だ」とリナが言った。


「宝箱がある」


「……また宝箱か」


 リナがうんざりしたように小さく息を吐いたが、ついてきた。




 右の通路を進むと、広めの空間に出た。


 壁際に、大きめの木箱があった。これまでのものより装飾が施されていて、中身も良さそうだ。


「開けていいですか」とセラが言った。


 トクナは一瞬止まった。


 何かが引っかかった。宝箱の光は確かにある。しかしその輪郭が、いつもとわずかに違う気がした。説明のできない違和感だ。


「待て——」


 言いかけた瞬間、セラがすでに蓋に手をかけていた。




 蓋が開いた。


 中から歯が生えた口が現れる。


「きゃあっ!」


 箱はそのまま動きだし、セラの腕に食らいついた。


 ミミックだ。宝箱に擬態して冒険者を待ち受ける魔物。


 トクナがロングソードをセラに当たらないようミミックの口の中に差し込む。リナも剣を差し込み、力任せに押し込んだ。ミミックが痙攣する。トクナはてこの原理で思い切りこじ開けた。セラの腕が解放される。


「セラ」


「……痛いです」


 深い歯形がついていた。血が滲んでいる。セラが自分で回復の詠唱を始めたが、手が震えていた。


「俺がやる」


 リナがセラの腕を取って、回復薬を傷口に当てた。


「ミミックか」リナが言った。


「このダンジョン、宝箱に擬態した魔物までいるのか」


「見た目じゃわからなかった」


「当然だ。ランクDの依頼にミミックなんて出てこない。ミミックがいると知っていれば冒険者ギルドもBランク以上で依頼するはずだ」


「見分ける方法は」


 リナは首を横に振った。


「★5武器にそういうスキルがあると聞いたことはあるが、私は持っていない」


(でも違和感はあった。止めるのが遅かっただけかもしれない)


「ごめんなさい」とセラが言った。「確認もせずに開けてしまって」


「俺が先に言うべきだった」


「でも私が——」


「セラ」とリナが遮った。「今は傷の確認だ」





 傷の手当てを終えて、三人で状況を整理した。


 セラのMPが三割を切っている。ミミックの噛み傷は塞がったが、腕にまだ痛みが残っている。そして——ボス部屋への入口が、まだ見つかっていない。


「一度戻ろう」とリナが言った。


「セラが万全じゃない」


 セラは腕を押さえながらも「大丈夫です」と言う。


「まだ探索できます」


「無理だ。ボスが何かもわからない。戻って冒険者ギルドに報告するのが筋だ」


「最後までやりたいです。村の人のためにも、ちゃんと終わらせたい」


「ミミックだって見分けられない」


 リナがトクナを見た。トクナは首を横に振る。


「わかってる、宝箱はもう開けない」


「お前は怪我人だ」とリナが言った。しかし声が少し柔らかかった。


 しばらく沈黙があった。


「……村まで帰るのは決定だ。そのあとはあとで考える」


 三人は探索を切り上げることにした。

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