表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/36

第七話 2 「ダスト・エッジ」

 翌日の朝、ギルドに見慣れた顔があった。


 クレスだ。数人の残ったメンバーと一緒に受付で何かを話している。以前より顔色が悪い。装備は相変わらず豪華だが、ところどころに傷があり、どこか消耗した印象があった。


 《ダスト・エッジ》の三人に気づいた瞬間、クレスの顔が変わった。


「お前たちか」


 声が大きかった。周囲の冒険者が振り返る。


「リナを引き抜いたせいで俺たちのパーティーが傾いた。わかってるのか」


 リナは無視した。トクナも無視した。セラだけが少し表情を硬くした。


 クレスが続けようとしたとき、受付嬢が静かに口を開いた。


「クレスさん、受付では他のパーティーへの発言はご遠慮ください」


 クレスが舌打ちをして、背を向けた。去り際に「覚えとけよ」と吐き捨てた。


 ギルドに、少しの沈黙が落ちた。


 受付嬢がトクナたちに向かって、小さく首を横に振った。気にしないで、という意味だろう。それでも、気にはなる。





 昼過ぎ、掲示板を確認していると、見知らぬスタッフが声をかけてきた。ベテランらしい風貌の男で、普段トクナたちが話す受付嬢とは別の窓口にいる人物だった。


「《ダスト・エッジ》さんですか。お願いしたい依頼がありまして」


 依頼票を差し出してくる。受付嬢の言っていたパーティーのメリットがもう出てきたようだ。


「少し離れた村の近くにダンジョンが出現したみたいで、村の方たちが困っているんです。貧しい村で報酬が低いもので、なかなか受け手がいなくて。ダンジョン内の調査の際に宝箱がいくつかあったそうですし、それは持っていっていただいて構いません」


 トクナが依頼票を受け取った。討伐対象はスライム系を複数とダンジョンの破壊。報酬は銅貨十枚——確かに低い。


 リナがトクナの手から依頼票を取り、一瞥して男に突き返した。


「低レアリティの宝箱ばかりだろう」


 図星をつかれたのか、スタッフが苦笑いした。


「やめとけ」とリナが言った。


「割に合わない」


 トクナも同感だった。しかしセラが違う反応を見せた。


「行きませんか」


 セラがトクナとリナの顔を交互に見る。


「困っている人がいるなら、助けてあげたいです。私はこの世界に来て、《蒼狼の牙》で理不尽な事はあったけど助けてもらっとところもありますし、トクナさんにも助けてもらいました。今度は私が何かする番だと思うんです」


 セラの表情は真剣だった。ここまで自分の意見を押し出すのは珍しかった。


「やめとけ」とリナが繰り返した。今度は少しだけ声が柔らかかった。


 それでもセラは引かなかった。


「トクナさんも、そう思いませんか」


 トクナは別のことを考えていた。


「宝箱がいくつかある」という言葉が引っかかっている。ダンジョンに宝箱があること自体は珍しくない。しかし冒険者ギルドがわざわざ報告に記載するほどの数となると、通常より多い可能性がある。さらにくすんだナイフのスキルで追加の宝箱も見つけられるはずだ。★1武器がたくさん出るなら、凸の素材にもなる。


「そこまで言うなら行ってみよう」


「忠告はしたからな」


 てっきりリナはついてこないと言うのかと思ったが、やる気はあるようだった。


「じゃあ受けます」


 男に伝える。男は「ありがとうございます」と笑った。その笑顔が、少しだけ——ほんのわずかだが、目と合っていない気がした。





 この日は簡単な依頼で済ませ、三人でアイテムショップを回って翌日の準備をした。


 宿に戻ると、廊下でリナが仁王立ちしていた。


「一つ確認する」


「なんだ」


「セラと同じ部屋に泊まるつもりか」


「そのつもりだったが」


「ダメだ」リナが即答した。


「あんたは別の部屋を取れ」


「でも、お金もそれほどないし」


「私が出す。セラのためだ」


 リナは今にも剣を抜きそうな剣幕でこちらを睨む。


「……わかった」


 トクナは別の部屋を取った。余分な出費だと思ったが、言い返せる空気じゃなかった。




 荷物を広げ、ナイフのステータスを確認する。今日の宝箱から出た分を合成する。数字が上がっていく。探索強化のドロップ増加が効いているのか、今日だけでかなりの数が集まった。くすんだナイフはすでに+50を越えたところだ。ロングソードもあと少しで+25のスキルが解放されそうだ。


 余った武器をまとめて合成していく。光が弾けるたびに、数字が積み上がる。


(あと少しだ)


 セラの回復杖分も合成したい。廊下に出てセラとリナの部屋をノックすると、少し間があってからリナが扉を開けた。


「なんだ」


「セラの杖を借りたい。強化しようと思って」


 リナが無言でセラの杖を取ってきて、トクナに押しつけた。


「明日、気を付けろよ」


 声を落として言った。


「あの男、《蒼狼の牙》担当の受付だ」


 リナはそれ以上何も言わず、扉を静かに閉めた。


 トクナは部屋に戻って杖を手に取った。合成する。光が弾ける。



【★1 回復杖「古びた癒し杖+25」】

【攻撃力:2 回復力:35】

【スキル1:割合回復(最大HPの20%を回復)】

【スキル2:状態異常回復】



 明日、何が待っているのかはわからない。ただ、凸数は確実に積み上がっていく。期待と不安も一緒に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ