第七話 1 「ダスト・エッジ」
リナが合流した流れそのままに、三人でクエストに出ることになった。
Dランクの依頼——第二層のゴブリン五体討伐。トクナとセラには慣れた内容だが、リナが加わると何が変わるのか、まだ誰もわかっていなかった。
ダンジョンの入口でリナが言った。
「陣形はどうする」
「俺が前に出て敵を引き付ける。リナは後ろから火力を入れてくれ。セラは後方で回復」
「わかった」
それだけだった。
第二層の通路に入ると、すぐにゴブリンが二体現れた。
トクナが踏み込む。ロングソードを一振り——スキル「鈍化」が発動し、ゴブリンの動きが鈍くなる。その瞬間、後ろからリナの剣が走った。
一撃だ。無駄のない軌道がゴブリンに吸い込まれるように入る。トクナが隙を作り、リナが仕留める。二体目も同じ流れで崩れた。
「速い」
とセラが言った。
「ゴブリン相手に手こずったりはしない」とリナが短く答えた。
問題は三体目だった。
通路の奥から現れたのは、これまでのゴブリンより一回り大きい個体だった。全身を覆う重厚な鎧、そして盾。ゴブリンナイト——上位種だ。
トクナがロングソードを叩き込んだ。
弾かれた。
手に痺れが走る。盾の硬さが、ロングソード越しに伝わってきた。★2の刃では、あの防御を崩せない。
(このロングソードじゃ無理か)
次の手を考えた瞬間、リナが前に出た。
腰から別の剣を抜く。これまで使っていたものとは違う——★4の刻印が柄に入った、細身の剣だ。
剣を横に払った。それだけだった。
しかし、その一振りから衝撃波が走った。見えない力がゴブリンナイトの盾を直撃し、盾が宙に弾き飛ばされる。
「今だ」
リナの声にトクナが反応していた。盾を失ったゴブリンナイトに切り込む。二人の刃が同時に入り、ゴブリンナイトが崩れた。
「……★4か」とトクナが言った。
「スキル持ちだ」とリナが答えた。
「★3以上なら最初からスキルが使える」
トクナは自分のロングソードを見た。★2。凸してデバフスキルを引き出した。あの衝撃波とは、明らかに質が違う。
(凸で引き出したスキルは、同じ星数のスキル持ちには及ばないのか。それとも凸数が足りないだけか)
まだわからない疑問を、頭の片隅に置いた。
◇
リナには気になることが二つあった。
一つ目は武器だ。トクナの腰には★1の短剣と★2のロングソード。セラの手には★1の回復杖。どちらも低レアだ。凸の効果でダメージはそこそこ出ているようだが、それだけでは説明がつかない。★2武器はスキルが最初から解放されていない。わざわざ凸してスキルを引き出す手間をかけて使う意味は何なのか。セラも同様だ。★1の回復杖でオーガを倒せるほどの回復を維持できる理由が、リナには見えなかった。
二つ目は宝箱だ。
帰り道、トクナが何気なく道を逸れた。直後、しばらく壁を触った後、壁を押して隠し扉を開け、宝箱を見つけた。
セラはあまり気にしていないようで「トクナさんは宝箱を見つけるのがうまいんです」と言っていたが、明らかに普通ではない。「なんとなくわかる」では片付けられない頻度だ。
リナの頭に、もう一人の男が浮かんだ。
ガイに似ている。
この男は何かを隠している——あるいは隠しているという自覚すらないのかもしれない。どちらにせよ、今はまだわからない。
一方、トクナも別のことが気になっていた。
宝箱から出てくるアイテムの数が、以前より明らかに多い。一つの宝箱から二個、三個と同じアイテムが出てくることが増えた。くすんだナイフ+25で解放された「探索強化」——アイテムのドロップ数がわずかに増加する——の効果が、じわじわと出ているらしい。
(このペースなら)
ナイフの凸数を確認する。次の大きな節目まで、あと少しだ。
クエストから戻って冒険者ギルドに報告を行い、報酬を分配していると受付嬢が近づいてきた。
「次も三人パーティーで依頼を受けるんですか?」
トクナが二人の顔を見る。セラが頷いて「そうですよね?」とリナを見る。リナは顔をそらして何も言わない。
「合格だったか?」とトクナが聞く。
「……及第点」とだけリナが言った。
「パーティー登録するとメリットがあるんですよ」と受付嬢が続けた。
「依頼を受けやすくなりますし、複数のパーティーに籍を置くこともできます。そこまでかしこまらなくて大丈夫ですよ」
セラが二人の顔を交互に見てから、少し考えるような顔をした。それから、照れながら言った。
「パーティー、組みませんか」
トクナが無言で頷く。リナが少し間を置いてから「……まあ、いいけど」と言う。
「では名前を決めてください」と受付嬢が羊皮紙を広げた。
セラがしばらく考え込んで、ゆっくりと口を開いた。
「《ダスト・エッジ》はどうでしょう。ゴミ扱いされた私たちが、刃になるって意味で……変ですかね」
「リナにも言われたな」
トクナは笑いながら受付嬢の羊皮紙に書き込んだ。リナが小さく息を吐いた。
「……悪くない」
ここに《ダスト・エッジ》が発足した。




