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第六話 1 「三本目の剣」

 《蒼狼の牙》に入ったのは、半年前のことだった。



 当時のリナは転生したばかりで、右も左もわからなかった。衣食住のなにも足りていない状態で、町の隅で凍えてうずくまっていたところをクレスに声をかけられた。パーティーを助けてほしいと言われた。食事すら満足にできない状態の自分が戦闘で貢献できると考えるのは、今思えばおかしな話だ。それでもあの頃は、他に選択肢が見えなかった。



 その頃の《蒼狼の牙》はまともだった。



 リーダーはクレスではなく、筋骨隆々で陽気な男――バーガンディー。パーティーは明るく、仲間同士の空気も良かった。ここにいれば強くなれると思った。それは間違いではなかった。



 だが、その時間は長くは続かなかった。


 町の近くに現れたダンジョン。魔物が溢れ出して町の人間が困っていた。見かねたバーガンディーが《蒼狼の牙》を率いて向かい——ダンジョンの奥で出会ったモンスターに返り討ちにあった。何人かが戻ってきた。その一人がクレスで、彼がリーダーを引き受けた。



 その日から《蒼狼の牙》は変わった。



 初心者が来る。ボーナスを横取りする。使えないと判断したら追い出す。また初心者が来る。同じことを繰り返す。リナはそれを黙って見ていた。自分の剣が届く範囲のことだけ考えていれば、やっていけた。割り切りというより、見ないようにしていた、というほうが正確かもしれない。


 クレスはバーガンディーの仇を取るためだ、を口癖にした。逆らうメンバーを情がない冷徹だと罵り、皆の前で痛めつけた。誰も逆らえなくなった。


 クレスはリナを”丁重に”扱っていた。大事にした、というより——必要としていた。


 いつの間にか戦い方を覚え、強い武器を与えられていたリナの火力がなければパーティーが回らないことを、クレスは知っていた。だから表向きは丁重に扱った。リナもそれを知っていた。お互いに、利用し合っていた。


 それで十分だと思っていた。





 セラが来たのは、ひと月ほど前のことだった。


 転生したばかりの魔法使い。★5の回復杖を与えられたがレベルが低いため回復量が少なく、攻撃魔法も使えないとすぐに馬鹿にされた。クレスに迫られて断ったとき、リナは部屋の隅にいた。



 止めなかった。



 止める理由がないと思っていた。自分には関係ないと思っていた。セラが追い出された朝も、リナは黙って荷物を確認していた。


 その記憶が、喉の奥に魚の小骨のように刺さったままだった。



 先日、ダンジョンの第二層でセラに会った。追い出されたはずのセラが、見知らぬ男と一緒にいた。ゴブリンメイジに縛られたリナを助けに来たセラの回復は——《蒼狼の牙》にいたときとは、別物だった。回復量は確かに上がっていた。そしてゴブリンメイジを前に怯まず駆けつけてきた。あの場面で動ける冒険者が、どれだけいるか。


 ここ以外でも強くなれる場所はあるかもしれない。受け身だったリナに僅かだが気持ちの変化があった。

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