62)魔王、墜つ
62)魔王、墜つ
清洲上空。清洲城崩壊のちょっとだけ前─。
飛翔魔剣 鵺は、その制御を失った。首輪の外れた犬、つまりは言うことを聞かない状態だ。操作は出来ねーし、真っ直ぐ飛ぶこともままならない。グルグル回って目が回りそうだ。
「後は落ちるだけって…か!?やべー!やべーぞ!!やべーな、マジで!!」
鵺の声なき鳴き声が鳴り響く。自分の限界を悟って悲鳴を上げているんだろ。俺以外、誰にも聞こえないからいいが、これが結構うるさい。
まあ、俺も鵺のことは言えねーんだよな。正直、チビりそうだ。
「冗談じゃねーよっ!うぉーいっ!!」
俺の接近に気づいたのか、魔法の光が城を包み込む。光の壁…、清洲城の防衛結界だ。
居残り組の奴らもなかなかに優秀。が、飛来するソレを俺だとは気づいてないのは明らかだ。
それでも、バリアだけなのはマジ助かる。対空迎撃手段は無くはないが、何せ命中率が悪い。万が一、撃ち落とされての墜落だったら、それこそカッコワリーもん。
「それにしてもよ、気の利かねー奴らだぜ。バリアじゃなくて、マットでも用意してくれっての。衝撃でうっかり洩らしたらとうすんだっての…はっはっは」
どの道、綺麗に着地なんて出来ないんだ。
あとはなるようになる。
為せばなる。
イタいのは最初だけ…?何て冗談もあっという間だ。
城のド真ん中に突っ込む。目的地を城と設定したから、命令した通りに鵺は城へと飛んだ。そこにツッコミ入れる理由はない。
「ウオッー?!防御結界魔法がぶっ壊れたぞ!!」
ツッコミ入れるべきとこは、行き過ぎて通り過ぎてしまったってとこだ。
ズキューン、バキューンてな具合に目的地を通りすぎ?いや、通り抜けてしまった。
まあ、なんて~か…予想外だ。
無事じゃ済まなくても、受け止めてくれるかなーて、多少の期待をしてたのに…。
城を貫通するってどんな威力だよ。それだけ、俺が造った魔剣がスゲーってことの証明だな。
「勢い良過ぎだぞ、鵺!頑張ってくれんのは嬉しいけど、やり過ぎだ!!」
返事がない。これじゃ、独り言みたいになってんじゃん。
あれ?
そもそも、魔獣の声は俺にしか聞こえてねーワケだから独り言と変わんねーじゃん!
いや、それより城を撃ち抜いたってことは…。
「やべーな。街が見えちゃってるよ!?」
流石に速度は減速したものの、相変わらず危険な状況には変わりはない。
マジ、マズい。この一言に尽きる。
出来るなら、死人が出てないと良いんだが…。
「て!他人の心配してる場合か!?」
城だけならまだしも…いや、全然良くないけど。このまま地面に激突は、必至。
地面を通り抜けれーし、身の安全に自信がない。
俺はともかく、街の奴らのな…。
「お?」
低空飛行へ軌道が変化した。地面と水平に、これは鵺がムリしてくれたお陰だ。それも最後の力を振り絞ったらしく、円の形が崩れた。空気の抜けた浮き輪?のようになってしまった。
後は自分で何とかするしかない。速度を合わせて走れば、自立で帰還できそうだ。
と、安心も束の間。軌道の直線上に泡が広がっている。
この泡。見覚えがあんなぁ。えーと…、何だっけ?
「夢幻泡沫!」
「そうそう。そんな魔法だったな」
風と水の合成魔法。弾力のある泡で空気を包みこむ魔法だ。
見た目、名前とは裏腹に破裂する凶器な泡を敵に放ったり、決して割れない泡で人を包み身動き取れなくしたりする凶悪な魔法だ…。
「てぇー、え!?悪魔かと思ったら、初じゃんか!!何してんだ??」
小悪魔的に可愛いとか、そんなんじゃねーぞ。悪魔的発想ゆえの比喩だ。
しかし…悪魔というより天使だな。
「もぉーっ!休んでられないよ!!」
ふりふりのフリルジャージ。初のために特注したジャージだ。俺のプレゼントをちゃんと着こなしている。嬉しい限りだ。
だが、何やらワケの分からないことを叫んでいる。
あれは、俺を助けてくれようとしているのか?それとも殺そうとしてるのか?
…ビミョーに迷うな。とは言え、看過できねーし。
「おーいっ!そこをどけーーっ!!アブねーぞーーっ!!」
せめてもの俺の忠告も初には届かねーな。俺の声が届いたのかは疑問だが、届いていたとしても
、初によって辺り一面が無数の泡で埋め尽くされる。
初自身、身動き取れなくないから避けようもねーのか。
俺も初も、どちらも無事でじゃ済まないだろうな。
「しっかり受け止めろよーーっ!!」
こうなりゃ、後は初の魔法だけが頼りだ。
パンパンと弾ける泡。一つ一つは大したことないが、確実に速度を弱めていく。さらに周りにも及ぶだろう被害も抑えてくれている。
やがては遂に、鵺の暴走を止めてみせた。
「ふふん!捕まえたよ!」
咄嗟とは言えなかなかに良い判断。最後は力任せの力技だが、初に掴まれて無事到着だ。
「た、ただいま?つ、捕まえたってなんだか知らんが…」
捕まえたってのは水の玉を作って、その中に入れられた俺を指してんだろうな。
シャボン玉に入ってフワフワと、なんてメルヘンな格好じゃ帰って来たとは言い難いな。なら、「ただいま」を言うには、ちょっと早かったな。
「そんなことより、降ろしてくれっか?」
「ぇー!えー!!何で!?何で、お父様が居るのーぉ!?」
「おいおい。なに?俺が居たらダメなんかよ。つーか、俺を助けるために泡わしたバブリーな魔法まで使っておいて、逆に驚いていることに驚くわ」
驚くことに驚くってどんな状態だっての。でも、シャーあない。おれが帰って来るなんて考えてもなかっただろうから。
「違うもん!お父様が考えてるよーな、いやらしい魔法じゃないもん!健全だもん!」
うん、そこにツッコミ入れるのか。
「誰も、んなエロいこと考えてねーよ!そう言う初のほうがエロいんじゃねーのか?」
あちこち破れた服だが、隠すとこは隠してるが…。泡と光が恥部に重なっていたら無いも同じだ。
光が重なることでエロくなくてもエロく見える。一体、誰に対しての配慮だ?
「私だってエロくないもん!」
え?半泣き?娘に対してエロいとか言っちゃダメか。
見るからに明らかだ。
やべー、知らなかったぜ。言っちゃダメなのか。
「おい…泣くなよ。泣くほどのことじゃねーだろ。はぁ…、もういいや。まあ、なんだ。そろそろ解放してくんねーか?」
せめて、初には気づいて欲しかったが、魔剣鵺を秘密にしてたし責められないな。
つーか、子供を泣かせては俺もまだまだ父親失格だ。
「うん…」
「ほっ。ようやく地面に立てるのか。長かったよーな、短かったよーな」
頼んだ通り、パチンと弾けて泡魔法は消える。
その場で!?
「いや待て!地面に降ろしてから消せって、からにっ!くブェ!?」
「ギャ!ふん!!」
浮力を失って真っ逆さま。愛がない!顔面落ちしちゃったぞ!!
「おい?」
「うう…」
思っていたよりダメージがない。逆に初は、気を失ってしまったようだ。
まあ、俺が頭から落ちてしまったから仕方ない。
「ふへ?」
ぎゃふんと、少女らしからぬ悲鳴が聞こえたが、目の前にあるのは二つの丘が見える平原…。
傾斜は高低差のない、なだらかさ…。
そして、感触は柔らかいよーな…。匂いもどことなーく甘いよーな…。
うーん。このシチュエーション、何かトラブル臭がするぞ?
「トラブル?ドンと来いだ!!」
何、俺はどんなトラブルも受け入れる男。来るものは拒まず、だ。どんなシチュエーションだろうと受け入れてみせるぜ。
恐る恐る、身体を起こした。




