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59)江姫の災難

59)江姫の災難


 尾張の空は今日も快晴─。ところにより暴風雨や雷雨が降り注いではいるが、おおむねは快晴だ。

 視界を遮るものはなく、眼下には何時もと変わらない尾張の大地が見えている。


「これなら、直ぐに到着だな」


 心配してた魔力不足も、いったん飛んでしまえば後は慣性飛行。余力を環境防御に回すことで、快適な空の旅となる。これだけのスピードを出しても、身の危険は全くない。これなら宇宙にも行けそうだ。


 何の心配も…あれ、ちょーっと待てよ?

 嫌な予感がする。それも途轍もなく嫌な予感がするぞ。

 心配の種は、魔剣 鵺。捨てるには勿体ない。夢の詰まった素晴らしい魔剣だ。

 人型兵器ロボットや戦艦と言いうような男子の夢を叶えた…、人が人のまま空を飛べる。

 だが、しかし。同時に未完成の魔剣でもある…。

 フツーに飛ぶのに支障はないから、多分そう言うことじゃなさそうだ。

 使い手の腕前の問題…は、否定できねーが…。剣は使ってこそ。飾っとくような扱いは、この世界じゃ邪道だろ。

 今のような荒っぽい使い方なんかは使い手として恥じるべきとこだが…。

 うーん、じゃ。何が問題なんだ?

 問題…問題は…。


「着地って…やべー!!のん気にのんびりしてる場合じゃねーっ!!」


 すっかり忘れてたよ。弾道飛行は今まで成功しねーってことに…。

 何が失敗しているのかと言えば、それは勢いよい飛んで、ぶつかるまで止まらないこと。止まる手段は墜落するか激突するか…だ。

 どの道、無事では済まない大問題だ。


「どうして、今更になって気づくんだよ!?」


 一人旅は寂しいものだ。ツッコんでくれる奴がいないんだもんな…。


「て!そんな事どうでもいいわ!!」


 このままだと俺は、清洲へ突っ込んでしまう。

 生身で飛ぶものだから、ある程度の防御能力はあるにしても、着地の衝撃から身を守るには自分で防御魔法を使うしかねー。

 だが、俺だけ無事に済んでも意味がねぇー。安全に着地する方法を考えねーと、マジやべーな?!






 清洲城─。


 主戦力であるお父様や光秀様が出払い手薄となったことで現在この城の防衛はガタガタだ。もし仮にこの城が攻撃を受けたら、一日も保たずに落とされることだろう。

 それでも、こうしてゴロゴロと寝転がっていられるのは、多少の兵は残っているからだ。守りの要は軍師、竹中半兵衛。彼がいれば十分と頼れる他の家臣達共々出払っている。

 普通に考えたら、容易な城攻めも彼の頭脳にかかれば数倍の兵力と言うわけだ。しかし、優れた人ほど危険な一面を持つ。お父様然り、ミツ様然りだ。


 今。その人が僕の目の前にいる。


 私室で寛いでいたところに突如の乱入に僕は平静を装う。いちいち、こんな事で驚いていたら忍者なんてやってらんない。


「ホッホッホッ。苦しゅうない。楽にせよ」


 全然、平静ではなかった。来るとは思ってなかったから油断していた。

 流石にありのまま。素を晒すのははばかられる。だからって、ホッホッホッはなかった。いくらなんでも人が変わり過ぎだ。


「ええ、つまり…。私もゴロゴロして良いと?」


 真面目な顔して何考えているんだよ。半兵衛も半兵衛で発想が怖すぎるよ!

 当然、返答は否。

 勝手に部屋に上がり込んで、添い寝する?そんなの許せるはずないじゃん!!


「失礼しました。少し、待ってもらえますか」


 今度こそ取り繕う。


「残念ですね。江様と仲良くなれたると良かったのですが、またの機会にしましょう」

「そ、そうですか。お気持ちだけ受け取っておきます。─それで、急に何用ですか?」


 お父様やミツ様達が帰還するには、まだ早すぎる。誰が来たのか、僕には予想できないことだ。まぁ、誰が来ようと相手をするのは茶々お姉様がやる仕事だし…。うん、僕にはただ伝えに来たというところだろう。


「はい。信長様に会わせろと客が来ているのです。しかし、信長様は不在はご承知のとおり」

「そうですね」

「そうですね、じゃありませんよ。江姫様に出て頂かなくては!」

「それは私の仕事じゃないですよね?茶々お姉様に言って下さい」


 半兵衛でも間違いは起こす。


「茶々姫様なら居ませんよ。書き置きだけ残して信長様を探しに行きましたからね。だから、こうして江姫様を呼びに来たんです」

「なるほど…。お姉様はお父様のところへ」


 お父様を呼びに行ったってことは、戦場という危険地帯に首を突っ込むと同義だ。

 わざわざ危険を冒しに行く理由はわからない。だが、居ないってことは…。


「つまり、今は私が城主代理の代理ってことですか」

「そう言うことです。信長様の代理として働いて頂きます」


 ええーやだよー。これだと立場上、僕が責任を負うことになるじゃないか。お姉様も、せめて一声かけてから行ってもいいじゃん。

 気の利かない姉を愚痴っても、留守の間の仕事は全部茶々お姉様に任せていた僕にも非はある。

 だとしても、長女なんだから、それくらいはあたりまえ。僕のやることなんて何もないと思ってたのに。あー、ヤバい。もー、ヤバい!


「無理だよ!…─いえ、無理です。私には勤まりません」


 しょうがないですね。そんな甘い言葉を僕は期待する。やって出来なくはなくとも、率先してやることには抵抗がある。僕はもともと忍者だったから、命令される側。命令する側になるのは慣れていないのだ。


「では、初姫様に頼みますか。それでも私は構いませんが」

「意地の悪いことを。─やりますよ、私が」


 いもうとには荷が重いのは、言わずもがな。自信がなくてもやるしかないようだ。


「ところで、一体どこの誰が来たのかな?」


 肝心なところを聞き忘れていた。

 お父様が戦場の真っ只中にいる時に、謎の訪問者。端に聞き忘れていただけだけど…。

 武田信玄や徳川家康の家来の者が、捕らわれの身となった主を取り戻しにでも来たのかもしれない。

 まあ、何気に尾張の一員となりつつある二方だ。そこは当人同士で話を着けて貰えば良いだろう。

 気張ったところで相手が誰であろうと特に何もすることもないのか。

 なら、少し気が楽だ。


「えぇ…まぁ…」

「何かあったんですか」


 途端に歯切れの悪くなる。

 やる気を奪ってどうすんの。矢面に立たされる僕の身にもなって欲しいものだ。


「問題というか。問題の原因そのものと言うか。いえ、問題の答えでしょうか」

「かなりの難題─、重要人物のようですね」


 僕がどうこうできるとも思えない。

 しかし、逃げ出したい気持ちをグッと抑える。姉としての意地みたいなものもだ。


「ええ、あまり良い話ではありません。逆に信長様が居なくて良かったとさえ言えますよ」

「来てしまったものは仕方ありません。なるようになるでしょう。半兵衛どのも、そんなに気張らずに行きましょう」


 お父様のことを心配してるようだけど、気遣いなど無用だ。

 お父様にとって世間体なんて、とっくに吹っ切れている問題だ。今回の出陣は、その決意の表れ。全てを敵に回す覚悟なのだ。


「そうも行かないでしょう。江姫様と私とでは立場が違います」

「確かに…、失敗には容赦ありませんからね。甘いのは身内にだけ…って、例外もありますけど」


 心配なのは我が身のほうか。それは仕方ない。以前に身内というか、弟と殺し合っている。容赦なく葬り去ったのだ。


「ですから、そこが怖いんですよ」

「でも。親になってからは、だいぶ丸くなりましたよ」

「そうだと良いんですが…。もしもの際は宜しくお願いしますよ」


 ん?どういう意味だろ。とりあえず、半兵衛さんの不安はなくなったようだ。

 まあ、父としての体面だけは気にしてる様子だ。僕が頼めば一発解決。


「それで、一体どこの誰が来たのでしょうか?」

「あれ?言ってませてしたか。近江より浅井様ですよ。少数ではありますが、兵を引き連れています」

「ぐ…っ。そ、それは…」


 なるほど…。半兵衛さんが、怯える理由がやっと分かった。

 さらに兵を連れて来たってことは戦闘を考えてのことだろう。現状の戦力を考えたら、五分五分。


「お分かりかと思いますが、茶々姫様のことが浅井に知られるとなると」

「要らぬ誤解を生む…。そう言うことですね」


 浅井とは因縁浅からぬ仲。重々承知している。

 下手なれば、戦いになるのも自明の理。しかも、浅井の一方的な戦いだ。

 茶々お姉様は仕方ないとして。市姫様の命を握る相手である以上、僕達では手が出せない。

 手は出せたとしても、お父様の行動を…何より市姫様の想いを無視することになる。そうなると僕達が謀反人として尾張から追われることになる。


「はい。光秀様も予想外の事態ですよ。誰一人として浅井の動きは見ていなかったのですから」

「向こうは何と言って来ているのですか?事情が分からないことには対策も思い浮かばないですよ」


 実際、何しに来たのか僕にだって予想もついてない。まさか、尾張に攻め込んで来たわけではないだろうけど、これからの対応次第でどちらへも転ぶか分からない。

 僕の責任は重大だ。重く責任がのしかかる。


「いえ。江姫様に求めているのは、そう言うことではありません。対策は既に茶々姫様が考えていますから。なので、江姫様には浅井の相手をしていただくだけで結構です」

「そ、そうですか」

「茶々お姉様からは何と?」


 まさか、相手をしろと言うのは変な意味じゃないよね。だから、半兵衛さんは怯えていた?


「いえいえ、身構えなくても大丈夫です。普通に話の相手をして頂いくだけで構いません」

「そうですね。流石に茶々お姉様も、そこまで酷いことしませんよね。…ホントに大丈夫ですよね?」


 不安はなくならない。信用と信頼は全くの別物だ。そもそも、何の計画立てかも僕は聞いてはいないのだ。


「ええ、交渉事は信長様が帰ってきてからと誤魔化してしまえば良いのです。かなり無理があるかもしれませんが、相手も急な来客。即決即断は避けるべきでしょう」

「お姉様の策にしては穴があいているような」

「そうですね。行き当たりばったりなところもありますがね。何分、急な事態でしたので抜けている部分は、差し出がましいですが私の一存にて補わせます。まあ、居ない人に伺いをたてることもできませんし、臨機応変にというやつですよ」

「ええ、頼りにしてます」


 言葉と裏腹にそんなに頼りにはしていない。そうそう易々と人を信じられるわけじゃない。

 それに抜けていると勘違いしているが、恐らく。恐ろしく事実は違う。

 抜けていると言った部分は、今ここに居る人間達だけでも出来ることなのだ。

 国内の入国審査なしの待遇。武器の携帯許可に…、城内への立ち入り許可。全て申請許可を出せるように動かされている。

 そのことに本人達は気づいていないようだし、そんなことを言う必要はない。僕も、その歯車の一部なのだ。


 この辺の抜かりなさは間違いなく、本気のお姉様。黒よりも黒い黒幕だ。信頼を、そんなことを考えていた僕がバカみたいだ…。少なくとも信用はできる。


「では、私もこの通りに動きましょう。それで良いですね」


 と、関心してる時でもない。のんびりしていては、僕が怒られてしまう。失敗を許してくれる優しいお姉様じゃないのだ。


「はい、。それと報告が遅れましたが、家康様と信玄様は既に牢から出しています。いざという時の戦力とせよとの命令です」


 どちらもかなりの実力者だ。戦力として考えたら過剰とも思える。

 けど、どうなんだろ?

 浅井とはそれほどの力を持つ武将なのかどうか。


「かしこまりました。ですが、平穏無事。何もなければ、それが一番です」


 計りかねるが、お姉様がそうしろというのなら黙って従う。


「ええ、ではご案内いたしますが…」

「はい、既に用意は整っているということですね。でしたら、私もいざ出陣ですね。さあ、行きましょうか」


 戸に手をかけると待ったがかかった。

 強く握られる手…。赤く顔は染まり、息も荒い。

 何故かは分からないが、興奮気味のようだ。言葉より先に手がでるとは、半兵衛らしくない。もしかして、計画的犯行?僕、犯される?


「な、な、なに?!なにをするんだよ!さっきからキミはっ!?変態かい!変態なのかい!?」

「いくら江姫様でも…。…ハァ…ハァ…、腐っても私は武士。けっして変態ではありえませよ。─ですが、年端もいかぬ少女に変態と罵られるのも、また…」


 ちょーっ!?だから近い近い近い!!顔、近いし!?怖すぎる!!

 もう、何なんだよ。いくら、尾張の象徴バカ織田信長の娘でも、こんな事されて黙ってないよ!!


「は、離れて下さい!これは、何の真似です。如何によっては!!」

「勘違いしているように見えますが、違います!!それは、誤解と云うもの。江姫様も姫としての品を身につけて頂かなくては。そう、先ずは姫らしい格好の支度をしてから、それでも間に合います。江姫様には此方の着物にお召し替えを…」

「???」


 ああ、そう言うこと。誤解は解けたけど、誤解を与えてしまったようだ。僕としてはそんな事ないと思うけど…。

 僕の知る限り、お父様は毎日ジャージ。市姫様…も、ジャージ。当然、それに習って私達もジャージだ。


「ホントに、分かってないのですか!?」

「そんなこと言ったって、言ってる意味が分かりませんよ。つまり、私にどうしろと?」

「ですから、此方の着物にお召し替えを!!」

「ジャージじゃ行けない?」


 ジャージを生み出したこの尾張でもジャージは未だに高級品扱い。

 と言うのも、昨今の魔法式栽培法で農林業は一気に成長した。農林業により食住には困らなくなったが、衣服に関しては別だ。

 魔法で生活が楽になったが、衣服は魔法では作れない。一つ一つ手作業で作るため、手間もかかる。

 お父様でさえ、二カ月三カ月待ちの状態だ。このジャージはそんじょそこらのジャージとは違う。姫だからこそ着ることが許される極上のジャージだ。

 着替えることに一体どんな意味が…


「はっ!?まさか、穴でもあいてあましたか?!」


 それは一大事だ。僕としたことが、父以外の人に肌を見せるなんて…。何て失敗を…何て失態を晒してしまったんだ…。

 なるほど…。お父様が下着を履けと言っていたのはこのためだったのか。

 お尻丸出しで人に会うのは流石にヤバい。


「慌てなくて大丈夫です。穴はあいてませんから」

「え…」


 ホッ。良かったー。慌てて損したよ。

 あれ?じゃあ、何でこの人興奮してたんだろ?


「開いているのは江姫様の目です。あなたの目は節穴ですか」


 酷いよ。姫である僕が…元はクノイチであったこの僕の目が節穴?

 注意された程度のことで腹を立てるほど狭量じゃないつもりだけど…。


「様式に合いませんでしたか。やっぱり、少し派手だったかな?」

 一見したくらいじゃ、良し悪しの判別は難しい。

 普段の無地とは違って襟縁に金の刺繍をあしらい、細かな模様を刻んでいる。さらに材質は魔天蚕の特上の絹。庶民では手の届かない最高級な逸品。もとより、着物より動き易く、蒸れない通気性の良さも評価が高い。軽くて丈夫…父曰わく、魔法による耐性も備えているんだとか。日常的に着る服では有り得ない性能だ。

 まあ、魔法耐性よりも速乾性に優れているのはありがたい。僕の魔法は水属性だから、濡れてもいいというのは助かりものだ。

 つまり、そう言うワケで


「豪華すぎるよね。やっぱり」

「派手?」

「お父様とお揃いのジャージだもんね。お父様の趣味って派手なものが多いから」

「─親子揃ってなにを!問題ないわけないですよ!!信長様はアレだから許されてるだけ!姫様まで、そんな格好で人と会うのは言語道断です!!もっと、こう…コイツは凄いんだなと思わせるような、見た目で衝撃を与える服装をして戴かないとこちらが侮られます!!」

「そうですか?このジャージを見たら、どんな侍でもビビりますよ、きっと」


 ジャージも十分凄いよ。着たこともないのにジャージ批判は止めて貰いたいものだ。


「見ただけじゃ分かりませんよ、そんなもの!!普段着なら、余計ダメでしょ!私として…否!この国の為にも、江姫様には、もっと女性らしい物を着て貰いたいのです!」


 鼻の穴膨らませて、この人は何を言っているんだろ。と言うか、何を着せたがっているんだろ。


「つまり、この格好では場にそぐわないと。されとて、私の一張羅。申し訳ありませんが、ジャージ以上の着物は持ち合わせてないのです」


 お父様同様、僕もジャージが正装。ジャージ道を極めんとするジャージニストた。

 故に着替えるにしても他に服は持ってない。昔の服は処分してしまったし…。成長期とか言われたけど(成長したのかな?)、縫い直したらまだ着られるものも何着かある。

 ─今更だ。今ある服は、全部がジャージとは言わないが、ほぼジャージだ。

 勿論、頼めば用意してくれる…。今からとなると無理があるし。


「く…っ、一番教育しないとならないのは信長様でしたか…。しかし、今はそんな事はどうでもいいのです!!重要なのは何を着るのか。その一言です!!」

「えーと。つまり…」

「いえいえ。私にお任せを!既に用意はしてあります!こちらにお召し替えをお願いします!」


 白と黒のフリフリ。これは…、そう。見覚えのある服だ。


「メイド服…ですね」

「はい!そうです!!これこそ至高!!江姫様のメイド姿には誰も文句は言えません!」


 嬉々として何をバカなことを…。幾ら何でも、メイド服を着て行くことが最高の選択とは思えない。


「ありえませんね。それは却下します。別な物を用意して頂けますか?」

「そ、そんな!なにが!一体何がダメなんですか!」

「えー。全部?」


 頭の天辺からつま先までに決まってる。

 だいたい、浅井をおもてなしする気はない。最高の給仕サービスをするのはもってのほか。


「でも!いや、ですが!他に着るものは用意して─」

「いや、待て!!ならば、この信玄…。儂に任せろ!!」

「信玄!?…様」

「し、信玄公?!なぜ、此方に??」


 うっわ!?ホント、びっくりだ!


「そんな些細なことはどうでも良い!それより、そんな貧相の服装で出迎えるとは何事だ!!」


 おい!てぃーしゃつじーぱんの格好な人には言われたくないよ!!

 しかし、信玄公も一国の主なのだ。その意見には素直に聞き入れる。

 と言うより、この人に物を言えるのはお父様くらいなもので、逆に僕の話など聞いてはくれないだろう。


「なら、どのような服装が相応しいと言うのですか?」

「そ、そうです!!メイド服以上に素敵なものなど此の世にはないでしょう!」

「半兵衛さん。あなたは少し黙っていて下さい」

「は、はい…」


 うん。大人しくしてくれるようだ。

 さて、問題は信玄様…。一国を治める人が言いっ放しの無責任発言をするだろうか。

 当然、何かしら理由があっての口出しだと言うのはわかる。

 ただ単に、お節介なのかも…。でも、そこはかとなく危機感を覚えるのは何でだろ?


「よし、覚悟を決めて貰おうか!さあ、これを着るが良い!!思う存分着るが良い!!さあ!さあっ!!」


 と、信玄公より渡された服。反論の余地もなく、言われるがままに着替えさせられる。僕の意思は尊重されないようだ。


 さて、肝心の服なのだが…。その服は神聖とさえ思える神秘的な白。赤よりも赤い朱色の袴がさらに引き立てる装いは、女性を引き立てるに相応しいと思える。

 いや─


「少し布地の面積が少ないんじゃ…」


 すっかり、忘れてた。信玄様の趣味を…。

 だけど、寄りにもよって巫女服??

 違うね。妙に肌の露出が多いし、服は小さいし。こんなのを巫女服と呼ぶのは霊験灼かな巫女に失礼だ。

 寧ろ、こんな辱め。そう、ほぼ半裸といっても良い姿に打ちのめされるこの気分。

 し、死にたい…

 僕の気持ちも知らず、着せた本人は─。


「うっ…。こ、これは!?」

「行けますね!これは!!」

「ああ!むしろ、ああ!!」


 褒めろよ!褒めるなら、ちゃんと褒めろよ!!


「うーん。し、趣味が悪いんじゃないの?」

「何を言う!女の質を引き立てる最高の服であろうが」


 気品?まったく感じられないよね、これは…。それに、際立てられているのは僕の素肌だ。


「変な趣味に目覚めたらどうすんるだよ!これで人前に出るとか無理だから!!」

「そんな事はない。寧ろ─、うむ。古来より女魔術師の出で立ちとは巫女服と相場が決まっておる!がっはっはっ!!」


 いや、絶対的に何か違う!巫女、違う!!下半身がスースーする。袴が袴足り得てない!!丈、足りてない!!

 穿いてない。今、僕は穿いてないのだ。


「って!?なにこれ!結構、際どい切り込みが入っているじゃん!!」


 下手に動くとヤバい!!見えるから!!前も後ろも上も下も。僕の手は二本しかないのに隠したい場所が多過ぎるよ!!


「ええ。とてもよくお似合いですよ。斬新な衣装、奇抜な造形。どれをとっても素晴らしいです。これ以上の物は見た事がありませんよ」

「おお!分かってくれるか!見所があるな、貴様は!!」

「何をおっしゃる。私、目から鱗がこぼれる気持ちです」

「鼻から血が出てるだけだよ!」


 てんで人の話を聞くきはないのね…。


「信長の小僧より聞いたのだが、見せる為の衣服というのもあるらしい。つまり、これがそれだ」

「どれが、それなんだよ!僕に見せられるものなんてないよ。自慢できるようなものなら、とっくに見せているよ。見せまくっているよ!─とにかく!着替えさせてもらうよ!!」


 お父様!要らぬ入れ知恵を!!


「いえ!そのままでお願いします!恥ずかしがるその仕草が堪らんのです!!」

「ヌシ…。分かっておるのぅ。流石は信長の家臣よ。心得ておると見える」

「私などまだまだ…」

「謙遜せずとも良いわ!がっはっはっ!!」


 二人揃って、意気投合して…。気が合うと言うのか、趣味が同じだから通じ合うものがある。これも全部、お父様が原因だよ!!


「んっ!んんっ!!─やはり、ジャージが一番なのではないでしょうか!いえ、ジャージ一択しかありません!!」

「待って下さい。もう、時間がありません。これ以上、待たせては失礼にあたります。そのままの格好でいきましょう」

「うむうむ。その通りだ!時間はもうないぞ!!着る服もな!!」

「ええ、先ほどまで着ていたものは洗いに出しましたし、他の物も含めて着るものも洗濯中です。選択の予知なく、これ以上の服はないでしょう。私もこれならば太鼓判です」


 どうあっても押し通すつもりか。見え見えの下心、さらにソレを隠さない男ども…。


「今回だけ。今回だけだからね!…最低だよ、男って生き物は!!」


 ホントに僕らが姫として受け入れられているのか、疑問しかない。


「それは誤解ですよ!?私達は浅井を招きつつ、反撃の策を!」

「へぇーそうですか。では、参りましょう」

「ちょっとお待ちをーっ!江姫様ー!?」


 今度は、また違う悲鳴が上がる。自業自得だから気にならない。寧ろ、服を着ているのにスースーする感触のほうが余程だ。

 覚悟を決めたわけだが、別の覚悟をしておく必要がある。

 まったく…。僕に露出の性癖はないっていうのに酷い話だ。





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