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くノ一

54)くノ一


 俺達は今、空を飛んでいる。

 夢の遊覧飛行…。なのだが、残念なことに外の風景は見えない。

 喜びは薄い。グラグラと揺れる足場の不安定感だけが身に染みる。

 喜べない理由は他にもある。もし乱丸が居なかったら、義龍から無事逃げることは出来なかった。

 感謝はあるが…、胃袋の中に居る状況には納得いってない。胃液に溶かされる心配ないにしても、決して気持ちのいいものじゃない。

 ジメジメとジトジトと、不快指数が振り切れる勢いだ。


「我慢は出来なくねーけど、な」

「文句言わないでよ、ノブ兄」


 どこから出てきたのか、人間形態の成利少年が現れた。

 どういう身体の仕組みをしてんだか。

 気にはなるが、身体検査なんてやってる体力は残ってない。今度、じっくりと調べれば良いだけの話だ。


「だから、我慢してんだろ。つーか、自分の腹の中で何してんだ。もう着いたのか?」

「ううん、まだだよ。いくら何でも、風より早くは飛べないよ」

「呼びに来たんじゃないなら、何で乱丸がここに居るんだよ。よそ見運転どころの騒ぎじゃねーぞ」

「外の様子は見えてるから大丈夫。逆にノブ兄達が大丈夫そうに見えなよ」

「大変だったからなぁ。ま、その話は後だ。外の様子が見えるってどういう状況だ。安心して良いのか?」


 自動操縦の飛行機のように、体が勝手に動くんです。とか?

 それは…、それでちょっと怖い。丸呑みにしたのも、実は本能的なものなのか?


「う~ん。本体は別にあるんだよ。どっちの形でも両方とも僕だし…。分身みたいなものだよ。と言うわけで心配なし!大丈夫さ!!」

「何だか分からんが、家に帰れるなら細かいことは良いか。それにしても、何でお前が助けに来てんだ?乱丸は俺達がここにいることは知らなかったはずだろ?」


 乱丸には市のことは教えてない。計画どころか、それ以前に何が起きたのかも知らなかったはずだ。


「う~ん。僕も驚いたよ。気の流れがグアーってなってブワーってなってヘンだな~って思ったら、ノブ兄が居るんだもん」


 グアーもブワーもどういう状態を表してんだか、俺にはさっぱり分からん。乱丸の言いようからして、正常な状態じゃないってのは理解できる。

 もっとも、それ以前の問題がある。


「気の流れって何だよ。お前はいつからそんな真似ができるようになったんだ?」

「え~と、──────。生まれつき?」

「なんじゃ、それ??」

「見るんじゃない!感じるんだ!!」


 歌舞伎のごとくポーズを決めるが、全然決まってない。グダグダだ。


「ますます、意味分かんねーよ!!」

「でも、感覚的なものだから、他に説明しょうがないだよ」


 気流感知って言われても、俺には理解し難い。が、ニュアンス的に言いたいことは分かる。

 気というのはオーラ。つまり、気配とか魔力とかそんな感じだ。感知ってことは、相手の強さが分かったりするのかもしれない。


「じゃあ、何か?乱丸は気配で誰が戦ってるとか分かんのか」

「んーん。違うよ。僕に分かるのは大地を流れる力の気配だよ。急にこの辺がキューってなってグアーだもん。ノブ兄達、何したの?」


 だから、俺には…。フツーの人間には、そのキューってのもグアーっのも分かんねーんだ。

 思い当たる原因は、魔法陣。広域に展開される魔法陣のエネルギーは龍脈から供給されている。繋がっているから、龍脈も乱れたんだろう。


「魔法陣の影響か…。その魔法陣を使ったのはミツだし」

「そうなの?まあ、ミツ兄なら良いや」

「おい、どういう意味だ?俺だったら許さないみたいに聞こえるぞ」

「へへへへ」


 アテがハズレたからって、笑って誤魔化すな。乱丸の中で俺の立場がミツより下になってんじゃねーか。

 無言で威圧。

 少しビビらせるつもりが、かなり青ざめた。俺としたことが、子供相手にちょっと大人げなかった。


「まあ、アレだ。所々にあの手の魔法陣が仕込まれてるからな、龍脈に影響が出たんだろう」

「………僕にも影響されたのかなぁ。全然、力が入らなかったよ」


 全力じゃなくても、あの威力か。まあ、俺だって、全然全力じゃなかったし!つーか、あの鎧の性能がズルかっただけだ。

 魔法が効かないって、この世界じゃ一番卑怯な能力だろ。


「一応、礼は言っとくぞ。ありがとうな、乱丸」

「どう致しまして~。ま、僕にかかれば雑作もないよね~」


 龍のくせに天狗の鼻だ。


「調子に乗んな。龍神形態で来たら、誰だってビビるんだっての!自分が龍だったことに感謝しろよ!!」


 最後の最後で、美味しいところを持って行ったな。

 乱丸に必要以上の感謝はできない。したくない。むしろ、蹴飛ばしたい。


「ちょ!暴れないでよ~。お腹の中がくすぐったいよ~!!まだ飛ぶのに慣れてないんだから~」


 グラグラユラユラと揺れる。こんな飛びかたしてたら落ちてしまう。まるで初心者ドライバーの運転だ。

 龍の腹の中で死にたくはない。仕方ない、悪ふざけは止めておくか。


「最近見かけないと思ったら、これを練習してたのかよ」

「うん。ホントは秘密にしておきたかったんだよ~」

「そうか、そうか──────」


 俺に内緒とは良い度胸だ。

 今まで野放しにしていたが、これからは監視をつけるとしよう。






 帰還から数日。ミツ達は回復した。

 怪我だけなら治癒魔法で十分なのだが、今回の戦闘は魔力を限界まで消耗した。

 魔力の回復には時間が掛かって、数日間はミツ達は安静。とてもじゃないが動ける状態ではなかった。

 快気を喜ぶ暇もなく、ミツ達は働きだした。信玄と家康の尋問。義龍への対策。諸外国の動向調査。作戦失敗からか、すぐに仕事に取りかかっている。

 ゆっくり休養していれば良いと言ったのに聞く耳持たない感じだ。まあ、俺が頼りないだけだろうけど…。ミツ達が休んでる間に俺だってちゃんと働いていたんたぞ?


 ──────。


 見られている。それも、コソコソと。

 俺がサボってないか監視しているのなら、もっと堂々と見張ってないと意味がない。この視線は、俺の動向を探る為の…。つまりはスパイの視線だ。

 スパイにしては似つかわしくな風体。あれがスパイなのだとしたら、それに今まで気づかなかった俺の目は相当に曇っていたということだ。

 近くにあるからこそ見えないものがある。上手く溶け込んでいたようだが、今や浮いた存在だ。

 隠れ蓑を失っては、目立ってしょうがない。


「──────と、そろそろミツ達も回復したころか」


 ストーカーは、今は放置。しらを切られたらそれまでだ。尻尾を掴むなら、確実に仕留められる時を待つのが得策。待つのは苦手だが、幸いに他にやることは多い。

 その間は、俺が逆に監視してやろうか。




 清洲城の牢獄。捕らわれの身となった徳川家康と武田信玄は牢の中に入れてた。牢と言っても白の一室を檻で囲った部屋だ。

 片や一応、幼なじみ。片や一応、顔見知り。拷問するにも、痛めつけるのはちょっと…。


「さあ、次は信玄のおっさん。あんたの番だぞ」


 何てのは、毛ほどもない。やる気満々です!

 恨み骨髄!この恨み晴らさずには要らんねー!!

 完全に八つ当たり。憂さ晴らしだ。


「待て、信長!!話せることは、全て話しただろうが!これ以上何を聞くというとのだ!──────お、おいっ!?なにをする!放せ!放さんか!!」


 往生際が悪い。必死の抵抗も空しく、守衛に取り押さえられる。

 逃げたくなるのも無理もない。調教済みの家康の様子を見れば誰だって逃げ出したくなるだろう。


「別に魔法使っても構わねーぞ」


 魔法封じの石はない。その類いの仕掛けもないのに一切魔法を使ってこなかった。

 弱々しいくらい、弱っている。弱くなっている。

 理由は知ってる。知ってて言ったのだ。


「…やっぱり、信玄のおっさんの力は魔獣の力だったんだな。今じゃ、魔法も使えないか」


 弱体化は魔獣の喪失が原因だ。

 魔獣陸亀は手の内。当然、返すつもりはない。信玄のおっさんは、これから先もフツーのおっさんのままでいて貰うか。


「分かっているならば、早くこの縄を外さんか!儂はそこの豚のように縛られる趣味はないわ!!」


 縛られているのに上から目線は相変わらずだ。信玄のおっさんに命令されるいわれはない。

 とは言え、おっさんを縛る趣味もないし、ちょっとだけ羽目を外させてやる。元々、そのつもりで来たのだ。


「そう怒鳴るなよ。一応、情報の礼もある。悪いようにはしねーよ」


 幕府の動向や他の国々の情報を色々と教えられたが、あれで全部ではないはずだ。

 必死にペラペラと喋る姿に嘘偽りはないと思うが、重要な情報は喋ってない。交渉の駆け引きに、交渉材料。情報の重さが物を言う。

 しかし、俺の前では無力。裸同然だ。


「礼を言いにきたにしては、顔が悪いぞ!」


 ヒドい。俺、傷つくぞ…。


「せめて、顔が怖いといってくれ…って、そんな話をしに来たんじゃないんだよ」

「では、何か?儂の頼みを聞いてくれると言うのか?」


 あー、あれな。

 尋問で全てを話す代わりに要求された願い。

 良くは知らんが、今の信濃は結構大変なことになってるらしい。魔獣を返せと言ってきたのだ。

 無茶な要求を飲む気はない。

 結局は、立場をわきまえさせるため、力任せに情報を引き出した。

 おっと、これは内緒の話だった。


「その事は置いといて………。これから宴会なんだ。酒も肴はあるが、何か物足りなくてな」

「…儂を誘いに来たのか?」

「理解が早いな。その通りだ」


 敵である信玄を宴へ招待。捕虜だからって、ぞんざいには扱わない。うん、扱わない努力はした。

 今日は、また別件でやって来た。決して、口封じじゃない。

 頑張った秀吉達を労うために用意した宴会だが、ついでに作戦失敗の反省会も兼ねている。

 失敗の立役者には、存分に反省させる。そのために誘った。


 若干、怪訝な顔をされたがオーケーの返事。今の状況に比べたら、宴会に行った方が良いとでも考えたんだろう。

 バカめ。俺の復讐は、これからだというのに。




 城の大広間は宴会場になっていた。宴会もすでに始められ、場は柄の悪い五十数名のむさ苦しい男達に占拠される。


「見たこともない料理ばかりだな。酒も、赤いとは…これはなんじゃ?」

「ワインだ。ブドウの酒だ」


 和洋折衷の料理と酒。食材豊富な今の尾張に作れない料理はない。無茶振りに応えてくれる料理番の腕はメキメキ急上昇中だ。


「確かに、酒っぽいが…」

「まだ試作段階なんだ。もっと熟成させないダメだな」

「やっと来たな、ノッ様!!今更だが、世話になるぞ」


 話してる途中でベタベタと絡まれた。吐く息も酒臭い。相当、出来上がっている。


「酒くさ…。お前は飲み過ぎだ」


 男に駆け寄られても嬉しくない。信玄のおっさんは踏みつけにされてるし、随分と飲んでいるようだ。

 成功失敗に関わらず報酬は出す。今回の働きで、こいつらは正式に織田に召し抱えることになった。

 うーん…。早まったかもしれん。


「ノッ様には悪いが、先に始めさせて貰ってますぜ!」

「構わねーよ。好きにやってくれ」


 取り放題、食べ放題のバイキング形式。その旨そうな匂いに我慢出来ず、宴会は始まっていた。酒は飲めないから要らないが、飯の減りが尋常じゃない。運ばれた矢先に消えていく。

 度を過ぎた忠義は要らないが、俺を敬わなさ過ぎだ。


「信長様、やっぱり信長様は器がデケーな!!」

「全然、誉められてる気がしねーよ」

「ヘッヘッヘ。んなことねーって。じゃなきゃ、誰もあんたの下で働こうなんて思わねえ」

「給料良ければ、誰だって働くだろ。つーか、お前ら、本当に俺の下で働くことが報酬で良かったのか?働かなくたって良いぐらいの報酬は出すぞ」

「俺ら、全然役に立ってないだろ?そんな大金は貰えねえよ」

「欲がないんだか、有るんだか分からない奴だ。押し付けるつもりもないし、要らねーなら別の形で払ってやるよ」

「この宴会が、そうじゃないのか。俺ぁてっきり、そうだと思ってたんだが…」

「俺の財布を舐めんなよ。国家予算並なんだぜ?こんなんで済ませるほどちっちゃくねーぞ」

「なに!?まさか、これは俺らの血税が使われているのかよ?!」

「使ってねーよ!第一、お前ら、税金払ってねーだろ!?」

「まさか、まさか!俺らだって税金は納めてるっの!」


 それこそ、まさかだろ。酔った奴の言うことが信じられると思ってか!!


「まさかまさかのオンパレードか。まあ、その話は置いといて…。ちゃんと自分の財布から金は出している。気にしないで飲んでくれ、食ってくれ」


 勿論、料理番にも今日の分の報酬は出している。公私混同は…金に関してはしないぞ。ミツに怒られるしな。


「ノッ様って、実は金持ちなんだな」

「国が赤字経営じゃヤベーだろ。国が赤字なのに国の頭首は金持ちって、どんな王様だよ。まだ、銀行をないし、無責任な国債は発行出来ねーよ」


 今のところ、財政は上向きだ。生活のパイプラインもようやく着手出来る。

 個人的には、もっと手広くやりたいのだ。やりたいことは色々とある。

 それには銀行は必要だ。遠くない内に銀行も設立するだろうが、それはまだ先の話だ。


「はあ?何の話だ。俺ぁ、ただノッ様って何時も同じような服ばかり着ていると思ったんだよ。それが貧乏くせーって、な」

「じゃ!ジャージをバカにすんな!!ジャージは最高の着物なんだよ!!」


 ジャージだと、貧乏くさく見えるか。それなりに質は良いんだが、着ている人間によっては見えないものかもしれない…。


「ジャージは悪くねーが…。殿様なんだしよ。もう少し、まともな格好してくれよ。庶民より庶民らしい殿様なんて格好つかねぇぜ」

「ひでーな。いくら、無礼講でも傷つくぞ!」


 ふざけているが、こいつらはこいつらなりに俺を認めているんだろう。そうでも、思わないとやってられん。

 そもそも、形式や格式張ったパーティーでもなし、こいつらに合わせたパーティーだ。何を言っても全ては無礼講だ。

 許してやるくらいの器量は俺にだってあるんだ。


「あー居た居た。ノブ、どこに行ってたんだよ。こっちの用意は出来てるよ」

「よーし、宴会第二幕の始まりだ!!俺の方も準備出来たし、秀吉もやるぞ!!こっち来い!!」

「ちょっ!待ってッスよ!!何をするんスか!?──────」


 赤色に染まる秀吉。

 あーぁ…、勿体ない。

 無理やり、引っ張ったせいで酒をぶちまける。


「何って、お前こそ何やってんだ。その酒だって安くはねーんだぞ」

「それは悪いとは思っスけど。急に引っ張るノブ様も悪いッスよ」


 それもそうだ。だが、しかし。俺は謝らない。


「宴会の余興をやんぞ。酒の肴に宴会芸はつきものだろ?」

「待って欲しいッスよ!いきなり言われても、何の用意もしてねーッス!!」

「そっちは俺が用意したよ」


 並べられる料理を物色していたところに水を差す。残念ながら、信玄のおっさんは宴会の肴だ。飯を食わせる為に連れてきたわけじゃないのだ。


「儂まで何故だ!?」

「酒の肴だって言っただろ」

「クッ…たばかったな。信長!!」


 知らぬは、秀吉と信玄のみだ。

 宴会芸のために準備したのは秀吉と信玄だけじゃない。

 この宴会芸のために巫女服を用意している。

 魔法があるのに手品では芸にならないし、俺は音痴で歌もダメ。


 ──────ならば!


「な、なに!?その服は!!正気か、貴様!!儂は着ぬぞ!?」

「安心しろ。この服を着るのは俺だ!!それだけじゃないぞ。この秀吉にも着せる!!」

「ノブ様!?聞いてないッスよ!?」

「止せ!早まるな、信長!!それは正気の沙汰ではないぞ!?」


 何故、青ざめる?

 信玄のおっさんが、大好きな巫女服じゃないか。存分に堪能して貰おうじゃないか。


「酒の席の芸じゃねか。楽しめよ。それとも、巫女は神聖なものだとか言うつもりかよ」

「楽しめるかっ!!その服は侍以外の魔法を使う者達が着る服だ。侍である貴様が着ようが、問題ない!!」

「なら…」

「黙れ!!貴様のせいで、品格を汚されることになれば、巫女達が黙ってはおらんぞ!!その前に、儂の目の黒い内は、そのような鬼畜外道は許さん!!」

「だが、断る!!」


 巫女達は、そんな事で目くじら立てて怒らないだろ。むしろ、怒ってるのは信玄のおっさんだ。

 好きな物が侮辱されて怒る気持ちは分かる。だから、やるんだよ。


 想像以上にヒドい絵面になったが、宴会は盛り上がった。

 言うまでもないことだが、信玄のおっさんだけは一人で憔悴していた。だが、俺の望み通り。それこそ想像以上に効果覿面だ。

 数日間、うなされる信玄の姿が見られたと、牢を守る牢番から報告が届けられた。






 宴会も終わった。さて、今日は掃除、城の掃除だ。

 宴会も終了後、散々たる有り様。最後にはみんな潰れてしまいヒドい有り様だった。


「これも、誰かにチクられんのかねぇ。だとしたら、物好きな奴だな」


 まあ、こんなことを一々報告はしないだろ。

 市救出作戦の失敗。それは計画が漏れていたからに他ならない。なら、一体どこから漏れたのか…。

 それは俺が今までなあなあで済ませてしまったモノが失敗を招いてしまったのだ。

 だから、城を掃除してキレイにするのは、今を於いて他にない。


「俺を見ている…、あいつらも相当物好きだけどな」


 このまま監視者を泳がせておくのもの、策としては有効だ。これからの計画の為には、むしろそっちの方が得策とも言える。


「どうしたんだ、ノッ様。急に独り言とか怖いぜ?」

「んー。お前は気にしなくて良い。それより、頼んだ仕事はちゃんとやってんだろうな」

「おいおい!当然、働いてるよ。真面目にな!!」


 その他の面子も一緒になって肉体労働。魔法なしでの作業だ。

 俺が命じたのは、これから先の備え。市を守るための鉄壁の城。市を取り戻した先のための備えだ。

 設計の構想では、一つの街に匹敵する規模となる。


「分かってる。ミツの設計だから、結構細かい注文が多いもんな。何度も往復じゃ大変だろ」

「そんなことねーよ。確かに、重労働はキツいが楽しんでやらせて貰ってるぜ」

「まあ、楽しいならいいがな。最後の仕上げは俺も絡むから、立派なものを頼むぞ」

「おう、任せておけよ。ノッ様!」


 まったく人は変わるものだ。山賊崩れかと思えば、手癖の悪さが変な所で長所となって発揮されていた。

 新城建築はミツとコイツらに任せて大丈夫だな。


「城を含めた城下町か…。完成にはまだ時間が必要だな。と!!」

「きゃっ!?─────」


 出会い頭にぶつかり、濃姫は転倒する。

 当然、視線が下がるのは男の性だ。何で見る、俺!!


「大丈夫か? 気をつけろよ」

「はい。申し訳ございません」

「丁度か、…濃。ちょっと話がある。俺の部屋まで来てくれ」

「はい」


 何時もの濃なら、よだれ垂らしてウェッヘッヘッて、感じになるのに…。

 いや、最近の濃は何時もこんな感じだ。


「さて、腹を割って話そうか」

「はい」

「俺も話すことがあるし、濃にもあるんだよな?」


 濃がスパイである可能性は低い。計画は流されていたが、義龍のところまで情報が流れていなかった。

 墨俣を落とした機龍や魔機馬にしても、計画を知っていたなら、そちらに回していたはずだ。

 濃がスパイじゃないのは間違いない。


「はい…。兄のことは聞きました。父のことも…」


 俺が話すまでもなく、道三のおっさんのことは濃の耳に入っていたようだ。

 真偽のほどは分からないが、義龍が頭首となっているからには生きてないだろう。信じられないが…。


「道三のおっさんのことは俺も残念だ。きっと、無念だっただろうな」

「ええ…、そうですね。まさか、兄があんな事をするなど考えも…。いえ、考えが足りなかった私の落ち度です」


 ああ、濃も兄のシスコンは理解してたんだな。理解はしても、兄の想いは受け止められないか…。

 なんだろ。義龍の気持ちに共感してしまう。敵ながら、応援してやりたい。


「どうかなさいましたか、信長様?」

「いや、何でもない。それで、そっちの話ってのは何なんだ」


 聴くのが怖い。聴いたら引き返せない、重い空気だ。


「結局、私には世継ぎを残すこともできませんでした」

「そのことか。濃が気にすることじゃねぇよ」


 そうならないように仕込んでいたのは俺だ。子供を作るには、まだ覚悟が足りない。国を背負う責任より、子供を作る。子供の将来を考えると背負いきれない責任だ。

 ぶっちゃけ、結婚でさえ荷が重すぎた。


「いえ、信長様のせいではござません。私ばかり喜んでしまって行きまくり。布団を濡らさない日は御座いません。何とも忘れ得ぬ気持ちでしたし…」


 下ネタトークかよ!?

 むしろ、行きまくったのは俺の方…って!!違う!!俺まで下ネタに走ってどうする!?


「うん、大人の階段を上らせてくれたのは感謝するよ。でも、そんな話がしたかったのかよ?」

「は!?………そうでした。兄の話でした。せめて、私に出来ることは兄を止めることだけでしょう。兄の説得に行かせて貰えますか…」


 兄の所へ行って説得に、…か。濃からしたら、兄と夫の争いなんて見たくないはずだ。

 俺だってそんな状況は耐えられない。つまりこれは悪い話じゃない。寧ろ、願ってもない話だ。

 が、シスコン兄義龍には布団じゃなく枕を…と、伝えて欲しいところだ。

 …どっちにしても義龍を刺激する事になるが、俺が悪役になるくらいは問題ない。とっくに義龍は怒っているのだ。


「その申し出は俺としても助かる。しかし、ずっと周りをうろちょろしてたのは、それが言いたかったからか?俺の許可を取らなくても報告するくらいで良かったのに。俺は別に何とも思ってねぇし───────」

「何も思いませんか…」


 あ…。これはヒドい言い方だった。言い方が不味かった。


「違う。えーと、そうじゃなくて」

「いえ、間違ってませんよ。そんな事言うためにです。信長様の想い人を助けることでせめてもの償いとさせて頂きたいのです」

「お、想い人って!それは!!」

「隠さずとも、信長様からはお兄様と同じ臭いがしますから」


 流石、腐っても女の子…。心の機微には賢いのな。つーか、始めっから知ってたっけか。

 何となく、隠してしまってたけど無駄な足掻きが逆に恥ずかしい。


「…その通りだよ。俺は濃に惚れてない。好きでした結婚じゃないが…。だからって、心配してないわけじゃねーぞ。義龍の所へ行かせるのも、都合が良いと思ったからだ」

「…好都合。私は都合の良い女ということですね」

「そうじゃねーって!」

「勿論、冗談だとは分かっております。一途に人を想う殿方は珍しいのです。羨ましいのですよ」


 市には家族愛じゃなく、恋愛で。濃には恋愛じゃなく、家族愛を抱く。

 愛に形はないと思うが、好きも嫌いも愛のうちだ。

 俺のことを好きだと言う濃の気持ちには応えられないが、家族だと思えば嫌いではないのだろう。

 だから、濃がやりたいことはやらせてやりたいと思った気持ちは愛情だ。余計な口出ししないで、見守ることが俺なりの愛なのだ。


「まあ、無事に戻って来たら…。また、抱いてやるよ」


 それこそ、都合の良い女だ。だが、濃にとっては最高の褒美となる。


「それは楽しみですね。必ず、兄を説得して戻って来ます」

「…よだれ出てんぞ」

「これは…。失礼しました」


 一体、どんな妄想が広げられたのか…。

 またも、早まった真似をしてしまったか?

 が、義龍を止めることが出来れば障害が一つ減る。

 残す問題はあと一つ…。






 結果だけを言おう。

 茶々、初、江の三人娘。三人娘はホントに三人娘になりました。義理の…、ではあるが家族になったのは間違ってはないだろう。

 んー。やっぱり、早まった真似を…。


 濃姫が義龍の所へ向かった後、俺は三人娘を呼び出した。


「呼び出した理由…。分かってるよな?」


 俺を監視する視線。それは三人娘、それぞれの視線だ。

 スパイ容疑の犯人は、三人娘の全員である。


「あーあ。バレちゃったのか」

「当然だろ。意味もなく、俺の近くをウロウロしてれば誰だって怪しむっての。どうして、あれでバレないと思ったんだ」

「でも、ノブ様だしね。もう少し大丈夫かな~とか思ってたんだけどね~」

「どう言う意味だ、それ!?」

「考え足りない、魔法バカ。騙すの楽勝ー。超チョロい」

「ひでーよ!!」


 開き直りに罵倒するとか、らしいって言ったららしい。そんな態度を許しているが、罪は寛容には許されない。


「まったく…、話をはぐらかそうとしたって駄目だ。俺達はずっと騙されていたんだからな」

「騙したんじゃなく黙ってたの。訊かれたら、話してた」

「つまり、罪を認めるってことか。なら、罪状は機密情報の漏洩だ。今まで情報を流してたのはお前たちだな?」

「うん。って言ってノブ様は信じられるの?」

「質問を質問で返すなよ。答えは、はいかいいえだ」

「はい」


 素直になったらなったで、逆に疑う。まあ、それだけ今までの態度が最悪だったってことだ。


「よし、じゃあもう一度聞くぞ。茶々、初、江は忍者なんだな?」

「はい」


 素直なもんだが、忍者が正直者であるものか。

 はい、と素直に答えられると益々以て信じられなくなる。


「お前らみたいなのが忍者って嘘だろ?女忍者って言ったら、お色気系なお姉様忍者の想像しか浮かばねーんだけど…」


 反論はしないのか?

 三人とも無言だ。俺のイメージと三人娘のイメージが、同じだったみたいだ。自分が女忍者らしくないと…。

 あまりに貧相…可哀想なのでこれ以上触れないでおく。


「質問を変えようか。お前たちが忍者なのだとして、一体どこからの差し金なんだ?」


 そもそも、こいつらが俺のところに来たのはまだ親父は生きてた頃だった。その頃から、スパイが送られる…、ハメをはずし過ぎてはいたのは自覚していた。

 だが、危険視されるような真似はしてない。全部、子供のイタズラ程度の戯れだ。

 だから考えれば考える程、分からなくなる。スパイを送った人間が誰なのか分かれば、目的も理由も分かるはずだ。

 姿勢を正し、頭を下げる三人。異様な光景だ。自然と俺の背筋も伸びる。


「私は、三河の国より送られた間者…。今まで身分を欺きましたこと、お詫び申し上げます」


 三河国か…。家康のことだから、悪意あっての事じゃないと思う。

 心配して、こっそりと影から見守る感じなのか。敵対した場合に備えての事なのか。どっちにしても、自分が捕まってしまっては意味ない。


 次は、初。一番年下の少女忍者だ。


「私は若狭の国。京極様の命により忍び寄りました。黙っていてごめんなさい」


 うーん。こんな子供を送ってくる若狭は、人材不足か?

 特にこれといって攻める理由も攻められる理由もどっちもない。勿論、攻撃してくるなら反撃はするけどな。

 どちらかと言えば、尾張寄り。どちらに味方をするか決めかねているのだろう。


「で…。茶々、お前はどこの誰から言われて来たんだ?」

「浅井…長秀様に言われて…」

「ふーん。そうか…」


 浅井は、完全に敵だ。市のことがあるから、今は迂闊に手を出せないが、俺に味方することは絶対にないだろう。

 真っ先に潰すべき国だが、茶々は命令されてるだけだし、茶々に強く当たっても仕方ない。


「江と初、それと茶々がなぁ…」


 三者三様、それぞれ別の国からの贈り物。ならぬ…送り者だったようだ。

 本人が言うのだし、疑いの余地はない。信じるか信じないか、考えること自体が面倒くさいしな。


「信じて頂けませんか?」

「そう言うことじゃない。お前たちの成長は著しいし、立派な忍者の卵だ」


 やはり、お色気なしだと女忍者とは認められない。譲歩しても、ひよこ…いや、卵と言ったところだろ。


「卵ですか。信長様の目も曇っているようで…お望みとあれば、信長様のご期待のお色気の技をお見せしますが如何ですか?」


 半人前、子供扱いが気に障ったらしい。相当、ムキになってる。

 成長著しいとは言ったが、子供にしては発育が良いと言っただけだ。

 精神的には、まだまだ子供だ。


「ふ…。そんなんで俺が動揺すると思ったか?」


 まさか、俺も子供に舐められっぱなしでは居られない。大人の対応を見せつけてやる。


「─────クックックッ、良いだろう。お前のお色気とやらを見せて貰おうか!!」


 決まった!決めてやったぜ。

 三人娘との付き合いも、何気に長いのだ。

 色気づいたガキだとしても、そんな恥ずかしい真似出来るはずがない。


「流石は信長様にございます。では、ご覧ください。これが私のありのままの姿でございます」

「お、おい…」


 良いのか?大丈夫なのか?

 止める間もなく、一枚一枚衣服を脱いでいく。何と言うか、見てるだけなのに俺が脱がしている気分だ。

 いけないのに…いけないことなのに…見るのをやめられない。

 不思議だ。

 不思議と身体が凍りついて動かない。これは何という現象だ?


「さあ、存分にご照覧ください」


 最後の着物が脱ぎ捨てられ、宙を舞う。視界が遮られ、見えないがありのまま…。つまり、生まれたままの姿…。

 可笑しい。これが男としての性と言うのなら、もっと興奮しても良い。

 視界を遮るものがなくなり露わになる。あられもない姿が、そこにはあった。


「体操着っ!?」

「てへ?やっぱり、恥ずかしいし。体操着で許して下さい!」


 体操着って言うか、ブルマだろ…。

 制服の下にジャージを着る感覚なんだろうな。…て、着物の下にブルマって女子高生感覚か!?


「んんん?──────この匂いは…。そのブルマ…」

「ちょっと!や、止めてよ、信長様!?なんで匂いを嗅ぐの?!」


 むむ。むむむ。むむむむ。


「もしかして…市のブルマじゃないのか?」

「信長様、変態!!匂いで分かるなんて、ノブ様のエロスケベ!!」

「人聞き悪いこと言ってんじゃねーよ!市のブルマ履いてるほうが変態だろ!?お前、百合な趣味があるんじゃねーのか?!」

「な、なわけないでしょ!?私だってわかってるのっ!色気が無いなんてことくらい!!」


 おう。逆ギレだ。さっきまで、恥じらう乙女はどこへ行った。


「いや、色気見せるって言ったのはお前だろ。逆ぎれして、意味わかんねーよ」

「色が無いなら、色で飾る。それが、女の手練手管なの!!ノブ様だって、ジロジロ見てたし…。つまり、私の色気に誘惑されたってことでしょ」


 確かに見てました。

 けど、その理由ははっきりしている。

 俺の見ていたのはブルマだ。ガキの身体に興味はない。


「見てたけど、見てない。それは、大人の事情だ」

「ふ、ふふん…。良いわ、足りない分は数で補う。初、江!あなたたちも脱ぎなさい!!」

「えー、フツーに断るよ。茶々って実は信長様よりバカなんじゃないの?」

「ウケるー。チョーウケるー。そんなの有り得ないよー」


 そりゃあな。色は数で競うものじゃないし、数を揃えても質が悪けりゃ意味がない。


「あぅ…」


 と、何時も連んでいた2人に裏切られて泣いてしまった。


「おい。こんなんで泣くなよ」

「だって、信長様が悪いんじゃないのよ。──────」


 うーん。これは泣き止むまで待ってないといけないか…。

 茶々を放って置いて、勝手に話を進めるわけにもいかないし。三人娘が忍者で俺をスパイしてたってなら、三人ともに話を聞いておかないと、後で口裏を合わせてくるだろう。


「しょうがねーな。まったく…いいか、一回しか言わねーからちゃんと聞いておけよ」

「何よ。──────」

「茶々の色気は最高だ。最高に興奮したぞ」

「最低…。信長様の変態」


 まあ、変態なんだけどな。甘んじて変態になってやったんだ。

 だが、これで泣き止んだ。

 泣き止まなかったら、俺は女の子を泣かせる変態の汚名を被せられていたところだろ。


「お前たちが忍者だってのは分かった。目的も大凡だが推察できる。だが、分からないことがある」

「それは…何のことよ…」


 泣き止んだが、鼻声だ。しかし、ここで同情はしない。身から出た錆だからな。


「とぼけるなよな。お前たち自身のことだ」


 スパイが自ら正体を明かしたのだ。裏があって当然。正体を明かしたからには、こいつらなりに考えがあるはずだ。


「私達は如何なる処罰も受ける所存です」

「死ねというのであれば、今この場で腹を斬ります」

「俺はそう言うことを聞きたいんじゃねーよ。ここは、お前たちを裁く場じゃないっての。腹を割って話そうってことだ」


 騙されたら怒るし、裏切られたら恨む。人間ならそれは普通のことだ。

 だが、俺に怒りも恨みも湧かない。それは、きっと騙したのも裏切ったのも市に対して行われた行為だからだ。


「話すと言っても…」

「うん…」

「私は…ね。きっと信長様なら、どんな状況でも市様を助けられると信じてた…。だって、信長様は市様のこと大好きだもん。真の愛は、天地も覆せるって市様も言ってた。言ってたんだよ…」


 実際は覆られなかったが、そんなことを言ってたとなると、市はコイツらがスパイだって知っていたのか?

 知っても尚、友達だと思っていたのなら本物の絆を築いたと言うことか。俺と違って懐の深い妹だ。


「市様の居ないお城は、居心地良くない…。これは私の気持ち、だと思う」

「言えた義理はありません。ですが、市様のことをお助けください。市様は私にとっても大切な友人なのです」


 情報は売っても、情は裏切れないか。コイツらは、やっぱり忍者らしくない忍者だ。


「なるほどな。さっきの茶番は、俺を動かす為の策略か」


 助けを願うために服を脱ぎ、身の潔白を示した。忍者って言うには浅いな。だが、そう言うのは好きだ。義理人情は人を動かす動機になる。


「…え?…は、はい。その通り、よくぞ見抜きました!」


 違ったらしい。素で脱ぎ散らかしたのか…。

 茶々には要注意だ。俺と同じ匂いがするぞ。


「お前らに言われるまでもない。市救出の第二次計画は動き出している」

「本当に!?」

「ああ、だから今度は邪魔するなよ」

「はい!寧ろ、協力は惜しみません。何なりと申しつけて下さい」


 またまた素直な返事だ。市のことだから、素直に協力してくれるんだろう。


「腹を割って話したことだし、後はお前たちの処分だな」


 処分と言うよりも処遇だな。協力してくれるなら、話は変わる。無罪放免とは行かないが、ある程度の恩赦は与えるべきだ。


「お前たちのことは、これでも俺は気に入っているんだ。茶々、初、江。お前たち、お姫様ってのを本気でやってみる気はないか?」


 恩赦どころか破格の待遇だ。


「本気なの!?」

「うん、マジマジ」


 濃には、子供は…とか言っておいて、これだ。保護観察するとしても、どうせなら保護者になってやろうと言うのだ。

 しかし、保護者になるには、色々と問題は出てくる。後継ぎ問題とかとか…。そこは、ゆっくりと話し合って決めて行けば良いか。

 手始めの問題は、こいつらが「はい」と言ってくれるかだ。


「それって…。ノブ様が、私たちの父親になるってこと…。よね?」

「そうだ」


 疑り深いな。


「女性の服を剥ぎ取るような人をお父さんって呼ばないといけないの…」

「ぐ…。否定は出来ないが。そうだ!父親、お父さん!パパでも良いぞ!!」

「信長…、何か怖いよ」

「呼び捨てか!!だが、それでも良いぞ!」


 つーか、何故に俺はこんなに必死になってるんだ?

 不思議と、腰が低くなってしまう。


「ちょっと…どうしよ」

「う~ん。私的にはなくはないけど…」

「立場的には今よりもっと良くなるよね?」

「そうだけど…でも、市様に何て言うのよ」

「それは、ほら!信長が責任取ってくれるとか」


 ひそひそと、話してる割に全部筒抜けだ。本人がいる前では聞いてくれと言っているようなものだ。


「まあ、俺が親となるのは不安だろうが、これからの人生のことだ。よくよく考えて決めてくれ」


 程なくして答えは出る。俺の意図を読み取ったのか、相談などせず自ら考えて出した答えだ。


「決まりました。決めました、ノブ様」

「そうか。じゃあ、返答を聞こうか」


 どちらの答えでも、俺としては怖い気もする。


「これからは、信長様の下で生きて行きます。末永く、宜しくお願いしますね、お父上」

「………」


 瞬間、ひっくり返る。

 ヤバすぎっ!だぁーっ!?なに、この衝撃!?

 驚愕!驚愕の破壊力!!

 お父上。お父上。お父上!?お父上だと?何何何。この響き、ヤバすぎす!!


「お父様ー、大丈夫ー?」


 ひっくり返った俺を優しく抱き起こす、初…。初が優しくしてくれるなんて、ありえない…。

 あれ?可笑しいぞ…。何だか、急に三人娘が可愛く見える??

 憎たらしいガキじゃなかったっけ?え、ホントにどうしたんだ?めっちゃ可愛いじゃねーか!!俺がこんな可愛い少女たちの父親になっても良いのか??

 いやいや、言い出したのはあっちだし…。うへへ。…うへへへ。


「おーい。信長ー、帰ってこーい」


 ──────おっと、可愛い娘達が俺を呼んでいる。トリップしてる場合じゃねーな。


「違うだろ?俺のことはちゃんと呼びなさい。これからは、俺が面倒見るんだぞ」

「え…、あの。お父様?」

「うヘ…。良い。良いな、お父様…」

「お父様、キモい」

「コンチクショー!!お父様キモいだって!!罵倒の言葉もサイコーじゃねーか!!うへへへ」


 拝啓、親父様…。俺に娘が出来ました。今になって親父様の気持ち…、今になって理解出来ました。

 サイコーっす。


「ねぇ、私達…。もしかして、早まった真似をしたんじゃない?」

「うん。悪い人じゃないんだけどね」

「悪い人じゃないけど、頭は悪いよねー」


 三人娘の協力で、清洲城に巣くう虫達は一掃されることになった。





 遅ればせながら、新年のご挨拶を。

 明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。



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