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市奪回作戦 虎と狸

52)市奪還作戦 虎と狸


 ミツ達を助けようと、向かう最中…。それは突然だった。風のように走っていた俺は、風のように吹っ飛ばされる。

 進行方向とは逆に。来た道を来たときと同じように…。

 俺を吹き飛ばしたのもまた風だった。


「何なんだよ、台風直撃か!!神風吹いちゃったのか!?」


 向かい風の強風と大粒の雨。突然の嵐だ。

 普通の雨風なら、どうってことはない。が、まとわりつく雨と突き刺すような風に動くのがツラ

い。

 俺としては、有り得ないことだ。


「一体何が起きたんだ!」


 自然現象?違う。これは…、魔法だ。それも飛びっきりの広範囲魔法だ。しかもご丁寧に魔力の込められた雨まで…。

 信玄のおっさんの仕業とは考えられない。思い当たるのは一つ。…魔法陣か?

 魔法陣を使う予定なんてあったか?

 作戦とは違う事態に、ミツが追い込まれているのだと理解した。


「つっても、どうしょうもねーっての!!」


 強行突破。突入の手段は、それしかない。


 ミツも、考えがあって魔法陣を発動させたのだ。………でも、それって俺の助けを待ってないってことだよな?

 強引にでも行くべきか、迷う。


「──────ん?あれは…」


 そこには、俺と同様に立ち往生している者達が居た。

 豪華な…とは言えないが、立派な鎧兜を着た武将だ。他にも数名の取り巻きがいる。

 それなりの身分の者だと証明していた。

 一番身分が高い武将を取り囲み、魔法陣の嵐から守っているように見える。


「迂闊に…って、ヤバ!?バレたか!!」


 守られっぱなしを嫌い、駄々をこねる武将。ソイツと目が合った。

 俺の変装はカンペキだ。見破られることはないが…。逆に山賊だと思われ、攻撃される可能性が高い。

 無駄な争いに時間を割くなんて、それこそ時間の無駄だ。


「そこに居るのは…、貴様!織田信長か!!」


 一発でバレる。


「どうして、分かるんだ??」


 俺の要素は一欠片もない。いや、身長か?

 背丈だけで俺と見抜くとは、まさかの名探偵の登場か!?


「この匂い…。間違いないな!儂の鼻は誤魔化せぬぞ!!」


 この声…。この物言い…。

 武田信玄か!?信玄のおっさんは実は名探偵だったのか!?

 しかし、信玄のおっさんが居るってことは、当然…市も近くに居るのかもしれない。

 なるほど。…そう言うことか。

 ミツの考えは読めたぞ。つまり、こっちには市が居ないから、俺には他を探せと伝えたいのだ。

 しかし、市が居るって保証はない。


「天魔!おいっ!聞こえたら、返事をしろ!!」


 ………。返事がない。つまり市が居ない証しになる。…なるのか?

 アイツは無口だからな…。


「何を呼んでいるのか知らないが、貴様の探しものは手の届かぬ場所よ!」

「信玄のおっさんにしては親切だな。まさか、偽物?」

「がっはっはっ。そんなわけあるか!バカめ!!…しかし、ノコノコやって来るとは貴様は正真正銘の大バカよ!!」


 孫市の言った通りだ。信玄のおっさんは俺の行動を襲撃を知っている。

 つーか、信玄のおっさんが完全武装している時点で気づくべきだろ!俺って奴は!!


 いい加減、自分のバカさ加減にうんざりだ…。だが、今さら俺のバカは直らない。もう諦めている。


「市を助けることがバカって事なら、バカで良いんだよ。どうせ、お前らに市は殺せねーしな。そうだろ?」

「多少は頭は回るか。いや、明智の入れ知恵だな」


 信玄のおっさんがここにいるなら願ってもない。市の居場所を吐かせてやるだけだ。


「皆の者。この戦い、手出し無用だ!信長のバカは儂が討ち取る!!」


 臨戦態勢の構えだ。

 そもそも、エンカウントした時点で逃げることは出来ない。やるしかないか。


「今日は遠慮は要らねーぞ、信玄のおっさん!!」

「多少、手の内を知ったからと調子に乗りおって。儂の魔導。その真髄を見せてくれるっ!!」


 まだ隠し玉があるってことか。


「信玄のおっさんも人が悪いよな。あの時、見せてくれれば良いのによ。だが、信玄のおっさん」

「なんだ?命乞いでもするのか」

「いや、そんな真似はしねーよ。俺が言いたいのは、おっさんには勝ち目はねーぞっ!てことだ」


 勝算はある。もっとも、それは信玄のおっさんが、その手の内を明かした時に発揮されるものだ。

 つまり、信玄のおっさんが本気になってくれれば良い。あの化け物の姿になった時。それが勝負の決着の時だ。


「ふ、身の程知らずめ。あの時の儂が本気だと思ったか!だから、貴様はバカなのだ」


 今日の信玄のおっさんは俺をバカにし過ぎだ。勿論、その通りなのだが…。


「俺から言わせてもらえば、信玄のおっさんもバカだぞ。何で、そこまで戦いたがるんだ」

「言ったであろう。儂の道は戦いこそ全て!弱者は全て我が前に平伏し、強者もまたねじ伏す!!我が天下覇道は修羅の道よ!!」

「それのどこが楽しいんだ。もっと、世の中楽しいこと有るだろうが」

「話すことはもうないな。ならば、行くぞ!火身転身、炎天下!!」


 炎の身体に合わせて、鎧は紅蓮の鎧に変化する。変身することを前提にした魔法の鎧だ。

 信玄のおっさんにしては質素な鎧だと思ったが、燃える鎧とはやってくれる。カッコいいじゃないか。


「一体何がおっさんをそこまで駆り立てるんだかな…。付き合ってやるよ!」


 とは言え、近づけさせないように戦わねーとな。

 近接戦闘での信玄のおっさんの強さは知っている。それに前回は信玄と同じ土俵で戦った。わざわざ、同じ失敗は繰り返さない。


「ぬ!?どこに行く気だ、信長!!」

「鬼ごっこだ。狙いが俺だってんなら、ついて来い。捕まえられるならな!!」

「臆病者め!!子供じゃあるまいし、そのような遊びに付き合えられるか!!」

「追ってこねーか。なら、好都合!狙い撃つぜ、天雷槍!!」


 ちょこっと狙いは外れたが、ダメージは与えた。この調子で、遠くからチマチマと削るのも有りだ。

 つかず離れずなら、奥の手は使わなくてもいいかもしれない。


「信長!!やりおったな!!」


 信玄のおっさんには刺激が強過ぎたか。かなり怒ってる。だからって、別段に恐怖は感じない。


「と、このままじゃマズいか。逃げねーと鬼ごっこになんねぇし!」

「逃がっフガ!?─────」


 俺がただ逃げるだけのワケがないだろ。

 こっそりと地爆魔法を仕込んでいたのだ。踏めば即座に爆発する魔法だ。

 痛そうだが、大した怪我はない。相変わらずの丈夫さだ。


「悪いな。俺もただ逃げるだけじゃねえんだよ!その手の魔法はそこら辺に仕込んでいるからな。気をつけろよ!」

「ニョブ…ノブ長!!許さぬ!決して許さぬぞ!!」


 おお、流石に今の気迫は怖かった。捕まったら、ホント恐ろしいことになりそうだ。


「そう言うのは俺を捕まえてから言うもんだ。暴落雷槍!!」

「─────ッ!!」


 今度はジャストヒット。紅蓮の炎が、雷でビリビリと光った。


「どうした。信玄のおっさんはもう降参か?」

「ふざけるな!この程度で音を上げるわけがなかろう!!地像転身、山林坊!!」


 なるほど。属性変化で凌ごうってことか。

 四獣を引き出すには、まだ足りない。もっと本気にさせないとダメだ。


太陽光線ソーラービーム!!」


 光を屈折させ、一カ所に集める。相手は動く的だ。当然、ピンポイントで当てることは出来ない。

 なら、動かない的に当てれば良いのだ。


「どこを狙って!?─────」

「熱っ…、ぐ…」


 その叫び声は、離れた場所で起こる。


「何だと!!お前達、そこを離れよ!!急げ!!」


 動かない的。それは信玄の残した武田兵だ。

 虫眼鏡で焼かれる虫のように光に焼かれていく。逃げれる奴は逃げれただろう。が、逃げ遅れは燃えて消し炭となる。


「き、貴様!それでも人間か!!」

「おいおい、誰がおっさんの兵には手を出さないって言ったんだ?だいたい、信玄のおっさんだって多くの人間を殺してきたんだろうが」

「だとしても、人の道理を破るような汚い真似を!!」

「俺は清廉潔白な人間じゃねーよ。聖人君子でも相手にしているつもりかよ」


 仲間を殺された信玄のおっさんがどう動くか。それは想像に難くない。

 仲間を殺されて怒る人間だ。言うまでもなく…


「貴様には儂が!自ら!引導をくれてやる!!四獣装、禍霊まがつひ!!四獣武装、禍太刀まがたち!!」


 マガマガと五月蝿いが、漸く本気になったか。面倒くさいおっさんだ。


「笑わせんな!そんな距離があっちゃ届かねーよ!近付く前にぶっ倒してやる!!」

「さて、それはどうかな?飛天、禍津風ノ翼!!」

「飛べんのかよ。信玄のおっさんは!!」


 そう言や、四匹の魔獣の一匹は鳥だったっけ…。

 背中から羽の生えたおっさん…。天使つーか、天狗の羽だ。

 見かけ倒しで終わらないところが、これまた…。


「ふ…ふん。別に羨ましくなんてねーからな!」


 内心は羨ましい限りだ。密かに飛べないか練習した事もある。


「これが儂の究極の魔よ!喰らえ、禍津獣王牙!!」

「チッ…。これは避けらんねーな…」

「がっはっはっ!流石に貴様もこれで終いよ。そのまま居直っておるが良い!!直ぐに楽にしてやる。四獣!禍津獣躙!!」


 最後とあれば、信玄のおっさんの言うとおり、居直ってやる。勿論、違う意味でだ。

 狙い通り、事が運んだ。


「天地合成!舞い踊れ、天地舞踊!!」


 地面と熱い抱擁。からのキス!をする信玄のおっさん。はあはあと息は荒い。

 見ていてキモいから、これ以上言う必要はないな。

 信玄おっさんは別に錯乱しているワケじゃない。それこそ言うまでもなく、天地舞踊の影響だ。


「ヌグッ!?信長…、貴様…、この魔法は…」

「信玄のおっさんでも、この魔法はキツいだろ?」

「な…何なのだ。か、体が!体が動かぬ、重石でも背負ったか…グヌ…」


 言うまでもない。と思ったが、そうか…。信玄のおっさんは重力を知らないのか。


「一応、教えておいてやるよ。天地舞踊は重力魔法だ。手加減抜きって言っただろ?」

「重力?…聞いたこともない…」

「まあ、詳しくはミツにでも聞いてみると良いさ。俺の本命はこっちだからな」


 動けないのを良いことに無造作に近寄る。


「ぐ…。信長…儂が動けぬからと…何をするつもりだ」

「信玄のおっさんでも怖いようだな?まあ、当然の反応だよな」


 懐から取り出したのは厳重に封のされた球体。その封を一つ一つ解いていく。


「やっぱり、直に触れてなくても魔力吸われるか。天然ものは…、ヤッパ違うな。な?」


 拳大の日緋色金がその姿を現す。七色に光り輝く不思議な石だ。


「それは…。まさか!?封魔の原石か!!」

「なかなか良い読みだ。信玄おっさん、マジで名探偵になれんじゃねーのか?」


 この天然の日緋色金は魔力吸収の力を持っている。実際、直に触れていない今も魔力を吸われる。

 ここまで強力な封魔の石は滅多に無い。希少価値は計り知れないが、その価値に驚いている…と

、そう言うわけじゃない。

 何をされるのか。その結果、何がどうなるのか察したのだ。


「奪われる者の気持ちを…、奪われる痛みを思い知れ!!」

「アグッ!?ガ!──────」


 無理矢理に、強引に口の中にねじ込む。

 やはり、直に触れている方が吸収力が高い。ならば、体内ならどうなるのだろうか?


「ほら、一気に飲み込めよ!」


 ゴクン。と、スゲー音が鳴る。無事?飲み込めたようだ。信玄おっさんの丈夫さはパないな。

 呆れるが、だからこその信玄おっさんだ。おっさんになら、なにをしても大丈夫。


「ゲホッ!…ハァハァ、ウッ!?オェ!!」


 飲み込んだ日緋色金は、信玄の体内から魔力吸収を続ける。続けて、続いた。

 魔力を失う。一片たりとも魔法は使えないほどの魔力消失だ。

 かなり苦しそうなのは、無理やりに腹の中に日緋色金を入れたからなのか。それは分からない。


「随分とデッカい虫下しだったか。それがおっさんの中に封印された魔獣か。こっちも思ってたより、デッカい虫だな」


 魔獣達が飛び出て来た。魔獣を縛りつける封印も魔法だ。

 魔力を失っては、その魔法も解かれる。

 身体から出てきた時には鎖に繋がれるのみとなっていた。

 が、この鎖も日緋色金の魔力吸収でボロボロと崩れ落ちた。

 封印から解き放たれる四匹の魔獣達、鳥と猫と亀と竜の落とし子…。

 封印が解けたことで元の姿を取り戻す。

 鳥は巨大な怪鳥へ。竜の落とし子は、…尻尾のクルクルが真っ直ぐになると龍となる。

 猫は虎、亀も山のような陸亀だ。

 巨大な魔獣が現れたワケだが…どうも勘違いしていたようだ。

 四匹…?違う、一匹だ。尾で繋がる獣達。その本体は、陸亀の方だ。陸亀の尻尾が鳥であり、龍であり、虎のようだ。


「の、信長。貴様、封印を解く意味が分かっているのか!」

「んなもん知らねーよ。どっちにしろ、やることに変わりはない。力ずくでねじ伏せるだけだ」


 魔獣だろうと所詮は獣。弱肉強食が自然の掟だ。

 乱丸の時と同様に。それこそ、服従させれば良いのだ。


「クックックッ…。小生意気なガキよ。数十年以来…やっと自由の身になったのだ。再び封印などされて堪るものか!」


 牢獄から解放された囚人か?

 このまま逃げていれば、俺は追う気はなかった。


「この魔獣は、信濃を壊滅しかけた化け物だぞ。無闇に刺激するな!」

「刺激なんてしてねーよ。刺激的だけどな」


 どうも、この手のモンスターを見るとドキドキと胸が高鳴ってしまう。

 有り得ない化け物だからこそ、現実にそこに存在するというのは感動モノだ。


「ガキよ、強がるな。震えているではないか。恐怖であろう?」

「感極まっただけだよ。勘違いすんな」

「威勢だけは良いガキだ。そこの人間のように縮こまっていれば可愛げもあると言うのに」


 うーん。何だろう?

 感動は感動だが、乱丸の時のような迫力がないように見える。

 それは格の差だろう。きっと…。


「の、信長よ!この責任どうとるつもりだ!」

「責任も何も。何もねーよ」

「なっ!?」

「それより、信玄のおっさんの方が変だぞ?」


 いつになく弱気発言の連発。俺じゃなくても心配になる。


「余所見とは…。儂から目を逸らす事が命取りとなると!思い知るが良いっ!!」


 陸亀の巨大な足が頭の上から落ちてくる。踏み潰そうとしている。

 山が空から降ってくるような光景だ。


「何て呑気に考えている場合じゃねーか」

「ヒぇッ!─────の、信長よ!助けてくれ!頼む!!」


 こっちもこっちで目を疑うような光景だ。


「自分の身は自分で守れ。一応、お前だって国の頭首だろうに…」

「後生だ!!」


 目を疑う。あの武田信玄が土下座…。


「はぁ…。俺はこんな奴に負けを認めたのか?仕方ねぇ。俺も踏み潰されて死ぬのは御免だ。今回だけだからな!天地舞踊!!」


 ひっくり返る陸亀。その巨体が必死にもがく。

 尻尾の魔獣は挟まれてしまったらしく、苦しそうな声を上げた。


「亀の弱点って言えば、やっぱりこれだろ」

「バカな…。あの四獣をいとも容易く…」

「人如きに儂を倒せると思うな!!直ぐに起き上がり─────」

「お前、五月蝿いな。お前がジタバタ足掻くと砂埃が舞うんだよ。大人しく寝てろ、魔王パーンチ」


 かなり間の抜けた感じになってしまったが、効果は覿面だ。

 脳天を揺らす腰の入った一撃に、白目を剥いて気絶した。


「─────信長!何なのだ、今のは!?」

「ん?何って言われてもな。あの手の生き物は本体が弱点だろ?」


 乱丸もそうだった。ガワは強いが本体はめっっちゃっ弱い。甲羅で守られているが、顔が丸出しじゃ殴って下さいと言っているようなものだ。


「しかし、あの巨躯を殴って倒すなど…出来るはずがないっ!」

「助かったんだから、グチグチ文句言うな。礼を言うのが先だろ!」

「─────う、うぅ…」


 目覚めるの、はぇーな!?

 巨大陸亀が目を開けた。信玄以上にタフな亀だ。


「信玄のおっさんが大声出すから目を覚ましたぞ?」

「な!?と、止めを刺すのだ!」

「俺に命令すんな。それにその必要はなさそうだ」


 目を覚ましても大人しいものだ。

 俺が暴れるなと言ったからか、手も足も…尻尾も動かす素振りがない。


「うーむ、参った参った。気を失うなど初めての経験だったぞ。儂は井の中の蛙だったようだ。ガキと侮ったが、まさかそのガキに教えられるとはな…」

「世の中、そんなものだって。別に落ち込むことねーよ」


 余程、自分の力に自信があったんだな。負けるとは微塵も考えてなかった。

 だから、負けてヘコむ。

 魔獣って言うには、あまりに似合わない。あまりに可哀想な姿に、つい同情してしまった。


「お主は優しいのぅ…。敗者を労る心の持ち主を儂は侮辱してしまったのか…。申し訳ない…」


 寝転がって謝れても…。俺は何て返せば良いの?動くなと言ったのだから、仕方ない。


「別に気にしちゃいない。このまま放置してやっても良いが、その巨体じゃ人に迷惑だ。小さくなるか、人型になれねーのか?」

「すまぬが無理だな。そのような術は持ち合わせておらん」


 乱丸みたいにはいかねーか。

 魔獣も出自でその能力が変わる。無理をさせれば出来るかもしれないが、無理強いは性分じゃない。出来ることをやれば良いのだ。

 俺に出来ること、してやれることと言えば…。


「うーん。ってなると、封印するか…。消滅させるか…。もしくは、人里離れた場所でひっそりと暮らしてもらうって選択肢もあるか」


 封印は…、手持ちで使えそうな物はない。

 日緋色金は信玄の腹の中。日緋色金を依代にしたくても、肝心要の日緋色金がないんじゃ、どうしようもない。

 消滅は…勿体なさすぎる。

 野良となったペットが殺処分されるようなものだ。それに安楽死は無理だ。苦しめるのは心苦しい。

 となると人里離れた場所か?

 当てがないでもないが、場所が離れすぎて連れて行くだけで被害が出そうだ。

 

「そのことだが…。出来れば、お主と共に行きたいと考えている。何か他に方法はないだろうか?」


 これまた無茶振りだな。


「この刀に宿れないか?」

「ほう。確かにお主の持つ刀なら可能かも知れぬ。さぞ、名のある名刀なのだろな」


 …え、何か変な期待をされてないか?

 魔剣みたいな感じになるかと思っただけで、実際はボロの刀だ。何の気なしに言ってみただけだ。


「いや。これは借り物の刀だ。しかも、折れてる」


 ズズドーンと激震が走る。魔獣が崩れ落ちたのだ。

 変な期待をされても、無い袖は振れない。


「お主!お主は!!そんな物が儂の依代となるはずがないであろうが!!がっかりだ。裏切られた気分じゃぞ!!」


 俺が持つ刀だからって、勝手に期待しておいて切れんなよ…。

 まあ、俺も折れた刀で何とかなると思っていたわけじゃない。方法がないでもないが、その方法が問題なのだ。


「分かってるよ。日緋色金が必要なんだろ。有るよ、有るには有るんだ」


 そう、信玄のおっさんのお腹の中に…。


「おおっ!そうかそうか!!ならば、儂はそこに宿るとしよう。で、その日緋色金はどこに?」

「あー………」


 俺の視線は、信玄のおっさんに向けられる。腹を押さえて苦しそうに悶える信玄のおっさんに。


「な!?何だ、信長!!儂は今、取り込み中なのだ!貴様が腹の中に封魔の石を押し込んだせいでな!!」

「─────と、まあ。こう言うわけだ」

「うむ。なるほどな…。目的の物はあやつの腹の中か。ならば、問題ない」


 問題大ありな気もするが…、陸亀的にはオーケーのようだ。本人が言うなら俺も止める理由はない。


「そう言や、俺は魔獣の封印の仕方って知らねーんだが、大丈夫なのか?」

「儂の意志にそぐわず、無理に封印するとなれば、それなりの代償を払うことになる。が、今回は儂自ら望んですることだ。お主は何もせんでも大丈夫よ。ガッハッハッ!」

「なら、良いが…」


 ………。

 どうしてだろう。そこはかとなく、嫌な予感がする。


「ぎ!?ギャアーーッ!!」

「先ほどまでは貴様の中に居たのだ。今更、それはないだろ」

「は…は…はい…」

「うむ。では行くぞ!封印、牙王封!!」


 あの巨体が一瞬で消える。

 再び、信玄のおっさん…。正確には、おっさんのお腹の中にある日緋色金へと、陸亀はその身を自ら封じた。


「うーん。俺、何もすることねーな。何が起きてんのかもさっぱりだし」

「うむ。無事に成功したぞ!後はこやつの腹から出られれば丸く収まるか」

「ウゴッ!?─────腹が…腹の中で!ウグッ!!」


 おいおい…。まさか、腹の中を食い破って出てくるとかじゃねーよな…。


「目の前で、そんなエグいシーンを見せられんのか、俺は!?」


 ホラーは好きだが、スプラッターなのはちょっと…場合によりけりだ。

 流石に目の前ではキツいって!?


「フグッ!アガッ!!─────ヌヌヌヌ…グェ、あ…あぁ………」


 匂い立つ、この香り…。

 臀部の辺りが、モッコリしている。


「うむうむ。無事に出られたようだ!しかし、まだ暗いのぅ。これならどうだ!!」


 ビリッと服の破ける音と共に宙を舞うソレは、1/100?…1/500?…1/1000?

 とにかく、小さくなった陸亀だ。

 体内の大冒険を終え、ようやく日の目を見ることができたようだが…。臭い。

 いや、食い破って出て来なかっただけマシだ。でも、臭い。う○こまみれだ。


「尻が…尻がーっ!!」

「うっさいぞ!!信玄のおっさん!!」

「だが、尻が…」

「知るか!つーか、信玄のおっさんのせいで、こんなことになってんだ。ばっちいから、日緋色金はおっさんが洗えよ?」

「う、うむ…。儂も服を洗いたいしな…」


 信玄のおっさんらしからぬ、素直に従う。やはり、相当に堪えたようだ。

 丁度、魔法陣の大雨で出来た水溜まりがある。ご都合的なタイミングだ。後でミツに礼を言っておこう。


 ジャブジャブ、ジャバジャバ─────。


 洗い終わって戻って来た信玄のおっさんから、日緋色金を返して貰った。

 無味かはどうか知らないが、無臭でなによりだ。


「んー。これ、本物だよな?」

「失礼なことを!すり替えたりなどせんわ!!」

「うむ。大丈夫だぞ。間違いなく本物わしだ」


 と、今度は1/10スケールの陸亀魔獣となった。本物で間違いない。


「つーか、大きさ変えられるようになったのか?」

「うむ。ある程度ではあるがな。これが今の最大だ」

「日緋色金の影響か?」


 まあ、好都合だ。

 魔法陣も未だ効果を発揮している。陸亀に乗ってけば突破出来るかもしれない。


「行けるか?」

「うむ。儂の背に乗るが良い」

「良し、行くか」

「ま、待て!儂も行くぞ!」


 何故か、信玄のおっさんまでついて来る。とは言え、構ってらんないので無視。

 陸亀の背に乗り。ミツのところへ、いざ行かん!!






 嵐渦巻く戦場は、被災地と変わる。魔法陣の力が最大で発揮されればこの程度の被害は当然のことだ。

 ある者は風に飛ばされ。ある者は風に飛ばされた味方とぶつかり。また、ある者は大玉の雨粒とぶつかり息絶える。

 上級武士程度の実力では、この魔法陣には対応できないのだ。

 尾張防衛線。魔法陣が発動してしまえば、国境を越えることは出来なくなる。国境閉鎖を目的にした魔法陣だ。

 この場に留まれる者は、僕のように魔法陣の影響を受けない人間。もしくは、魔法陣の影響を防ぐだけの実力を持った者だけだ。


「茶番は、終わりにしようか。…ね、徳川家康?」


 無明息災では僕の声は届かない。防御魔法の無防壁へと切り替えは済ませてある。


「さすがは、織田信長の側近。明智光秀…。僕の思惑を見抜いていましたか」


 ただ者ではない。当然、僕も見抜いている。 

 恐らく、この場での一番の実力者をさすならば。この徳川家康だろう。

 一体、どういう理屈か。徳川家康は、嵐の中を平然としていたのだし…。僕じゃなくても、その力の片鱗は分かるはずだ。


「ちょ、ちょっと待って下さいッス!ど、どういうことッスか!?」


 徳川家康に警戒していた秀吉には、思いがけない出来事だ。


「世の中、こういう言葉がある。敵を騙すには先ず味方から…ってね。この徳川家康は、この機に僕ら…いや、ノブにコンタクトを図ろうって魂胆だったんだよ。初めからね」

「な…なら、徳川家康は俺らの味方ってことっすか!?」


 そうであったら分かりやすくて良かった。

 武田兵とは違い、徳川兵は僕に集中して攻撃してきた。迫真の演技…では、片付けられない。


「それは、これからの話し合い次第だよ。そのために魔法陣まで発動させたんだから」


 魔法陣発動は家康の真意を探るためだ。

 僕らとしては、武田兵を退けた時点で戦う意味を失っている。逃げる時間は充分にあった。

 真意を探るためには、家康に接近し、その後ろに控えている武田信玄の本隊をこちらに近づけさせなければ良い。

 そのために一計を案じたと言うわけだ。


「流石ッス。じゃあ、交渉事はミツさんに任せるッスよ」

「たまには秀吉も役に立って欲しいけどね…。ま、この場は僕が立つしかないか」


 家康に狙われているのは僕だ。


「ふぅ…。今、ここに居るのは僕達だけだ。徳川家康、君の目的は何だ?」


 率直に切り出す。回りくどいことはしない。既に、この話し合いに持って行くまでに回りくどいことをしている。これ以上、時間を無駄には使えない。


「ふふふ…。僕の目的は信長です」

「ノブを?」


 ノブ…。僕がそう言うと途端に豹変した。


「そうだよ!!僕からノブくんを奪おうとするなんて良い度胸だよ!この泥棒猫っ!!ノブくんは、僕のものだ!君達には渡さないよ!!」


 唾が飛ばして、き…気持ち悪い。いや、人を見かけで判断しては駄目だ。


「何を言ってるのか、僕には理解出来ないけど…。多分、徳川家康…さんが思っているような関係じゃないから」

「ウソおっしゃい!!あなたの行動は全部報告を受けているのよ!ノブくんの側近だからって好き放題!一緒にお出かけ、一緒にご飯、挙げ句には一緒の部屋にお泊まりだなんて!!」


 いや、友達なら普通だし…。この人、何に怒ってるの?


「ミツさん。この人、やべーッスよ。ガチな人ッス!」

「ん、ガチ?」


 秀吉は、何のことか理解しているようだが、僕にはさっぱりだ。


「ンフー!ンフー!」

「ちょ!近い!!近いから!!鼻息荒いし、気持ち悪いんだよ!!」


 僕としたことが、油断した。ここまで間合いを近づけられたのはひさびさだ。

 そのせいで、距離を置こうと家康を突き飛ばしてしまった。


「ご!ごめん─────」

「キャッ!?」


 え?


「今の…悲鳴?」

「だから、言ったじゃないッスか。この人、ガチだって!!」

「あ、そう言う意味!?」


 いやいや。いやいやいや。いやいやいやいや!!

 そんなバカな。ないない。有り得ない。裏表が極端過ぎる!!


「ちょっと!いい加減にしなさいよ!!私を放置して、勝手に話し込まないで頂戴!!て言うか?私を殴っておいて謝罪の一言もないの!どう言うことよ!」


 ………。


「秀吉…。流石に僕にあれを説得出来るとは思えない。だから、バトンタッチだ。任せたから!」

「ええー!?バトンって何スか!?丸投げッスか!!」

「待ちなさいよ、明智光秀!!待ちなさいったら!!もお!!」


 この悪寒。この寒気。風邪でもひいたかもしれないな…。


「悪いッスけど。お、俺が交渉を引き継いだッスよ。ミツさんは、具合が悪いみたいなんで……」

「あらヤダ。そうなの?仕方ないわね」

「とりあえず、ここは雨風が強いんで…場所を移すッスよ。─────木城建築!!と、こんなモンで良いッスか。ミツさん、ミツさんの魔法解除して下さいッス」

「うん…。分かったよ」


 秀吉にしては、なかなかの接待だ。この接客力は、現場で培ったものだ。ノブは、この状況を見越して牛丼屋の店長に秀吉を起用したのかな?

 …それはないか。


「そんじゃ、再開するッスよ。お茶でも出したいとこッスけど、水で勘弁して下さいッス」

「あなた!!」

「はいっ!何スか!?」

「あなた、お猿さんみたいな顔してるのに…。なかなか気の利く良い男じゃない。どう?私のところに来る気はなーい?」


 青ざめる秀吉に対して、家康は尚も迫る。


「あー。えっと…。お前ら、このガチ…じゃなくて徳川家康を縛り上げておけ」

「秀吉の旦那!!そりゃあんまりだ!!」


 かの徳川家康はたらい回しにされた挙げ句、手足を縛られ、ぶら下げられる。

 その手際は見事としか言いようがない。


「ちょ…ちょっと!何よ、これ!!私が何をしたってのよ!!─────アフゥ~何これ…痛いのに、縛られてるのに…アフゥ~」

「黙るッスよ」


 と、猿轡を噛まされる。猿に猿轡…。いや、笑ったら失礼だ。

 オネェな徳川家康。さらに、どM。打たれて喜び、縛られて絶頂。これが後の世の天下人だと思うと筆舌にし難いものがある…。

 て!ノブに、これを何て説明すれば良いんだ!?


 嵐の中、波乱の兆しが見えていた………。





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