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市奪還作戦 光秀

 ミツ達は大丈夫だろうか?

 孫市が嘘をつくとは考えてない。あの状況で嘘を言う必要がない。だとすると、信玄のおっさんは俺達の襲撃に備え、待ち構えているはずなのだ。

 何も知らないミツ達が、武田軍と満足に戦えるのか。袋叩きに遭ってないか心配だ。


「何はともあれ、急がねえとな!」


 風の魔法で身体強化。風を噴射を噴射させ更に加速する。今の俺は風だ!!




51)市奪還作戦 光秀


 山賊の如く登場したわけだが、武田軍の対応は平静なものだった。逆に肩透かし、上手いこと躱されたとも言える。

 勿論、兵士であるなら当然の対応だ。確かに、咄嗟の事態に慌てる兵士なんて使い物にならない。かと言って、兵士も人間だ。

 この突然の襲撃に顔色一つ変えず対処するのは不可能。ましてや武田兵全員が、となると兵士の能力の高さとは考えられない。

 まるで事前に襲撃を知っていたかのような動きだ。情報漏洩はなかったと思っていたが、この事態…。間違いなく、僕達の襲撃を知っている。


「ミッさま!このままじゃ、全滅しまっさ!!ノッさまには悪いが、逃げやしょうぜ!」


 ミッさま…ノッさま?

 ノブと僕のことを指しているんだろうけど…。


「変な呼び方しないでくれ!!それに撤退はしない。もう少しだけ、保ち応えてくれ」


 市姫様の救出の為にノブが囮になってくれたのだ。

 せめて、市姫様の無事だけでも確認したい。が…、その姿はどこを探してもなかった。

 市姫様と共に姿を消した武田信玄。恐らくは、どこかで別の隊と入れ替わったと思う。


「しかしよっ!」

「反論はなしだ!状況が分からない今、下手に動かない方が良いんだって。今は出来るだけ、この場を死守するんだよ!」


 全ては僕の勝手な予想。ノブを狙った狙撃を鑑みても真実はもっと根深いかもしれない。

 やはり、下手に動けない。


「死守…って、オイッ!死ねってことか!?いくら報酬が良いからって命まで懸けらんねえよ!!」


 雇われ者が命を惜しむ。それは理解できる。

 僕もノブも、忠義を求めるタイプの人間ではないから、無理強いするつもりはない。

 それこそ、この世界には労災もなければ保険もないのだ。無理な強要もしないし、働きには報酬で返すようにしている。

 だけど、今回は事情が違う。


「だからこそ、命令には従ってもらうよ。ここで背中を見せたら、君たち死ぬよ?」


 君たちどころか、それは僕も同じこと。多勢に無勢、下手に逃げようものなら背後からブスりと殺されてしまう。

 生き延びるためには、逃げるよりもこの場に留まってタイミングを見計らう方が得策だ。


「クッソーっ!!こんな仕事、引き受けるんじゃなかった!!」

「欲に負けた君が悪い。もう、後戻りはできないからね。それに勘違いしているみたいだけど、僕の言う死守は死んでも守れってことじゃない。死から己を守れってことさ」


 そもそも、逃げ場はない。逃げられないのだ。

 だからって我が身可愛さで、他人の尊厳を奪う真似をするつもりはない。この場を預かる者としての責任は、当然ながら果たす。

 雇っている側の人間が、見捨てたとあっては信頼に傷がつく。労働法も何もあったものじゃないけど、それでも守るべきは守らないと。

 例えそれで仲間から恨まれようと、僕は最善の手段を選ぶだけだ。


「自分の身は自分で守れってことかよ!話には聞いてたが…。ミッさま、あんたキッツいぜ」

「嘆いてもしょうがないよ。これでもまだ状況は良い方なんだし。この状況でも、何とかなってるだろ?」


 今のところ、周りを取り囲んでいるのは魔法の使えない侍達だけだ。

 本気なら、魔法の使える侍。上級武士を投入して来ている…。

 僕らは、侮られているのだ。

 なら、こっちとしても好都合。彼らなら乗り切れるだろう。


「つってもよ。ノッさまが居ねえのは仕方ねぇとしても、サルの旦那はどうして援護してくれねーんだ!」


 尚も食い下がる。しつこい奴だ。


「いや、逆に余計な手を出されると僕らが不味いことになるからだよ。秀吉が居なくても君達のことは僕が守るから、今は目の前の敵に集中してくれ」


 やっと納得の顔になった。僕が後ろでコソコソ隠れている人間だとでも思っていたのか、そこは僕のほうが納得出来ない。

 それにしても…、無駄に勘の鋭い秀吉だ。

 身を潜めて、この戦況を窺っている。日和見的な秀吉だけど、今回はそれが役に立った。


「分かったよ!やってやる!やってやんぞ!!」

「まあ、ノブが来るまでの辛抱だよ」


 ようやく、本格的な衝突となる。僕が動いたことで武田兵も本腰を入れ始めたようだ。


「ミッさま!ミッさま!!」

「分かってる。君らは侍達の相手だけで充分。僕は上級武士達の相手をする」


 赤色の鎧を着た侍達。五十人は居るだろうか?

 全てが魔法の使える上級武士クラスの侍達だ。


「確かに俺達は魔法の前じゃ役に立ちそうはねえな。ミッさま、あんたが命綱だ。命は預けたぜ」


 何故か無駄に格好いい…。先ほどまでの狼狽える姿は何だったのか。秀吉が集めたメンバーは、どうも特殊な人間が多い気がする。


「僕にとっては君達が命綱だ。君達が抜かれたら僕も死んじゃうし」


 頼りなさすぎる気もするけれど、一蓮托生の運命共同体。ここは、信頼して背中を預ける。


「あいつらの相手は僕が引き受けるけど、他の侍達は君たちに頼んだよ」

「よっしゃ!任せてくれ!!」


 長く話し込んでしまったが、僕も戦列に加わった。


 何はともあれ、ノブが来てくれれば状況は変わる。変えることが出来る。

 それまでの時間を稼いで…。それから─────


「火身転身、炎転化!我に続け!賊は一人残らず殺すのだ!!」


 一人の侍が大声を上げると、次々と燃え盛る。

 火属性を持つ侍達を集めた部隊編成だ。


「ゆっくり考えている時間は与えてくれないか。でも、それは話に聞いた身体を変化させる魔法か…。まるで炎の魔人って感じだね」


 系統魔法では、結界。属性魔法では、火。その二つを身体に込めた魔法だ。

 使ってくるのは分かっていた。だから、対策は立ててある。


「無銘武装─────」


 刀に魔力を流し込む。

 魔法剣、擬似的な妖刀だ。刀がいくらボロくても、武装魔法なら問題ない。魔法には魔法を、それも問題ない。


「属性特化も良いけど、魔法はもっと深淵だよ。その身を以て、確かめてみると良い」


 襲って来た幾人かを斬り捨てる。鮮血が飛び散ることはなく、炎の身体から流れるのは、やはり火だった。


「な…、バカな」

「その魔法の弱点は、対魔法への対策がない所だ。悪いけど、僕も容赦するつもりはないよ!」


 物理的な攻撃には絶対とも言える防御力だ。

 しかし、魔法への防御力はお粗末だ。


「ミッさま!カッケーな!!」

「そうでもないよ。まだ魔法戦術の対抗策は確立できてないからね」


 予想していたが、自信があったわけじゃない。無銘武装は、武装魔法の中でも最も弱い。実際にやってみて確かめたかっただけだ。


「そんな謙遜すんなよ!あんたマジスゲェーから!」

「君に誉められてもね…」


 狙いは大当たりだったわけだけど、この程度の魔法で簡単に倒されているのだから、弱点ではなくただの欠陥だ。


「いい気になるなよ!我ら炎魔隊に敗北はないっ!!」


 斬られたというのに立ち上がる侍達。炎は未だに燃え盛り続ける。


「熱い根性論だね。魔法も剣も、案山子頭の山賊と大差ないのによく言うよ」


 炎の身体だから、斬られても痛みがない…ワケないか。きっちり痛みを堪えてるのが顔に出ている。


「多少、優勢だからと図に乗りおって。貴様らなど、殿の前では雑魚に過ぎん!!」

「その通りさ。だけど、その殿様が居ないんじゃ話にならないよ!」


 挑発して敵を誘き出す。注意が僕に向けば、仲間の負担も減るだろうし…。

 同じ魔法使い、侍であっても質そのものが違う。易々とやられるヘマはしない。


「ぬ!されとて、これならどうだ!炎渦拳!!」

「単純なんだよ。炎天下と変わらないよ、それじゃあね!」


 渦巻く炎の拳を斬って返す。

 炎の身体も炎の拳も…本来なら、近づくだけで敵を焼き殺す魔法だろう。しかし、ある程度の使い手ならこの焼き尽くす様な炎熱も防げるのだ。


「く…ええいっ!何をしている!!葵の者達が来るまでに仕留めるのだ!!」

「やっぱり援軍が居たのか」


 市姫様と同じ様に武田信玄の姿も見当たらない。可能性の一つとして、援軍を用意していることを考慮していた。


 個としては優勢かもしれない。だけど現状、戦闘は五分五分。このまま敵の数が増えるとなると一気に武田側に傾くこととなる。

 秀吉を増援に回したとして、結果は現状と差はないだろうし…。隠れている秀吉てふだを出して早めに退散したほうが良いか?


「─────いや、葵の者達?」


 葵と言えば、水戸の…。じゃなくて、三河の徳川だ。

 武田の増援が何故に徳川なんだろ?当然ながら、そんな疑問が浮かぶ。

 僕の記憶が正しければ、三河国の頭首は徳川家康だったはず。武田の下に徳川が着いたか。それとも…幕府側の工作か。

 もう少し、様子を探りたいところだ。最優先目的は市姫様の救出…。今やるべきは、市姫様の所在となる。

 戦いに来たのではない。敵の増援は望むところではないのだ。


「逃がしはせぬ!!ここで貴様らを討ち取り手柄を挙げさせて貰うぞ!!」

「秀吉!援護頼んだよ!!」


 早めに決着とさせてもらう。徳川兵は未知の敵。また戦術の練り直しが必要になる。


「任せるッス!!」


 合図を受け取った秀吉。秀吉と連なる仲間達は弓を引く。


「ぬぬっ!?伏兵が居たか!!」

「当然!まともに君たちの相手をする気は毛頭ないよ!」


 これで一気に流れが変わる…ハズだった。僕達の襲撃を知っていたとしても、どのように襲って来るかまでは知らない。

 秀吉の伏兵は、相手にしてみれば予想外の攻撃だ。

 頼んだ通りの援護射撃。放たれた矢は上級武士達に当たる。命中はしたが、当たっただけに過ぎなかった。状況は好転しない。


「秀吉!!どこを狙って撃っているんだよ!!」


 秀吉が狙ったのは炎天下で炎となった侍達。僕が欲した援護は向こう側で戦う仲間達への援護だ。

 何というか、ガックリだ…。それしか言えない。言う気力がない…。


「クッはっはっはっ!我ら炎魔隊に矢など効かぬ!!せっかくの機会を逃したな!!」


 敵にまでミスを指摘された…。


「その通りだよ!っとに!!秀吉!!」


 物理防御の高い炎天下に弓矢は無意味だ。逆に秀吉の援護は焼け石に油を注いだ感じだ。


「悪いッス、ミツさん。こんなことになるなんて…」

「全くだよ!もう良いから加勢しろ!!」

「うっす!失敗はこっちで取り戻すッスよ!!」


 刀を抜き、前へと出る秀吉とその仲間達。

 逆にそうしてくれないと困る。せっかく切った切り札が役なしに終わるなんて予定外だ。


「こんなことなら、最初っから秀吉を加勢させておけば良かったよ!」

「んなことしたら、奴らを刺激しちゃったんじゃねぇッスか?」

「奴ら?」


 一体、何のことを言っているのか。その答えは直ぐに出た。


「あれッスよ」

「早過ぎるぞ、徳川め!功を焦ったな!!」


 来たと言うより、秀吉と同じように潜んでいたようだ。

 でなければ、こんな短時間で援軍に来れるわけがない。


「秀吉、気づいていたのか!?」

「うっす!」

「状況が見えてなかったのは僕も同じか…」


 僕も焦り過ぎた。秀吉だけに責任をなすりつけたことを反省する。

 秀吉の危機感知能力は野生の獣と同じだ。その秀吉が身を潜めた時点で気づくべきだった。


「我は徳川家康!故あって武田兵に加勢する!!山賊に扮装と貴様たちが、織田の兵であることは明るみに出ているぞ!!」

「家康め、余計なことを!!」


 そう言うことか…。

 ノブを狙った狙撃も、家康が先んじて取った行動だ。僕達とノブを引き離すために離れた場所から狙撃させたのだ。

 徳川兵の布陣の外と内。ノブが来ることはないと見るべきだ。

 それに、僕達も…。


「不味いね。どうやっても逃げられそうにない」


 徳川家康率いる部隊に完全に包囲されている。その包囲から抜け出す策は………。


「これ以上、徳川に手柄を横取りされてたまるか!殿の為にも、炎魔隊の底力を見せるのだ!!」


 息を吹き返した武田兵。

 炎転化には体力の底上げの効果もあったようた。気合いを入れ直して、尚も攻撃してくる。

 じっくりと考えている時間は、当然ながら与えてくれない。


「炎魔隊に敗北の─────」

「だから、それはもう聞いたから!!」


 一度見切ってしまえば、恐ろしいものではない。

 軽く受け流し、斬撃を入れる。倒れたところに留めの一刺しで完全に事切れた。


「奴は一対一で相手をするな!取り囲み動きを封じよ!!」

「まったく…。何人斬れば終わるんだよ。徳川も残ってるのに、きりがない!」

「とか言って、全然余裕に見えるッスよ」


 そんなわけない。

 疲労もあるが、それよりも魔力の消費が限界に近い。回復薬を飲み干し、魔力を回復させた。


「秀吉。ここは大丈夫だから、向こう側を手助けしてやってあげて」

「でも、一人だけなんて無茶ッスよ」


 状況の確認のために辺りを見回した。

 刀は限界を超えた。

 刀身は歪み、もう使い物にはならない。手持ちの武器はなくなった。

 それは秀吉と仲間達にも言えることだ。強がってはいても、限度はある。

 残る敵はどれくらいだろうか…。

 炎の立ち上る人影は数を失う。武田兵炎魔隊はほぼ壊滅していた。

 今、相手をしているのは徳川兵だ。

 徳川兵は魔法能力に長け、逆に近接戦闘は不得手のようだ。武士達を盾にして、上級武士が魔法で攻撃してくることからも分かることだ。


「埒も明けない。ノブも来れそうにないし、もう一つの策を使う。皆、あまり離れ過ぎないように気をつけるんだ」

「分かったッス。ミツさん」


 まだ、手はある。

 しかし、気がかりは徳川家康の動きだ。

 もしかしたら、僕の行動も読まれているかもしれない。


「地球投げ!─────グぅェへ!?」


 放り投げられた岩石を弾き返す。ノブと野球をしたときの要領だ。

 今回は、ちっとも楽しくない。


「君達もしつこいね!っとに!!」

「休む隙を与えるな!撃ち続けるのだ!!」


 またもや、岩石の弾が撃ち出される。

 岩を撃ち出す魔法。まるでピッチングマシンだ。

 その数は武田兵を超えている。

 たかだか数十人を相手にするのに千の兵を用意する。徳川家康は容赦なさすぎる。

 いくら、戦争が魔法によって左右されるからと言っても過剰だ。先ず第一にこれは戦争ではないのだ。


「兎を狩るのに、そこまで全力でなくて良いだろうに!無城防壁!!」


 砲撃の嵐に耐えきれず、防壁は呆気なく砕け散る。ギリギリだったが、岩の砲撃は止めることは出来た。

 複数人による連携魔法なのだろう。連続して今の魔法を放つことは出来ないようだ。


「兵士の方はともかく…。家康は何を考えているんだ?」


 兵にばかり戦わせ、家康にまるっきり動こうとしない。何かを待っているかのようでもある。


「岩が消えた!?いや、消されたのか!!その無形の魔法。貴様は明智光秀だな!」

「人違いですよ。僕はしがない山賊ですから」

「な…、わけあるか!!」


 うん。騙されてはくれないか。

 少し前に突出してしまったようだ。僕の名前を知るくらいの侍となると、身分もそれなりの侍だ。


「どっちだって良いよ。死に逝く人には、ね!!」


 手応えはイマイチ。そこそこ出来るようだ。


「グゥ…、名をたばかるか。明智光秀!!この卑怯者め!!」

「君に名乗る名前はないってことだよ。無明掌!!」


 風穴が開き、崩れ落ちた名も知らない侍。

 そもそも、名乗りを挙げて戦う意味はない。


「奴は明智光秀だ!奴を倒して手柄を上げよ!!」

「どこに行っても狙われるか…」


 僕の魔法は良くも悪くも目立ち過ぎる。それは望み通りの展開ではあるが、何故こうも目くじらを立てるかのように狙われるのか…。

 理由が分からない。


「ミッさま、無茶し過ぎだ。大丈夫かよ?」

「それは僕の台詞だよ。君達も、よく無事だったね」

「ああ、サルの旦那のお陰だぜ。サルの旦那が分身してな、一気に蹴散らしてくれたのよ!」


 分身と言っているけど、ノブ直伝の人形撃のことだろう。

 新たに目覚めた水属性の魔法で、その性能が上がったようだ。

 液体性の木偶人形…。関節を水で固めているから、柔軟性が生まれたようだ。カクカクとしたロボットダンスが、今はしなやかな動きを見せている。

 操れる数も増えている。

 十体はいるだろうか…あ。二体やられた。今は八体だ。


「もう暫くは、保ち応えられそだね。全員を呼び集めてくれ」

「今度は何をするつもりなんだ!?」

「怯えなくても良いよ。逃げる算段さ。怪我人には手を貸してあげるんだ!!」


 自身を起点に円を描く。そこに集まるように指示を出した。


「ありがてぇー!!けどよ、そんなこと出来んなら、始めっからやってくれよ!」


 言いたいことは分かるけど。これは最後の手段だ。

 使いたくて使うワケじゃない。

 どちらかと言ったら使いたくない…。と、一瞬の戸惑いが生まれる。


「全員退避したぜ!」

「秀吉は!?」


 全員の内に秀吉が含まれない。除け者にされたのか、一人置いてけぼりを食らっている。

 いや、分身していては一人とは言い難いものがある。

 未だ粘って残り五体。


「逃げるまでの時間を稼ぐって、まだ戦ってるぜ!」

「秀吉の馬鹿…。秀吉!!逃げるよ!!」

「いぃ!?今、行くッス!待って下さいッス!!」


 と、これで全員揃った。


「全員、その円から絶対に出ちゃ駄目だよ!!─────触れること叶わず、広域結界!無明息災!!」


 無識透過の上位魔法。極魔法無明息災の効果は存在の消失。結界の内に居る者は全く認識できなくなるという魔法だ。

 例えるなら、お化けや幽霊のような存在…。今の僕らは、落ち武者の亡霊にしか見えないことだろう。


「ミツさん!?ど、どうなってるんスか!!」


 互いに半透明化になり困惑している。誰も触れることは出来ないが、そこには、ちゃんと存在する。


「秀吉、今はそんな心配してる場合じゃないよ。この場を何とかしないとね」

「何とかって…。この状態で何が出来るんスか?」


 秀吉の言うとおりだ。僕ではこの状況を覆すには力不足。更に無明息災の魔力消費も著しい。

 この状態では魔力回復薬も飲めはしないのだ。


「言っていた準備は完璧だろ、秀吉?」

「な、何のことッスか」

「魔法陣だよ。襲撃地点は国境付近でって言ったよね。忘れてないだろ」


 市姫様救出の為の場所にここを選んだのにはワケがある。

 大気盤性魔法陣。この魔法陣は、国防の為のものだ。

 この手の魔法陣は、国防の為に国境付近に幾つか用意していたものだ。

 当然、秀吉も知っている。

 忘れていたなら、お勉強会が待っている。


「や、やだな。ミツさん、大丈夫ッスよ。勿論ちゃんと覚えてるッス」

「良し、ならすぐに魔法陣起動だよ」


 命令を下すと、魔法陣を起動させる。

 発動の鍵は清洲城で管理されているが、今回はその鍵を持ち出して来ている。


「うっす!─────大気盤性魔法陣、起動するッス!!」


 魔法陣自体、単純な魔法が組み込まれてある。風を呼び出す魔法陣と水を呼び出す魔法陣だ。

 この二つの魔法陣に生み出されるのは嵐。

 そして、影響されるのは物理的に存在するもののみ。つまり、いま此処にいる武田兵、徳川兵だ。

 爆発にも似た暴風と土砂降りの雨。暴風雨は止まらない。近隣一帯に荒れ狂い、その猛威を振るい続けた。


 切り札…。真の切り札、大気盤性魔法陣の発動とともに、状況は一変する。





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