激闘、文化祭 後編
47)激闘、文化祭 後編
「─────始めっ!!」
その上杉の一声で決闘が始まった。
「風の如く!────一刀入魂!!」
開始と同時に、武田は反応する。
驚異的な集中力の為せる業だと、見物人は唸ったことだろう。しかし、当事者としてはただ呻くしかなかった。
肉体強化の支援魔法による脚力強化、さらに武装魔法による魔法剣も加わっている。
普通の刀と言ったのは訂正だ。武装魔法の加わった刀は、巨大な金棒と呼んで差し支えないものに変わった。
その刀と呼べない刀を両手で携えて、フルスイングで金棒は横なぎに払われる。
野球風に言うならば、ホームラン張りの大振りに刀が折られる。
いきなり、丸腰にされる。
「端から全力かよ!?大人気ねーな!勘弁しろよ!!」
既に二撃目の姿勢だ。次は、直撃は免れない。─────当たればどうなるか、想像に難くない。
結界で守られているとしても、本能的な恐怖はどうしょうもない。
当然、攻撃を受け止めるという選択はない。防御魔法を使っていては間に合わない。その判断の下、全力で避ける。
金棒が目の前を通り過ぎる。難を逃れることができた。
難なく難を──────。
「て、言えねーのが俺か…。くそ」
無様に転んだだけだった。
運が良かっただけで自慢気には語れない。だが、運も実力の内。俺だから助かったと言っておこう。
「だっはっはっは!この程度の魔法に腰を抜かしたか、織田信長!!無様だな!」
「ウッセーよ!!調子に乗んなよ!!」
事実なだけに言われたってしようがない。
びっくりして腰を抜かしたんじゃねーんだけど…、な。
カッコ悪いことに変わりはない。
「どうした? 待ってやる。早く立つがいい!」
「優しいーこって、余裕だな。次は俺の番だ…ぞっ!!」
充分に時間をくれたことで、俺も支援魔法の肉体強化を終わらせた。勿論、防御魔法に支援魔法を掛け合わせる二重防御魔法も同時に行った。
武装魔法は…残念ながら、刀が無いから使用不可。もっとも、まだ練習中で、実戦使用はミツから止められている。
武装魔法が使えなくても、やるなら同じ土俵だ。俺も近接戦を挑む。なぜなら、その方が決闘っぽいからだ!
「来いっ!!受け止めてやるぞ!!」
「なら、たっぷり味わえ!爆裂百烈拳!!」
火を纏った拳を風の魔法で最速で放つ。風の属性により、さらに火は勢いを増して威力が上がる。
本来なら、二人以上で行う魔法支援が必要となるが、複数の属性を持つ俺には定石も無意味だ。
「チッ。期待外れだ!返すぞ、破竹爆裂拳!!」
な、なんだ?! 何が起きたのか。カウンターパンチを喰らった俺は二回目の尻餅をつかされた。
視線が下に落ちる。それこそ、見下される姿勢だ。
防御魔法を攻撃に転じて使う。
弱点となる魔法による反撃だ。使い方、使うタイミングを間違えると使った本人が痛手を食らう扱い難い魔法だ。
「話にならぬ。それで本気か?」
「仕方ねー。ホント、舐めてた。悪かったな…、ここからが本気だ」
言ったからには全力勝負。なかなかモチベーションの上がらない勝負だが、市の見てる前で恥ずかしい姿は見せるのも嫌だ。
一戦で三度目となると尚更恥ずかしい。
兄である以前に男として、市には格好良いところを見せてやる。
「がっはっはっは! 目つきが変わったな。ようやく、その気になったか!儂も本気で行くぞ!!」
魔力が溢れ、武田の薄い髪が逆立つ。
見るからに魔力の無駄遣いなのだが、本気であると示すには分かりやすい威嚇行為だ。
「お前は、戦闘民族かよっ!?」
互いに様子見。その時間は終わり、全力勝負になる。
ふざけるのも、空気を読んでこれで止めておこう。武田信玄にとっては真剣な勝負なんだろうしな…。
「ふむ。そんな民族など聞いたことがない」
「実在しねーよ、そんな民族は。真面目に答えてんじゃねぇよ…」
「だが、なかなかに的を射た言葉だ!戦場こそ、我が道ぞ!!火の如く!炎転化!!」
またもや、見たことない魔法だ。
炎の化身と変わる魔法。無駄遣いと思った魔法は、この魔法のための準備だったようだ。
魔法との同化…、武装魔法の先を行く魔法なのか?
迂闊に水属性で攻撃しようものなら、水蒸気により俺の方がダメージを受ける。かと言って何もしないのは、それこそ相手に攻撃のチャンスを与えるだけだ。
「目には目を。口には口を…。火には火を!火竜招来!!」
出現したのは、燃え盛るドラゴン。蛇のような龍ではなく、トカゲのような竜を作り出す。
霊能系統、魔法による具現化。現実には存在しない空想の生き物でも、術士の想像で生み出せる。─────素晴らしい魔法だ。
術士の力量次第で、姿形だけでなく能力も自在だ。
火と火。炎同士のぶつかり合いならダメージはない。後は、互いに魔力の削り合いとなる。
術士自ら炎となったのなら、直接ダメージはそのまま武田の魔力を奪うことになる。俺の方は、火竜を生み出した魔力の消費だけで済む。
国が変われば魔法も変わる。戦い方も変わる。有利不利が生まれてくる。
「気合いの入った魔法だな。がっはっはっは!! どうだ、もう少し気合いの入る遊びをしよう」
と、何故か余裕の発言。火竜を前に物怖じする様子はない。堂々とした態度だ。
「遊び?」
「この決闘を面白くするために賭けようではないか。勝った者は、ここにある欲しい物を手に入れる。負けた者は勝者に従うのだ。持ち合わせが心許なくてな…、遊び足りんかったわ!」
ホント、何しに来たんだよ…。声を大にして言うことか?
恥ずかしい大人だ。こんな大人には絶対なりたくはない。だが、面白そうと言うのは同感だ。
意味もなく決闘は出来ないが、得るものがあるならやる気でる。俺は単純なのだ。
「乗ってやるぞ。お前の身包み剥いでやるから、覚悟しろよ!!」
「がっはっはっは!!それでこそ織田信長よ!!これでもう後には引けぬぞ!!」
賭けは成立。まさに全力を賭しての決闘だ。
「お前こそ!!喰らえ、火竜熱光線!!」
「儂の炎を超えるか!?流石よ、織田信長!しからば、これならどうだ!山の如く!!」
決闘の舞台である大地が割れる。
岩を盾にして身を守るつもりなのだろう。無駄なことだ。
「火竜の火力を甘く見るなよ!」
フルパワーの火力なら、岩をも溶かす威力になる。亀のように岩の中に閉じこもっては逆に逃げ場を絶つことになる。
流石の武田信玄も、手も足も出ない様子だ。武田信玄と言っても、この程度だ。
「このまま、押し切らせて貰うぞ!!」
更に火力を上げるため、火竜に魔力を送る。火竜の魔力が尽きてしまえば消滅してしまう。火竜を維持するにも魔力を補給しないといけない。
「これで止めだ。どうせだ、火竜と共に眠るが良い!火竜が全ての熱量を以て、火竜加速槍破!!」
岩の甲羅に閉じこもった武田信玄に火竜諸共にぶつける。辺り一面を灼き尽くす。
火竜の直撃に耐えきれず、岩は赤く燃えて蒸発した。
代償結界のお陰で、中にいる武田信玄に直接的なダメージはない。その分、魔力は激減する。
どのくらい魔力を削ったのか、致命傷レベルのダメージだ。魔力切れか、それに近いくらいは消費されている。武田の姿を確認して勝負終了だ。
「て、あれ?武田の姿がねーぞ?」
岩の中に隠れていたはずが、忽然と消える。
隠れられる場所などないのに、どこを探しても武田信玄の姿がない。
…もしかして、結界の効果が無くなった?
…え、もしかして…死─────。
「林の如く!!」
「な、下から?!」
無造作に木が生え、襲いかかる。枝葉もない丸太の木だ。
下からだけでなく横からも上からも襲い来る。木に囲まれる状態だ。今度は逆に逃げ場を失う。
武田の声はひび割れた大地の底。亀裂の中から届いた。
岩の甲羅は囮で、本人は地中へ逃げていたのだ。
俺が仕留めたと油断を誘う。そこで、不意をついての攻撃だ。
今度は運良く逃れることは出来なかった。
襲いかかる丸太の追突に、掛けていた防御魔法が砕ける。熱耐性を持たせる為に、水属性にした結果だ。
破られて当然だとも言える。
「使える属性が多いってのが、ここまで面倒くさいなんてな!─────チッ!人にやられて、思い知らされるもんだな!!」
「がっはっはっは!貴様も遠慮せず、全ての魔法を使うが良い!!儂を超える才能を持っているのだからな!!」
暗に、天属性を使えってことだ。
武田信玄の持つ属性は、火風地木の四属性。風林火山と謳っているのだ。これほど分かりやすい答えはない。
攻めると守る、天属性なら無敵を誇る。武田信玄を打ち破ることは簡単に思える。
それが分からない馬鹿ならば…。
基本属性を超える上位属性・天を使ったとして、馬鹿正直に受けてくれないだろ。誘導に追尾の補正を掛けたところで、防がれたら同じこと。天魔法を防ぐ手段、迎撃魔法も当然のように存在しているのだ。
簡単に口車には乗れない。武田信玄のことだ。防ぐどころか、またカウンターを狙っているに違いないのだ。
「お前の希望通りには行かねーよ。融合魔法のフルコースだ。たっぷり食らえ!!」
前菜は水と木の自然魔法。木を覆う森の出現に武田の魔法は崩れる。
メインディッシュは火と風と水の灼熱魔法。高温多湿の環境下、暴風と爆撃の嵐が襲う。
最後はデザートに地と風の砂塵魔法だ。
砂嵐の過ぎ去った後には、木の一本も残ってない砂漠と化していた。
腹一杯のフルコースだ。
これで足りないのなら、満漢全席をご馳走させることになる。
流石に武田信玄も、そこまでの大食漢ではないだろ。
しかし、念には念を。相手はエロ親父。武田信玄なんだ。
そうそう何度も同じ手を食らうのも面倒だ。
更に、もう一発だけオマケを付けておく。全属性融合の超絶魔法スーパーノヴァ。これなら間違いなく終わりに出来る。
スーパーノヴァの爆発も収まり、静寂が訪れる。結界のお陰で互いに無傷。代償として魔力消費が激しいが、MP切れには陥ってないので良しとしよう。
MP切れを起こしたのは武田信玄だ。魔法の使用による消費量は俺の方が多かったが、ダメージによる魔力消耗は武田信玄が多い。
直撃の手応えは感じたし、致命傷レベルの魔力喪失になっている。
そこまで魔力を失っては、立ち上がるのも困難なはず。俺なら、軽く二~三日は寝られるレベルだ。
「上杉、─────さん。…決着は着いたんじゃないのか?まだ続けるのか?」
「この程度で終わるのなら、私もどんなに楽か…。口を挟むつもりはないが、まだ油断せぬほうがよいぞ?」
忠告してくれているんだろうが…。無駄だろ。
どう見ても、決着は着いている。これ以上は、もうホントに死んでしまう。
もしや、上杉は目の上のたんこぶ。武田信玄をこの機に乗じて亡き者にしようとしているのか?
武田上杉の衝突は、俺も知るところだ。しかし、俺には関係のない話だ。やるなら、自分の手でやってくれ。
容姿に騙されるが、実は腹黒い奴みたいだ。
「だけどさ…。ピクリとも動かねーんじゃ、戦えねーだろ」
「うむ。なかなかのご馳走であったぞ、織田信長─────」
マジっすか?
立ち上がる武田信玄。ピクリどころか、ビンビンに滾っている。
「マジで化け物だ。もう、お前…人間じゃねーよ!!」
「よく言われるのぅ…。まぁ~、種を明かせば、何てことははない。我が身に宿る霊獣が、貴様の魔法を喰らったまでだ」
「霊獣って、それこそ何だよ?何なんだよ!」
不思議生物の存在は知っている。魔法の影響で生まれたトンデモ生命だ。
魔剣の猛虎たち、水龍の乱丸も、その括りだ。でも、それは日緋色金という触媒があるからだ。
なのに生身の人に宿るとか、まるで幽霊にでも取り憑かれているみたいだ。気味が悪い。
「奇妙な目で、人を見るものではないぞ。貴様の目で見えるかは分からんが、見せてやろう。見せつけてやろうではないか!顕現せよ、我が内に潜む四獣たちよ!!」
武田信玄はやっぱり化け物だった。
取り憑かれているなんて、生易しいものではない。身体に獣を宿している。それも四匹も…だ。
吹き出物が蠢く姿は醜悪とも思える。
「鳥に、亀に、虎…。後は…竜の落とし子か??」
「かつて信濃に暴れた四匹の魔獣達だ。我が身に封印はしたが、こうして何時でも呼び出すことが可能だ」
魔獣?─────と言うことは、乱丸と似たような存在と思っておけば良いか。
宿主になっているのは武田信玄……。つまり、武田信玄を倒さなければ、この四匹の魔獣達は何度でも蘇る。
想像以上に厄介な敵のようだ。
「それが奥の手ってワケだな。なら、俺だって負けてらんねーな!俺の切り札を見せてやるぞ!!」
融合魔法と極魔法を組み合わせことで威力を最大まで引き上げる。
「結界もぶっ壊れかねないが、コイツを食らって生きてたら誉めてやるぞ!天地開闢の光、ビッグバン!!」
破壊の光が魔獣達を、武田信玄も、大地を呑み込み、結界さえも呑み込んでいく。
「がっはっはっは!!そうだ!これだ!!これを待っていた!!」
光の世界に、武田の声が響く。
「これでもまだダメなのか!? なら、もう一発だ!!」
「期待に応えるが、大人の努め。応えようか、四星獣躙!!」
互いの魔法がぶつかり合う瞬間、結界は脆くも崩れ去った。
まだ拙いとは言え六曜の力。百戦錬磨の四曜の力。どちらも互角の力がぶつかり合えば当然の結果だ。
が───。光の世界を翔る人影が見えた。決闘は、まだ…終わらない!!
「俺は!!まだ負けてねーぞ!!信玄ーっ!!」
「小僧が舐めた真似を!!自らの器を知れ!!このおおうけつがーっ!!」
魔力消耗も限界に近い。武田は窺い知れないが、恐らく向こうも同じ。
二度目のビッグバンと四星獣躙が放たれる。
「両者、そこまでだ!!この戦、拙者上杉謙信が預かる!!」
「なっ!?バカなっ!!魔法を刀で斬ったのか?!」
あり得る筈がない。俺だって一度は憧れたのだ。刀に…。
何度も練習した。基礎から学び、手の皮が破れるくらいには鍛錬を積んだ。それでも出来なかったのだ。
だからこその驚き。だからこその衝撃だった。
「上杉!!貴様、邪魔をするな!!消すぞ、貴様から!!」
「武田殿。貴殿の目的は織田信長の器を計ることではなかったのか?」
「ぬうっ!?」
「そして、織田信長!!貴殿は武田殿以下だ。周りを見ろ!!周りにいるのは何者だ。織田信長の仲間ではないのか!!お前を信じ、着いてきた仲間ではないのか!!」
見渡せば、確かに俺を慕い、馬鹿な俺を助けてくれる学生達、街の者達だ。
急速に頭が冷える。結界がない状態で互いに最強魔法を撃ち合えば…、どうなるか。考えるだけで恐ろしい。
街はおろか、国そのものに壊滅的被害が出る。
荒廃した大地。住む場のない国民。食料もままならない。
新聞やニュースで見た難民達の姿だ。
「ここで矛を収めることができるのならまだ見込みはあるか。武田殿も宜しいか?」
「うむ。異論はない」
「いいや!俺はあるね!!」
「小僧、貴様!!」
「この決闘…。俺の負けだ。賭けも俺の負けでいい…。何でも好きなものを持って行くといい」
周りのことを考えなかった俺は、国主どころか人として劣る存在だ。
罪には罰を。それは当然のことだ。
「ほう…。言ったな、小僧? なら、貴様の宝だ。貴様が隠している宝を出せ?」
「は?俺に隠している宝何てないぞ」
「あるだろ。先程から、チラチラと見ておるではないか」
「それは、つまり…」
「市姫よ。お市の方を差し出せ。それで全てチャラだ。支払える全て、その台詞、男に二言はあるまい!!」
負けを認めたからには約束は守る。理不尽な要求でも、約束を反故にしては、国を背負う人間として見下されることに繋がる。
反省したばかりで、そのような汚い真似が、できるわけがない。
「くっ…。分かった…市は…市を武田に────」
その後の記憶は曖昧だ。と言うより、覚えてない。何故なら、俺は気を失ってしまったからだ。
目覚めたのは翌日。医師の話では急激な魔力消費による心身疲労だと言う。
だが、そんなことじゃない。間違っている。
市が連れて行かれることで俺は倒れてしまったのだ。
目を覚ました時に居たのは、ミツと秀吉。─────それと、市の姿もあった。
武田信玄と上杉謙信は、別の部屋に居るらしいが…。今、話すべきは目の前の相手だ。
時間が経つのが早い…。気がつけば、もう月末。一年もあっという間に終わりそうな勢いです…。
はぁ…………。




