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秋の学校生活

44)秋の学校生活


 なんだかんだで、何時もの日常が戻って来た。

 未だに尾張の孤立は変わらないが、かと言って周辺国家が攻めて来るような気配もない。

 あるのは四季。秋分を過ぎ、深まる秋の気配だ。

 夏、あっという間に終わった……。夏休み、あれば良かった…。

 夏の思い出が湖の藻屑と消えた。

 クソ…、秋こそは!!と言う、そんな俺の願いが叶った。

 実はイベントを企画中なのだ。周囲に振り回されるのはもうゴメンだ。

 今度は俺が振り回す番だ。と、またもや秀吉を巻き込む算段だ。


 騙されていることに気づく様子もなく、俺の部屋で寛ぐ秀吉。何も知らず、毎度お馴染みの猿がバナナを食う絵面だ。

 和む、落ち着く、よく似合う。


「秋だぞ。秋と言えば?」

「食いもんが美味いッス」


 これで何本目になるのか、バナナに手が伸びる。秋らしく、焼き芋ならぬ焼きバナナだ。

 ホクホクとした湯気が立っている。最近の秀吉のマイブームなのだそうだ。


 見たまんま、秀吉は食欲。

 バナナに限らず、秋の食い物は美味しいものが多い。新しい食材が増えたことだし、新作料理を出すのも良いかもしれない。


 だが、俺が求める答えじゃない。


「それもあるが、もっとほかにもあるだろ?」

(えっとね~。山は赤く染まってきたよ~)


 俺の部屋の居候が答えた。

 結局、同居生活をすることになったイルカ。押しに弱い俺だった。


 そのイルカも今や尾張の国民だ。

 陸上形態のイルカ。驚くなかれ、ななんと!?人間の姿をしているのだ!!

 城の奴らも、イルカの正体に気づいてないようだ。龍脈に関わることは国家機密。また家臣が増えたなぁ程度の認識だ。

 名を成利。龍名を乱丸と名付けられた。名付けたのは濃姫。俺やミツだとどうも変な名前になってしまう。

 そんなワケで尾張の国籍を持つ歴とした一個人である。

 そして男の子。─────と言うのは、どうでも良いことだ。


 イルカ成利が言った通り、行楽シーズンだ。

 残念なことに観光産業は始まってもない事業だ。山の秘湯、山の宿を造るのも良いが…。

 だが、それも俺が求める答えじゃない。


「そう言うことじゃねーんだよ。お前ら」

「いや、分かんねーッスよ。お手上げッス」


 他にも印刷技術の向上で、量が増え始めた本。読書という意見もある。

 特に新しく目的を持った濃姫は読書の秋。魔法照明具がある尾張の夜だ。それはもう夜遅くまで読みふけっている。

 凄まじい集中力を発揮している。

 魔法能力を高めて俺の片腕となる気満々である。その集中力があるなら、願いは叶うだろ。

 喜ぶべきか、悲しむべきか悩ましいところだ。


「ヒントは学校だ」

「学校て言ったって…、うーん」


 秀吉は、学校と縁がない。ミツからスパルタ教育を受けた秀吉には知識の面では教育は必要なかった。

 学校の存在を知っていても何をしているのか知らない秀吉だ。

 ヒントを出したと言うか、ほぼ答えに近いのだが、ピンと来ないようだ。


「あ!そう言や、最近濃姫様が通い始めたって聞いたッスね」

「ああ、そうだな。濃姫は下級生。俺の後輩だ…」


 俺の嫁が後輩になる。ラブコメ的には美味しい展開だ。

 そう考えると、案外とカワイいかもしれない。シチュエーション萌えだ。


「あ、当たりッスか? で、その濃姫様がどうかしたんスか? ノブ様が濃姫様の話をするなんて珍しいッスよね。てーことは…、ノブ様は遂に観念したんすね」

「ハズレだ!誤解すな!!アイツは関係ないぞ!!!」

「否定するところが、また怪しいッスね」


 と、笑いを洩らす秀吉。散々、秀吉の嫁ねねさんをいじって遊んだ仕返しか?


「ま、仕方ねーか。学校に通いたいなんて言うとは思ってなかったからな」

「良いじゃねーッスか。ノブ様のためにって健気じゃねーッスか。そう言うの好きじゃねーッスか、ノブ様は」


 だから、それはシチュエーション萌え。俺が好きなのはキャラ萌え。全く違うものだ。

 秀吉は分かってねーな。

 濃姫からしたら、市への対抗心ってやつもあるんだろーし。現状、振り向かない俺への当てつけみたいなところだ。


 龍神湖から戻ると、市は学校へ通いたいと言い出した。

 なにがどうなってその結論になったのか…。勿論、俺としては是非もない。市の入学と濃姫の編入で、初の女子高生が誕生した。

 俺も素直に嬉しいが、浮かれているのは俺だけじゃない。

 もともと、学校は男女共学。区別も差別もしてなかったのだが、何故か女子が居ない男子高になっていた。

 野郎ばかりの男の園に花が二つ咲いたら騒ぎが起きて当然。しかし、俺の妹に手を出すような勇者は居ない。勿論、俺の嫁(表向きは?)に手を出す猛者も居やしなかった。

 騒ぎにはなったが、取り立てて混乱は起きなかった。


「確かに認めるが! 言っとくが、俺はまだ市のこと諦めてねーからな!!そこんとこ注意な!!」


 ここできっちり釘を刺す。俺が諦めたと知ったら、他の学生が何をしでかすか…。

 市を守る為にも。何より俺の為だ。


「ホント、懲りないッスね。いい加減、濃姫様との結婚認めちゃって下さいッス」

「それは断る。俺の秋は青春の秋なんだからな!市のために仕立てたセーラー服が泣くだろーが!!」


 断言出来る。やっぱり、俺は制服に萌えるのだ。

 桜の木の下で…。いや、俺は制服着た女の子が居ればそれで良い!!

 セーラー服を着ない濃姫に俺は萌えないのだ!!

 固定観念に捕らわれ、スカートを否定する世の中なのが残念でならない。


「それでこそノブ様って感じッスね。影ながら応援するッス」

「え?お前も制服マニアか!?」

「違うッス!そっちの話じゃねッスよ!!市姫様とのことッス。ノブ様の恋、叶うと良いッスね」


 やべえ…。

 秀吉って、実は良い奴だったんだな。不覚にも秀吉の友情に感動してしまった。

 秀吉はミツと違って、友情より忠義を上に置いていると思ってた。国の為にもならない市への恋心なんて反対するものだとばかり……。


「じゃあ、秀吉は制服には興味ねーのか。悪かったな。今まで俺の趣味に付け合わせちゃって」

「どうして、そこで茶化すんスか!!ノブ様、空気読んで下さいッス」


 うおっ!?フツーに秀吉に説教された!!

 いや、だって恥ずかしいじゃん!!今更、友情だなんて言うのもはばかることだ。

 ここで謝ることは勿論しない。それこそ友情ってもんだろ。


「まあ、ノブ様にこれ以上言っても無駄すね」

「おいおい、諦めんなよ。答え教えるから機嫌直せよ」

「あ、その話まだ続いてたんすね」

「さっきからずっとその話してるってーのに、何で勝手に話題変えてることになってんだ!!」


 市のことも、濃姫のことも、さらにセーラー服も関係ある話だ。


「いや、俺はもう興味ねーッスよ」


 バッサリ切り捨てた!?ヒドくね??


「そうか、残念だな。なら、秀吉は学校の祭り…文化祭やるのに、秀吉は来ないんだな。仕方ない、ミツと市と楽しむとしよう。ああ、残念だ」


 秋と学校。文化祭イベントは重要イベントだ。この文化祭に秀吉を誘うために話題を振っていたのにノリの悪い秀吉だ。


「ノブ様達、最近忙しそうにしてるッスね」


 文化祭の準備に右往左往。初めての文化祭だ。準備する時間も楽しい。本番となれば尚更のことだろ。


「でも、別に行きたくもねーッス。俺を騙そうったって無理ッスよ。ちゃんと聞いてるッス。祭りっつったって、平出校長からは学習発表って聴いてたッスよ?」


 それが罠なのだ。いままで学んだ多くのことを成果として発表しよう。そう言えば、セバス平出は「うん」と言うだろうと…。

 俺の思惑通り事は進んだ。この学校で学ぶことは幅広い。発表することは何でもいいのだ。何をやろうと、それは勉強なのだ。

 秀吉まで騙されてちゃ世話無いな。


「このイベントに関しちゃ、俺が指揮を執ってるからな。平出はただのテストだと思ってんだ」

「可哀想ッスよ…、平出校長。何つーか、それでこそノブ様ッスよ…」

「何言ってる。これだって、勉強の一環だろ」


 どうせなら、体育祭と文化祭を考えている。

 体育は身体を鍛えるし、文化は頭を鍛える立派な教育だ。

 今回はそこに祭りの要素を加えるだけのこと。


「うき…、そう言うことッスか。ノブ様の考えは読めたッスよ!ノブ様は遊びたいだけなんッスね!!」


 なかなか頭の回る猿だ。だが、遊びたいだけとは失礼千万!!

 一応、これも勉学の内。でなければ、学校行事でやる意味がないだろ。


「建前上は文化祭だ」


 て、建前って言っちゃった!?何て、正直な俺!!口が軽過ぎる!!


「その文化祭ってのはあれッスよね…? ノブ様達の言うトコの「前世には…」ってヤツなんすか?」


 華麗にスルーするなぁ…。時々、秀吉の行動が読めない。

 まあ、俺は秀吉じゃねーから当然か。しかし、前世の記憶か。思い出したくもない記憶だ。


「まあ、そうだ。でも、実は一度も参加したことねーんだよ。だから、話に聞く程度の知識だ」


 主に学校行事には徹底的に不参加だった。

 何時も離れて一人で見ていた。特に運動競技などは特に。

 テストの時はしょーがないとしても、ああ言う行事は大概、名前が出されるから嫌なのだ。名前が出されないとしても、違うクラスや学年、学校の生徒が来る時など必ず俺が前に出されることが多かった。

 あの担任教師が元凶で!!

 未だに根に持っているのだ。しかし、今回は全く状況が違う。何せ、俺が正真正銘織田信長なのだ。異世界の…だけども。

 故に、存分に楽しむ所存である。


「えーと…。今更ッスけど、大丈夫なんすか?」

「大丈夫だ!!規模は学校の全部!スポーツ競技に、食い物の出店は勿論。魔法体験、科学実験とかとか、何でもありの祭りになるぞ!!」


 予算はないが、既に学校を卒業した者達がスポンサーになってくれている。

 農家から収穫した作物を貰い、商家からは商品を提供して貰った。

 売り上げ自体はそのまま返却するから利益が損なうこともない。完璧な作戦だ。


「うき!行きたいッス!!俺も行くッス!!」

「何だよ、さっきまで反対だったんだろ?」


 こんなバカ騒ぎ、秀吉が反対なわけない。と言うか、今回の主役は秀吉で遊ぼうがコンセプト。

 さらに文化祭の目玉に用意した物は秀吉なくして語れない代物だ。

 逆に反対するようなら無理やりにでも連れてくる。秀吉を誘い出すなんて簡単だ。


「反対なんてしねーッス!!俺はノブ様の忠臣ッスよ!!」


 いや、余計に薄っぺらくなった。一言が余計な秀吉だ。

 …だが、これで言質は取った。

 これで秀吉は何をされても文句は言えない。俺の部屋で俺以上に寛ぐ秀吉が、それに気づいた様子はない。


「秀吉は参加で決定だな。当日は俺が迎えに行くから大人しく待ってろよ?」

「うっす!楽しみに待ってるッスよ」


 …フッフッフッ、計画決行の時を待つが良い。早く当日が来ないか楽しみだ。

 秀吉が怪しんでいるが、時既に遅し。黒い笑みが隠しきれない。

 静かに頭を上下に振る成利。相槌を打っているようにも見えるが、そうじゃないようだ。

 子供の如く、舟を漕いでいる。俺の前で無防備な姿を晒す成利に警戒の色はない。俺も随分、信頼されたものだ。




 文化祭開催が尾張全国に報じられると、国民達の食いつきはすごかった。

 ただの学校の行事に騒ぎ過ぎだろ。最早、俺の手に余る事態に陥った。

 尾張守護役の立場を利用して事態の収拾。サボり魔のアイツ…信賢には職権濫用だと言われた。

 うーん。アイツに言われると何か釈然としないな。


「生徒会長。各班の出し物が決まりました」


 生徒会長?

 えッヘン!!

 誰あろう俺が生徒会長なのだ。俺がやる必要ないのだけど、立場的に無視できないと満場一致の妥当な判断によるもの。

 満場一致とは言えないな。俺自身は反対なのだ。大丈夫だろうか、この学校?


「…ん、あれ? まだ決まってなかったっけ?」


 各クラスの出し物は決まっていたはずだ。

 普通科は、お化け屋敷。勿論、魔法あり。臨場感満載でグロテスクになりそうだ。

 農業科は、迷路。これも、魔法あり。ダンジョンをやるとのことだ。男の冒険心をくすぐられるな。

 商業科は、競売。オークションで、出品される物の中には魔法の品あり。魔剣なんかも売りに出されると聞いている。実に興味深い。

 工業科は、新作発表。これは俺も一枚噛んでいる。まだまだ電化製品には程遠いが、魔法製品としては有望だ。さらなる発展の足がかりとなると予想している。

 魔法科は、演劇。となっている。魔法を駆使したアクションは観客の度肝を抜くことになる。

 目玉はなんと言っても魔法科学科。秀吉のアレだ。おっと、これはまだ秘密。ミツさえ知らない極秘裏に建造中で、文化祭に間に合うか微妙なラインだ。早く完成させねば…。


「いえ、これは外部からの参加希望者の出し物です。守護代の方から回ってきたもので…」

「そうだった…。困ったもんだ」


 文化祭開催が決定してからと言うもの、全くの部外者が俺達も混ぜてくれと言い出してきたのだった。

 盛り上げられるなら、最大限に盛り上げようと他の守護代から言われたのを組み込んでみた。断っても良かったが、経済不安もある。断り切れなかったと言うのが本音だ。

 遊び充分が、遊び半分になってしまった。


「何だよ、これ。落ち着いて考えてみたら、もう文化祭のレベルを超えてんじゃん。マジで博覧会だ」


 誰の責任だと言ったら、俺の責任だ。

 一応、まだ管理出来てるだけ状況が悪くなっているわけでなし。

 俺が取れる責任分までは好き勝手やれるとも考えられる。だが、ここら辺がボーダーラインなのかもしれない。

 て、これだけやれば充分か?


「校舎も校庭も体育館も全部使ってて、どこにも場所が足りません。どうしましょか?」

「学校のキャパにも限界があるからな。そこは参加希望者の数を減らすべきだろうな」


 外部参加者は今回だけの特例だ。

 外部参加者用区画を設け、抽選で当選した奴だけにしよう。

 流石に全員に許可は出せない。


「では、そのように手配します」

「ああ、頼む」


 報告はこのくらい。話は終わったが、動く気配はない。

 突っ立てないで、さっさと働け。


「それともう一つ報告が…」

「まだ何かあんのかよ」

「あの…。その…、大変申しづらいことですが…」


 怯えんなよ。俺、怖いみたいじゃねーか。

 戦闘状態ならともかく、普段は温厚だってーのに。どんなイメージ持たれてんだ俺?


「怒んねーから。言ってみ?」

「本当にですか?絶対怒りません?」


 相当、疑り深い奴だ。

 おっと、ここでキレたらイメージ通りの怒りん坊さんだ。


「怒んないって。俺が怒るような話なのは理解できるが、話が進まねーよ」

「は、はい。では…、冷静に怒らずに聞いて下さい」


 と、コイツ…。顔色悪いな。ついでにかなりの汗をかいているぞ?

 体を震えさせて、風邪でも引いていたのか。今にもぶっ倒れそうな感じだ。


「おう、どんと来い!!」

「ヒッ!?………あ、いえ…」

「おい。大丈夫か?」

「あ…。はい、急に大声出さないで下さい。心臓に悪いですから」


 何だよ。つーか、何故だよ。俺ってそんなに怖いイメージなのかよ。

 しかし、怒りたくても怒れねーし…。

 ここでぶっ倒られたら文化祭の準備が遅れる。

 この男は文化祭実行委員であり、生徒会室を不在にする俺の代行役なのだ。


「悪かった。で、何があったんだ」


 いい加減話してくれねーと、俺の仕事が滞る。


「そ、それが…。普通科の生徒が問題を起こしまして─────」

「問題は常に起きてるだろ。一々、そんな怒ってたら鬱になるっての。心配すんな」


 初めての文化祭だ。そりゃ色々と問題が起きる。生徒間同士の問題に学校外の問題。いくら対策練っても人間だもん、仕方ない。完璧な対策なんて無理だ。

 思いつきで始めた文化祭だ。万全の準備なんてしてない。予想もつかない問題を考えるより、起きた問題を対処する方法を考える。

 臨機応変に対応する、これは戦場でも同じことが言える。いずれ戦場に立つ者には良い勉強だ。


「はい。今回も他の生徒に被害が出て…。実験に失敗したと、実行委員会からは連絡が」

「そう言ったことは、ちゃんと施設を使えって言ってんのにな」


 ルール破りは学生の特権か?

 全く、学生のマナーの悪さはどこの世界でも同じだな。


 文化祭当日が近づくにつれ、問題が増えている。授業を潰して文化祭準備に当てているのに、みんなテンパり過ぎだ。

 事故が起きたところで問題なし。

 怪我なら、治癒魔法ですぐに治る。

 問題を起こした件の生徒は要厳重注意で解決だ。


「申し訳ございません!!」

「んん?なんでキミが謝ってんのかな? あれ、キミも共犯者なの?」

「めめ!?滅相もない!!私は無実です!!」


 ほ、ほ~う。嘘は言ってないようだ。


「じゃ、ちょっと詳しく聞かせてもらえるか?」

「生徒会長…。いえ、殿。顔が怖いです」


 ほ、ほ~う。嘘を言ってるな。俺の顔が怖いだと? そんなはずない。満面の笑みじゃねーか。


「一体、何が起きたんだ?」

「実は…。織田流魔法術 水雷無之操スライムのそうの実験中に事故が起きました」


 水雷無之操? …て、アレだ。俺が生み出したスライム盛り盛りの魔法。ヌルヌルのスライム操作魔法だ。

 あれは危険な魔法だ。当然、取り扱い注意の命令を出している。許可なく実験はおろか、使用もしてはならないようにした。

 つまり、禁術。

 なるほど。俺が怒るのは目に見えている。


「その被害に遭ったのが女子生徒で…。あの…姫さまで…」

「ん、ごめんな。聞き取れなかった。もうちょっと大きな声で言ってくれるか?」


 はっはっはっ……。姫は姫でも、そっちの姫じゃねーよな。

 勿論、あっちの姫も扱いには注意だ。

 女子生徒…。2人だけの女子生徒…。果たしてどっちの姫だろうかな?

 切腹か斬首のどっちになるか…。どっちにしろ初の退学者が出る。人生の退学者が。


「はい。被害に遭ったのは女子生徒達です!!」


 達って言った?いや、言ったよな!?

 聞き間違いなら、聞き直したほうが良い。ここで聞き間違いで間違った裁きを下したら、学校運営に関わる。更に国家転覆に至る可能性もあるのだ。

 つーか、聞き間違いであってくれ!!


「この学校に通う女子生徒は二人だよな…、それはつまり…」

「…濃姫女子と、…市姫女子です」

「ゲフッ!!ふ、二人は無事なのか!?」

「身体には問題はないとの事です」


 あの魔法は攻撃的魔法ではないし、怪我はないだろう。当然だ。

 あれはどちらかと言えば精神攻撃。人によっては生理的嫌悪感を与える。だからこそ、禁術指定したのだ。


「ですが、精神的動揺が…」

「そうか…」


 不安的中。耐性のない二人が、あの魔法を食らって無事で済むはずない。

 濃姫なら嬉々として受け入れそうな気もしたが、どうやら無理だったようだ。

 趣味が違うからか? いや、真面目な話をするなら濃姫ならスライムにやられても普段通りな気がする。実際はケロッとしていそうだ。

 俺の心配は市。そう言や、今日は市の姿を見てない。


「二人は今どこに?」

「城へお帰りになりました。迎えの者を来させようかと言いましたが…、二人揃ってその必要はないと」


 ああ、行き違いになったのか。道理で市の姿が見えないと思ったんだ。

 俺も一度帰るか。と、その前に……。


「スライムの魔法を使った奴らはどうなっている?」

「今は執行部が尋問してます。処分をどうするのかも含めて事情を聞いているようです」

「執行部は行動が早いな」


 執行部は生徒会の下部組織。学校で俺の手足となって働いてくれる実行部隊だ。

 風紀の取り締まり。学生への指導。学校備品の整備。学校の警察的な組織だ。


「じゃあ、任せて大丈夫だな。やっぱりすぐに城に戻るから、後の始末は任せると伝えておいてくれ」


 城へ戻ると市は部屋に引きこもり。濃姫は遠く、空を見上げていた。

 どちらも不味い。

 症状は深刻だ。心を治癒する魔法が使えれば良かったが…。

 俺にはムリ。トラウマになってないと良いが、一度覚えた嫌悪感は簡単にはなくらならい。

 地道にやって行くしかねぇか。


 その後…。判決は下された。

 スライムによる女性への暴行ということで、当然、学生の退学停学処分は決定した。

 切腹、斬首は俺の冗談だ。普通に今後、学校への立ち入りを禁じるという処罰である。

スライムの魔法は…。

 校則として禁術指定だったが、全国的に禁術指定にするスライム禁止法成立。以後、スライムの製造も禁止としたのは言うまでもない。




 それで済めば良かったが…。

 美濃国大名。濃姫の父である斎藤道三の耳に入ることになり、それが争乱の引き金になる。

 道三の失脚を知ることになったのは文化祭が始まってすぐのことだった。






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