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龍脈の力

43)龍脈の力


 日も明け切れない翌朝。

 ろくな朝じゃねーな。爆睡のところを起こされた。

 徹夜しても普通に寝て普通に起きる。これでよく体が保つものだ。

 1日睡眠3時間とか聞くが、ホントにそんな人間いたんだな…。ミツはいつも朝早いからいいとしても、俺はそうは行かない。きっちり7時間寝ねーとダメだ。

 秀吉と濃姫は、いつも通りの様子だ。

 俺の方は、まだ眠い…。眠いが、出発の準備と守護者のイルカと話すために寝ぼけてもいられない。朝の身支度をテキトーに整え、別れを告げるためイルカの所へ─────。


 結局、イルカは龍脈の守護者として置くことに決めた。つーか、他に適任者が居ないのだ。

 まあ、表向きは俺の直轄管理と言うことにする。その方が面倒は少ない。


「こんな山奥じゃ、誰も来ねーしな。お前が適任だ」


 俺達が、挨拶に行くことは伝えてあった。

 行くと顔を出したイルカ。

 イルカと、これからのことについて話し合う。その結果だ。独断と変わらない判断だが、両者納得の上。これは契約に等しい。


(また、一人になっちゃうんだ…)

「寂しいのは分かるが、イルカを連れては行けねーよ」


 何やら、話が逸れた気もするが…。別れの挨拶だし、しんみりしても仕方ない。


 …とは言え、このまま放り出すのは後味悪い。魔王と呼ばれても悪人になるつもりはない。悪魔の王じゃなく、魔法の王様なのだ。


 最近は、それも揺らいでいる気もするけど…。


「何とか出来なくはないと思うよ」

「ホントか!?でも、本体の隕石は動かすわけに行かねーだろ?」


 水龍イルカも同様の反応だ。

 隕石が本体である。小石程度ならまだしも大岩だ。動かせないなら、この地に縛られると言うことだ。


「そもそもの話。龍脈は世界を覆う力だよ? 実体を持たない状態なら、龍脈を通って何処へでも行き来は可能なはず。この場に水龍を留めているのは隕石があるからだと思うよ」


 イルカ形態は、実体の姿。逆に龍形態が非実体なのは可笑しな話だが、龍脈を通って移動出来るなら何時でも好きなときに会えると言うこと。

 ラブラブのカップルのように─────、俺はイルカと同棲生活でもする気か!?


「隕石の一部でも持って行けば、二つの場所を行き来できるようになるんじゃないかな」


 コクコクと頷くイルカ。「なるほどね~」って、知らなかったのかよ!?

 ミツの言いようだと、実験してみたいだけの気もするけど。


「ノブは、隕石を頼むよ。欠片程度の採取ができれば充分だ」

「まあ、良いけど…。ミツは何をするんだ?」


 当然の疑問に思う。

 いや、ホント。人に働かせておいて自分なにすんのよ?


「龍脈の観測だよ。観測!!こんなの滅多に見られるものじゃないよ!!」

「興奮して…。何でそんなに熱いんだよ」


 魔法の事となると豹変してしまう。

 大きな魔神みたいな男だ。あれやこれやと俺とイルカに注文を出してくる。

 まあ、説明してくれているのだ。ここは素直に従う。

 簡単に言ってくれるが、俺の力を信用しているからこそ。

 しかし…。

 天属性で隕石落としたのに、今度は地属性で隕石を動かすのか?

 どこか矛盾を感じるが……。


「まあ、それが魔法だ。来い!天空より落ち、大地の底へ沈む者!!再び、天へと昇れ!!」


 て、カッコつけたところで、これは地曜の力がある者なら誰でも使える地属性魔法だ。

 濃姫が使った地の岩玉と同じ。

 向きは逆だ。引き寄せるだけだが、誘導操作は俺の意思。難易度的には、俺のが上だ。


 何かを掴んだ確かな感触。地底空洞に落っこちた隕石を浮かび上がらせる。


「こんな事で張り合ってちゃ、カッコもつかねーか」


 だが、上手くいったようだ。

 洞窟を抜け姿を現す水龍の隕石。

 安全確認した後、岸まで引き揚げる。取り扱い注意だ。


「良し。じゃあ早速、欠片を貰うぞ」

(う、うん…。…あぅん…)


 触れた途端、敏感に反応を示す。結構、感じやすいイルカだ。

 だが、それは無視する。

 可愛いは可愛いが、イルカだ。何より、コイツはオスのイルカだ。


「く…くくく。スゴいよ!!これが龍脈の力を得た日緋色金なんだね!!」

(な、なんですか。これ~!?ぼ、僕が、壊れちゃいます~!!)


 隕石から欠片を採る作業の中、豹変と言うか、変貌するミツ。と、身悶えるイルカ…。

 うざい。集中できねーじゃねーか。


 基本属性の魔法では効果がないようだ。火水風木地の魔法は全て無効化される。

 天属性隕石落下で破壊できなかった以上、それは当然の結果だ。

 生半可の攻撃では傷つくことはない。日緋色金の強度の高さは、ダイヤモンドを氷の如く、パリ~ンと割ってしまうくらいだ。


「もうちょっとだけ我慢しろ!」

「いいよ、ノブ!!その調子で思いっきり、ぶっ込むんだ!!」


 言われるまでもなく、有りっ丈の魔力を注ぎ込んだ魔法を叩き込んでいる。

 基本属性の上位魔法、系統魔法の複合使用により生まれる属性魔法の極み、極魔法だ。


(あ、あ~っ!!ら、らめぇ~!!)


 人が真剣にやってるってのに変な声出すなよ…。

 本体への直接攻撃だ。負担になってるのは分かるが、色んな意味でギリギリだ…。

 イルカが悶える姿は尋常じゃない。見れば見るほど、力抜ける…。


 て…構っていられるか、放置だ!!


「ノブ!!闇雲に魔法使ったって意味ないよ!!もっと深く!もっと奥まで!!」

「意味分かんねーよ!使い方を考えろってことか?ドリルで削れば良いんだよな!?」


 隕石落下の衝撃にも耐えたんだし、普通にやったって傷一つつけらんない。欠片の一個もこぼれないとか、どんだけ硬いんだ?


「ちょっと本気でやるぞ!歯っーぁっ食いしばれ!!螺岩旋抗スパイラル・ドリル!!」


 最強属性の天属性とは言え、範囲を広くしてはダメージは分散する。さっきまで使っていたのは単体向け。今度は部位破壊を目的とした魔法だ。

 打ち込むのではなく、ねじ込む。


(グゲェ!??)


 あ…。やべ。

 ちょっと本気でやりすぎた。

 欠片は採れたが、深く奥にぶっ刺っしてしまった。

 イルカの方は、お尻にカンチョーでもされたかのような驚き様だ。


「わ、わりー…。わざとだけど、わざとじゃねぇんだ」

(どっちだよ~。ヒドいよ、お尻に穴が開いたらどうするんだよ~)

「フツーは開いているもんだぞ!!」


 真っ平らな体して、穴の一つ二つで怒られる謂われはない。むしろ、開けてやったんだ。感謝するところだろ。


「く…くふふ…、龍脈の日緋色金…。これは一体どんな魔力を秘めているのか…」

「ミツはミツで、こえぇーし!! それ使って清洲まで龍脈通すんだろ!?」


 ニヤニヤして、めっちゃこえぇーよ!!

 変質者?いや、狂気の科学者マッドサイエンティストだ。


「う、うん。これを楔にして大地に打ち込めば龍脈が繋がるはずだよ…。清洲城の堀に打ち込んでおけば良いよ。でも、その前に…」

「今回は諦めろ、ミツ」


 貴重な龍脈石だ。ミツからしたら、研究対象。欠片を持つ手に力がこもっている。

 一人ぼっちのイルカの為に、使ってやるような安い代物じゃない。と言うのがミツの気持ちだろう。

 だが、そこで駄々をこねるような子供じゃない。俺達も、もう大人だ。


「う、うん。そうだね…。あと一つくらい必要じゃないかな?」

「全然、諦めてねーじゃねーか!!」

(無理だよ。これ以上は、もう無理~。イタいのキライだもん!)

「ほら、無理だってよ」

「そこを何とかなんないかな? 清洲に来たら色々と遊んで上げられるし、さ。…どうかな?」

(え、それなら良いよ!!)


 安いのか、高いのか?

 価値観が分かんねー。


「それで良いなら、俺に言うことはねーよ。…ほら、ミツ…。良いってさ」


 まあ、了承が取れたのなら大丈夫だろ。

 さっき採れた欠片をミツに。

 もう一度、スパイラル・バンカーを食らわせる。ゴリッという手応えと共に無事採取成功。今度はそこまで痛くはなかったはず…。


(う、うぅ…)

「え!?おい!!どうした、イルカ!?」


 しくじったか。つーか、岩が本体だってのに、痛みを感じるものなのか??


(な、何か…。ぼ、僕の中から…溢れてくりゅよ~っ!!)

「はあっ!?な、何かって何だよ!!」

(穴が、穴がーっ!!)

「穴穴うるせーよ!!その平坦な体のどこに穴があるって言うんだ!!」


 ブシャッと、溢れる液体。穴は確かにあった。

 無味無臭、無色透明。ネバネバもしないし、ヌルヌルもしない。フツーの水だ。


 俺が岩に開けた穴、そこから消防の放水のように水が飛び出してきた。

 勢いよく吹き出る水に吹き飛ばされた。どうも俺は不意打ちに弱い。

 ずぶ濡れになるのは構わないが…。


「つっ!!イルカの分際で、何してくれてんだ!!冷てーだろ!!」

「の、のぶ…。大変だよ…」

「こっちも大変だって。岩ばっかり見てねーで少しは俺の心配もしてくれよ」


 これが攻撃だったら間違いなくやられてた。

 イルカに注意を払っていたからこその不意打ち。やられた!!というべきか…。


「水が掛かったくらいで何言ってるんだよ。そんな事より、こっちの方が大変だよ!!」

「何が大変だって言うんだ?」

「龍脈の水脈だよ! 分かる?この水には思念が込められているんだよ!!思念とは想像の力!!魔法は、血統と思念によって生まれる力!!」


 今日のミツは興奮し過ぎ。それに言ってることも分からない。

 だいたい、魔法は想像力。それともう一つ、資質が必要だ。


「意思のない水に意思?それって怨念って言うんじゃねぇの?」

「誰も怪談の話はしてないよ?!」


 うーん。やっぱり、この手の話は苦手らしい。ホラーとか結構面白いと思うんだけどな…。


「隕石が龍脈に落ちて龍脈石になった。これは隕石が日緋色金を含んでいたから…」

「………」


 怖くなって、話を逸らしたな?


「日緋色金には色んな使い方があるのは分かるよね? 魔剣製造の為にも使えるし、魔封じにも使われる。龍脈石も、その一つと仮定できる」

「難しい話は苦手なんだ。頼むから、結論だけ。簡単に教えてくれ」


 いや、何でこんな話になったんだ?

 俺が説明を求めてばかりだからか…。ミツの説明好きだからか。


「うーん。やっぱり早く帰って研究したいよ」


 後者だな。

 好きなものの話は長くなる。人がついて行けなくてもお構いなしだ。

 多少、呆れるが…。まあ、俺も似たようなものだ。持ちつ持たれつ。


「と…ごめん。ノブにも分かり易く言うと、この水を飲んだ者は魔法が使えるようになる」

「誰でも?」

「うん。きっと、水の属性を得られると思うんだけど」


 マジでか?誰でもか!?

 だとすると、大変だ!!


「大変じゃねーか!!」

「いや、さっきから大変だよって言ってるし」

「み、ミツ…。お前、飲んでみたらどうだ? もしかしたら、ミツも普通の魔法が使えるんじゃないのか?」


 無属性の弊害で、ミツは属性魔法を継承できなかったことはミツ自身、トラウマになっている。

 傷つけようと言うわけじゃなく、興味本位の好奇心から出た言葉だ。

 龍脈の力なら、もしかするかもしれないだろ?


「うん…。ノブには無意味だけど、僕でも…。───ゴクリ………」


 さて、結果は?

 特にこれと言った変化はない。継承は見た目では分からないし、本人の感覚だけが成功を感じられる…らしい。


「あぁ…。やっぱり、駄目だったか…。分かっていたけどね」

「そんな、落ち込むなよ」


 強がり言ってる。

 無属性…。その効果は絶大だけど副作用反作用は半端じゃない。俺、六曜の魔法で良かった。

 ミツの魔法への執着は俺以上だろ。


「ほ、ほら。龍脈の研究するんだろ?他の奴でも試してみよーぜ?な?」

「他の奴? 秀吉と…濃姫様も? いいね!!ナイスアイデアだよ!!木と水。それに地と水…。二人とも武将クラスの実力はあるし、良い実験たい…協力者になってくれそうだ!!」

「ああ。二人ともミツに協力してくれる良い実験体だな」


 2つの属性を得て、二人がどうなるのか。俺もちょっと知りたい。

 既に撤収の準備を終え、寛いでいた2人を連れてくる。

 始めは半信半疑の秀吉。きょとんと事態を理解しない濃姫だったが、水龍の下まで来ると飲み込めたようだ。


「ホントにホントなんスか…?」

「大丈夫だよ」

「うっす」

「ミツの言うことは信じるんだな」

「日頃の行いッス!」


 言うねー。言う言う。俺の日頃の行いに加担していたのはどこの誰だって話だよ。


「濃姫は信じるか?」

「勿論のこと。私が旦那様を疑うはずがございません。旦那様がご所望とあれば、私はいつでも準備万端です」


 また意味の分からないことを。

 俺が求めたのは信頼だ。身体は求めてねーよ?


「龍脈の力。この水を飲むと水曜魔法が使えるようになるんだ。ミツには無理だった」

「明智殿でも?!」


 ここでもまたミツか…。

 ミツの名を出すと反応が違う。


「まさに、今が旦那様のお役に立つ好機。旦那様の猛り狂う龍の水を是非、私にも!!」

「何、勘違いしてんだ!?俺のじゃねーし、猛ってもねーよ!!狂ってんのはお前だ!!」

「ほんの冗談でございます」

「冗談に聞こえねーよ…。ちゃんと説明したよな?」


 俺のことだ。言い間違いの可能性もある。

 ─────いやいや、待て待て。猛り狂う俺の龍ってなんだよ!?そんな事、言うはずねーだろ!!


「はい、ちゃんと聞いてました。せっかくですから、旦那様の愛の水と思おうかと」

「もう良いよ…。何でも良いから、お前らさっさと飲んでくれ」


 恐る恐るな秀吉に対して、濃姫は躊躇いもなく飲んだ。

 見たところ、何の変化もない。

 これは、失敗か?


「ミツ…。ホントにこの水を飲んだら水魔法が使えるようになんのか?」


 流石に心配になる。飲んだ程度で魔法の資質が得られるとか安易だ。安易過ぎる。

 ミツにも勘違いがあって当然。むしろ、勘違いしない人間などいない。珍しいミツの失敗談というオチなのかもしれないな。


「水…。水…」

「秀吉。もう良いぞ。どうやら勘違い………」

「出来た!!出来たッスよ、ノブ様!!」


 冷てぇーよ…。二度目となると、もう濡れても気にならない。

 水も滴るいい男。それが、俺!!


「出来たじゃねーよ、秀吉!!ホントの水魔法ってのを見せてやる!あま水落みずおちウォーターフォール!!」

「ぐへぇっ!? ─────わざとじゃねーのにヒデーッス!大人気ねーッス!」

「旦那様!私も見て下さい。どうですか?」


 濃姫…、恐ろしい女だ。

 透き通る水の刃が幾重にも宙を舞う。水は水でも水晶だ。

 四象天院の秘術。新しく合成魔法を完成させるか…。


「水属性と地属性…? だからって、水晶ってありえねーだろ!!」


 水で出来た石、水の結晶体だ。

 固体化した氷ではなく、水が水として固体化している。

 だが、それも一時的なもので十秒保たずにフツーの水に戻る。要は経験不足。


「やりました!旦那様をびっくりさせましたよ!!」

「あ、ああ。ホント、マジで驚いた。水を石化させる発想はなかったわ…」


 俺を驚かせ、喜ぶ姿はフツーの女の子にも見えるが…。騙されるな!!

 水晶のように透き通った心は濃姫にはない。欲望に真っ直ぐな奴だ。


 魔法が人の意思に左右されるなら、真っ直ぐな心は純粋になる。濃姫の魔法が透明なのは、そのせいだ。

 ホント、濃姫は真っ直ぐエロいんだな。


 兎に角、2人はちゃんと水属性を得たことが実証された。

 2人の様子を見たミツと言えば落ち込んでいる。


「─────はぁ…、目論見外れちゃったな…。でもこれはこれで、龍脈の力は証明されたってことか。龍脈石。やりがいのありそうな研究だよ」

「ま、研究が進めばミツも属性を得られるかもしれないしな」


 ミツの本音は、そんなところだろ。

 始めっから龍脈のことを知っていてここに来たと言うことだ。

 素直に秀吉と濃姫の魔法会得を喜べないのだ。やっぱりこれは、ミツの失敗談だった。


「龍脈のメカニズムを解明できればだけどね」


 ブツブツと考え込むミツとは裏腹に、秀吉と濃姫は新しく得た魔法に浮かれている。ウッキウッキだ。




 秀吉は、新たに水属性の資質を手に入れた!!

 濃姫は、新たに水属性の資質を手に入れた!!


 秀吉は、木と水を得たことで武将に格上げされた!!

 濃姫は、地と水を得たことで戦姫に格上げされた!!


 と、ナレーションを入れてみた。

 ホントに誰でも水属性の資質を獲られるようだ。

 ミツは例外だけど…。

 マジ、びっくり!!と、同時に取り扱い面倒くさそうな匂いがプンプンだ。

 あまりに簡単な魔法の会得。使いたくても使えない者達には救いになるが、暫くは秘密にしておいた方が良さそうだ。






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