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四象天院

39)四象天院


 明智光秀、結婚!!

 清洲では大騒ぎだ。ちょっとした?芸能ニュース的な騒がれ方をされている。

 つーか、街の奴らにまで噂が届いているのは何故だ!?

 ミツはイケメンだし、相手も美女。

 この前、紹介されたがかなりのお嬢様という感じだった。どこから情報が流れたかは知らないが、騒がれて当然。

 ミツが浮かれても仕方ない。


「仕方ねーけど、よぉ~。………」


 涙が止まりませんよ……。

 オヨヨヨ


「ちょっ?!何で、ノブが泣いてんの!?」

「仕方ねーじゃん!!ミツが離れていく気がするんだからよぉ~。………」


 会えなくなるわけじゃないとは分かっていても、気持ち的には離れてしまう。寝取られた気分だ。

 俺の大切な親友が結婚だよ!涙が出たっていいじゃない!!止まらなくったていいじゃない!!


「何でノブが泣いているのか、全く理由が分からないけど…。うん、分かったよ」

「つまり、あれッスね。ノブ様、寂しいんすね」

「ちげーよ、バカ!!」


 市が相手にしてくれなくても…。ミツが結婚し、構ってくれなくなっても…。でも、秀吉がいるから寂しくないぞ!!


「話が変わるけど、ノブ。この前、市姫様と話してきたけど…。まだ、仲直りしてないみたいだね?」

「市と!?」


 泣きっ面に蜂?!

 妹の名前に反応してしまう。

 だって、それもしょうがないじゃん。最近は俺とまともに口も利いてくれない市なのだ。

 お兄ちゃん、マジ泣きそうだ。


「そんな驚くことでもないでしょ。僕も二人の仲は心配なんだよ。兄妹だし、色んな意味でね」

「仲直りも何も、俺はケンカしたつもりはねぇぞ。ホントだぞ」


 一方的に嫌われてしまった。このままで良いのか、俺も色んな意味で心配だ。


「うん、そうだね。仲直りはちょっと違うか。りを戻す、だね」

「別れたカップルみたいに言われてもな…」


 逆に、そっちの方がしっくり来てしまう。


「まぁ、そんな事はどっちでもいいけどね。市姫様のことだけど、結婚式には市姫も呼ぶから、ちゃんと話し合ってみてよ。互いに言わないと伝わらないことだってあるんだよ。それに、今は戦国の時代だ。いつ死に別れるかも分からないんだよ」


 なかなかに厳しい言葉だ。分かっていても、その場になると、足が竦んでしまう。一歩が踏み出せない。

 結局、濃姫との結婚は俺が選んだこと。話さなくちゃ、市も納得しないと分かっていてる。

 だけど。頭では理解していても、出来ないことは出来ない。国も市も両方とも選ぶことは、出来ないのだ。


 て、これは言い訳だな。


「俺も言わせて貰うッスよ!!ノブ様のその煮え切らない態度。正直、イラつくッス。そろそろ、はっきりさせるべきじゃねーッスか!!」

「うっさい。秀吉は、黙ってろ」

「いーやっ!!言わせて貰うッスよ!!ノブ様が好きなのは市姫様ッスか、濃姫様ッスか。どっちなんスか?」


 秀吉に言われるまでもない。濃姫と市、どちらが大事かと訊かれたら市を選ぶ。

 市とは兄妹だが、この気持ちは紛れもなく恋だ。

 市が大切で…、市が好きだから話せないこともある。だって、妹だから…。


「んなもん…、決まっているだろ。だけど、言えねーよ……」


 結局、こうなった原因は俺にある。俺は国を選んだのだ。

 側室を作れば良いのだろうが、一夫一妻が染み着いている俺にハーレムは作れない。そもそもハーレム自体、俺は否定派なのだ。


 とは言っても、結婚相手を選べない以上は……。最終手段、妹ハーレムを作る。

 ヒドい選択肢だ。ないな。これはない。


「ノブ様らしくねーッスよ。決まっているなら、当たって砕けるッスよ!!」


 玉砕するのは願い下げだ。まだ覚悟もできてないっての。


「お前はいつも一言余計なんだよ。これで関係が悪化したら、秀吉お前が責任とらるのかよ!!」

「もちろんッスよ。この秀吉に任せるッスよ!!」

「えぇ~。一番心配な奴に任せたくねーよ」


 言い出しておいて言いたかねーが、やっぱり秀吉はないわ。


「ま、後のことはノブに任せるから頑張ってね。僕は、これから忙しくなるから」


 まあ、俺の問題は自分で解決するしかねーな。ミツにはミツの仕事がある。他人に頼ってばかりもいられない。

 今は逆に頼って貰いたいものだ。俺も経験者だし、分かってる。

 結婚は色々と面倒くさいのだ。準備に準備に、また準備。手伝いが必要なら俺も手を貸す。

 ─────が、お呼びではないようだ。


「ミツも結婚か。これで童貞なのは秀吉だけだな?」


 行き遅れは秀吉だけ。だからこそ、遊べるってもんだ。

 正直、秀吉だけはこのまま独り身でもいいんじゃない?


「スイマセン。今まで黙ってましたが、俺もう結婚してるっす!!」


 大ドンデン返し!?

 ここに来て、爆弾投下しやがった!!


「な、なに!!相手は!?相手、誰だよ!!」

「ねねって言います。可愛い嫁さんッスよ」


 ウーソーだろーっ!!


「ねねって! お前、もしかして…? 姉さん女房か!!」

「そ、そうッスけど。何でノブ様、年上って知ってんすか?」


 モーソーだろーっ!!


「恋愛プラスか!!二次元の嫁か!?平面世界の恋人の間違いじゃねーのか!!」

「な、何のこと言ってんスか? 確かに恋愛結婚ッスけど…。に、二次元って何の話ッスか?」


 くそ…。そこから説明かよ!?


「二次元つったら平面だ。三次元は立体!!」

「俺の嫁さんはボインボインっすよ!!平面だなんて、失礼なこと言わないで下さいッス!!」


 ふざけるなよ!!失礼なこと言ってんのは、秀吉だ!!

 秀吉がリアルで結婚できるはずないっ!!


「恋愛!!結婚!!秀吉ぃーーっ!!お前だけズリーぞ!!世の中、政略結婚ばっかりだっつーのに、何でお前だけ恋愛結婚なんだよ!!お前なんて牽かれてしまえ!!轢かれてしまえ!!挽かれてしまえ!!」

「何で三回も言うんスか!!別に良いじゃねースか。ミツさんだって似たようなものっしょ!!」

「グッ…。そんな奴ら、爆発してしまえ!!」


 リア充、撲滅!!


「の、ノブ様…大丈夫なんスか?」

「まあ、なんだ。今はそっとしておいてやろう…。ノブの嫁は、そのアレだからな…」


 そう、まさに図星。

 素直に祝福出来ないこの気持ちは、正直羨ましいんだ。妬ましいし、恨めしい。


「ウッす。そうッスね…」

「この気持ち!分かるのは俺だけだ!!濃姫、こえーよっ!!」


 夜な夜なやってくる、濃姫。身も心もズタボロにされる。


「濃姫、ノーライフ!!濃姫、ノーライク!!」


 切れたせきは止まらない。


「毎晩、毎晩、襲ってくんなよ!!市、カンバッーク!!」


 心の声は天まで響く!!つーか、届け。この想い!!


「…ハア…ハア。よしっ!!大丈夫!!もう、大丈夫だ、俺!!」

「おかえり、ノブ」

「ああ、ただいま」


 溜まったものを吐き出してスッキリした。

 これで、やっとミツの結婚を心から祝えるというもの。

 秀吉は、撲滅だ。

 黙って結婚してんじゃねーよ!!






 結婚式、当日─────。

 ミツの結婚式は、神前結婚式になった。それも西洋風のウエディングだ。

 紋付きタキシードの新郎、白無垢ウエディングドレスの新婦…。

 衣装は、尾張一の呉服屋に仕立てさせたそうだ。

 あの呉服屋…。マジで何でも仕立てられんだな。フツーに感服だ。


「珍しい…。つーか、世界初?」


 披露宴でも、お色直しの七変化だ。

 こんな結婚式、この世界では初めてだろうな。俺としては、面白い結婚式だった。

 俺の宴会芸も大うけ。勿論、魔法を使っている派手な魔法だ。

 猿の火の輪くぐりとか、な?


 しかし、今日の主役は新郎新婦。式も盛り上がったところで、俺は早々に退場した。決して追い出されたワケじゃねーぞ。


 宴もたけなわ…。式が終了したところで新郎ミツのところにお邪魔した次第だ。


「うーん。そうかもね? この世界には、神も仏も天使もいない。死んだ人が、神仏に奉られることもないし」

「そうか、この世界に宗教ないんだったな。魔法みたいな奇跡があるんだ。いつ起こるかも分からない神の奇跡に縋るような奴は居ねーよな」


 それでも、神を名乗る奴はいる。幕府に並び立つ組織。その長は神皇を名乗っている。

 ただまぁ、宗教的なものではなく、魔法の力を管理する組織…?

 いや、ちょっと違うか。魔法の支配を企む悪の組織だ。

 何を以て悪とするかは議論の余地はあるが、世界を二分する大勢力の一つであることに間違いはない。


 話がズレたが、この世界には宗教はない。まあ、あったからって何がどうするワケでもないし、ホントどうでもいい話だ。


「結婚式は教会で…って言うのは、僕のわがまま。夢みたいなものだしね。みんな、目を丸くしてたよね」

「確かに、教会を建てるなんて想像もしてなかったぞ。俺をビックリさせるとか、ミツもなかなかやるじゃん!!」


 誉めてるワケじゃなく、これは正直な感想だ。

 ミツの夢が、まさか結婚式は教会で…だったことにはビックリしたが、この教会形式に西洋様式を選ぶのはミツにしては有り得ない。思い切ったものだ。


「ふふん。まあね。─────ところで、ノブの方はどうなったの?」

「ウグッ?!そ、それは……」

「それは?」

「そんな事、どうでもいいじゃん!!」

「ああ、やっぱり失敗だったか…。まあ、タイミング的に無理な話だったよね。ごめん」


 いや、ミツが悪いわけじゃない。そもそも、市と話し合う機会はいつでもある。と、そんな言い訳して逃げていただけのことだ。


「市とは、もう一度ちゃんと話し合ってみるよ。今日は、少しだけど話せたしな…。まったく俺の話を聞いてくれないわけじゃないと分かっただけで十分だ」

「うん。なら良し」

「しっかし、ミツにしては思い切ったよな?」

「え? 何のこと─────」


 分かってるクセに、とぼけるねぇ~?

 宗教はないと言ったが、正確には今はないが正しい。この世界にも数百年くらい前には宗教らしきものはあったのだ。

 西洋風の宗教、大地に刺さる十字の印。四象天院がまさにそれ。

 神を信仰するのではなく、人を救うためのものだ。

 今でこそ、魔法は戦争の道具になっているが、四象天院のあった時代には、今の尾張のように人々の生活のために使われていた。

 魔法を使えない者のため、代わりに魔法を使い。魔法の素質を持つ者には使い方を教える。

 他にも新たな魔法の開発、研究。魔法を使うことにおいて右にでるものなしな四象天院だ。

 四象天院の秘術と呼ばれる合成魔法の発見や魔法技術の発明は、全て四象天院の技法である。

 様式や文化も当然、他とは変わってくる。簡単に言ってしまえば、西欧化だ。


 四象天院について教えてくれた、その本人が忘れているはずがない。


「あ!?しまった!!─────」


 ミツの顔は汗ばんでいる。ちなみに脂汗だ。

 どうやら、結婚に浮かれて周りが見えなくなっていたみたいだな。

 それ程までに、夢中になる新妻…。俺のとことはえらい違いだ。


「────どうしよっ!?僕としたことが、やってしまったよ!!」

「別に良いんじゃねーの? 誰も気づいてないし、気がついたところで、もう終わったことだ」


 結婚式も無事終了。騒ぐ奴らは居なかった。


 四象天院の行動理念は魔法による民の救済。それも無償による奉仕ボランティアだ。

 魔法を使うためには資質が要る。

 資質を受け継ぐための継承の儀が、この結婚式だということだ。

 西欧様式のウエディングは、四象天院の結婚式と同じもの。結婚式でもあるし、継承式でもある。


 まあ、名前だけ残る四象天院の…。その継承式を知るものは少ない。見ても分かんなかったんだろ。


「いや、でも!!」

「心配は分かるけど、大丈夫だって。気にし過ぎだって」


 それでも、知っている者は知っている四象天院だ。

 明智光秀の結婚は、尾張国内に知れ渡っている。ミツのツテを辿っていけば、幕府や朝廷にも繋がっている。

 どこからかこの事は知られることになる。

 色々と面倒事になるのは間違いない。


「何で、そう言い切れるんだよ!?」

「え?だって、今の尾張がまさに四象天院そのものじゃん。遅かれ早かれ、いずれは攻撃されるだろうさ」


 四象天院は、朝廷からは睨まれ、幕府からは疎まれ、弾圧を受けた。そして、滅ぼされたのだからな…。

 非道いことをするものだ。俺には考えられない。


「な、に…。何、他人事みたいに言ってるんだよ!!それ全然、大丈夫じゃないよ!!」


 おっと。結婚早々、ミツを怒らせてしまった。だが、俺の態度は変わらない。

 ミツから四象天院の秘術についてレクチャーを受けた際に、既に想定の範囲内だ。

 ホント、ミツは目の前のことに集中すると周りが見えなくなる奴だ。悪さするときは、用意周到にしないといけないぞ?


「だから、大丈夫だって。一応、俺も調べたんだ。前例もあるし、攻められる理由にはなんないから。つーか、させねーから安心しろよ」

「前例ね…。ま、予想はついてるけど誰の話を言っているの?」

「大友宗鱗って、大名が四象天院を受け継いでいるらしい。それでも、お咎めなしなんだってさ」


 聞いた話じゃ、尾張よりも進んだ魔法技術を築いて国を発展させているらしい。

 一度、行って見てみたい。いや、出来れば話をしてみたい。


「何て言うか…、それは浅知恵だよ…。あの国は特殊な位置付けになっているから大丈夫なのであって……。はぁ…、まあいいや」

「んん?何か呆れてない?」


 勿論、前例があるから許してくれとは言わない。やられたら、やり返す…。それくらいの気概で行くのだ。


「そんな事ないよ。見直した」


 おおっ!?ミツに褒められたぞ!!これは快挙だ!!

 学校生活で学んだ知識が役に立った。そろそろ、立場逆転。俺の時代がやってくる予感!!


「でも、ミツらしくない失敗だよな。一体どうしたんだ?」

「この報告は、もう少し後にしようと思ってだけど…。うん、いま話しておくよ」


 え…。まだ、俺に話してねーことあんのかよ。

 全て包み隠さず話せとは言わねーけど、俺のこと信頼してんじゃないのか?

 もしかして、俺の一方通行なのか!?


「結婚、早々あれ何だけど。実は子供も出来そうなんだよ」


 ─────え?


「ミツ!?手が早いなっ!!マジでか!?」

「そ、そ、そんなことないよ!!フツーだから!!フツー!!」 


 確かに報告しづらい。結婚したばかりで、実は既に妊娠とか…。

 親友でも、話しづれーよな。納得だ。


「生まれてもない子供に、もうパパ気分ですか?」

「茶化さないでくれよ! 生まれてくる子供の為に世の中を良くしたいって思ったって良いじゃない!!」

「気持ちは分かるけど。まさか、ミツがな…」


 デキ婚とか、キャラじやねーよ。マジメなヤツだと思ってたけど、いや…。マジメなヤツだからこそなのか?


「子供を路頭に迷わせるなんて現代日本じゃ考えられないよ」

「どこかで、聞いたようなセリフだな」


 昔っから聞いていたような…。最近、聞いたようなセリフだ。


「ノブも子供を持てば、きっと分かるよ。だからこそ、政略結婚なんかも効果があるんだしね」

「ミツ、お前…まさか!?」

「しないよ。僕は子供を人質にするような真似は絶対しない。子供には平和な未来を生きてもらいたいし、結婚も好きな相手としてもらいたいと思ってる」


 既に一丁前のパパ気分。マジメな顔して語っちゃって、まあ。


「息子には、僕の跡を継いでもらいたいし。娘の婿には僕の仕事を手伝ってもらいたい。家族はやっぱり一緒に暮らすのが良いよね。絶対、その方が子供達には幸せだしね?ノブもそう思うよね?」

「あ…、ああ。そうだな…。ミツと一緒なら多分幸せなんじゃねーの…」


 うわぁ、本気で言ってるぞ……。ミツの子供の将来が心配だ。

 いや、俺の親友が心配だ。

 それでも、ミツの結婚も秀吉の結婚もホントに素直に喜ぶ。


「ああ…。どうしよ、もうすぐうまれるよ」

「そんな、すぐに産まれねーよ!!」


 十月十日だろ!?一体、いつ仕込んだつんだよ!!


「名前はどうしよ!?宝石ジュエリーとか、奇跡ミラクルとか?」

「キラキラだろ!?」


 親ってーか。親失格だろ!?


「僕がパパでちゅよ──────」

「だ、大丈夫か?」


 幻覚まで!?

 ヤバい。どこか遠くの世界に行ってしまった!!


「戻って来い、ミツ!!」

「はっ?!僕は一体何を!?」

「なあ…、もしかして。キラキラネームも四象天院なのか?」


 だとしたら、恐るべし。四象天院!!時代を先ゆく最先端だ。


「違うよ!僕は、真剣に!」

「真剣?まあ、俺達のような思いをさせないようにしろよな?」

「う、うん。頑張ってみるよ……」

「おう、頑張れ!おめでとう、ミツ!!」


 と、産まれるのまだ先の話。

 子供は十兵衛と名付けられた。長女の珠も翌年産まれた。

 ミツの名付けではないのは確かだ。

 俺の方は、子供が産まれる兆しはない。斯くも、ゴムの力の偉大さを思い知れ。ゴム万歳!!





 明日は、時間がないので前もって投稿します。

 一応、明日も投稿する予定です。

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