混ぜて乱れて
36)混ぜて乱れて
前回の実験で作ったスライム…。
結果…。
学校では、爆発的な人気になった。と言うのも、スライムを操る魔法というものを俺は開発してしまった。
「スライム=モンスターは王道だし、暇つぶしには最適だな。次は、もうちょっと種類を増やしてみるか?」
特に難しい魔法ということもなく、魔法の素養があれば誰でも使えること。あと、作るスライムによっても耐久性が変わり、性能に影響が出ることが分かった。
面白そうなものがあれば、すぐに喰いつくのが尾張の人間だ。
スライムを作り、スライムを操る。このスライムバトルが人気なのだ。
「これを応用すれば…。メタルとかもできるか?」
今は、バリエーションが増やそうと、躍起になっている。
勿論、俺も含めての話だ。
これは、なかなかにヤバい。この学校に、女子生徒が居ないことが唯一の救いだろう??
遊びながらにして学べる。強くなれる。この学校は最高だ。
学校も大事だが、俺の身分は国の頭首だ。
外に目を向けると…。
尾張は孤立していた。カンペキ、浮いている。
国も人と同じ。単一で、成り立つことは先ずないことだ。
これも格差社会の弊害か?
そんなワケない。道三のおっさんからの忠告を履き違えていただけだ。
外に目を向けろとは、決して外で遊びまわれと言うことじゃない。ましてや、天眼通まで使って諸国漫遊してどうすんだよ。
「どうして、こんな事になるまで誰も気が付かないんだよ!!」
「しゃーないッスよ。尾張は今まで他国との交流は少なかったッスから」
「内側が片付いたと思ったら、今度は外側かよ…。ホント、いつになったら楽ができんだよ!!」
信長政権は、俺のためにある。俺が楽をするためだ。
国があれば良いと思っていたが、どうやらそうじゃないらしい。外国との対立までは思い至らなかった。
「一応、話を聞いて回って来たッスが…」
「全滅か……」
「食糧以外はダメっぽいッス」
外交関連は手付かず。外交官でも居れば別だが、国外のパイプは細く、貿易や流通に関しては国ではなく、商人達が行っていた。
やるなら、自分達でやれよ。と言うのが、俺の方針だ。
とは言え、一応は国際問題。
輸出は持ち出し許可を取り、輸入は持ち込み許可を出す。その程度の管理は国でやっている。
完璧な管理とは言えない─────。マジで、ズサンな管理だ。
「言えないが…。今月入ってから減りすぎじゃねーか?」
輸出入ともに減。多少なら、目をつむるが…。流石にこれは看過できない。
今まで問題は出てなかったから、大丈夫だと思ってた。
これは、国の仕事を商人達に任せていた俺の怠慢だな。
「そうっすね…。食糧の輸出も日に日に減っているッスよ。尾張の商品は結構人気あるんスけどね…」
尾張で生まれた…。地球で生まれた多くのものが、この世界に広まってきた。
時代を先ゆく、最先端技術に飛びつかない商人は居ない。しかし、現状は一方的な取引拒否だ。
「食糧品は、あんま変わんないみたいだが。うーん、これってどういうことだと思う?」
「いや、俺に訊かれても分かんねーっすよ」
と、まあ…。気がついたところで、全く以てと対応できないのも現状だ。
こんな時こそ、ミツの出番…。出番なのだが、ミツは美濃に行ったっきりで、未だに何の連絡もなし。
研究が大詰めで、最後の仕上げに美濃に行ってしまったためだ。
「だよな。どうしよ? ミツに帰ってくるように言うか?」
「そうしたいっすけど…。こんなことでミツさん呼び戻して良いんすか?」
逆に問い返されてしまったが、判断に迷うところだ。こんな事でと怒られるのは避けたい。かと言って、大事になってから怒られる可能性も否めない。
いや、もう既に大事になっているのか?
「ミツを呼び戻すぞ。誰かを使いに出せ。秀吉は、とりあえず俺と対策を考えよう。頭の回る奴も連れてこい」
既に対応が遅れているのに、これ以上後手にまわってどうする。それこそ、ミツに怒られるってもんだ。
「うっす。じゃ、半兵衛と官兵衛を呼ぶッスよ」
「ん? おお! アイツらか、秀吉秀吉には宝の持ち腐れだが、秀吉よりは役に立ちそうだ!!」
尾張が誇る天才軍師。黒田竹中の両兵衛だ。
頭の足りない秀吉の頭脳になってくれている。しかし、秀吉に二人も必要だったのか?
「ノブ様には言われたくねーっすよ!!ノブ様こそ、一人じゃ何も出来ねーじゃねーっすか!!」
おっと、本音が出てしまった。
しかし、反論はもっともだ。頭の足りないのは俺も同じ。やっぱり、二人は必要だな。スリーマンセルは一小隊の基本だ。
しかし、残念。俺の小隊は、いまそれぞれ別行動中。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に…的な別行動中だ。
「まあ、あれだ。人は支え合って生きているってことだ。な?」
「なに上手いことまとめてるんスか…。そんなことより、みんな集めて来るんで待ってて下さいよ」
風のように駆けていく秀吉。やべー、猿にますます磨きが掛かっている。俺を唸らせる、身のこなしだ。
一先ず、召集は秀吉に任せとして…。
はぁ…逃げたいな。逃げたいが、待てと言われたら待つしかない。
ただ待っていても仕方ない。みんな来る前に資料作りを始めるか…。
残される記録媒体は、全てが紙だ。
何事でも記録をつけるように言い渡しているのは、こう言うときのためだ。しかし…、一日毎の記録、一週毎の記録、一月毎の記録─────。
その全てとなると、気が遠くなりそうだ。
「はぁ……。やっと落ち着いと思ったのに、なんでこう次々と厄介事がやってくるんだ?」
やっぱり、逃げ出していいか?
と…。愚痴ったところで、問題が解決するわけでもない。まずは出来るところからやっていこう。
…つーか。俺には、それしかできないしな。
急遽、集めたメンバーは…。
秀吉を始めとした配下家臣たち。利家とか長秀を始め、武人武人武人…。武人ばっかじゃん!!何だ、このメンツ?
うん、脳筋しかいねーな。大丈夫か?無理だろ。
「秀吉…。これで対策立てられんのか? 戦争すんじゃねーんだし、もう少し政治向けな奴はいなかったのかよ?」
「しゃーないッス。今、城で集められるのはコイツらだけっしたもんで…。さーせん!!」
いや、謝られてもな。
つーか、俺の有能な家臣たちはどこに行ったんだ?
うん。そういや、俺の命令で四方八方に送り出したんだった。
諦めるしかない。俺が頑張るしかないみたいだ。それでも、両兵衛の二人は居るから何とかなるだろ。それが、せめてもの救いだな。
「さーて、一体どこから手をつけつたら良いのか…。国内の安定?それとも国外への対応か?」
まずは問題点を見つけないと、解決はできない。問題が何なんか、そこから調べよう。
「お任せ下さい、信長様。今回の問題となっているのは交易に関して。つまり、周辺諸国が悪いのです。これは輸出入の項目を見れば一目瞭然です」
真っ先に手を上げたのは黒田官兵衛だ。軍師のわりに脳筋だが、頭の回る奴。俺の認識ではそんな感じ。
差し出された資料に目を通す。
見なくても分かる。記録されてる紙の枚数が、全く違うことに気づいているさ。つーか、自分で用意したものだし当然だ。
先月までは増え続け、今月に入ってから十分の一もない。
「これは…、記録の取り忘れでござるか。殿?」
「ちげーよ、バカ。利家、この記録は正しいってーの」
「ええ、その通りです。これは商人たちが提出した帳簿です。間違いは、ほぼないはずです。最低でも、国でつけている記録よりは正確な数字です」
ほぼね。ほぼ。
「個人間での持ち出しは含まれないから、完璧とは言えないけどな」
関所などは、人の出入りを調べるだけで荷物までは深く調べないのだ。まあ、荷物に関税を課しているわけじゃない。
国の国境。関所の役人は、不審な人間が入り込まないか見回っているだけだ。
「────悪かった。俺の失敗だ」
深く頭を下げて謝罪する。
「え?!と、殿を責めているわけではございません!!頭を上げて下さい!!」
「ああ。責任をとって辞任を────」
「いえ。これは気がつかなかった我々の失敗でもあります。いまは、速急に対応を考えなければ」
逃走失敗。ハハハ…、カル~い冗談だ。
恐らく、この事は尾張国内に知れ渡っている。つーか、もう影響が出始めている。
このまま放置は、流石の俺もしねーよ。
最悪、暴動が起きることだって有り得る。考えるだけでも、恐ろしいってもんだ。
「対策…、対策かぁ…。食料品や消耗品は、減ってはいても輸出はされてんだよな?」
理由は分からないが、外国商人達は食糧や消耗品の買い付けはしているようだ。
「規制されているのでしょうか」
国からのお達しと言うなら、隠れてこっそりと言うことか?
「恐らく、そうだな。となると…、これは嫌がらせだってことで間違いないだろう。経済封鎖により尾張は孤立させられた。尾張に味方してくれる国なんて無いだろうな」
人をハブってイジメ。国をハブってイジメ。どこの世もイジメっ子は世に蔓延るもののようだ。
「ですが、殿。今の尾張の生産力なら、別に他国に頼らなくてもやっていけるのではないでござるか?」
「まあな…」
そう。国内の生産力なら十分なものだ。生きるだけなら、何の問題もない。
大きな物価高騰はしないし、インフレは起きないだろう。
弱みを見せると図に乗るのがイジメっ子。だが、身を守るためには足りない。それだけでは…。
「尾張だけが世界なら、それでいい。けど、逆はどうだ?」
「逆?」
「そうだな。このまま、生産を続ければ尾張だけだと消費できなくなるだろ?」
このまま物が溢れ続けたら、どうなるか…。作っても売れない状況に、金の価値が下がる。デフレが起きるのだ。
相手に攻める口実を与えないようにする。
「殿…、すまぬでござる。拙者、何を言っているか、さっぱり分からんでござる」
「いや、実は俺もなに言ってんのか、よく分かってねーんだ。けど、これは経済の問題だ」
インフレとかデフレとか、授業で習ったが結果だけ教えられても、どうやって解決したのか全然分からない。
「経済ですか…。なるほど─────」
え?今ので何が分かるの?
つーか、コイツは…。おっと、コイツは半兵衛さんではごさらんか?
て、やべー。ござるが利家から移っちまったぜ!?
「殿はつまり、こう言いたいのですね。市場の供給と需要の均衡が崩れていると。確かに、それは国の危機…」
「お、おう。そうだな」
えーと。どうなんだ?
ホントにそれであってるのか?
例えば、メイド喫茶。物価が下がると団子の価格も下がる。つまり、利益がなくなる。デフレの状態だ。
「このまま、物価が下がり続ければ、働くことにも支障を来すことにもなりかねませんね」
「ええ。職を失う者も出てくるでしょう」
両兵衛の言うとおりだな。
物があるのに売れないってのは、外国という需要が断たれたせいだ。
売れるから雇用が増やしたのに、急に売れなくなれば給料減少、リストラの嵐だ。
「な? やべーだろ。利家」
「話はさっぱり分からんでござるが…、危機的状況なことは理解できたでござる。流石は、殿!!この状況を言っていたでござるか!!」
バカは扱い易くて良いな。なんか、俺が良いこと言った感じになったぞ。
「よし。問題点は分かったな。なら、次は解決策を考えるぞ」
「そうですね。─────手っ取り早く、生産を中止させるのはどうでしょうか?」
確かに、物が多いなら減らそうと考えるのはフツーだ。生産量を減らせば問題は解決。────とは、ならない。それは子供の発想だ。
そんなバカなことしてみろ。それこそ、失業者の増加だ。スパイラルだ。
「それは却下だな。第一に根本的な解決になってない。供給を減らすんじゃなく、消費を増やすことを考えてくれ────」
農作物や食料品は既に出来上がっている。保存の利くものはいいが、生鮮品はそうもいかない。
工業品も同様だ。
行き先がない。作っても在庫の山では経営が成り立たないのだ。
将来的に解決を先延ばしにしても良いことはない。それこそ、口実を与えることになる。内外ともにだ。
「いいか? 物が溢れてるのは良いことだとは言えないんだ。市場経済は物が動いてこそ、人も国も生きていける。いま、作るのをやめれば、国は崩壊。他国も攻めてくるぞ。俺達が今までやってきたことが全部無駄にしてもいいのか?」
俺の言葉に無言になる一同。そうそう簡単に解決策など浮かばないものだ。
このまま何もしないと、内乱暴動一揆焼き討ち…、国家転覆。いや、国同士の戦争となる。
もしや、秀吉は先の先を見越して脳筋ばっかを集めたのか?
見ると、秀吉は目を逸らした。何も考えてないっぽいな。
「やはり。…交易の再開を…」
「いや。だから、それが止められてんだろ?周りは敵だらけ。相手が居ないのに誰と交易するって言うんだよ」
「一つだけ、手立てがないわけでは…」
「なんだ??解決策あんのかよ!!」
官兵衛め。…この一大事に何を躊躇ってんだ。多少の犠牲は仕方ないだろ。
優しさは、国には必要ない。厳しい決断が求められるのだ。
間を置かず、覚悟を決めた官兵衛。
「殿…。お願いがございます…」
意味深にも間を溜めて頭を下げる。
これが意味するのは、俺が被害を受けるってことだ。
「第一の犠牲者は俺?」
「はい。お願いします」
頼まれたら断れないだろ。つーか、言い方がズルい。何々をお願いならいいが、お願いしてから頼み事をするのはマジでヒキヨーだ。
しかし、国の一大事。これが国主の努めだと言うのなら、どっちみち断れない…。
「はぁ…。何でも言ってみろ。覚悟は出来ている」
「はい。では…。────今の尾張で、国外に伝手があるのは信長様だけにございます」
「え?俺?」
「はい。信長様の正室は帰蝶濃姫様です─────」
後は、みなまで言うまでもなく。つーか、誰も何も言わないでくれ…。涙が出そうだ。
気が利くことに皆揃って沈黙してくれた。まあ、俺と濃姫のプライベートは筒抜けだ。
ここで空気の読めない奴は切腹でもしてくれ。
しかし、これでは魔王の名が泣くな。でも、分かってくれよ。プライドの問題とは違う、これは俺の貞操の問題だ。
尾張守護代頭首なんて安受けあいしてしまったのが運の尽き。まさか、俺が国のために身売りする日が来るとは思ってなかったぞ……。
その日の夜は濃姫に土下座。…ピロートークは語らない。語ると枕を濡らすことになる…。
いや!?俺は乙女かよ!?
泣いてない!!
俺は泣いてないかんな!!




