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四面楚歌

35)四面楚歌


 尾張を離れ、京では不穏な動きが…。


 現在、世を支配しているのは2つの勢力であり…。それは余が治める幕府であり、神皇が支配する朝廷でもあるのだ。

 世界を二分する国家連合体とでも言えば良いのか?

 幕府は、人による統治を目指しているが…。逆に朝廷は、神による支配を目論んでいる。

 どちらも世界を一つに治めようとする組織だが、根本的に思想そのものが違うのだ。

 自然と生きるのが人間だ。大地を創ったのは神なのだから世界を寄越せなど…。世迷い言にも程がある。神を信じるのは救われない者がする行為だ。

 せめて、救われない者を救うというのであれば、救いようもあるのだが…。

 神というのは、傲慢な者のことだな。


 朝廷が神を名乗るのなら、幕府は王を名乗る。神皇と征王だ。

 今のところは表立って対立する事はないが、それも事と状況次第だろう。


 しかし…。

 長く続く緊張状況に、幕府の権力も朝廷の威光も弱っていくのは止めようもなかった。

 最初は小さな争いが、やがて世界を焼き尽くす大乱となった。今も続く戦乱、世界大戦の勃発だ。

 世は常に流動し、将棋の盤のように何時でもひっくり返る。。

 いつ裏切られるか、分かったものじゃない。努々、油断する事は禁物である。


 そう。元は尾張も、世界を二分する勢力幕府に属していた。前頭首の信賢は、どっち着かずの態度で幕府を煙に巻いていた。

 さらに付け加えると…。頭首交代後、幕府への挨拶をしてなかった。目前の敵も重要だが、獅子心中の虫も無視できないのだ。


「余が治世に身を投じて数年…。失った権威も、ようやく取り戻してきた。と言うのに…。今まで、こんなことはなかった…。なかったよな、今川?」

「ですな…、義輝様。尾張の新しい頭首は噂に違わぬうつけにございます」


 うつけと言えば織田信長。しかし、尾張にはもう一人うつけと呼べる人間がいる。

 飄々とした男。尾張守護役、前頭首だ。


「信賢も信賢だ。いつものらりくらりと交わしをって。…余の断りもなしに頭首の交代を決めることがあって良いのか?」

「いえ、まさか。そもそも尾張守護を命じたのは我ら幕府。頭首交代は幕府の承認を得て初めて認められることです」

「ならば、何故挨拶の一つも寄越さない。頭首交代の書状が送られてきただけではないか」


 書状に書かれているのは、適当な挨拶文句に、知りたくもなく信賢の近況報告。最後に頭首交代したということだ。

 頭首の座についたのは、織田信長。


「それに関しては、此方からも正式な文章をしたためよと忠告を返しております。ですが、未だ返答はないようで…」

「まあ、よい。今日はそのための議会を開くのだ。余に仇なす者か否か。近隣列挙の国の者達からも話を聴こうではないか」


 不忠の者であることに間違いはない。しかし、奴らも馬鹿ではない。幕府に刃向かうことがどういうことなのか知らないはずはないのだ。

 ならば、何故挨拶に来ないのか?…疑問である。

 裏切りと見ておくべきなのだ。後で、そのツケを支払う前に…。


「───足利義輝様。議会の場が整いました。尾張を除く各国守護役が揃っております」

「分かった。すぐに行くと皆には伝えておけ」

「はっ──────」


 政争による一触即発の状況下で、尾張を囲む国々の大名達を呼び出す。それは、朝廷を煽るような危険な行為だ。

 しかし、既に闘争は始まっている。その上、膠着状態。であるなら、大名達を呼び出したところで何の問題もない。

 そして、気にするべきは織田信長の行動だ。

 出る杭は打たれる。尾張の若き頭首に教えてやるとしよう。




 余の呼び出しに馳せ参じた大名達。戦乱の世を戦い抜く猛者達だ。その実力は尾張を遥かに凌ぐ実力者揃いである。

 当然、天下の幕府その王である余の命令には絶対服従している。いくら牙を剥こうと、その関係その立場は覆ることはない。


「さて、集まって早々だが時間が惜しい。此度の議題は尾張のことだ」

「尾張、ですか?」

「そうだ。尾張の話は上杉…、お前のところには届いてないのか」

「ああ。そう言えば、星が降ったとか」


 星の降った日。────数年前の話だ。

 今となっては、星の降った地は巨大な湖になったと聞いているが、今は関係ない話だ。


「尾張は今、改革という名の謀叛を企んでいる。いや、いるかも知れない」

「尾張がですか? では、ここに尾張守護役織田信賢が居ないのは、そのせいですか?」


 やはり、越後までは話が届いていないようだ。

 情報不足というより、上杉武田の私闘が情報を遅らせているのだ。

 幾度となく仲裁してはいるが、争いを止める気はないようだ。私闘とは言っても、所詮は痴話喧嘩。どちらの実力が上なのか争っているに過ぎない。無理に止める必要も今のところはないのだ。

 実際、どちらの実力が勝るのか気になるところではある。


「信賢は、頭首の座を辞した。今の頭首は、星を降らせた男…、織田信長だ」

「ほほぅ…。ただの馬鹿と聞いていましたが、私と同じ天の力を持つ男のようですね」

「ふっ…、謙信よ。尾張のうつけ如きに、自らと同等と申すのか?」

「信玄殿よりは、上であるのは間違いないでしょう? うつけとは言え、天の魔法を使えるのですから─────」


 睨み合う武田上杉。

 火風地木の属性を持つ武田。天の属性を持つ上杉。武将としては破格の力を持っている。

 織田が同等とは、ただの戯れ言。互いを挑発して、喧嘩したいだけのことだ。


「止めよ。論点がずれている。織田の実力を知りたいわけではない。織田にどう対応するか、否。どのような対応が相応しいのかを話し合うのだ」

「待って下され、義輝様!!」

「道三よ。どうしたのだ?」


 美濃の斎藤道三。尾張とは隣接する国で交友もある。

 反対意見も出るのは予測済みだ。


「はい。尾張は確かに忠心は薄いですが、不忠とは言い難く。いささか、礼儀を知らぬだけと言うことも」

「なればこそ。まさか、配下の者まで礼儀を知らぬ農民や平民ではなかろう?」


 成り上がりの道三でさえ、こうして礼儀をわきまえているのだ。

 それに農民や平民が、早々簡単に城に仕えられるほどの教養や実力を持っているとは考えられない。


「それは、そうですが─────」


 道三は苦虫でも噛み締めたような表情を浮かべる。


「尾張から算出される品々は広く多く他の国々にも流出されています。尾張を失っては…」

「ふ…、道三よ。余は織田に対する制裁を述べているのだ。尾張の国ではない」


 尾張と交易するのは、美濃だけのことではない。既に評判が評判を呼び、余の下まで届いている。

 悔しいが、あのバナナなるものは天下一の絶品だ。

 産出されるのは尾張だけと聞く。だからこそ、落とすのは織田の首だけとしているのだ。


「うぅん。であれば…」

「斎藤氏は、娘の身を案じておるのでしょう」

「なるほど、そう言うことか。ならば、安心せよ。何も戦をしようと言うのではない。百人居れば百人、千人居れば千人を殺すのは馬鹿の所業だ」


 戦とは、相手の力をどれだけ削ぎ落とせるか。戦う前から始まっているのだ。


「ふむ。では、この会議は尾張討伐の話し合いでなないのだな」

「いや、いずれはぶつかることになる。そのための布石だ」


 武田としては、即攻撃を…と考えるのだろうが、それでは制裁にはならない。背後関係の洗い出しもしなければならないし。首のすげ替えは、後からでも十分だ。


「ほほう。では、その先陣には是非、儂を!!」

「ならば、次鋒には私を…」

「上杉には回さんぞ。噂のうつけは、儂の獲物よ。ガッハッハッ!!」


 まだ決めてもないのに話を進められたが、まあ…それも悪くない。手番はどうなるかは、その時の状況次第になるがな。

 武田上杉を相手に慌てふためく織田の姿が目に浮かぶ。


「尾張と交易することを禁止とし、金融制裁を開始する。各国守護役には厳しく監視をつけよ」


 これで、しばしバナナはお預けになるが致し方ない。いずれ、尾張は正式な頭首を迎え、流通は再開されるのだ。






 京での幕府の動きに気づかないまま時は過ぎる。いくら、千里眼でも森羅万象を見通せるほど万能じゃないのだ。


 ミツは研究に明け暮れ、俺は当然ながら学生生活を送っていた。

 ………ん?

 国の仕事は、どうしたのかって?

 安心せよ、国民たち!!全ては有能な家臣たちに任せてある!!

 クックックッ…。俺の言葉に何の疑問を持たないとは単純で扱い易い奴らだ。

 俺は、尾張各地を区分けして自治体を作り、そこに代表者を配置。後は、その代表者が国の方針に従って運営していくように─────、と指示を出した。

 俺が黙っていても、仕事が片付いていくのだ。

 国のことは、家臣たちが片付いてくれるから俺は学業に集中できるって仕組みだ。


 ────と考えたのは、ミツ。

 今時の魔王らしく、俺の影には真のラスボスが潜んでいるのだ。

 ラスボス…。もといミツの方は、遊んでいるのか働いているのか…。

 うーん、ツッコミ難い。

 趣味と実益を兼ねての魔法研究なのだが、趣味にしては深い造詣がないと無理だし、実益にしては予算を使い過ぎて利益がない。

 とは言え、尾張と美濃の魔法研究は確実に成果を出しているのは事実だ。

 その証拠が学校に表れていた。

 学校は魔法科と科学科に分けられることになった。魔法科は魔法を使える者達が、科学科は魔法の使えない者達に教えているというもので、基礎さえ分かれば、魔法も科学もどちらも理屈は同じという考えだ。

 ある程度、学び終えた学生達は各村々を周り、実際に人々の生活に学んだことを役立てている。卒業試験みたいなものだ。


 魔法の授業は、各属性各系統ごとに教科が分けられ、各々が使える属性系統で授業を受けることになる。

 科学の授業は、生活に使える知識、農業、工業で使える知識がもっぱらだ。

 俺は魔法科学総合科。魔法と科学の融和を図るという学科だ。この学科を選べる生徒は少ない。二つ以上の属性を操れる者だけのエリートコースだ。

 生徒は俺一人…。またしてもボッチだ。

 勉強嫌いの俺が、何故と思うだろ?

 ふふん。何故なら、科学の授業とは基本的に実験がメインだからだ!!


 実際に体験することで、魔法に影響を与えられる。生活水準の向上の高さも、ここで体験したからだ。

 魔法科学総合科は、この体験を突き詰めている。理論を説明するより、実際に体験した方が早いと実験ばかりやっているのだ。

 理論はそこそこでやっているせいか、失敗が多い。だが、基本的な知識を持つ俺が失敗する事はない。

 ────はい、スイマセン。勿論、ウソ。失敗しながら、成功を導く。過程…かなりの異臭と爆発に、魔法科生徒からは不審に思われている。

 成功を疑われているってことじゃねえよ? 

 魔法ならともかく、科学は理解されないようで、錬金術なんて呼ばれている。勿論、魔法じゃあるまいし、科学の力で金を生み出すことは出来ない。勿論勿論、賢者の石も作れねぇよ?

 不老不死は夢のまた夢だが、別に俺は求めてない。

 そんな否存在よりも、今日はスライム作り!!

 科学の実験は、やっぱり────。たっのスゥイィ~ッ!!

 ホウ砂と洗濯ノリに食紅に水を混ぜる、あのスライムだよ? って、言わなくても分かってるって!!

 ゲルゲルなスライム。この手の物は魔法では作れない。魔法の秘技が合成魔法なら、科学の秘技は化学反応だ。


 その触感を楽しみ…、────おっふぅ…。その感触をもとに勉強に励むのだ。





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