ヒマな人たち
34)ヒマな人たち
尾張の各産業も軌道に乗り、内政は安定した感じだ。
尾張の改革は無事終了、で良いのか?
管理運営に問題点はあるが、修正できる程度の問題だ。俺やミツが出番んなくても、自分達でも解決できるようになってきた。放っておいても、きっと大丈夫だ。
人の成長の早さってやつに感心するよな、マジで。
最早、手間要らず。成長させるための設備に手間がかかったが…、その甲斐もあったというものだ。
新旧家臣たちに見劣りはない。確かに経験の差はあるが、学校ができたことで、問題を解決できるだけの知恵や知識を身につけている。
尾張守護代の治める他の三都市でも同様に学校を設立する事が決まった。学校の必要性を守護代も理解したからだ。…理解したのは俺も同じだけどな。
信賢なんて、泣いて悔しがるほどだ。その手があったのか!?…とな。人生楽したいなら苦労もしないとダメだろ。
数年は、バタバタするけど。その後は、悠々楽々だ。
尾張は、教育水準と生活水準ともに格段に向上したワケだ。
武士だけに限ったことではなく、平民や農民達も同じだ。向上率で言うなら、平民や農民の方が圧倒的だ。
魔法の普及も進んで、各村々にも医者代わりの治癒魔法使いが居るくらいだ。
────尾張の人間は化け物か!?
道三のおっさんが再び尾張に来たときに言ったセリフだ。
まあ、そう言いたくなるほどの成長だ。
武士だけの魔法という考え方から、誰でも扱える魔法という考え方が根付いてきた。もともと、魔法に対する憧れもあって、後押しされているんだろう。
そもそも、魔法を戦だけに使うという考え方が間違っていたのだ。ちゃんとした扱い方を教えれば、一揆や反乱なんて起きない。むしろ、人類発展だろ。
何を警戒していたのか、馬鹿らしくもある話だ。後は見守ってやるくらいで十分だろ。
「国内だけ見れば、やっぱり平和だな…。さてと、今日はどこに行くかな?」
とは言ったものの、自由気ままに出掛けことは出来なくなった。城と学校の往復が今のところの行動範囲だ。
買い食いも道草も食えない。
それでも、俺の本能は遊びを求める。分身の術でも出来れば話は別だが、俺の人格や記憶をコピーした人形を作るのは不可能。意思のない人形を造るのが精一杯だ。
娯楽に飢える俺は、「不便なようで便利な魔法があるじゃないか。」と、閃いた。
俺が出来るのは、遠くの地を見渡すことだけ…。
「視力強化、天眼通!!」
地の果てまで見通せる千里眼。これなら、尾張を離れることなく、何処にでも行ける。行った気分を味わえる。
遠くに起きたことが、すぐ目の前で見れる。ちょっとした透明人間だ。
プライバシー保護の観点から、建物内は覗かないようにしている。つーか、覗きは犯罪だ。
上下左右縦横斜め、アングルも自由自在。
これは、観光だから問題なし!!
富士山にも登った。
北海道には白クマやペンギンがいた。
沖縄の海にはサンゴに熱帯魚。クジラやイルカも見た。この臨場感、どっからどう見ても観光だ。
自然の豊かな世界だ。全くの手付かず、野生動物ものびのびとしている。
尾張を除けば、人の生活は、それほど豊かではないようだ。家はボロだし、食いもんは粗末なもの。着てる服も所々で破れている。出会ったばかりの秀吉みたいだ。
しかし、見るだけで話しも出来ないし、何を言っているかも聞こえない。
「そこが、ちょっとつまんねーんだよな」
「ノブ様、今日もまた見てんッスか? よく飽きねーッスね」
彼方に、秀吉の声が届く。意識が飛ぶとは言うが、別に気を失っているわけではない。
猿は、金と雲を操って空を飛ぶ…。そんな話が有名だが、本当にそんな魔法があれば良いのにな?
と、言ったところで秀吉には通じない話だな。
「────はぁ。最近は秀吉ばっかりだな。そんなに暇なのか?」
魔法をシャットダウン。視界が元の場所、俺の部屋に戻る。
目の前に居るのは、いつもの猿顔。ミツの姿は今日もない。
「仕方ねーッスよ。ミツさん居なくちゃ俺ら仕事ねーッスから。ミツさんは魔法研究に没頭しちゃって、俺にはどうしよーもないッス」
「いつもはグイグイ行くくせに、何でミツには行かねえんだよ」
「そう言うノブ様もじゃねーッスか。ノブ様、何とかしてくださいよ」
「うーん。無理!!」
市の次は、今度はミツだ。
美濃との交流が本格的に始まり、生産製造業がますますと重要になってきた。
そのため、ミツの専門分野である魔法研究も、美濃の魔法研究者たちと合同で行われることになった。
衣食住の生活に根づいた魔法の使い方。特殊な魔法武具の製造など軍事的な生産魔法。研究されている分野はかなり広い。
もともと、ミツも俺と同じで魔法大好き人間だ。
親父の下に居たのも魔法研究あってこそ。
大好きな魔法研究が出来るとあって、俺や秀吉は放置されっぱなしだ。
俺は天眼通の魔法を使って一人で遊ぶか、秀吉と遊ぶしか出来なかった…。
「ま、アレだ。ミツは無属性魔法しか使えねーからな。没頭しちゃっても仕方ねーよ」
「今は何の研究でしたっけ? 妖刀とか魔法銃したっすか?」
「妖刀?いや、魔剣の間違いだろ。あいつら、意思を持ってんだぞ?」
妖刀は魔力を秘めた刀。魔剣は自ら魔法を使う刀だ。そうなると、魔法銃は妖刀の部類だな。
俺の手に入れた魔剣は三本。魔剣 麁正、魔剣 猛虎。それと、もう一本…魔剣 天魔。
天魔の方は、うんともすんとも言わないが、意思は感じられる。麁正と猛虎は、はっきり言ってやかましい。
別々に置いておけば静かなのだが、二本揃うとシャーシャー、ニャーニャーと鳴き喚いている。
別にコレクションする趣味はないが、これはこれで見ていて面白いのだ。
「魔剣と妖刀の区別つけれるのはノブ様だけッス。刀に詳しい刀匠だって無理っす。魔剣の声が聞こえるとか、普通ありえねーッスよ。つーか、怖いッス!!」
怖がらせるつもりはないが…。人から見たら、怖いものなのか?
俺にとっては日常的なもの。見えないお友達ってやつだ。
子供のころに聞いた声。
声はすれども姿は見えず。あれも実際は、魔剣が話しかけてきた声だったようだ。
どうやら、あれは猛虎の声だったらしい。母親からは気味悪がられたものだ。
「て…、言われてもな。俺も好きで聞こえるわけじゃねーし…。まあ、魔剣が人を選ぶっつーのなら、声が聞こえるほうが都合は良いよな」
「そりゃ、使えるか使えないか、刀本人に聞いたほうが早いッスけど…」
「何だ、秀吉。ミツにあげてやった麁正が羨ましいのか?」
物欲しそうな視線を送る、秀吉。
秀吉に意地悪している訳じゃない。秀吉が使える魔剣がないだけだ。
ミツの無属性魔法は使い勝手が悪い。魔法無効化、物質の無効化。全てを無にする最強魔法だ。
用途も限られ、応用が利かない。
初めてミツに聞かされたときは何でだ?と、思ったもんだが、遅ればせながらに理解した。
ミツの言うとおり、無属性魔法は戦にしか使えない魔法だ。
魔剣の力でミツも、普通な魔法を使える。
魔剣麁正がミツの腰にぶら下がっているのを見て、秀吉も羨ましいと思ったんだろう。
「欲しいっつたら、くれるんスか。ノブ様は?」
「当然だろ。まあ、秀吉に使われたいって刀があるんならな。麁正は、あれで意外と頭でっかちなインテリな奴なんだ。ミツと相性良いのは、互いに共通点があるからなんじゃねーか?」
猛虎は、完璧拒否っている。二君に仕えるは、武人に非ずとか何とか…。漢だ。
麁正の場合は、頭が8本ある蛇だし、猛虎的には有りってことらしい。
が…何じゃそりゃ!?
魔剣の使い手選定の基準がよく分からん!!自意識があるから、価値観もそれぞれ何だろう、きっと。
「共通点ッスか。魔力の強さとか、希少な魔法が使えるとかってことじゃねーんスね」
「そうだな。使い手の魔法や魔力は関係ないと思うぞ。魔剣自身で魔力持ってるし、魔法使えるからな。別に使い手が魔法を使えなくても大丈夫だろ。単に気が合うか合わないかって話じゃねーの?」
気が合わない奴には徹底的に反発するし、魔力どころか命すら吸い取ってしまう。ゆえに魔剣。
「ああ、確かにミツさん水属性魔法使ってたっすね。あれは、魔剣の力ッスか」
「大瀑布の魔法つってな。水属性の極魔法に匹敵するって言ってたな。それも元は水神様らしいからな…。まあ、神様って感じじゃねーけどな」
どちらかって言うと、妖怪や化け物だろ。
意思を持つ魔剣は勝手に動き回るもんで、恐れられたり崇められたりと信仰の対象になることが多いらしい。
由緒正しい魔剣とは本人談。どこまで本当なのかは知らんけど。
「それでも、魔剣の力は怖いッスよ。使い手とは別に魔法が使えるんすから」
「そうか? 使えるって言っても一つの属性だけだろ。強弱はあるんだろうけど、そこまでびびる必要もねえだろ」
「そりゃ、ノブ様みたく六属性の魔法が使えれば、そうなんでしょうけどね…」
「なに? もしかして、僻んじゃってんの?」
天下を取った男、豊臣秀吉にしては器がちっちぇーな。まあ、世界が違うし、小市民的な豊臣秀吉というのも親しみが沸いてくる。
「ちげーッスよ。属性資質が有り余ってるなら、ノブ様の属性をミツさんに上げれば良いじゃないかって思っただけッスよ」
「はあ? どうやってだよ」
確かに、魔剣集めれば、全属性を使うことが出来るだろうが…。
それは、暗に俺に死ねと言うのか?
秀吉のくせにヒドいことを言うじゃねーか。
「信友みたい、ミツさんに継承させるんすよ。信友の目的はノブ様の血だったっしょ?」
「初耳だぞ? なにそれ、俺しらねーぞ。つーか、やり方知らねーし、無理だろ。前の清洲城になら何かの手掛かりくらいあったかも知んねーけど」
「ノブ様、燃やしちゃいましたもんね」
失敬な!!アレは事故!!俺は、燃やす気はなかったのだ!!
「清洲城、完全燃焼だったな」
「え、あれは完全炎上でしょ。焼失しちゃいましたッスから。燃え尽きたって意味では同じッスけどね」
過ぎたことを今更ながら言っても仕方ない。結果、燃えてしまったのだ。
「つーか、ミツに属性付けさせんのは無理だと思うぞ。ミツ自身、分かってんじゃねーのか? だから、そのために魔剣と魔法銃を研究してんだろ。量産するために」
ゲーム的に考えれば、プレイヤーとマジックアイテムだ。プレイヤーが魔法の使えない戦士。マジックアイテムを使って魔法の効果を発揮する。
秀吉には理解されない理屈かもしれない。
「うんっす? そうなんすかね。俺にはさっぱりわかんねーッスよ」
秀吉も魔法の知識は得てはいるが、理解を得るのは難しい。元は農民だし、学校にも行ってないから仕方ないことだ。
簡単に継承というが、他の魔法資質を得る可能性は低いのだ。特にミツの場合は、さらに特殊だ。
ミツの魔法資質は無属性。それは他の属性資質も打ち消してしまう。実際、ミツは父親から魔法を継承したが、継承と同時に父親の魔法資質を消滅させてしまったのだと聞いている。
魔法資質を持つ武家は、代々に渡り資質を継承させている。魔法資質の継承失敗は、同時にお家断絶を意味するのだ。
ミツは元から無属性の魔法資質を持っているから家を絶たれることはなかった。
それでも、代々と受け継いできた魔法資質を消滅させたからには周囲からの非難は免れなかったという。ミツの対人恐怖症もその頃からってことだ。
まあ、明るい話でもない。
「ミツのことは、ミツ本人から聞いてくれ」
「うっす。ミツさん、早く戻って来て欲しいっすね。ね、ノブ様?」
「どうして、そうなる」
勝手な解釈すんな。そして、俺に同意を求めるな。
…いや、間違ってはないんだけどな。
ミツの居ない生活は、ホントにつまらない。退屈だ。
「強がっても、顔に出てるッスよ」
「うっせー!!俺は、忙しいんだ。お前も仕事しろ、仕事!!」
夜の仕事を避けるため、言い訳程度の仕事を残している。今、働いてしまうと言い訳できなくなるから、今はやんねぇがな。
「うっす。じゃ、遊ぶッスか。ノブ様」
当然のように遊びに誘ってくるよな。
まあ、事情を知ってるから当たり前なんだけど…。
「だから、俺は暇じゃねーってのっ!?」
「うっす。じゃ、今日はノブ様がこのあいだ言ってた部活ってやつをやるッスよ」
さらに粘る、秀吉の勧誘。
いやいやと、言いつつも誘惑には勝てない。結局は、秀吉と遊ぶのだった。




