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新婚生活

33)新婚生活


 キャッキャッ、ウフフの新婚生活。綺麗な嫁さんとイチャイチャ、ラブラブ。

 ────はい。そう思っていた時期が俺にもありました。


 嫁姑戦争、勃発。いや、妹と嫁の争いだ。尾張華の乱。そう呼称しよう。

 華の乱に、俺はタジタジだ。

 道三の親バカっぷりを見せつけられては、嫁の帰蝶はぞんざいに扱えない。妹である市に対しては、言わなくてもわかるだろ?

 そうなると、俺は両者から板挟み。幸いにも、今のところは俺に飛び火することはないが、それも時間の問題だ。

 一つ言えるのは、時間が経って問題が解決することは有り得ないと言うことだ。

 両者、どちらかが譲るか折れるか…。話し合いで解決してもらいたいものだ。


 とは言え、愛がない以上─────


「信長様、そんなところで何をしておいでですか?」

「あー。うん、ちょっと黄昏れてた」


 市との仲も元の木阿弥。その原因を帰蝶の責任にするつもりはない。俺が選んだ選択だ。

 とは言え、俺も頭首に学生に夫としての三重苦。どれも一杯一杯だ。


「信長様も国を治める身…。お疲れのようですね。肩でも揉んで差し上げましょうか?」

「いや、大丈夫だ。このくらいなら、市の治癒魔法を使えばすぐ良く…、あ…」


 これは失言だ。


「気になさらずとも宜しいのですよ。信長様とお市の方様の仲の良さは、父から聞き及んでおります」


 そうは言っても、嫁の前では妹に甘えられないだろ。

 愛がなくても、俺達は夫婦だ。更に道三のおっさんの手前、帰蝶を泣かせるようなことをしたら、道三のおっさん自ら尾張に攻めてくることになりかねない。

 尾張に何かあれば、真っ先に攻め込んでくるのは間違いなく斎藤道三だ。俺が市を助けに敵城に攻め込んだのと同じだ。


「道三のおっさん、か…。借りを返すためにも、早いところ市場を安定させねーとな」

「ふふ…。無理をなさらずとも良いですのに」

「全然、無理なんてしてねーよ。最初の頃に比べれば、これでも随分に楽になったんだぜ。ミツも、また魔法研究できる時間が取れるようになったし、秀吉はバナナ農園開いたしな─────」


 即戦力の投入で、みんな余裕ができた。さらに後続も育ってきて、自由時間なんてものも生まれた。

 流石に四六時中、ミツや秀吉たちと一緒と言うわけにはいかない。結局、仕事するか遊ぶことになるからだ。

 その自由時間、秀吉は何をしていたのかと言うと農園開拓だ。農地開拓やら農作物の促進などなど。重機など工作車両なんて必要なし。授業の一環で始めた魔法による生活向上。魔法を学び、鍛錬にもなる。

 バナナ農園も、その一貫で拓かれたものだが、秀吉は、そのバナナを…農園丸ごと独り占めした。給料全部つぎ込んで。


「あれにはびびった。秀吉は学生じゃねーのに」


 何だかんだ言っても、俺は学園生活を謳歌しているのだ。城から離れた学校が唯一、俺の心安らぐ場所になりつつある。

 学校が楽しいと感じる。まさか、学校がここまで俺の心を癒やしてくれるとは思わなかった。


「そう言うことを言っているのでは…いえ、そうですね。国の安寧こそ、国主の務め。家臣各々の才を生かした見事な采配です」

「はっはっはっ!狙ってやったワケじゃねーけど、テレるぜ」


 必要な人材を揃えたら、自然とこうなっただけ。無論、人材を集めたのはミツだ。

 ミツの読みは当たっていた。つーか、分かっていた感じだ。

 現代知識を広めるのは何とかと言っても、綺麗事を言えるような状況でもない。使えるものは何でも使う方針に変更したようだ。


 学校は、無作為に集めた人材に、何ができるのかを測るため役割もある。得意分野を更に伸ばし活躍の場を与えている。

 農民、商人、職人が集まる学校は、様々な知識が吸収できる場所でもある。何の才能のない奴も、知識があればどこに行っても通用する。

 血筋に拘る武士よりも、民間人の方が柔軟で物わかりが早い。今や各地の施政に携わっているのだ。


「今や、尾張は周辺諸国でも注目を集めております」

「へぇー、そうなのか。農業と工業の分野はまだまだ改善していくから、貿易は当分先のことなるだろうな。けど…、そうだな。美濃には先立って輸出してみるのも悪くないか。他の国での見本になるしな」


 農業も工業も、日進月歩の成長を遂げている。魔法を使えば、日進月歩の進化だ。

 国内では当たり前の物も、国外では受け入れられないこともある。それを下調べする意味も込めてと言うことだ。


「それでしたら、私から父へ話しておきますよ。美濃でも尾張の品は常に人気ですし、交易が増えるなら父も喜びますよ」

「まあ、だからって借りを返すことにはならんけどな。農産物関係は人気あるけど、工業製品や軍事製品なんかは美濃が上だろ?」


 先に工業を発展させたのは美濃だ。

 近代的な知識や技術を普及させたのは俺やミツの仕業だったが、そこから先に続く量産や開発は美濃独自のものだ。

 魔法により生まれる希少な原料材料は尾張からの輸入に頼っているが、美濃の奴らも、なかなかに柔軟で吸収が早い。近い将来、自分たちで作り出すようになるだろう。


「まだまだ、工業技術は美濃には追いついてねーから、美濃の製品が輸入できるのは助かる。まあ

、ここら辺の取引は商人たちの出番だな」

「こうして商いができるのも信長様のお陰です。信長様の着想は、人に及ばないものを感じます」

「はっはっはっ!この程度、俺にとっては雑作もないことだ!!」


 まあ、自慢するような事でもない。現代の知識をこっちの世界に持ち込んだだけだからな。

 魔法があるのも、影響が大きい。みんながみんな、魔法を使えるわけじゃないが、そこは科学の出番となる。

 魔法をエネルギーに変換。発電所がなくても電化製品が使えるようになるかも?

 このまま魔法文化が発展していけば、現代社会よりも進んだ文明を築けるんじゃないかと予想している。

 これから先、この世界がどう成長していくのか楽しみだ。


「でも、不思議だよな。いままで、魔法を使って何かを作ろうって誰も考えなかったのか?」

「昔は居たらしいですが、滅ぼされたと聞いています。今は魔法は争いの道具。魔法を使えるのは、ほとんどが武士達ですから」


 魔法の歴史なんて知らねえからな。ミツに聞けば分かることだろうが、大して興味があるわけでもない。

 どうせ、農民達が魔法を使って反乱する事を恐れてとか、そう言う話だろう。


「一般人の中にも魔法の素質を持っているのに、いままで教える奴らがいなかったからだな。勿体ないことだ」

「確かに、その通りですね。武士以外にも魔法が広まって、生活は豊かに。治癒魔法もあって、怪我や病気に苦しむ人達も減っていると聴いています」

「そう考えると、尾張やべーな」

「そうですね。些か、そのやべーな状況です」


 発展目覚ましいと言うか、目まぐるしい、だな。広めた文化や知識や技術をドンドンと自分達で取り入れている。

 当然、それに伴って法の整備もしないとならない。


「人は増えても仕事はなくならない…。 ん? 違うか、人が増えるから仕事はなくならないのか。あー、働きたくねーな」

「でしたら、少しお休みなされては。私もご一緒します」


 と、熱い眼差しを送ってくる。

 帰蝶の目的は分かっている。夜のお勤めは…初夜以降、ご無沙汰なのだ。

 健全男子なら、美味しい展開にムフフだ。勿論、俺も健全男子。しかし、俺はあの晩を忘れたい。自身喪失したわけじゃない。元気ビンビンだ。

 あれは悪夢。今、思い出しても涙が出そうだ。


「無理無理!!忙しいし!!休めねーし!!」

「今夜もまた…」

「うん。そう言うことになる」


 今夜も寝所をまた逃げ出すのだ。




 新婚初夜。それは、新婚夫婦がともにする夜。

 これは、どう言うことだ。そう思いつつも、いつの間にか布団に押し倒されていた。

 普通、逆じゃね?


「さあ、信長様!!お覚悟を!!」

「くっ!?俺を亡き者にしようってことか!!」


 つまり、暗殺。道三のおっさんが裏切った?

 反撃しようにも、身体の動きが鈍い。魔法もだ…。毒でも盛られたか…。


 帰蝶は、妖艶な笑みを浮かべる。弱らせたところで暗殺とは理にかなっている。


「少々、飲み過ぎてしまったようですね…。ですが、容赦は致しません」


 やはり、毒!? 視界がグルグルするのも、その影響か。


「やられてたまるか。俺はそんな軽くねーぞ」


 既に命の重さは知っている。死にたくねえし、抵抗の構えだ。


「私も軽い男に興味はございませんよ。しかし、こうして抵抗されると…」

「ぐ…。やべーな。今度は吐き気がするぞ…」


 必死に吐き気を堪える。今、吐いたら隙を見せることになる。


「目を潤ませて。その表情良いです!!胸が熱くなります、信長様!!」

「ヤバい!!マジヤバい!!死ぬ、死んだ!!」


 完全に失態だ。こうまで懐に入られたら、手の打ちようがない。

 さらにマウントされて上まで捕られている。


「そうです。信長様のおっしゃる通り、道三の娘帰蝶は今宵死にました。今の私は、信長様の妻、濃姫です!!」

「へ? …………。ど、どういうこと?」


 言った意味が、頭に入らない。入ってこなかった。


「酔いすぎですよ、信長様。せっかく、女を知る機会じゃないですか…」

「いや、帰蝶…。ちょっと待て。今、頭の中で色々整理するから」


 えーと。つまり、マジで初夜?毒を盛られたんじゃなくて、酒を盛られたのか?

 全部、俺の勘違いか…。


「うん。とりあえず、頭の中の整理がついた。悪いが、一旦そこをどいてくれないか、帰蝶?」

「信長様。どうか、濃と呼んで下さい」

「あ、ああ。じゃあ、濃…俺の上から降りてくれ」


 やや興奮気味の帰蝶だが、すんなりと俺の上から離れてくれた。

 理性を取り戻したようだ。


「さあ、どうぞ…。信長様…」


 今度は横になって何してんだ。さあ、どうぞって、何がどうぞ何だよ。

 前言撤回。まだまだ発情中だ。


「いや、気持ちは嬉しいけど。俺は愛のない…その営みは、な?」

「据え膳食わぬは男の恥。……大丈夫です。私、こう見えて性欲が強い方なのです!!」

「酔っているのは、俺じゃないっ!?」


 爆弾発言にどん引きするっつうの!!理性のたがが外れてんじゃねぇかっ!?


 このままだと、マジで貞操を奪われる。


「大丈夫ですよ。ここには誰も来ません。勿論、妹姫君も…。父の家臣達が辺りを警護していますから」

「退路を封じただと!?謀ったな、道三めっ!!」


 結婚の式だからと、やたらと家臣達を引き連れて来たのはこのためか!?

 既成事実で美濃との交易を増やす算段だ。


「くそ…。道三も国の頭首だ。国のためなら、娘も道具にすんのかよ!!」

「それは違います!!私も武家の娘。国のためになら、華を咲かせたいと考えているだけです!!」


 華を散らすの間違いじゃねーの?!

 華を咲かせてどうすんの。それだと、ただ単に自分の欲望のためにやっているだけじゃん!!


「やっぱり、愛がねーじゃん!!」

「じれったいですよ、信長様!!痛いのは私だけです!!信長様は、天井のシミでも数えて泣いていればいいんです!!」

「うぉいっ!?それは、男のセリフじゃねーのか!? ────箱入り娘が…、言うセリフじゃねーよ!!────と、と…あれ?」


 何か、また急に目眩が…。


「ふふふ…。信長様が飲んだのは美濃でも飛びっきりのお酒。フラフラですね」

「ま、待て!」

「ほら、ダメじゃないですか。そんなに興奮したら、もっと酔いが回りますよ?」

「──────。」


 その後の記憶は曖昧だ。

 当然、俺の部屋への道を封鎖された市の反応は、推して知るべし。翌日の態度からも明らかだった。


 箱入り娘、帰蝶はどうやら、箱の中で腐ってしまったようだ…。道三のおっさん、俺になんつーもんを俺に寄越すんだ。


 濃姫との新婚生活が始まり。そして、尾張華の乱が巻き起きることになる…。





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