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尾張統一

30)尾張統一


 尾張を騒がせた争乱も無事終結。俺達は、いつもの日常を取り戻した。

 街そのものへ被害がなかったし、ミツが住民達を避難させていたお陰で、今回の戦は心配したほど大した混乱は起きなかった。

 これもミツの手腕。やっぱりミツは頼りになる。戦後処理の後始末もしてくれたら、もっと頼りにできるのに…。


 て!!夏休みの宿題みたいに、自分のことを友達に頼ってちゃダメ人間じゃねーか!?


 と、仕事を手伝わせておいて言えたことじゃない。

 不意に手を止める。

 気になってたことを思い出したのだ。


「そう言や、ミツ。ちょっと訊きたいことあるんだけど」

「何?僕に分かることなら」

「んーとな。清洲…。信友なんだけどな。あいつ最後に魔法武装ってのを使ってきたんだが…。あれは何なんだ?」


 刀に水を纏わせた、あの魔法は中々に興味をそそる。俺の知らない魔法、未知の技術だ。

 知らないと言うことは、この世界では命取りになる。その事を信友との戦いで学んだ。「俺、強いから」で、何もしなければ成長しない。きっと、世界にはまだまだ知らないことが多いのだ。


 何の準備もなしに、それこそ油断してました。で、死んだらシャレになんねーよな。


「そう言や、ノブには教えてなかったっけ。基礎ばかりやってたし…」

「出来るなら俺も使いたい。基礎ってことは、あの魔法…。俺でもつかえるのか?」


 武器を魔法化する魔法だとは予想できた。でも、実際にやってみると上手くいかないのだ。

 刀に留めておくことが出来ないし、どうにか纏わせたと思ったら刀身がボロボロと壊れてしまう。それも、かなりの集中が必要で戦闘どころではない。使い物にならないのだ。

 そうなると不安になる。資質の問題なのか、何かコツがあるのか。

 教えてミツ先生!!


「そんな目で、こっちを見ないでよ。ノブって、そう言う趣味なの?」

「グッサーーッ!!ちょっと待て!!それは今の俺には禁句だ!!」


 信友のせいで、若干トラウマだ。執拗に俺を狙うあの執念…。未だに身も凍る。

 ミツには、信友の狙いが俺であったと話している。話した瞬間、ミツが大爆笑していた。

 俺からしたら笑い事じゃ済まない問題なんだ。


 冷たい視線をミツへ送ると、ミツはコホンと咳払いを返した。

 ん、なんか不自然な咳払いだな。人の間違いを気づかせるためのような?

 いや、俺が何を間違っているのか。今度は、疑問の眼差しを送る。が、スルーされた。


 ちょっとショック、俺ってウザいのか…。


「ああ、ゴメン。で、魔法武装のことだったよね。刀が水の刃に変わったんだって?」

「そう!それ!!教えてくれ!!」


 アイコンタクトよりも、言葉が重要。何より、俺の訊きたいのは魔法武装のことだ。


「それは水属性の魔法武装だね。信友は武将クラスの魔法の使い手だったのか。それでよく無事で帰って来れたよ」


 武将って言ってもピンキリだ。信友は大した相手ではなかった。

 それに、あの時は魔剣猛虎が助けてくれたから、怪我なく終わったのだ。

 もし、猛虎がなかったら、かすり傷くらいはついていたはずだ。使えるようになったのは運が良かった。


「まあな、それが俺の実力ってもんだ。見直してくれても良いんだぞ?」

「はいはい。そうだねー、すごいねー」

「棒読みか!?」


 と、ミツはこんな感じだが、俺が無事に帰って来たことを一番喜んでいたのはミツだった。まあ、その態度を出したのは長い説教を終えた後のことだったけど。


「でも、魔法武装が必要になるかもしれないし…。そろそろ教えておく必要あるかな」

「是非、ご教授を!!」


 嫌がらせか?

 随分と勿体ぶらせてくれる。


「しょうがないね。じゃあ、この仕事を終わらせたら教えて上げるよ」

「く…。そう来るか…」


 お預けか…。これで、この退屈な事務作業から逃げ出せると思ったのに。


「そうだね。少し、やる気が出るように説明だけはしておこうか」

「おう!頼む!!」


 アメとムチ。

 事前知識があった方が、教えてもらうときに覚え易い。俺は早く魔法武装というのを習得したいのだ。

 まあ、それがミツの狙いなんだろうけどな。


「魔法の基礎は覚えたよね?」

「勿論だ。属性と系統の二種類だろ。もうバッチリ使いこなしてるぞ」


 属性は言わずもがな。基本属性の火水風木地と上位属性の天と月。

 系統は攻撃、防御、支援、流動。これは直接戦闘で使われるメジャーな系統魔法だ。

 治癒、結界、霊能は間接戦闘で用いられることが多い。治癒は回復のため。結界は陣地警護のため。霊能は偵察のため。

 前回、活躍したパペットマンは、実は霊能系統だったりする。基本的な使い方なので応用は幅広いのだ。


「ちゃんと覚えているみたいだね。やっぱり、ノブは魔法の才能は高いよね」

「はっはっはっ!!もっと誉めてくれて良いんだぞ!!」


 勿論、そこでさらに誉めてくれないのがミツだ。

 俺の扱い心得過ぎだろ。気心の知れた親友、というのも考えものだ。


「じゃあ、問題だよ。魔法武装は、どの系統になるでしょうか?」

「ぬぬ…。どの系統にも当てはまりそうだが…。何度やっても失敗したし…。俺が使えない治癒系統は絶対違うのは間違い。じゃあ、えーと…」


 俺の悩む姿にニヤニヤする、ミツ。もしかして、これは引っかけ問題か?

 だとすると、ミツのご満悦の表情も納得だ。なら、考えられる答えは─────。


「分かったぞ!!答えは、どの系統でもない!!」

「凄いね、正解だよ!!」

「やっぱりか。だと、思ったんだ。つまり、魔法武装は、八番目の系統。言うなれば、武装系統ってやつだな!!」

「凄いバカだね!!不正解だよ!!」


 あっれぇ~?? おかしいな。さっきまでのミツはどこに行ったんだ?

 笑顔は笑顔だけど、何か棘のある笑顔だぞ。


「誉めて損した。何、八番目の系統って!!武装系統なんて存在しないよ!!」

「いや、だってさ。どの系統でもないなら、他に考えられないじゃん!!ミツも引っかけ問題だぞーって、顔してたし!!」


 ケンカ勃発!!他の家臣が見ているが、そんなの関係ない。ミツが悪いんだ。

 知らねーっつってんのに引っかけとか必要か?絶対、嫌がらせだろ。これ!!


 取っ組み合いとまでは行かないまでも、結構ギリギリのケンカになった。最早、ケンカの理由を忘れて言いたいことを互いに言い合う。


「ノブ様、ミツさん。二人とも、またケンカッスか? ホント仲良いッスね」

「おう、秀吉か。いつの間に来たんだ? 気付かなかった」


 ケンカを止めるでもなく、見ていただけの秀吉。こいつも何気に俺達の扱いを心得てきたな。

 何となく、信友の一件以来距離が近いた気がする。


「と言うか…。秀吉、来てたのならノブを止めるべきだろ?」

「えー。いやッスよ。どうせ、どっちもどっちじゃないッスか。巻き添えはゴメンっす」


 うーん。秀吉のくせに賢いぞ。君子危うきに近寄らずか。違うか、野生の本能って言った方がしっくりする。


「だいたい…。なんスか、お前の母ちゃんデベソとかって。子供のケンカッスか。付き合ってらんねーッスよ」

「う、うん。なんか、ゴメン…」


 いや、確かに最後ら辺はそんな感じだったけど。結構、互いに悪い所とか言い合ってたんだよ。ミツのここが悪い。俺のここがダメだとか。

 だけど、それは互いに認め合っているところでもある。長所は短所、というやつだ。


「俺に謝ってどうすんスか」

「だな。ミツ、悪かった…」

「ノブ。僕も言い過ぎたよ。ゴメン…」


 俺はミツに頭を下げて、ミツは俺に頭を下げる。

 ケンカ両成敗だ。…何か重要なこと忘れてるよーな。まあ、良い。


「で、秀吉。他の奴らはどこに行ったんだ? 仕事を投げ出してサボりとは、俺の見てる前でいい度胸だな」

「なに言ってんスか。みんな、ノブ様とミツさんのケンカを怖がって逃げ出したんじゃねースか」


 いやいや、こんなの何時ものことじゃん。見てることすら出来ねーってどんだけチキンなんだ?


「ああ、そうか。ノブが一人で城を破壊しちゃたから、みんな怖がっているんじゃないのかな? 古今東西、たった一人で城攻めした挙げ句、破壊するなんて聞いたことないし」

「うーん。何か、変な誤解されているな」


 俺は市を助けに行ったのであって、城を攻略しに行ったのではない。

 清洲城を壊したのだって、事故みたいなものだ。好きで壊したわけじゃない。たまたま、そこに城があっただけだ。

 い、言い訳じゃねーし!!


「つーのは、冗談ッスよ。ノブ様たち忘れたんスか。今は昼休憩の時間ッスよ」

「えー。マジで!?もうそんな時間だったのかよ!!」


 秀吉の言った通りで、マジで忘れてた。

 言われるまで気がつかないって…。自分で休憩制度を取り入れさせたと言うのに…。

 休暇、休憩は俺のために作った制度だ。

 朝から晩まで働きたくねーっつーの。一応は、公務だから休憩休暇も返上するときもあるけど、休めるときにきっちり休まないと人間やってられねーよ。

 メリハリだ。メリハリ。

 せっかくの休憩時間にミツとケンカしてる場合じゃなかった。俺のオアシスが待っている!!


「期待してるとこ悪いッスけど、ノブ様。仕事ッスよ」

「イヤだよ。フツーに休むよ、俺は?」


 何で秀吉が居るのか、おかしいと思ったんだよ。秀吉は力仕事担当だ。つか、奥の手の魔法陣を使ってできた森の伐採作業担当だ。

 ここに来たのは、俺の仕事を増やすため。

 そんなのお断りする。市と仕事、どっちが大事なのと訊かれれば。答えは一つ!!


「あ。ノブ様。言い忘れてたッスけど、市姫様から伝言ッス。えーと、今日は茶々さん達と大切な用事があるので申し訳ないって言ってたッス」


 答えは、失われた…。

 なんだろ、最近の市は素っ気ない。俺よりも三人娘を優先しているのだ。

 まさか兄離れ?!

 ついに来てしまったのか、恐れていたこの時が…。


「………。」

「さあ、ノブ。仕事しようか?」

「うっす。ノブ様に客が来てるんすよ」

「客? 今、客なんか相手にする気分じゃねーよ…」


 だいたい俺に客って誰だよ。だけど、まあ…来てしまったんだし、相手してやるか。どうせ、やることねーしな。

 らしくなく、哀愁を背負って、例の客とやらに会いに行く。カッコつかないが、市が見てない時の俺はこんなものだ。




 尾張統治機構、尾張守護代。尾張の自治を司る者として、代表者三名と取り纏め役となる宗家で構成される組織だ。

 今更ながら、何故こんなことを話しているのかと言えば、その取り纏め役の宗家の人間が来ているからだ。


 上座に座る男。軽薄そうな信頼の置けない雰囲気を漂わせている。簡単に説明すると、チャラくてバカっぽい男だ。


織田信賢おだ のぶかた。で、良いんだよな?」


 代理とかじゃなく、多分…本人だ。


「うん、そーそー。あれ? 前に会ったことなかったっけか?」

「確か、ガキの頃に。親父の付き添いで城に行ったときに、だな」

「そーそー。信長ちゃんも立派になったよねー」

「あ、ああ。それは、どうも…」


 俺のことをちゃん付けか…。

 その時も思ったけど、何つーかどこかのプロデューサーみたいな奴だ。まあ、その時はまだ前世の記憶は思い出してなかったから、ヘンテコな人間だと思ったんだけどな。

 それも昔の記憶だし、曖昧だけど実際会ってみたらカンペキ思い出した。


 これで宗家。こんな奴が尾張守護代のまとめ役なのだから、この国はおかしい。ま、変な政治家がいるのはどこも同じってことだな。実際、国を動かしてたのは親父や信友だ。

 チャランポランな人間でも、内も外も国の代表者がいるだけで十分。言うなれば、張り子の王だ。


「まあ。でも、今日はそんな立派になった信長ちゃんに会いに来たってだけじゃないんだよねー」

「なんだ? 悩み相談なら、俺より他のヤツを当たってくれ」

「はっはっはっ!! 相変わらず信長ちゃんは、面白いことを言うねー!!」


 なんだろ。何だかドンドン腹が立ってきた。コイツとは剃りが合わないな。

 宗家の人間じゃなければ、殴ってでも追い返しているところだ。


「いいから、用件言ってさっさと帰れ。こう見えて俺は忙しい身なんだ」

「うんうん。忙しいのは良いことだよねー。僕なんか─────」

「話す気ねーなら、俺はもう行くぞ」


 誰もお前の話なんて求めてねーよ。

 あ、そうか。こいつ、前の世界の…あの教師にそっくりなんだ。

 人の話を聞き流すところが特に、…な。まさか、こいつも生まれ変わり?


「ゴメンゴメン。待ってよ、信長ちゃん。もう、本題に入るから。…そう言うせっかちなところは変わらないよねー、信長ちゃんはさ」


 ちっちゃかった時のことだ。そんな昔のこと覚えてるものなのか?


「信長ちゃんじゃねーよ。俺は世界を征服する男、織田信長だ!!」


 ミツのとき同様に鎌を掛けてみる。その反応で分かるはず…。


「そっか、そっかー。信長ちゃんは天下を狙ってるんだ。すごいなー。じゃ、これは信長ちゃんには良い話だよ、きっと」


 軽いなー。

 でも、これではっきりした。信賢は白だ。

 生まれ変わりなんかじゃない。けど、血のつながりみないなものを感じる。異世界だから、子孫なわけないが、未来で似たような奴が生まれること間違いなし、…そんな感じだ。

 て…そんなこと、どうでもいーや。それよりもだ。


「俺に良い話? どういうことだ?」

「先日さ、信長ちゃんさー。信友くんのこと討ち取っちゃたよね?」


 俺はちゃん付けで、信友をくん付けって…。こいつの敬称の付ける基準が分かんねーよ。

 身分の高い人間なのに偉ぶらない。と言えば聞こえは良いが、ノリが軽すぎて偉い人間に見えない。

 俺も人のこと言えないけどな。


「その事に関しちゃ、説明は済ませてあるだろ。蒸し返すつもりか?」


 賛否両論あったが、信友の横暴。独断による攻撃が尾張国内に余計な混乱を齎したと、俺の行動は特に何も問われないことになった。

 力こそ正義。弱肉強食、勝ったものが正しい。そう言う風潮なのかもしれない。だとすると世の中、乱れ過ぎだ。やはり、俺が何とかしてやんねーとな。


「いやいや。信友くんはもう死んじゃったし、彼を庇う意味はもうないよ。そうじゃなくて、清洲周辺。信友くんの領地のことだよ」

「ん?そう言や、どうなるんだ? 城も無くなって、防衛も大変だよな。大丈夫なのか?」


 城もなし。城主もなしで、このまま放置は出来ねぇだろうし、守護代はどうなるんだ?

 今や3人。実質2人で回しているようなものだ。これ以上忙しくなるのは勘弁だ。


「全然、大丈夫じゃないよねー。こっちも人手不足で、新しい守護役を見つけようにも簡単には行かないんだよねー」

「そっちこそ忙しいんじゃねーか。俺のところに来る前に、さっさと新しい守護役決めろよ」

「あれー?まだ、分かってない? 信長ちゃんは本当に馬鹿なんだねー」


 堪えろ、俺!! 今、ここで、コイツを殴っても何の得もないぞ。刃傷沙汰で、今度は俺の首が飛ぶことだってあるんだ。

 せっかく取り戻した平穏を失うわけにはいかねーだろ。


「俺が何を分かってないって言うんだ」

「へぇー。これはなかなか…。うん、やっぱり信長ちゃんは立派になったね。じゃ、信長ちゃんにも分かるように簡潔に話そうか」


 初めから、そうしろっての!!のらりくらりと話を長くすんな!!


「尾張守護代 宗家 織田信賢ならびに守護役欺波義銀しば よしかねは、次期清洲領主に織田信長を推挙し、以後は尾張頭首の名を織田信長に与えることとする」

「はあ!?」


 この人、何言ってんの?バカなの?

 言ってる意味がまったく分かんねーんだけど…。俺が頭首って、つまり国の一番偉い奴ってことだろ。俺にやれるはずねーだろ。


「これは、決定したことだからねー。今更、信長ちゃんが何言っても覆らないよー? ああ、でも天下狙ってるんだもんねー。断るはずないよねー、もちろん?」


 ムカつく顔しやがって!!あーっ!コイツ殴りてぇー!!

 あ、でも…。俺がこの話を受ければ、殴ってもオーケーなのか?


「ふ…。信賢!!俺の前にひれ伏すがいい!!今、この瞬間から俺が尾張守護代頭首、織田信長だ!!」

「マジで!!やったー!!」

「そして、左の頬を差し出すがいい!!」

「え、なんで?!」

「殴るからに決まってるだろ!!そしたら、次は右の頬を差し出すのだ!!」


 そう、世界の平和のために!!

 彼の偉人は言った。左の頬をぶたれたら、右の頬も差し出しなさいと。

 殴られることで平和になるなら、殴ることで平和にもなるはずだ!!


「やだなー。嫌に決まってるでしょー。でも、頭首の話は受けてくれるんだねー。僕、ビックリだよー」

「何で驚いてんだよ。お前が拒否権ねーって言ったんだろ?」

「アハハー。違う違う。そう言うことじゃないのさ。これは、僕にとって渡りに船!!青天の霹靂って驚いていることなんだよねー!!これで僕は自由の身。やっと宗家なんて面倒くさいしがらみから逃げられるってねー?」

「な……」


 こ、こいつ…。俺を身代わりにしやがったのか…、最低最悪のチャラ男じゃねーか!!

 こんな奴、殴る価値もない。まったく、ホントまったく、殴る気も失せてしまった。





「………。」

「ま、と言うことがあってな」


 宗家の話は受けることにしたが、それ以降のことは一旦保留。次に会うときにと言うと、信賢は呆気なく帰って行った。

 荒らすだけ荒らして、ひでー奴だ。

 だが…。信賢が言った通り、これは悪い話ではない。俺が天下を狙う理由が平和な世界にしたいから…。なら、尾張の頭首になるのは願ってもない話だ。

 しかし残念な俺の頭では、これからどうしたら良いのか分からない。だから、頭首の件を先延ばしにしたんだ。

 なので今は、ミツと話し合っている。こう言うことは、「報・連・相」。報告、連絡、相談が必要だ。


 黙って聞いていたミツだが、これは言葉も出ないってことか?

 ミツの百面相は見ていて面白いが、ミツに掛ける言葉が見つからない。いや、掛ける言葉は幾らでもあるけど、何を言ってもミツを怒らせてしまいそうで怖いのだ。

 とはいえ、このまま無言では話が進まない。

 恐る恐る声をかけてみる。


「………。」


 はい!!無理!!今のミツには俺だって声掛けれねーよ!!笑ってんの?怒ってんの?悲しんでんの?喜んでんの?表情がコロコロ変わってコエーよ!?


「はぁ…。ノブはまた考えもなしにやってくれちゃったよね。国のトップが、ノブって…。ホント、心配だらけだ…」

「あれ。怒んないのか?」

「なんで怒る必要があるのさ。ノブは天下統一を狙うんだろ? 僕はついて行くって言ったじゃん」

「いや、それはそうなんだけど」


 反応に困る。世界征服なんて子供じみた野望を手伝ってくれる。嬉しいは嬉しいが、当然だけどミツに負担を強いることになる。ただでさえ、迷惑かけっぱなしなのに、これ以上となるといくらミツでも倒れちゃうんじゃないのかと…。


「このまま行くと僕が裏切るんじゃないかって?」

「それは全然考えてねーな。ミツが裏切るなら、俺がそれだけのことをしたってことだろうし。ミツと張り合っても俺が負ける未来しかねーよ」


 歴史がどーのとかじゃなく、フツーに実力勝負でならの話だ。

 何だかんだで魔剣麁正はミツに上げたし、頼りの魔法はミツには効果ない…。反乱起こされたら怖いものがある。


 ミツが織田の秘密兵器と言うのも、あながち間違ってないな。


「でもね。信長には敵が多いんだ。ノブはもう少し周りに気をつけてくれよ」

「ああ、わかった」


 それでも、ミツの様子を見る限り大丈夫だろ。


「それで、これからのことなんだけど。僕なりに考えてみた」


 あー。なるほど、さっきの百面相はそう言うことか。俺が国を治めるにあたって色々とシミュレーションしてたんだな。

 既に苦労をかけていたのか…。


「それで、これからどうすんの?」

「他人事みたいに言わないでよ。苦労するのはノブなんだからね?」

「それは、まあ…。承知済みっつーか。当然だよな」


 俺は口先だけの人間じゃない。有言実行がモットーだ。上の人間が動かなきゃ、誰もついてこない。

 と、カッコつけたところで庶民派な俺はジッと待ってることの出来ない質なのだ。


「なら、頑張って頂戴。城造りを、ね?」

「城?」

「うん。城。僕のプランだと清洲城を再建して、それから街造り。あの辺りは、立地条件が良いからね。清洲を首都にしようと考えてる」

「おいおい…。いくら何でも大丈夫なのか?」


 清洲城再建は分かるが、首都移転は突拍子なさすぎだろ。


「王様が居る場所が首都になるんだ。なら、清洲の方が何かと都合が良いんだよ。備えも必要だし、一から始めればより強固な城、街。そして国になるんだ」

「ミツが言うなら、そうなんだろうけど…。何か、今までやってきたことが無駄になったような気がする」

「そんなことないよ。街造りのノウハウは理解したし、築城に治水工事の経験は得た。それに農業、商業、工業とやってきたことが無駄になることなんてないよ。むしろ、プラスでしょ」


 確かに国の隅っこでこじんまりとやってるより、国全体に広めた方が国の発展には繋がる。

 国の中心を古渡城とするより清洲城を中心にした方が、ミツの言うとおり都合が良いのかもしれないな。


「そうだな。よし、ミツのプラン通りで行こう!!」

「じゃあ、早速準備を進めるよ?」

「うん、頼むわ。…で、この街はどうするんだ?」


 引っ越しは良いとして、残して行くのも気が引ける。それこそ、主なき城では可哀想だ。


「それは、誰かに引き継いでもらうしかないね。例えば、柴田勝家とか?」

「ああ。アイツは反対しそうだし、それが良いかもな。となると、市はどうすんだ?」

「どうせなに言ったって無駄でしょ。自由にするといいよ」


 それはどっちに言ってんだ?俺?市?いや、両方か。

 でも、最近の市は俺を避けてる節があるからな…。もしかしたら、来ないかも。

 うーん。そん時はそん時だ。


「市のことは、自分で決めてもらうか。後、古渡城に残す他の奴らはどうすんの?」

「信友の一件で色々と怪しい奴らが出てきたし、引き連れて行けるのは限られてくるよね。できるなら、身の証しがしっかりしている人に来て欲しいよね」

「なら、いっそのこと戸籍でも作ってしまうか?」


 かなり面倒くさいことになるが、はっきりしない経歴を証明させるには、国が管理するのが良いだろう。

 もし、そこに嘘があれば罪に問える。一石二鳥だ。


「ノブにしては、良い案だね。戦の時以外、暇してる武将大名達にやらせれば良いよね」

「だな。戸籍の件は守護代の方でも話を通しておこう。これから、雇う奴らには戸籍を作らせて行けば問題ないな」

「新しい土地、新しい城、新しい魔法。ノブはやること多いから頑張らないとね」

「新しい魔法? 何のことだ?」

「魔法武装。忘れてないよね」


 …忘れてた。


 魔法武装も教えてもらう約束してたんだ。武将大名が暇だなんて誰が言ったんだ。俺には、暇がないよーだな…。


 それから数日後───。


 尾張の実権を信賢から譲られ、名実ともに尾張頭首として正式に就任した。

 頭首就任以降の話。ミツとも話し合っていた通り、清洲に新しく城を建てるため行ったり来たりの毎日だ。

 その甲斐あって、ひと月もしないうちに新・清洲城は完成した。


 尾張も統一したことだし、これで俺も平和な日々を送れる。とはいえ、まだまだやることは多い。

 苦もあれば、楽もある。どうやら、これから苦が来るようだ。


 尾張の遠く空、暗雲が近づいていた…。






 第一部、完。次回、新章です。


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