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尾張争乱 後編

29)尾張争乱 後編


 城から二つの影が飛び出す。難を逃れた信友の侍達は言葉を失った。

 影の一つは、鎧武者を模した木の巨人。もう一つは、三つ首の巨狼だ。

 その二つの巨体が互いにぶつかり合う。一度ではなく、二度三度と激しい衝突を繰り返す。

 その衝撃に煽られては、立っているのも困難。しかし、俺は二本の足で地に立つ。いや、四本の足か?

 市が後ろから抱きついているお陰でバランスがとれる。市が「キャー、お兄様ー。」と怯えてしがみついているのだ。

 言い訳になるが、そのせいで操作に集中を乱している。俺の巨人が負けそうだ。


「く…。ここで負けたら元の木阿弥だよな」


 時代劇では有り得ない悪代官勝利の結末。

 特撮の展開で考えたら、負けてからがホントの勝負!!


「特撮ヒーローは嫌いじゃないしな!!立ち上がれ、ツミキング!!」

「何を訳の解らぬことを。行けい、三首狼!!」


 木っ端覇群之王ツミキングに檄を飛ばす。

 よろけながらも、ツミキングは懸命に立ち上がったが、ケルベロスの体当たりを受けて再び転倒してしまう。

 図体ばかりかと思っていたが、想像以上に俊敏な動きだ。


 魔法でありながら、肉弾戦の様相となる怪獣大決戦。それも仕方ない。

 この手の遠隔操作する魔法は、生み出した時に込められた魔力で動いている。当然、魔法を使えばそれだけ魔力を消費してしまう。魔力不足で動かなくなったら本末転倒もいいところだろ。

 必殺技はやはり必殺でなければ。


「だけど、このままだとヤバいな」

「あ!!お兄様のツミキング殿が!!」


 いや、あれにまで「殿」とかつけなくてもいいよ。自立行動はしていても、細かい操作は俺がやっている。意思と呼べるものは存在してないのだ。

 だが、応援したくなる気持ちも分かる。

 特撮モノのお約束的なヒーローのピンチに、ヒロインや子供たちの声援での逆転劇!!これも燃えの要素だ。


「大丈夫だ。…ツミキングは、こんな事でやれたりはしねぇーから」


 踏みつけにされるツミキング。鎧姿は伊達じゃない。強固な装甲を備えているのだ。


「ふん。他愛ない。貴様の魔法はこの程度か!!」

「んなわけねーだろ!!何故、鎧武者の姿をしているのか、教えてやるぜ!!抜刀、花風の太刀!!」


 腰に携える刀を抜くと上段からの一振り。見事に空振った。

 大袈裟な大振りに狙いは逸れたが、その一撃から生まれた風圧により信友は吹き飛ぶ。狙い通りだ。大事なことなので二度言う。狙い通りだ。


 信友から引き離され、ケルベロスの指揮は乱れる。ツミキングと同様にケルベロスも操作が必要なのだ。

 操作を失って、無作為に暴れ始めるケルベロス。魔獣と言えど、獣は獣だ。敵も味方もない。


「く…。よくも、信長め!!」


 吹き飛ばされ、気でも失っていたのか?────信友は状況を理解していないようだ。


 暴れまわるケルベロス。まさしく、地獄の番犬だ。

 逃げ惑う侍達に襲いかかる。襲いかかると言うか、食い散らかすといった感じだな。信友の操作という首輪を失ったことで、手加減がなくなった。侍達も食われまいと応戦する。それが、さらにケルベロスをおびき寄せる結果となる。

 元々が、動くものを標的にする魔法だったということだな。


「な、なんだ!!これは!!ええいっ!!止めよ、止まれ三首狼!!」


 事の事態に遅れて気づいた信友。再び指揮を出すがコントロールを受け付けないようだ。

 俺はよく知らんが、一度操作を離れると再操作は不可能なのか?

 となると俺も操作には気をつけた方が良さそうだ。


「ツミキング!!ケルベロスを止めろ!!」


 操作には十分注意しなくてはならないが、流石にこれ以上は見てらねーよな。俺はまだ良いが、市には目の毒だ。


「信長!!全ては貴様のせいだ!!」

「知るかよ!!全部、自分で撒いた種だろうが。人に責任押しつけんな!!」


 こんな状況でも、まだケンカ売ってくるのか。ったく。俺が抑えている間に早く止めろっつーの!!


 完全に暴走状態に陥ったケルベロス。理性を失って、魔力を一気に解放する。

 三つ首、それぞれが別の属性を持っている。火水風の三属性だ。

 ケルベロス自体は合体により生まれた魔法だが

、本来の四象天院の秘術とは異なる魔法だ。

 しかし、ケルベロスの放つ魔法は────


「マズいぞ!!信長、あれは熱波之咆哮だ!!」

「分かってるさ!!言われなくてもな!!」


 そう。ケルベロスの放つ魔法は四象天院の秘術と呼ばれる合成魔法で間違いない。俺だって何度も使っているのだ。

 それが分からないはずがない。勿論、その威力もだ。

 三属性の合成となると、通常魔法で防ぐのは不可能。最強の天属性でも大差ない。四象天院を防ぐには四象天院しかないわけだ。


「来い、ツミキング!!」


 ドシンドシンと慌てて俺の下に駆け寄る。ツミキングは、木属性。盾にしたところで防ぐことはできない。なので、天と地の属性追加だ。


「天下無敵の盾、英雄巨人之黄金盾ヒロイック・ジャイアントシールド!!」


 ツミキング…いや、ここは敢えてカッコ良く、覇群の王と呼んでやるか。

 覇群の王の両腕を、黄金に染まる巨大な盾に変化させる。左右ともに半円形の盾は合わせることで、太陽の如く丸い円形盾になる。完全防御の姿勢だ。


「ま、待て!!待ってくれ、そこに儂も入れてくれ!!儂を助けてくれ!!」


 覇群の王の姿に、隠れる場所を求めて信友が駆け寄ってくる。

 入れるつもりはこれっぽっちもないのに勝手に入ってきた。それもかなりギリギリで。

 これじゃ、追い出したくても追い出せねーよ。俺も身動きとれないし…。


 覇群の王に反応したケルベロス。その三つ首を此方へと向けた。

 咆口が大きく開く。その形相は狼と言うより、竜を思い起こせるものだ。


「来るぞ、市!!」

「は、はい────」


 ギュッと身を屈める市。庇うように俺が覆い被さった。

 瞬間、激しい衝撃が大地を揺らした。

 数秒…十数秒と続く咆撃。三連装の咆撃に覇群の王も少しながら押し負けそうだ。

 それでも、熱波の攻撃を何とか防ぎきったのは王としての意地だ。


 咆撃の余波も止み、周辺からは焼け焦げた臭い。大地は捲れ上がっていた。その破壊力を物語っている。

 覇群の王を盾にしているから、無事でいられたけど…。流石にこの破壊力はヤバかった。ケルベロスの咆哮で清洲城が半壊していた。

 侍達の方は生き残りは…、期待はしない方がいいな。生存は絶望的だ。


「市、まだこの場を動くなよ。俺はちょっと様子を見てくるから」

「はい、分かりました。お気をつけ下さい」


 これだけの威力の咆撃だ。ケルベロスは恐らくもう動けないだろう。動けるなら、既に襲って来てるだろうし。

 それでも、安全確認は必要だ。盾の隙間からちょこっと覗いてみる。


「ほっ…。良かった。もう崩壊が始まっているな」


 これなら、何もできないだろ。そもそも、信友の魔法だ。この破壊力は想定外だったが、そこまで保つとは考えてはなかった。


「て…、え?」


 真ん中の首が左右の首を食べ始める。共食い…自分の身を食らっている。


「まさか、魔力補給!? あいつ、まだ動くのかよっ!!」


 噛みつき、噛み千切り、食い尽くす。消滅しかける、その身体を首一つ分だけ生き残らせた。

 首を2つ無くし、スマートになったケルベロス。自らの意思で、魔力を収縮させたのだ。

 魔法自体の生存本能なのか、何なのかは分かんねえけど…。これ、ヤベーよな。

 首を二つ失っても、属性は健在。魔力の総量は変わらない分、一つの首に凝縮されている。

 後、一発分の咆撃はできるはずだ。


「奥の手って奴か。なら、こっちも奥の手だ!!覇群之王、自爆終焉バッドエンド!!」


 奥の手っつーか、禁じ手だ。パペットマンの自爆攻撃を覇群の王でやろうというのだ。

 ヒーロー物にあるまじき行為。この戦いは引き分けで終わらせるのは、俺をここまで追い込んだケルベロスへの、せめてもの敬意だ。


 防御姿勢の覇群の王は、手を前に腰を上げる。クラウチングスタートの構えだ。

 ケルベロスもまた突撃の構えをとる。遠吠えの声を挙げると、両者ともに走りだす。


 互いの体が交差する。


 弾きとばされたのは巨狼。勝敗は決した。


 首二つを失ったケルベロスと、二つの盾を手にした巨人。体重の差は逆転し、今度は巨人が押し勝つ結果になった。

 トドメと言わんばかりに、その拳を打ち込み、しがらみつく覇群の王。

 ケルベロスの体に張った根は、魔力を吸い取るものだ。

 吸い取った魔力と巨人の魔力が融合し、覇郡の王は六属性の爆弾に変わる。


「これも久々だよな…。城を壊すことになるってのが…、これまた懐かしいな」


 前回は、親父の道場を破壊した。今回は城。まあ、城なんてまた建てれば良いのだ。


 容赦無用に巨人爆弾を起爆させる。

 昼中だというのに清洲城一帯が暗転した。

 それも一瞬のこと。次の瞬間、昼の日よりも強い輝きに包まれる。

 天より高く聳え立った光の柱が光源だ。

 前回の時とは威力がまるで違う。少なくても、覇郡の王の内蔵魔力は、あの時以上だ。巻き起こす爆発は城はおろか、清洲の町さえも破壊するには十分なものだ。

 しかし、巨人の爆発に巻き込まれたのは清洲城のみ。爆発範囲は建物の周りまでで、外には被害は出ていない。巨人の爆発のエネルギーは全て、上空へと放出されている。

 被害が、この程度で済んだのは光の柱による結界を張ったからだ。


「お兄様、ご無事のようで…。ところでこの光は?」

「近づくなよ、市。これは、あれだ。前に見せたことあっただろ? 超新星爆発スーパーノヴァ。あれと同じものだ」


 そう言えば、あの時も市が居たんだったな。あの時は良いとこ見せようとカッコつけて失敗したんだった。今回は市を守るためにやったんだ。

 俺も成長している。魔法の威力もだし、その制御もだ。

 これを親父が見たら何て思うだろう…。


「…この、大うつけが!!」


 幻聴じゃなくて、この声は信友だ。

 確かに、親父なら絶対そう言うだろうけどな。


「お前も、いい加減しつこいな。もう諦めて逃げれば良いものを」


 いくら男色家と言っても、限度ってもんがあるだろうに。


「つーか。…信友、その怪我は大丈夫なのか?」


 落ち武者の亡霊を見ているようだ。

 敵を心配するつもりはないが、見ていて気持ちのいいものでもない。日を改めてと言うなら、その言に頷いてやってもいいだろ。

 そもそも、俺の目的は市を助け出すこと。信友を倒すことは二の次だ。

 決着を着ける必要があるなら、きっちり首を落とす。が、それは日を改めてだろ?

 生きていてこそ、と言うものだ。


「ぬっ!!誰か、居らぬか!!儂の傷を癒せ!!」

「ああ…、そうか。治癒魔法があれば、すぐに再戦できんのか」


 やっぱり、魔法ってやつは便利だよな。何でもありだ。怪我だけでなく疲労回復もできるんだからな。

 まあ、俺には治癒魔法は使えないから、この場では何もできねーけどな。


「治癒を!!誰か、治癒を出来る者はおらんのか!!」


 居るには居るが…。あんなに元気に叫ぶ奴に、本当に治癒が必要なのか?

 流石の市も戸惑いを隠せない様子だ。

 助けるべきか、放っておくべきか。助けなくても、ピンピンしていそうな気がする。…何て考える前に、さっさと逃げておけば良かった。

 その事に気づいた信友に目をつけられてしまった。市と離れていたのは失着だ。


「そうだ!!お市の方!!お市の方よ!!儂の怪我を早く治癒しろ!!どうせ、その力は儂のものになるのだ!!儂の傷を癒やし、その力を見せてみろ!!」


 勝手な言い分だ。ムカムカしてくる。

 第一、市をくれてやる気は全くない。市にも、全くその気がない以上、市が信友のものになることは絶対。これっぽっちの可能性もないのだ。


 と言うことで、信友に治癒は必要ないことが決定した。


「おい!!それ以上、市の名を呼ぶんじゃねえっ!!」

「うるさいわ、うつけが!!お市の方よ、早く!!儂の傷を看よ!!貴様の兄がやったのだぞ!!早く治せ!!治さんか!!」


 尚も言い寄る、信友。鬼気迫る形相だ。

 一体何が奴をそうさせるのか…。


「いや…。ち、近寄らないで…」

「貴様に拒む権利などないわ!!お前が治さんのなら儂自らでやってやるわ!!」

「人権無視してんじゃねーぞ!!嫌がってんだろ!ホント、いい加減にしろ!!」

「信秀の子が、儂に指図するではない!!一度や二度、儂に勝ったからと図に乗ってからに!!信長、貴様は黙って見ていろ!!」


 信友が叫んだ途端に市が倒れる。押し倒されたのだ。


「誰の子であろうと関係ありません!!あなたの行いは人の義に反しています!!」

「喚くな、女が!!」


 信友が、懐から何かを取り出そうとする────


「信友、テメーは!!俺の前で市に何してんだ!!」


 俺の動きに反応した信友だが、こちらを向いた瞬間には既に顔面を蹴り飛ばしていた。

 吹っ飛ばされた信友は、懐から刀を取り出すと、また襲いかかってきた。

 最早、人の目をしてない。狂気の火を宿している。

 だが、それは俺も同じだ。市に罵詈雑言。暴力まで振るわれた。いや、殺されそうになったのだ。冷静でいろと言う方が無理。

 怒りのままに相対す。正当防衛だなんて言う気はない。これは俺の大切なものを傷つけられた報復なのだからな。


「その様子だと、魔法をつかうのはもう無理なようだな!!ならば、そのまま去ね!!」

「ウッセーよ!!魔法が使えねぇくらいで、負けねーよ。だいたい、お前だって使えねーだろうが!!」


 互いにMP切れ。残されるは肉弾戦のみだ。

 親父やミツに鍛えられて、俺もそれなりに動けるようになった。

 生半可な武将に遅れをとるような、そんなヤワな鍛え方はされてねーってな。


(それだけでは、足りぬだろう…。我を呼ぶのじゃ)


「またか…。何なのこれって。俺は一体何に愛されちゃってんだ?」


 もう何つーか。一気に冷めてしまった。


(我は嘗てお主の父、信秀に仕えし刀であった。それをこの男に奪われてしもうた。この怨み…今こそ晴らそうぞ。信秀の子よ!!)


 あー。うん。分かった。そう言うことね。

 全く以て俺の怒りに水を注された気分だ。でも、気持ちは同じ。

 手を貸すのか、手を借りたいのか。とりあえず、言いたいことは分かった。


「しかし、魔法ってのはホントに何でもありだな。まあ、良い。来い!!獅子王、猛虎たけとら!!」


(心得た!!)


 その声が聞こえた瞬間、魔剣猛虎が、どこからともなく飛んで来た。

 魔剣と言うのは…。いや、もう止そう。これは魔剣。何を言っても仕方ない。

 魔剣を見て呆れる俺とは逆に、信友の方は驚愕の顔を出している。

 問うまでもなく、信友には扱えなかったんだろう。魔剣とは持ち主を選ぶものだから。


「何故だ!!それがここにある!!」

「お前がどうやってこの魔剣を手に入れたかは知らねーけど…。かなり、ご立腹のようだぞ?」

「有り得ない。あの封印を破ったと言うのか。ならば、今一度取り戻すまでよ!!」


(ふざけたことを。我は一度たりとも貴様に下ったことなどない!!)


 気持ちは分かるけど、騒ぐなよ。魔剣の声は、ダイレクトに頭に響くから怒鳴られると、キンキンするのだ。


「言葉より行動で示してみせろ、猛虎。見せてみろ、お前の力を!!」


 魔剣の太刀を小刀程度で防げるはずもない。信友は大きく吹き飛ばされた。


 あれ?吹き飛んだだけ?

 魔剣ってこんな程度だっけ?


(くっくっく─────。まだじゃ、まだこのくらいでは殺さぬぞ!ジワジワとなぶり殺しにしてやるわ!!)


 と、どうやら、そう言うことらしい。相当、怨まれてんなー。


「ま、勝手に手加減してくれんだ。俺が本気で行っても大丈夫そうだな」


 わざとナマクラにしている猛虎。引き裂かれる人の姿を見なくて良さそうだ。


 一撃、二撃と一方的に叩きまくる。これじゃあまるで弱いものイジメしているみたいじゃん。

 心が痛む。

 しかし、猛虎は全くそんな様子はないな。益々ヒートアップしてやがる。俺が刀を振っているんじゃなく、今は猛虎が勝手に暴れている状態だ。


「な、なあ? そろそろ止めにしてやんないか? 流石に可哀想になってきた」


 オートパイロットな今の俺。特にやることがないので、事の次第を傍観。止めようと思えば、いつでも止められるのだ。


(信秀の子よ!この程度で許してはいかんぞ!!ここで徹底的に懲らしめねば、再び同じことの繰り返しじゃ。お主の妹君も、また狙われるやもしれぬぞ!!)


 おいおい…。徹底的にどこまでやるんだ。

 もう叩くところがないくらい叩いたじゃん。俺的にはもう既に気は晴れたんだが…。


「くくく…ふはは…ひゃーっはっはっ!!」


 信友は、突然と奇妙な笑い声を上げる。ついに壊れたか…。あれだけ殴られたら当然だよなぁ。


「温い!!温いわ!!敵を殺さず、勝った気になるとは。やはり、信秀と同じく甘いわ!!」


 殴られても離さなかった小刀が濡れている。

 信友の得意とする水魔法。その魔力を込めた小刀だ。

 魔法で、刀を包む? そんな事も可能なのか。まだ、俺の知らない魔法があるようだ。


「儂の勝ちだ!魔法武装、水牙!!」


(ふん! それを目にするのは二度目だ!前回のようにはいかんぞ!!猛虎之咆哮!!)


 虎の姿が現れ、魔法を解き放つ。麁正に同じく、猛虎に宿る意思は実体化できるようだ。

 そして、猛虎の魔法は親父の魔法に似ている。いや、親父の魔法が猛虎に似ているのか?

 ともあれ、不覚をとったが、猛虎のお陰で無事に済んだ。

 悔しいが、信友の言うとおりだ。真剣勝負のときに余計なことを考えちゃいけないな…。


 肝心の信友は…。未だに燃え続ける光の柱の中まで吹っ飛ばされていた。

 渦巻く炎に、二度三度幾度となく身を焼かれている。外側からは入れても、内側からの脱出は不可能。そう言う結界だ。

 市に近づくなと言ったのもそう言う事情があったから。結界を解いてしまうと爆発が広がって、今度こそ町に被害がでてしまう。信友には悪いが

、結界を解くわけにはいかない。


「じ、地獄の業火にとは聴くけど。実際、目の当たりにする日があるなんてな…」


(いや、これは当然の報いじゃ)


 同意はするけど。それと同時に同情も禁じ得ない。つーよりも、憐れみか。


「ま、そう言ってやんな。所詮は格下だ。本気出してまで相手する手合いでもなーよ」


(ほほう!なかなかの器じゃな。気に入ったぞ。これからはヌシをあるじとして仕えようぞ!!)


 魔剣に気に入られてもな…。


 また、魔剣に気に入られてしまった。どうせなら、女の子にモテモテハーレムが良かった。人外魔剣に気に入られても、………。

 多少、嬉しい。て、変な性癖に目覚めてどうすんだ!!


「んじゃ、まあ。猛虎、これから宜しくな」

「お兄様、先程から誰とお話しされているのですか?」


 魔剣の声が、俺にしか聞こえない以上、俺の独り言でしかない。第一、魔剣です。って、どうやって紹介してやれば良いんだ。


「新しい仲間とさ。それより、早く帰ろう。茶々達が待ってるぞ」

「はい、そうですね。彼女達とは色々と話したいことがありますし」


 ま、男には話せないこともあるだろうし、ガールズトークに俺の出る幕はない。市の身を案じてくれた茶々達に任せることにする。

 今度は、きっちりと家まで送り届けてやるとしよう。二度と離れないように、手を繋いで。


 急に立ち止まる、市。動く気配はない。


「どうした。忘れ物でもあるのか?」


 と言っても、もう城はない。代わりに光の柱が立っている。

 忘れ物は、諦めてもらうしかないか…。


「いえ。そういうことでは。でも、忘れていたのは私の落ち度です。申し訳ございませんでした」

「急に謝られても、俺には何のことか分かんねーんだけど」

「そうですね。では、お兄様、改めましてお礼を。此度はお助け頂きありがとうございます。お兄様があの場に来たとき私はすごく嬉しかったです」


 感謝感激、雨あられって?

 別にそんなの必要なかったけど、こうして面と向かって言われると、無茶して良かったと思ってしまう。

 こんなことで、ドキドキしてしまう俺。チョーチョロい。押して放せば走り出すチョロキュー涙。


「て…。あれ?俺も何か忘れてるような……」


 あっ!?やべえ!!ミツのことマジで忘れてた!!市を助けたらミツに合図を送るんだった!!

 ま、でも…。この光の柱が狼煙になってくれるか?

 んん、よし。大丈夫そうだ。これなら、尾張の何処からでも見える見える。見えるよな?


「市。悪いんだが、急いで那古屋に帰るぞ」

「城の方で何かあったのですか?」

「説明は帰りながら話すよ」


 家に帰るまでが戦場だ。ミツに叱られるのもまた戦場だ。

 気が抜けねぇな…。


 跡形もなくなった清洲の城を立ち去り、道すがら事の事情を市に説明した。市にとっても、あの城あの街は大事な居場所。心配もあるだろう。

 帰り道は、結局急いで帰ることになった。そう、魔王特急信長号で!!


 背中を向ける、その方向から射す光。光の柱は空へと延々と立ち昇っていた。




 光の柱に真っ先に気がついたのは前田利家だった。

 ノブからの狼煙に気がついた利家は、この戦いの指揮官、戦大将の僕の下に走る。

 僕の下に駆けつけた時には、既に僕も光の柱に気がついていた。

 不器用なりに気の回る男、それが前田利家という男なのだと気づく。秀吉が利家を庇う気持ちが漸く理解できたよ。


「明智殿。殿よりの合図にござる!!狼煙が上がったでござるよ!!」

「まったく…。ヒヤヒヤさせるよ、ノブは。────秀吉に退却の合図を、他の者も城に待避されて!!」


 魔力満タンに蓄えられた魔導砲。何時でも発射できる。

 固定された円形の台座は360°回転可能。さらに魔導砲本体を支える二本の支柱により、上下90°の角度調整ができるように改良されている。

 古渡城に備え付けられている魔導は三門。どこから攻めて来ようとも迎撃できる造りになっている。

 北門を囲む信友軍だけど、市姫様が救出されたなら、遠慮は無用。敵陣中央に陣取る敵将を討ち取って決着をつける。


「羅刹、修羅を北門に向けて────」


 魔導砲 羅刹。魔導砲 修羅。もう一つ、魔導砲夜叉は角度が合わないから使用できない。ほぼ直線で飛ぶ砲弾が城を破壊してしまう。

 だが、それでも過剰戦力。これは力の差を見せつけるために必要なことだ。と、考え方がノブに似てきたかな?


 発射準備が整い、二門の砲台が北門に陣取る敵軍を捉える。


「よし、出力は抑えて七八割くらいで。行くよ!魔導砲、発射!!」


 大気の弾ける轟音とともに敵陣は崩壊した。


「出力を落としてこの威力。計算を誤ったかな?」


 生きている者は居るのか?それぐらいの威力だ。誰も生き残ってなければ、力の差を見せつけるも何もない。


「も、申し訳ないでごさる。報告が遅れましたが、しゅ…出力調整?が出来ず、そのまま発射してしまったみたいでごさる」

「の、ノブ!!どうして君は!!」


 すぐに思い当たった。これは絶対ノブの仕業。少なくてもノブの魔力補充が過多になり調整不能になってしまったのだ。


「これは、また説教が必要だね…。ふふ、早く帰って来てくれよ?」


 急いで戻って来た俺を出迎えたのは、ミツの鬼の笑み。清洲での事の顛末を報告を済ませると、何時終わるとも分からない説教が延々と続いた。


 信友の戦死と、信友軍の全滅。これにより清洲は尾張の中でも空白地帯となる。




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