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尾張争乱 中編

28)尾張争乱 中編


 清洲へ向かう道。街道を通る人間は誰もない。

 戦の始まりを感じて警戒しているのだ。かく言う俺も、不安バリバリだ。


 勢いづいて、一人で来ちゃったけどホントに俺一人で大丈夫なのか?

 いや、市の方がもっと不安なはずだ。敵の中でたった一人で囲まれて、見も知らない敵に囚われているんだ。

 怖くないはずがない。そう言い聞かせ、自分を無理やりに奮い立たせる。自身に鞭打って、急ぎ足で駆けて行く。

 市が助けを待っている清洲城まで…。────と思ったけど、意外と遠いな。




 清洲の街は静まり返っている。もう少し賑わっているかと思ったが、寂しい感じの街だ。

 こうして歩いているのにすれ違う人間はいない。人混みに紛れて侵入しようという思惑はハズレだな。

 仕方ない。ここは正面から行くしかないか…。

 計画変更。気づかれないように潜入しての救出作戦から、正面から堂々と入り助け出すことにする。


「俺が織田信長だ。門を開けてもらいたい」


 門番をしている男に話しかける。

 一瞬、「え?」みたいな顔をしたが、すぐに理解したようだ。すんなりと門は開かれる。


 丁寧な案内に疑問を感じるが、城の作法としたらこれが普通なのかもしない。しかし、俺が話し掛けるとビクッとする。話し掛けるのはいけないことなのか?

 どうしよう、俺。城主なのに城の作法とか知らねーんだけど…。


 案内された部屋で、暫し待たされる。焦らして俺の動揺を誘う作戦だろうか。

 部屋の造りはしっかりしているし、魔法防御を備えているのかもな。

 手の平返し、ちゃぶ台返しには最適か。いや、俺はそんな真似しねーけど。そんなの卑怯者のすることだ。


「言われたとおり、一人で来るとはな。余程、妹が大切にみえる。おぬしらは、そう言う関係か?」


 いきなり登場したかと思ったら、変な勘ぐりしてんじゃねーよ。下品な奴だ。

 この世にはプラトニックな関係もあるんだっつーの。まあ、俺たちは別につき合ってるわけじゃねーんだけどな。

 こんな安い挑発に乗る俺じゃない。


「ふ、その通りだ。俺は男として市を愛してるのさ!!俺の女に手を出す奴に慈悲もねーぞ!!」


 軽いジャブに対して、強烈なカウンターをお見舞いしてやった。

 信友は、面白いほど面食らったようだ。あたふたと慌てふためいている。俺の冷静さを奪う作戦だったのだろうが、思い通りにはさせない。

 弱みを肯定することで、その弱みの意味を教える。手を出せば、どうなるのかを。


 俺の狙い通りに一泡ふかせてやった。だと言うのに、何か敗北感がする?

 信友に負けたのではなく、もっと別の何かに…だ。


「ほ、…ほほぅ…。ま、まぁ…。うん、いや…。そうだな。そう言う愛もあるか」


 ねーよ。バカか、このオヤジは。

 人をバカにしようとするから、自分がバカを見るんだ。

 だいたい、お前を殺すぞって言ってんだから、少しはビビれよ!これじゃ、俺がスベったみたいだろうが!!


「蛙の子は、やはり蛙か…。信秀…」


 信友は、何故か納得して落ち着いた。一体、どこに納得する要素があったのか?

 俺は、傷ついたぞ…。


「それより。市は無事なんだろうな? もし、市に傷一つつけてみろ。跡形もなく、お前を消すぞ」

「立場を分かっておらんようだ。お市の方が我が手の内にある限り、貴様は儂に指一本触れることは許されぬ身だぞ」


 全く以て、その通り。俺のはただの虚勢だ。ミツからは、交渉にははったりやブラフが有効だと教えられた。

 知識としてはあっても、実際使えるかは別だ。とりあえず、強気で行くしかねーな。


「それはお前も同じだ。お前は俺に何も出来ねーだろ?」


 ここで待たされる間、この城の奴らのヒソヒソ話が聞こえた。つーか、盗み聞きさせて貰った。

 この城の奴らは、どうも俺を恐れているようだ。幾度か、恐怖の大王とか災厄の魔王などといった話が聞こえてきた。

 今や俺は、うつけ者から魔王へクラスチェンジ。鼻高々だ。

 しかし、今はそんなこと些細な話だ。

 本題は、そう…。俺の力が認められたと言うことにある。少し反応が過剰ではあるが、俺を警戒すべき相手だと認識しているのだ。


 特に信友は、俺の力を目の当たりにしている。迂闊な攻撃はして来ないはずだ。


「ふん。所詮は子供よ。腹芸は苦手と見える」


 俺の目論見は軽く看破される。背中を見せる信友。隣部屋のふすまをバンっと開け放つ。


 恐らくは、交渉決裂に備えて刺客を配置しておく部屋なんだろう。

 刀を構えた数名の侍。それと、この城に居るのが不思議でしかたない猫耳メイド。例えるなら、萌えの象徴ニャンニャン…て、俺の妹だよ!?

 あまりに自然にそこに居て、あまりに不自然な格好をしてるから分からなかったぞ!!


「ふ、はっはっはっ!!どうだ!!交渉とは、こうして行うものなのだぞ!!」

「市!!なんだ、その格好は!! いや、そんな事より…。も、もしかして…。さっきの聞いてた? …聞こえちゃったか?」

「…え。はい…。お兄様のお気持ちはしかと。ですが、お兄様が忘れろと仰るのなら」

「そうか。まあ、忘れろとまでは言わないけど。胸の内にでも仕舞っておいてくれ…」


 あー。またやってしまった。聞かれてしまったものは仕方ない。忘れろと言ってもどうせ無理だろうし、後で言い訳するしかねーな。


 それは、ともかく。市の顔が赤くなっていはいるが、どうやら市は何もされず連れて来られただけのようだ。

 乱暴された形跡はない。何故に猫耳かは置いといて…。市の無事を確認して、一安心だ。

 次は、どうやって助けるかだな。侍達に囲まれている市に、下手な真似は出来ない。タイミングを見計らって助けないとな。


「おっと、兄妹愛もそこまでだ。信長貴様もお市の方も、儂のものだ。再会はさせてやったが、逃がしはしないぞ?」

「お、お前!! まさか…、別の属性持ってたのかっ!?」


 下に恐ろしき、戦国世界!!ただのロリコンかと思ったが、薔薇属性か!?

 市の可愛さに目が眩んだのは仕方ないが、俺のことまで狙っていたことに驚愕だ!!


「ほぉぅ。儂が新たな属性に目覚めたことに気づいたか。…やはり、我が物にしたいな」


 寒い!!背筋がゾクゾクとすんぞ!!

 このオヤジ、マジでホンモノ!!マジモンだ!!

 人を舐めまわすように見る目が…、目が据わっている。市のことも気になるが、油断は禁物。俺も貞操の危機だ。


「お、おい。お前…、何をする気だ。言っとくが、俺にその気はないからな!!」

「そ、そうです。お、お兄様は…えっと。わ、私が守ります!!」


 市を助けに来て市に庇われるとは…。いや、自分の身は自分で守る。俺は、男だ。

 いや、男だからこそ、俺が狙われているのか。


「ふん。女は後だ!!今、儂が求めるは信長よ!!」


 奴の目的は俺だ。お尻がムズムズする。こう、キュッとなる感じだ。


「や、やらせねーぞ!!」

「どうした!!威勢は良いが、腰が引けてるぞ!!」


 いやいやいや!!ジリジリとにじり寄ってきたら、誰だってヒくっつーの!!何度も言うが、俺にそっちの趣味はない!!


「く…。そっちがその気なら、俺だって!!」

「ふふん。良いのか? 此方にはまだお市の方が居るのだぞ?」


 手も足も出ないとはこの事か。こんな奴ら、何人束になって来ようが屁でもない。俺だけなら…。

 俺の目的は市の救出だっつうのに、目的すっ飛ばしてどうすんだよ。


「はっはっはっ!!どうした、信長よ!!言葉もないか? ならば、貴様の身。我に差し出すがよいわ!!」


 なんて選択肢を突きつけてくるんだ!?

 俺と市のどちらかが、犠牲にならないといけないのかよ。俺のハジメテか…。市のハジメテか…。んなの、考えるまでもない!!


「信友、─────」


 一歩を踏み出し、決断の時。俺の選択は決まっている。

 信友の本命が俺なら、人質として価値のある市を逃がしはしねえだろ。「市を置いて俺が逃げる」という選択肢は存在しない以上は…。


「俺が、─────」


 さらにもう一歩。すでに、ここは信友の間合いの内。刀でなら一太刀で一刀両断。手を伸ばしたらすぐに掴まえられる、そんな距離だ。

 間近に迫る信友。無防備な姿を晒す俺に、鼻息荒くして興奮気味だ。


「良い覚悟だ。一思いに散らしてやるわ!!」

「逃げて下さい、お兄様っ!!」


 市の悲鳴が響く。

 刀を手にする、信友。信友の刀は横薙に振り払われる。

 派手に飛沫が飛び散り、辺りに撒き散らされた。


「この手応え…。まさか、これは!? め、明鏡止水か!!」


 崩れ落ちた、俺の身体が水に変わった。

 分身に注目が集まっている間、本体である俺は隠密行動。市を助け出していた。


「ま、バレて当然か。その通り!!そして、市は返してもらったぞ!!」


 何度も試したが、やっとコツを掴んだ。

 自分の分身を作るのではなく、水に映った自分を形にする。

 信勝は自身を映す水鏡を盾として使っていたが、俺のは本家本元。元祖明鏡止水の魔法だ。

 見ただけで真似ることは出来ても本質的なことまでは判らない。俺も信勝のことを言えないな。

 真似るだけで、遠く及ばなかった俺の明鏡止水だったが、今ははっきりとしている。

 今なら親父の気持ちがよく分かる。この魔法は、親父の編み出したの魔法だ。

 娘が何処にいても、親の手が届くように。守れるようにと、願いが込められている。俺が言うのも、あれだが、かなりキモい系魔法だ。


 そして、この魔法の本当の使い方にも、俺は気づいてしまった…。

 織田信秀。父親でありながら、恐ろしい男だ…。

 まあ、それはまた今度だ。市を助けたなら、早いところ脱出。急いで逃げ出さないと。


「クソ!!信長達を捕らえよ!!どちらも生死は問わんが、絶対に儂の前に連れて来るのだ!!」


 どこに隠れていたのか、信友が叫ぶと手下の侍が飛び出てくる。

 那古屋に兵を送っておいて、まだこれだけの侍達がいるのか…。それも、結局は雑魚。


「当然、そうくるよな。時代劇モノじゃ、よくある展開だしな」


 仮にタイトル付けるなら…。暴れん坊魔王、織田信長!!で決まりだな。

 と、冗談言ってる場合じゃねーな。

 数だけは多い。辺り一面、雑魚に覆い尽くされた。

 市が居るので、当然だが派手な魔法は使えない。俺はともかく、市まで巻き込んでしまう。


「お兄様。このままでは…」


 市の言わんとしていることは分かる。状況的にギュウギュウ詰めの満員電車状況。この調子で覆い尽くされては身動きとれなくなりそうだ。


「大丈夫だ。心配すんな。市に指の一本も触れさせねーから」


 いつの間にか、姿を消した信友。どうせ、高みの見物だろ。これまた時代劇モノじゃよくあるパターンだ。

 しかし、ホントにどこから出てくるのか。まだ、ぞろぞろと数を増やしていく。押すな押すなの騒ぎに、俺と市を囲む包囲が狭まってきた。


「雑魚じゃなく駄鳥だな。ま、押すなって言われたら、押してやるのが習わしだ。思いっきり、押してやれ!!人形撃パペットマン!!」


 生み出したパペットマンは五体。秀吉が作れる最大数と同じだ。

 木人形を作るのは別段難しいことはない。人形の強度も堅くしたり軟らかくしたりもできるようになった。

 木偶の坊だったパペットマンの進化版。バージョン2は可動関節を備え、自立行動する自動人形だ。単純な行動、一つの命令しか実行できない頭の弱いパペットマンだが、その力は人間並み。いや、術者によってはそれ以上か? 魔法の使えない人間に止められるはずがないのは自明の理だ。

 俺の魔力を得たパペットマンは、つまり最強!!


 暴れまわるパペットマンに、飛びつき動きを止めようとするが、その動きが鈍ることはない。引きずり回され、振り回され、なす術なく崩壊していく侍達の包囲網。大分、風通しが良くなった。


「流石です、お兄様!!この数を物ともしないのですね!!」

「驚くのは、まだ早いんじゃねぇかな? このパペットマンは、さらに改良されたバージョン3だ。驚くのは、ここからだぞ」


 自立機動する魔法は、蓄えている魔力で動いている。電池で動くおもちゃみたいな物だ。

 力尽きたパペットマンは動きを止める。途中、無理やりに取り押さえられたパペットマンもいるが、五体のパペットマンは同様にパチパチと音を立てていた。

 木の身体が、くすぶり始めると煙りが上がる。侍達が事態に気づいた時には遅かった。

 はぜる木人形が、大爆発を起こす。大爆発に巻き込まれ、木の葉のように侍達が吹き飛ばされていく。


 要するに、パペットマン・バージョン3は爆発するパペットマン。名付けて、爆焼人形撃だ。


「よし。これなら、脱出は出来そうだな。まだまだ行くぞ、お前たち!!爆焼人形撃!!」


 爆発したパペットマンの代わりの人形達を作り出す。天井から、壁から、床から。ありとあらゆる場所からパペットマンは生まれてくる。

 顔もない木偶人形に、侍達から苦悶の声が挙がった。俺から見ても、確かに怖い。ホラー映画みたいな絵面だ。

 視界に見える侍達と同じ数。百くらいは作り出した。一人一殺の構え。誰からともなく、逃げ出していく。


「おーい。お前ら、そんなに慌てると─────」


 悲鳴に継ぐ悲鳴が起きる。

 言わんこっちゃない。避難訓練くらいしないと駄目だな。こんな時こそ、「お・か・し」なんだぞ? 押さない、駆けない、喋らない。その全部が、アウトだ。

 今更言ってもパニック状態で、それは無理か。

 パペットマンは大量に作ったため魔力貯蔵量がまばら。時間差で爆発が起きる。早い奴は既に爆発している。そのため、混乱は更に加速していく。

 だが、パペットマンにやられる奴より、仲間に踏み潰される奴の数が多い。冷静に対処する奴もいるが、誰も聞く耳を持たない。混乱を治めるのは無理そうだ。


「奴らを取り押さえよ、水狼群!!」


 遠吠えとともに水狼の群れが突撃してくる。標的になったのはパペットマン達。水狼に撃ち抜かれ爆発することなく、次々に破砕されていく。


「随分と戻って来るのに時間が掛かったな、信友。便所か?」

「そうそう。最近は、近くってな…って、貴様!!儂に何を言わせるんだ!!やはり、うつけは健在か!!」


 なかなかの乗りツッコミ。漫才を知らないはずなのに、センスを感じさせる。


「…お兄様」


 プニッとした触感が背中に…。水狼群に怯えて、市が俺の後ろに隠れたのだ。

 前門の虎に、後門の狼。じゃなく、前門の狼、後門の猫か?

 それは余りに不謹慎だな。今は、そんな空気じゃねーぞ、俺。


「市。俺の側を離れるなよ。ちょっと危ねーからな!! 極魔法!木っ端覇群ウッドブリックスキング!!」


 破壊されたパペットマン達を組み替えて全てを一つに合体させる。人形撃の最終形態だ。

 人の丈の10倍に膨れ上がった巨大パペットマン。流石に自律での機動は無理だった。仕方ないから遠隔で操作する。


「ま、ボスの登場だ。これで決着つけてやるぜ?」

「貴様との戦いで、儂も常識に拘ることに無意味さを学んだのだ!!見よ、これが我が新奥義!!火狼群よ、集え!!炎魔狼王!!」


 火を纏った狼だ。頭部から尻尾の先まで轟々と燃える狼が顕現する。


「風狼群よ、集え!!嵐牙狼王!!水狼群よ、集え!!水群狼王!!」


 風を巻き起こす狼と、以前にも見た水の狼だ。三匹の巨大狼が立ち並ぶ。


「四象天院、三つ巴の法!!三首巨狼之王!!」


 三つ首の巨大狼へと姿が変わる。

 なかなかの発想だ。まさか、ケルベロスを見ることがあるとは思わなかった…。

 しかし、何だ?

 怪獣大決戦、巨人対ケルベロス。

 特撮じゃなく、現実で行われているから質が悪い。

 どこの怪獣映画だよ!? ミツなら、そうツッコミを入れただろう。しかし、ここに居るのは俺だ。

 止めることなく進撃を開始する。

 戦国乱世始まって以来、初めてであろう巨大な怪物達の戦いが開始される。




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