尾張騒乱 後編
26)尾張騒乱 後編
数日後には、那古屋の街を囲む巨大魔法防壁が完成した。
これで街の配備も完璧。ある種、要塞都市みたいな感じになった。
鉄壁の要塞。これを前に敵は沈黙せざーるを得まい!!
何故、俺がここまで街の防御強化に取り組んでいるのか。俺らしくもない働きっぷりだ。
いずれはやらなければならないことだが、信友の一件のせいで住民の不安は大きい。街の奴らに影響が出てきたのだ。農業、商業は目に見えて落ち込んできた。
まあ、備えあれば憂いなしとも言うし。俺も気合いを入れて頑張ってみた。勿論、これは建前で本当のところは市のために…。
いやいや、俺が頑張る理由なんてそれしかないじゃん。
街の水路に水を流して、今日の作業は終了だ。なので、このまま帰宅?帰城?
街を覆う巨大魔法防壁と街全体を流れる水路を加えて、俺の負担がやたらデカい。市ももう帰って来ているだろうけど、今日は先に休ませてもらう。
いつもの市との雑談はなし。眠くてしょうがないのだ。
部屋に戻ると即座に眠りについた。
翌朝。市は起こしに来なかった。
もしかして、昨日は何も言わないで寝ちゃったから怒ってんのかな?
だとしたら、マズい。早く、謝りに行かなくては!!
「おーい。市? ミツ、市のこと見なかったか?」
部屋には居なかった。城のどこかに居るはずが探しても見当たらない。
今日は、バイトはないはずだ。市のことで俺の知らないことなんてない。シフトもばっちり確認済みだ。
「いや、見てないよ」
ミツ、素っ気ねーよ。俺としてはもっと真剣に答えて欲しかった。だって市が居ないとは大事件だぞ?
だが、道場に居たミツに聞いても分からのは当たり前か。市が、俺を差し置いてミツに会いに行くはずもない。
他のあてを探すか…。
「おーい。市ーっ!! 秀吉、市のこと見なかったか?」
「何すか? 俺が見てるわけないっしょ。んなことしたら、ノブ様に殺されますもん」
「だな。秀吉に聞いた俺がバカだった」
一番、有り得ない選択肢だった。
何故、秀吉に訊いたのか自分でも不思議だ。
「どうしたの、ノブ?」
「ああ、ミツ。来てくれたんだ」
心配して様子を見にきたのか。まあ、あれだけ騒げば当然だ。
城の中をどんだけ駆け回ったんだ、俺…。それでも、心配して来てくれたミツには説明はする。
「いやな。今日は、何でか市が起こしてくれなかったんだ」
「ノブ…。ノブは、まだ市姫様に起こしてもらっているの…」
視線が痛い。ちょー痛い。突き刺さってる。
「い!!いや、違うって!!きょ、今日はあれだ!!出陣前の決起式があるだろ?だ、だから寝過ごすワケには。な、な?」
「言い訳、必死っすね。ノブ様」
く…。秀吉にまで冷めた目で見られた…。
「確かに、苦しい言い訳だね。もう少し、マシな言い訳を────」
「そんなことより。市だよ。市!!もしかして、働き過ぎで体調崩したのかも…。いや、それどころか行き倒れていたりしたら!?」
ダメだ。悪い妄想ばかりが膨らむ。どこを探しても居ないのだ。
市を働かせ過ぎたのか…。もしかしたらと言う不安は消えない。
「本当に心配性だね。そんなに心配しなくても市姫様なら、ノブと違ってしっかりしているから大丈夫だよ」
ぐうの音も出ねーよ。
俺と比較すんな。市に対して失礼だろ?
「なら、良いんだけどさ。でも、朝から市の姿を見ないと、何か元気出ねーんだよな…」
「本当にノブは真性のシスコンだね。これも血筋なのかな?」
血筋とは失礼な。幾ら、親友でも言って良いことと悪いことがある。真性のは親父の方だった。
そう。言うなれば俺はシスコンかもしれない…が、正解だ。
「し、しすこん? ミツ様、また難しいこと言いますね。何すか、それ?」
秀吉の横文字の弱さも相変わらずだ。
俺達との付き合いで理解を深めてはいる。言葉は分からなくても、意味は分かっているようだ。
知らない言葉が出てくれば訊いてくるし、物覚えも良いから説明に不便はない。バカなのか天才なのか、よくわからない奴だ。
「ノブが市姫様のことで騒いだら黙らせる魔法の呪文だよ。秀吉もこれからは使ってみると良いよ」
「分かったっす!!」
やっぱり、ただのバカか。何の説明にもなってないのに、何が分かったんだよ。
それにミツも、ちゃんと説明しろよ。
「お前ら、ヒデーな…。イチオ…、オレ城主だよ?」
「の、信長様!!大変にござる!!信長様!!一大事にござる!!」
「ど、どうした!?」
コイツ…。確か、市の非公式ファンクラブの会員。つか、俺の家臣の一人だ。
「市姫様がさらわれたにござる!!」
「さ、さわられた?!だ、誰にだ!!ソイツ殺す!!今すぐ殺す!!」
痴漢は何処にでも健在か。クソ!!これだから、男って生き物は!!
市に近づいて良いのは俺だけで十分だ。他の誰かに触れさせるなんて、考えるだけでもおぞましい!!
「ノブ!!ふざけている場合か!!」
「す、済まん。俺も気が動転してんだ…」
落ち着けよ、俺。いくら何でも、そんな命知らずいるはずねーよな。ハッハッハ…………。
俺の妹に手を出せばどうなるなんて、言うまでもなく殺っ!!それを誘拐しようなんて、誘拐しようなんて、誘拐しようなんて…。
「なにっーーーーーーーーーつ!!!!!」
「落ち着いてくれよ、ノブ様!!」
「バカッ!!これが落ち着いてられるか!!市がさらわられたんだぞ!!今すぐ助けに行くぞ!!って、どこにいんだ!?」
一分一秒が惜しい。どんな手段を用いても探す。
それが出来れば、だ!!
人捜しの魔法なんてないし、俺に人捜しの心得なんてない。こんな事態、生まれて初めてだ。
もう、どうしたら良いのか分かんねーよ!!
「ノブ!!気持ちは理解出来るけど、今ノブが慌てても何もならないだろ。ここは、僕達に任せて少し冷静になってくれ!!お願いだ!!」
俺に頼むだなんて、ミツにしても冷静ではない。
そうか。市のことを考えてくれているのは、俺だけじゃない。ミツもそうだし、それはきっと茶々たちも同じなんだ。
「分かった。俺はしばらく部屋に居るよ…。何か、分かったらすぐに教えてくれ」
ここは大人しく、部屋へ戻る。
ミツの言うとおりだ。今の所、俺に出来ることはない。むしろ、俺が邪魔している。
俺なんかより、優秀な家臣達を信じるべきだろう。
それにしても…。
まさか、市をバイトに出したことが裏目に出るなんてな…。狙われたとするなら出勤退勤時だろう。
俺がついていたら…、そう考えてしまう。
「違うな。今は何をすべきか、だ」
市のことで、俺に分からないことはないはずだ。
俺になら、市を連れ去った犯人の気持ちだってわかるはず…。
この街は防壁に守られている。つまり、出入り口は限られ、人の出入りも見張れる。警備は完璧だと言える、はずだ。
街の外へは出られない。なら、市はまだ街の中に居ると考えるのが自然か?
城の中に居ないなら街の中だ。
団子屋周辺は人目も多いし、狙われたのは人目の少ない城の近く…。拉致監禁となれば、隠せる場所の目星は付けられる。
城の周辺は、家臣達の住む武家屋敷だ。
当然、犯人は家臣の中の誰かということなるな。ストーカー事件の可能性が出てきたな。
怪しいのは、市のファンクラブに入っている奴らか。
非公式なだけあって、ルールや規約みたいなものはなかったし…。さらに匿名性が高い集まりだ。誰が会員なのか、取りまとめをしている会長しか知らないのだ。しかし残念。俺はその組織を知っているだけで会長が誰かまでは知らない。
会員の一人は俺の前で口を滑らしてしまった、あのバカだけ…。ござる侍だ。
「ん? 待てよ…。何で、あのバカ侍は市が誘拐されたなんて言ったんだ?」
あの時、俺はおろか誰も市が誘拐されたことに気づいていなかった。
ござるの奴が、浚われたなんて言うから…。
「まさか、あいつが!?」
顔見知りの犯行という線は濃厚だな。…いや、待て。それは早計かもしれない。
まず第一に、俺にそのことを話す必要はない。逆に知られない方があいつにとっては良かったはずだ。
そして、第一発見者を疑えは鉄則だ。自ら、疑われる真似をするだろうか。
黙っていれば、行方不明扱いで終わっていた。いや、その前に俺が大規模捜索命令を下しているか…。
いや、そうか!!あいつは俺が捜索命令を出す前に誘拐されたと嘯いたのだ。
捜索の目を外に向けさせるために。
「なんて用意周到な真似を…あいつ。く、危うく騙されるところだったぜ」
となれば、一刻も早く犯人逮捕だ。市は恐らくあいつの家に捕らえられているはずだ。
だが、慌てるな。ここで、慌てては犯人を逃がす恐れがある。血迷った犯人が何をするか。最悪、市を道連れにすることも考えられる。
行動は慎重に。だが、迅速に動かなければ。
「…流石に、共犯者は居ねーよな…」
万が一と言うこともある。やはり、俺一人の単独行動は止めておいた方が良いか。
協力を頼む必要がある。
協力者…。俺が信頼できる人間といば、ミツと秀吉だな。三人娘も一応は信頼しているが、あいつらはまだ子供だ。
危険のあることに巻き込むワケにはいかないよな。
「覚悟決めろ、俺!!……よしっ、ミツ!!秀吉!!」
呼べばすぐ来る二人。な、ワケもなく。
市の捜索のために頑張っている所に俺が邪魔をした。
そのせいか若干、苛立ち気味な二人だ。
「ミツ、秀吉。忙しいとこ悪いが、話がある…」
「真面目な話っぽいね。分かった、すぐに行くよ」
「うっす!!」
俺の言葉に深く追求しない二人。
頭の良いミツと勘の鋭い秀吉だ。俺が言うまでもなく、犯人にたどり着いたのかもしれない。
人払いも済ませ、今部屋に居るのは俺とミツと秀吉の三人だ。
「忙しいのに邪魔して悪かったな。だが、聞いてくれ。俺、犯人が分かったんだ」
「はあ!?何を言ってるんだよ」
「うん。驚くのも無理ないよな。俺も驚いている」
この頭脳の冴えは、市が絡んでいるから。市を助けるために、俺の頭脳が冴え渡った結果だ。
「別に驚いてはないんスけど…」
そうか。やっぱり、秀吉も犯人を突き止めていたんだな。刑事は足で稼ぐと言うが、秀吉も行動の男だ。
あれから聞き込みでもして、捜査していたのかもな。市のために頑張ってくれていた秀吉に、感謝だな。
「ふ…、だろうな。しかし、秀吉には悪いことしたな。まさか、あいつが犯人だったんだからな」
「え? 何のことッスか?」
秀吉はとぼけているワケではない。俺がはっきりと犯人の名を言わないから分からないだけだ。
仕方ない。そろそろ、はっきりと犯人を告げるときだな。
「秀吉。捕縛の準備をしろ。捕まえるぞ、犯人。前田利家を!!」
今更だが、犯人の名を告げる。考えて見れば、最近の奴の様子は変だった。ちょこちょこと城から居なくなったと思えば、団子屋に行っていたとか…。
きっと、市を目的にしていたんだろう。
ストーカーとはホントに恐ろしい。そこまでつきまとって何が楽しいのか、俺には理解不能だ。
「待って下さいよ、ノブ様!!利家は、俺の配下ッスよ!?あいつが犯人って何したんスか!!」
え!?何、この反応??
秀吉も犯人分かったよ的な顔してたじゃん!!
「いや、だから。あいつが市を誘拐した犯人だって話だよ」
「ノブ…。それは一体どこから出た話なの?」
「どこからって、俺の名推理じゃん。証拠はないけど…、間違いないはずだ」
いや、あいつの家を捜せば市がいるはずだ。それが証拠になる。
前田利家は、城では真面目に働いていると評判だし、忠義にも厚い男だ。
庇いたくなる気持ちも判る。だが、裏では市のファンクラブ。これは、俺としては庇う気持ちはまったくない。
むしろ、何時かは潰そうと考えていた非公式組織を叩くチャンスでもある。
今更、説得して自首させて終わりにはできない。
「つまり、ノブは状況証拠だけで、そのくだらない妄想を…。推理をしたってことだね?」
「いま、妄想て言ったのか? 言ったよな!?」
「実際、その通りじゃないッスか。利家が犯人なわけないッス」
なにやら、訳知り顔の秀吉。確信があるようだ。
俺だって、ホントは身内を疑うことはしなくないんだ。
「そーなら俺も良いんだけどな」
だが、そうなると真犯人は一体誰になるんだ?
謎が謎を呼ぶミステリーだ。
「だいたい、誰が犯人とかいう段階はもう終わっているんだよ。いまは、どうやって助けるか…。その話し合いをしている途中だったんだ」
「そうッスよ」
えぇ~。じゃあ、俺の推理は何だったんだ。
犯人分かってたんなら、ミツが妄想っていった理由も納得だけど。
「じゃあ、なら何で教えてくれなかったんだよ!!」
俺にそのことを教えなかったことには納得できねーって。何か判ったら教えてくれと言っていたはずだ。
仲間外れにされて不満タラタラだ。
「教えても良かったんすよ。ホントは…。でも、ミツさんが…」
「おい、秀吉!?僕のせいにするつもりかよ。秀吉だって賛同してただろ!!」
二人揃って、俺をのけ者かよ…。
「この際、どうでも良い。それより、犯人は!市は無事なのか!!」
「心配はない。今のところ、要求はノブの投降だけだね…」
俺の、投降?
俺一人で出て来いってことか。
「望むところだ。俺が行って、犯人をぶっ千切ってくるさ」
「いや、そうじゃなくてさ。ちゃんと話理解してるの、ノブ?」
ん? どういうことだ。市を賭けたタイマン勝負じゃないのか?
「つまり、決闘ってことだろ? 当然、分かっているぞ。だから、俺に任せろって!!」
「はぁ…。全然ダメ。全然理解してないじゃん、ノブ。そうじゃなくてね、市姫様を誘拐したのは織田信友なんだよ」
え…。えっと…。それは、市が人質にされているってことなのか?
信友に市が拉致られて、今度は俺に来いと…。
「そうッス。だから、俺達も迂闊に手を出せなくて困ってたんすよ」
「んだよ…。そんなの話は早いじゃねぇか」
犯人がわかって、市の場所も判明した。そして、犯人の要求は一つ。…俺だ。
「俺が行く。俺一人で奴の城まで行けば良いんだろ? 当然、行くに決まっているだろ!」
「はぁ…。だから、ノブには話したくなかったんだよ。ノブなら絶対そう言うと思ったし…」
何だ。俺をのけ者にした理由はそれか。それなら、許すしかねーよな。
こんな話聞いたら、まず間違いなく俺は暴走していたはずだ。既に暴想していたワケだしな。
「でも、行かせないよ。ノブが城に行ったらどうなるか分かっているのか?」
「さあ? どうなるんだ?」
「はぁ…。ノブが目的なら、この城に用はない。信友は普通に攻めて来るよ。ノブの居ないこの城をね」
言われてみたら、その通りだ。
市を人質に捕られて、俺は手も足もでない。城の奴らも当然、手も足もでない。
全てが終わった後、反乱分子である古渡城の連中を放置しておくはずがないし。なら、その前に潰しておこうと考えるのが普通だよな。
「だからって!市をこのままには出来ねーだろ!!」
「そうやって、また命を粗末にするのかよ!!僕にとっては市姫様よりノブの方が大切なんだ!!」
睨み合う、俺とミツ。
俺は引くつもりはない。いくら、ミツの言うことだとしても、俺にとっては市も大切な存在なのだ。
俺が行かなければ、市がどんな酷い目にあうか…。
「退けよ、ミツ!!」
「行かせないよ。ノブ」
時間が惜しいってのに…。ミツの奴、こんなに石頭だとは思わなかったぞ。
「ノブ様!!ミツさん!!やめるッスよ!!俺だって本気で怒るッスよ!!」
別に秀吉が怒ろうと怖くはない。ないが、物理的な被害は怖い。
秀吉の肉体的な強さはハンパない。俺もミツも、魔法なしの戦いでは数段劣るのだ。
「ちっ…。ミツの石頭…」
「ノブの分からず屋…」
「いい加減にするッス!!二人っとも、子供ッスか!!」
結局、殴られた。
「ミツさん。俺はノブ様に賛成ッスよ。ノブ様なら、きっと市姫様のこと助けられるって思うっす」
「秀吉。それは本気で言っているのか?」
「勿論っす。ノブ様はいつも俺達の想定外の行動しまスッから」
待てよ、秀吉。それは、全然弁護になってない。それでミツが許すはずねーじゃん。
「確かに…。想像以上に馬鹿な行動ばかり起こしているけど?」
「いや、えっと…。だから、今回も多分大丈夫かな…とか…」
尻すぼみ…。
弁護どころか、援護にもなってない。最初の勢いはどうしたよ!?
「ミツ。じゃあ、何のためにあの巨大防壁を作ったんだ。こういう時のためじゃねーのかよ!!」
「籠城は愚策だよ」
「だろ。だから俺が行くんだよ。信友の軍勢程度に破られる守りじゃねぇだろ? ミツ達が、この街を守ってくれている間に俺が絶対何とかする」
これは出来る出来ないの問題じゃない。市を助けて、信友の野望を止めることが、街を守ることにも繋がる。
それに、ミツが思っているほど俺もバカじゃない。考えなしに突撃したりするはずない。市を助けれさえすれば、その後の手段は幾らでもある。
「それにさ、信友の軍勢がこっちに攻めてくるなら好都合ってもんだ。奴の城は手薄になるだろ?」
「僕達が、囮になれって言うのか。…悪くはないけど…、それじゃあ結局────」
「ミツさん。信じるッスよ。ノブ様を」
今度はホントに良い援護になった。
俺を心配してくれるのは嬉しいし、有り難い。けど、俺を信じてくれる方がもっと嬉しい。
人から信頼を得るのは難しいけど、俺はミツを信頼してる。ミツだって俺を同じように信頼してくれている。
「判ったよ。僕の負けだよ…」
「ありがとう、ミツ」
「まったく…。さっきまでのケンカは何だったんすか…」
「秀吉にも迷惑かけたな。ちょっと頼りなかったが、俺を助けてくれてありがとな」
「ま、まぁ。全然、役に立たなかったスけど」
うん。ホント役に立たなかった。だが、その気持ちだけでも十分だ。
俺を信じてくれた秀吉。秀吉がそこまで俺を信じていたとは思ってなかった。
あの場面では、ミツの言ったことが正しかった。友達とは言え、あそこはミツの意見を支持しそうなものを、逆に俺を助けてくれようとしたんだ。
ミツが前の世界の親友なら、秀吉はこの世界でできた初めての親友だな。
「秀吉の出番はこれからだ。街の防衛。秀吉には十分働いて役に立ってもらうぞ?」
「げぇ。ノブ様…、俺に何をさせる気ッスか…」
ま、そこは俺の信頼と言うことで納得してもらおうか。秀吉に俺の秘策を授ける。
亀のように閉じこもる防衛戦だが、被害は出来るだけ出したくはない。街もそうだが、人への被害は特にだ。
秀吉の働きに期待だな。勿論、ミツが付いているんだし、安心して任せられる。
俺は俺で、ミツ達の期待に応えないとな。
市を助ける救出作戦。今、市がどんな想いでいるのか考えると正直ツラい。
急がないと。
焦る気持ちを抑え、支度を済ませると俺は城を飛び出した。




