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道三の災難

24)斎藤道三の災難


 その日、美濃の戦国大名斎藤道三は泣く泣く自らの宝を差し出すことになる。

 曰わく、美濃の国全ての財を集めたとしても決して比べられるものではなく、国を引き替えにしても決して手放すことのできない至宝だという。


 言っておくけど、ホントに俺には何の責任もない。結局、それもこれも道三が自ら招いたことだ。

 泣いて気が済むなら泣けば良い。

 おっさんの泣き顔なんて見たくもないが、何故そうなったのか語るとしよう。

 そう、全ては俺が始めた改革が発端となったのだ。




 市の治癒魔法で心身ともに回復した俺は、城のある那古屋へと戻ってきていた。

 一応は城主。やらなければならないことは多い。だが、城の仕事など右も左も分からない。ミツや秀吉、それに家臣達に適当な指示を言って仕事を丸投げした結果…。

 俺の仕事がねーな。くそ…、こうなったら!!


「世界に革命起こすぜ、俺は!!」

「はい!! お兄様になら出来ますよ!!私に出来ることがあれば何でも申しつけてください!!」


 やはり俺に城主は似合わない。悩むのをやめた途端にこれだ。俺という人間は何も成長しないのだ。

 革命も何も、何のプランも考えてない。

 俺ってやつはホントどうしょうもねーな。しかし、市にこう言った手前、何も考えてない…とは言えない。期待に満ちた眼差しを向けられれば尚更だ。

 考える、俺。

 何かないかー。何か…。


「よ…よし、そうだ!!蔵に食材余ってたよな。アレ使ってケーキ屋をやるぞ!!市の手作りケーキだ!!」

「ケーキのお店?ですか…。私で大丈夫でしょうか?」

「当然、大丈夫だ。前に市の作ってくれたケーキは、お世辞抜きでマジ美味かったからな。もっと自信持って良いんだぞ」


 今や先進国となった尾張の中でも、飲食関係はまだまだ成長中の発展途上だ。料理の種類は増えてきたし、食材の種類も多くなった。

 しかし、作り手。そう、料理人の数が圧倒的に少ない。パンのようにコネて焼く、麺のようにコネて茹でる。…だけで、そこからの発展までは行ってない。

 ゆえに今、最も有能な料理人といえば市をおいて他ならないのだ。


「お兄様がそこまで言うなら…。はい、やってみます!!」


 何を改革するのか、自分でもおかしな革命を始めてしまったような気が…。

 元々、今まで生み出した食材達は俺のわがままから生まれたものだ。蔵に眠らせておくのも勿体なさすぎる。

 食材達も使ってこそ喜んでくれるだろうし、な。


「となれば、まずは店作りからだな。店がなけりゃ売れるもんも売れねーし。早速、街に行こうか?」

「はい、何かドキドキしてきました」


 街の中心地。商業区画にやってきたところで店を開けそうな場所を探す。

 スーパーやコンビニを建てたことで、食料品や生活用品が売られるようになった。ここにくれば何でも揃うと人通りは多く、活気に溢れている。

 俺の発案で始まったファミレスやバーガー店、牛丼店も建ち並ぶ。食糧の自給率が上がったお陰で安定した食事の供給が出来るようになった。

 立地条件としては最高だろう。


「やっぱり、こういう光景を見ると落ち着くな」


 一つの店に並ぶ、行列。価格破壊のバーゲンセール。人が群がる理由は沢山ある。

 現代では見慣れた風景だが、戦国の世界では珍しいことだ。

 この光景を見て懐かしいと思うのは、俺の魂に刻まれた前世の記憶があるからだ。

 初めて見る人間にとっては驚きなのだろう。横を歩く市は唖然としている。


「そうなんですか? 私は逆にこの人の多さに気分が……」

「そうか。なら、少し人の少ないところに移動しよう。────ん? あそこは、全然客が入ってねーな。あの店に入ろうか?」

「はい、お願いします………」


 人の多さに人酔いしてしまった市を連れて人気のない場所へ。中心街だというのに寂れた感満載な店だ。

 中は綺麗に片付けられてはいるが客が誰もいない。店員もだ。

 まあ、そのお陰でゆっくり休めるんだが。


「市、大丈夫か? 何か飲むか?」

「お気遣いありがとうございます。…でしたら、お茶を…」

「分かった待ってろ。すぐ持ってくる」


 茶屋のようだが、注文を取りにくる気配なし。まったく、職務怠慢だな。

 仕方ないので、勝手に厨房へ入る。やはり、誰も居ない。流石に不用心だろ。


「おや、お客さんかい? 済まなかったね…。今、お茶でも用意するよ」

「…あ、ああ。

────。

 勝手に入っちまってワリーな。じゃ、お茶頼むよ。婆さん」


 ビックリしたぁー。この婆さん、ただ者じゃねーよ。まるで気配を感じなかった。


「市…。すぐお茶来るから、もうチョイ待ってろ」

「えぇ。あ、はい…」


 市も驚いていたようだが、今の市にはそれどころじゃねぇな。

 手際よくお茶を用意した婆さんが来た。


「悪いね。ウチじゃ、お茶くらいしか出せなくてね」

「いえ。そんなことありませよ。お婆さん、このお茶…。とても美味しいです」

「にして、ずいぶんと寂しい店だな…。これでやって行けるのか?」


 出されたお茶を飲みながら、空気読めない一言に場が凍る。

 市の飲んでいたお茶が、少しこぼれた。

 悪気はないのだが、一等地にある団子屋に何故ここまで客がいないのが不思議過ぎて、つい口に出してしまったのだ。


「そりゃ、あんた。今の時代、ジュースだなんだのが、もてはやされているからねぇ。お茶に団子じゃ売れはしないのさね」


 今度は婆さんの言葉に空気が凍る。

 飲んでお茶が、変なところに入って咽せてしまった。

 つまり、俺のせいでこうなってるのだ。ヤベェ、責任感じるわ…。


「ゲホっ、ゲホっ、─────。なら、婆さんも出せば良いじゃん」


 季節ものの野菜や果物、栽培が難しく数の限られるものなどは流石に無理だが、市場に出回る食材は大抵の物は揃えられる。コンビニやファミレスに並んでいる食品は、それらの食材を使って作られているものだ。

 さらに付け加えるなら、この世界に特許や著作権はない。パクりたい放題だ。

 問題はないと思うが、無理に押し付けるのも悪いか?

 昔から団子屋やってればプライドとかポリシーみたいなものがあるだろうし…。


「そんなもの出来るなら、とっくにやっとるわいっ!!だがのぅ、どうしても作れないんじゃ。いくらやっても納得できる味にならんのじゃ…」

「そうか。一応、こだわり?はあるんだな」


 予想外!? 誇りはないのかっ!!

 ────。

 団子に囚われないなら、和菓子でも出来ることは多いはずだ。たい焼き、どら焼き、たこ焼き?まあ、和テイストのお菓子だ。

 俺としては、ちょーっと納得できかねるものはあるが。営業努力はしているらしい。


 あれ? でも、これ利用できるんじゃね?

 婆さんが出来ねーって言うなら俺がやれば良いワケで…。


「なあ、婆さん。ものは相談だが、俺達にも協力させてくれねーか?」

「協力? お前達がか?」

「そうそう。俺達がって!?何で、そんな不安そうな顔してんだよ!!」

「大丈夫です。お兄様は食通ですよ。それに、私も一通りの料理はこなせます。任せて下さい、お兄様に秘策ありです!!」


 そこで俺に振るか…。確かに考えはあるが、悪巧みの類だ。市が考えているような秘策じゃない。

 ここは、俺の悪巧みを察した婆さんに軍配だな。


「話は分かったが…。くれぐれも無茶はせんでくれよ。やり過ぎて、馴染み客まで失ったら私の店はお仕舞いじゃ…」

「まあ、見てろって。とりあえず、俺は他の店の偵察にでも行ってくるかな。市はどうする?」

「勿論、ご一緒に…」


 未だ顔色の悪い市だったが立ち上がる。聴くまでもない問いだったな。

 しかし、どうせ街に出ればまた具合が悪くなるのは目に見えてる。大人しくさせていた方が賢明だろうな。


「いや、やっぱりいいわ。市はここの厨房の方を頼む。足りない物があるなら、また後で持って来よう」

「お兄様の配慮に感謝します。やはり、どうもあの人混みは私には辛いものがあります」


 まあ、人混みが苦手な人間も多いし仕方ねーよな。

 しかし、市が人混み苦手だったとは思わなかった。人当たりも良いし、何より人格者だ。市の思わぬ一面を発見してしまったな。


「今日は下見程度で済ませるから。本格的に始めるのは明日からだな」


 こう言うときは、先ずはマーケティングから?

 んー? マーケティング・リサーチか…?

 クッ。こんな時こそ、ミツが居てくれれば!!て、また巻き込むとミツの苦労が増えるだけか。ここは俺一人で何とかするしかねーな。


「はい。では、お兄様。お気をつけて行ってらして下さい」

「じゃ、行って来るな」


 再び活気賑わう街へ繰り出す。

 それにしても、俺の知らない間に店が増えたよな。街並みも綺麗になってるし、ひょっとしてこれは勝幡の町を真似したのか?

 親父のヤツ…。俺の居ない間に、随分と働いたものだ。あれはあれで結構な大仕事のはず…と、そんなことよりマーケティングってやつをやってみるか。

 恐らく、街をブラついてれば何か分かるだろ。


「おおっと!!新作夏の肉祭りか!?こっちは半額セールだとっ!?─────く…。なかなか侮れねーな。仕入れ価格だって安くないはずなのに……」


 想像以上だ。

 人が考えることだし、世界が違っても考えることは同じなのは理解できる。それこそ、戦いしか知らない巨人達でもあるまいし、文化に違いはない。

 物を売るために街の奴らも色々とアイディアを練ってくるのは当然のことだ。

 中途半端に手を出すのは愚かか…。

 うーん。ならば、こっちの人間には考えられないようなアイディアを…。

 場所は確保出来たし、今日はやはり一旦出直しだな。


 飲食関係の店以外もブラブラしてから市の待っている団子屋に戻る。

 食の他にも衣類も充実していた。与えれば与えるだけ吸収していく。ホント、末恐ろしい奴らだ。


「お帰りなさい、お兄様」

「ただいま。て、市? その格好は…」


 町娘的な着物に腰掛けのエプロン姿。ザ・看板娘!!もうこれだけで客を呼べるんじゃねぇか?


「はい。お婆さんが厨房に入るなら、この格好でと言うものですから…」

「ま、フツーはそうだな」

「これは、お婆さんが昔きていた服なのだそうです。もしかして、似合いませんでしたか?」


 俺の反応の薄さに不安になったのか?

 でも、一々反応しなくてもいいだろ。ホンモノの美少女とは何を着ても似合うものだ。これが似合う、あれなら似合うとか関係ない。

 これこそホンモノの美というものだ。て、妹相手に何を語っているんだよ…。


「ん、待てよ? そうか、この手があったか!!」


 商品の充実は確かに重要だけど、やっぱりサービスが悪くちゃ客は来てくれない。現代では当たり前で、まだ、この世界にはないもの…。そこを突いてやれば良いのだ。

 ふ、我ながら悪どいな。

 しかし、アドバンテージは俺にある。売れない物を売ることなど雑作もない…。んなわけねーってな。結局、客は流行りものに弱いのだ。




 翌日から数日間。城と団子屋の間を往復した。

 トラックを使えば一発だが、ミツの許可なく蔵のものを使ったとバレれば…。こぇー!?

 最低限は城の物は使わずに極力は街で仕入れることにした。と言うか、このこと自体ミツには秘密だ。

 ミツの力を借りずにオープンまでこぎ着けた俺に賞賛を!!

 俺、スゲー。俺、天才!!


 誰も褒め称えてくれないから、自画自賛。

 それはともかく…。こっちの奴らはどこから聞きつけて来たのか?

 応援と称したからかいが。手伝いと称したイタズラが。味見と称したつまみ食いが、現在横行中だ。それでいて悪びれた様子が全くない。


「お前ら、いい加減邪魔すんなよ!!本気で手伝う気ねぇーんならマジ帰れ!!」

「えぇー。何でですかー? 私達、結構本気だしぃー」


 はあ!?どこがだ!!


「信長様に言われるのは心外。私ら、これで役に立ってる。ね?」


 はあ!?どこがだ!!


「そうそう。それに、まさか信長様と市姫がこんな所でこんな事してたなんてねぇ。ウヒヒ、信長様と市姫様の営みは内緒にしておきますから大丈夫ですよ」


 はあ!?どこがだ!!つーか、このエロガキ。変な勘ぐりしてんじゃねーよ!!

 茶々も江も初も、一体何しに来たんだ。


「申し訳ございません、お兄様。どうも、跡をつけられてしまったようで……」

「市が謝る必要ねーよ。ワリーのはコイツらだ。まあ、良い。遊びは終わりだ。来たからには徹底的にこき使ってやるからな!!」


 要は使いようだ。そう、馬鹿とハサミは使いようだ。

 今は邪魔な三人娘達だが、服を着替えさせてフロアに立たせる。

 性格はともかく、見た目は良いのだ。看板娘と言うには語弊があるけど…。客引きにはちょうど良いだろ。

 それにコイツらもバカじゃない。接客についてあれこれ教えればすぐに覚えた。先入観もないから、何の躊躇いもない。完璧だ。

 よし、これで準備は終わり。用意したメニューは、中身偏るたい焼き、三段重ねのどら焼き、色鮮やかな羊羹ようかんに、夏限定ドロドロした白い液体の掛かったかき氷。それと、あんミツだ。

 道具は全部自分たちで用意した。なかなか尾張の職人達も業を持っている。

 と、のんびり感心してる場合じゃねぇな。そろそろ開店の時間だ。


「じゃあ、いいな?」

「はい、お兄様。私も覚悟を決めました!!」


 気合いの入る、市。昨今のやる気のないバイト店員に見習わせたい態度だ。

 三人娘達も同様だ。キャッキャッ、ウフフとやる気十分。大丈夫か?


 店を開けると、すぐに一人目の客をゲット。さあ、ここからが市達の出番となる。


「お帰りなさいませ、ご主人様!!」

「「「お帰りなさいませ、ご主人様!!」」」


 市に続いて三人がハモる。

 客の反応はと言えば…。前屈みだ。

 一人目は男性客。うむ、出だしはバッチリ。


 市達に着せている服は、ミニなスカートのメイド服。どんな服でも仕立てられると豪語した呉服屋に無理やり仕立てさせたオーダーなメイド服だ。

 白のブリムとフリルのエプロンに、黒の布地で作られたフリフリのワンピース服。肩と胸元ちょい見せ、太ももチラ見せ。膝上のソックスが奏でるスカートととの黄金比が、実に見事な絶対領域を生み出した大胆なユニフォーム。これこそ、現代日本が誇るアキバ文化の象徴だ。


 ましてや、市の顔立ち。その体型。人が寄って来ないわけがない。男性客というのが気に食わないが…。


「しかし、流石は市だな。完璧な接客だ」


 先の客の案内を終えて戻ってきた市の顔は、何の比喩なく真っ赤に染まっている。先入観がないとは言え初めての接客がこれだ。

 緊張と恥ずかしさで一杯一杯一杯なんだろう。


「お兄様…。そ、そんなに此方を見ないで下さい……。ドキドキしてしまいす……」


 俺としては、そこに更に妹属性が追加されるから抜群の破壊力だ。

 それに比べて三人娘の接客態度は、はっきり言って誉められたものじゃない。クレーム来るレベルだ。


「行ってらしゃいませー、ご主人様ー」


 ちゃんと客を見ろ。


「早く注文して、ご主人様。注文待つほど、私は暇じゃないの」


 客の都合を考えろ。


「え?なに?聞こえないわ。男ならもっと腹から声だしないさい」


 客を威嚇するな。

 酷過ぎる。

 だが、不思議なことに需要があるようだ。この世界でも…いや、みなまで言うまい。


 連日続く、長蛇の列。団子屋改め、メイド喫茶は大繁盛だ。

 どうも、噂が噂を呼んで尾張中から客が集まって来ているようだ。中には、他の国から来ている客もいるらしい。萌え文化は万国共通か!?

 これなら、道三のおっさんに開発を頼んでいるコピー機。あれが完成した暁には、漫画が提供できるかもしれない。

 どんな願いも叶えてくれる七つの玉を巡る冒険や一繋ぎの財宝を狙う海賊の冒険を描いた漫画。俺には、漫画そのものは描けないから記憶からの再現だ。


 他国の美濃だと、進捗状況の報告が遅れてやってくるからなぁ…。


 どの程度、開発が進んでいるのか気になる。こんな時こそ、フラッと道三のおっさんが来てくれると有り難いんだけどな。

 そうそう都合よく来ているワケ………。


「おお!!ここがあの噂に聞いた団子屋か!!これは噂以上だ!!しかし、噂では女中が相手をしてくれると聞いてきたのだが。どういうことだ?」

「お帰りなさいませ、ご主人様…。どのような噂かは知りませんが、当店はそのようないかがわしい店ではありません」


 例え、客が知人友人であっても接客態度を変えてはならない。社会の常識だ。


「ぬぬ?! おぬし…どこかで…」


 俺に気づいてない?

 おっさん、耄碌したのか…?

 どこかでも何も、勝幡の町でも美濃の城でも会ってるだろ。つーか、同盟結んだじゃん。格好が変わっただけで俺と分からないって、道三のおっさんは節穴か?


 因みに、今の俺は執事服。ビシッとキメた俺の姿を市はベタ誉めしてくれた。

 ウンウンと唸る、道三のおっさん。


「おい。ホントに分かんねーのかよ? 俺だよ俺、信長だよ」

「いや、違う!!儂の知る織田信長はこんな格好の良い男ではない!!儂が知っている織田信長は、頭が悪く、口も悪い。更に顔も悪い、三拍子揃ったうつけ者だ!!」

「失敬な!!マジ失敬なおっさんだな、おいっ!!」


 人のこと言えねぇだろ。三拍子揃ってるのは道三のおっさんも同じだ。

 まあ、おっさんの発言は置いといて。この場に来ているのはナイスタイミングだ。


「ん、どうした? そんなに儂をジッと見てからに……」

「頬を染めるな、気持ちワリーぞ!!」

「何だ、違うのか…。では、何をそんなに見つめておったのだ?」

「人聞きワリーな…。まあ、何で道三のおっさんがここにいるのか、とか。その大量の荷物が何なのか、とか。どうしてそんな変装しているのか、とか。訊きたいが…」


 変装というより、仮装コスプレだな。忍者っぽい格好に背中に刀を背負っている、ニンニン的なアレ。


「道三のおっさんには仕事を頼んでいただろ!!こんな所で遊んでんじゃねーよ!!」

「ぬぬ?!お主に言われたくないわ!!女中メイドさんと乳繰り合える店があると聞いてくれば…、お主が女中メイドさんと乳繰り合っているだけの店ではないか!!これは詐欺だぞ!!」

「だから、そんな店じゃねーって言ってんだろ!!ここは健全な店なの!!お前が勝手に勘違いしただけだろうが!!」


 前言撤回。社会の常識? そんなもの知るか!!非常識な客には毅然とした態度で挑まねば。

 ましてや、俺の頼んでいた仕事を放り出して来ているおっさんには遠慮なんて無用だろ。


「何をっ?!─────」

「おい、道三のおっさん? どうしたんだ?」


 ゾクッと冷たい風が吹いた。

 流石に俺も気づいた。振り返るべきか?いや、振り返らなければいけないだろうな…。

 覚悟を決めて、後ろを振り向く。


「お兄様。それと斎藤道三様…。ここは店内です。他のご主人様に迷惑がかかります。やるならば外へ!!」


 完全、メイドが板に付いたな。この数日で、客の対応、あしらい方が上達している。今は、どこからどう見てもカンペキなメイド様だ。

 それが、逆に恐ろしい…。俺の妹がこんなに可愛いわけがないっ!!


「もしや、お市の方様か? 申し訳ない…。この道三、らしくもなくハシャいでしまったようだ。この通り、深く謝罪させて頂く─────」

「悪い、市。俺も騒ぎ過ぎた。おっさん、少し外で頭冷やすぞ」

「う、うむ。そうだな、そうしよう」


 と言いつつ、鼻の下のびのびの道三。その場を動く気配がない。

 この世界にはメイドは刺激が強過ぎたか…。

 ともかく、道三のおっさんを引っ張って店の外へ連れて行く。まだまだおっさんには言い足りないことが多いのだ。


「さあ、道三のおっさん。ちゃんと説明して貰おうか?」

「はて? 何のことかな?」

「ほほぅ。ここまで来て、まだとぼける気か。天空魔法、雷撃ライトニング────」


 俺の拳がピリッと光る。

 ここまで来てとぼけられるなら、実力行使もやむを得ない。いや、今すぐ殴り倒したい!!


「じょ、冗談だ!!冗談!!これには事情があるのだ。深ーい事情が!!そろそろ、ここに来たのもだな─────」


 ん? どうも、様子が可笑しい。いつものおっさんらしくない。道三のおっさんなら言い訳なんてせず、すぐに本題を話すはずだ。

 怪しい。これは怪しいぞ。時間稼ぎでもしてるかのようだ……。


「おっさん。俺達は確か条約を結んだよな?」

「あ、うむ。そうだな。その通りだ」

「一定量以上の物は持ち出さない。持ち出す場合は税を払う…。だっけ?」

「そ、そうだったかな?」


 汗だくになる、道三。


「これが初めてって言うなら見逃しても良いかな…とか?」

「な、何のことだか。儂にはさっぱりだ…」


 脂汗がハンパない。脈拍も呼吸も荒い。

 道三のおっさんには隠し事をする才能はないな。反応が、正直過ぎだ。

 もっとも、既に証拠は掴んでいる。天眼通による上空監視で、道三の部下がかなりの量の品物を運んでいる姿をバッチリ捉えている。

 つまり、現行犯だ。


「そうか。なら、街の付近に隠れている奴ら。道三のおっさんと似た格好をした奴らに天雷サンダーの魔法を落としても構わないよな?」


 晴天が突如として暗雲に覆われる。ゴロゴロとした雷雲だ。

 ま、落とすにしても積み荷の方に…。だけどな。

 山盛り一杯の積み荷。当てるのは簡単だ。


「ま、待て!!待ってくれ!!これは本当に仕方なくなのだ!!美濃の国でも、尾張の品は人気でな…。いつも、品切れ状態で暴動が起きそうな騒ぎになってしまっているのだ…。このままでは…」

「だからって、それはやっちゃダメだろ。それってつまり密輸入だろ? 国がそんな真似したら信頼に関わる。暴動どころの騒ぎじゃねーって。俺だって分かることだぞ」

「う…」


 様子を見るに、これが初めてじゃなさそうだ。監視している奴らの動き方をみてもそれは明らか…。

 事情は理解できる。


「だが、さっきも言ったが。これが初めてなようだし…。うーん。見逃すにしてもこのままじゃまた同じことの繰り返しになりそうだ」

「信長…。お主、何を…」

「せっかく道三のおっさんが尾張に来たんだ。また、新しい条約を結ばねーか? 今の同盟は親父と道三のおっさんの間で結んだものだし、俺が城主に変わったからな。条約を結び直す必要あるだろ?」


 俺も甘い。甘々だ。

 ま、これが俺だ。俺に出来る最大の譲歩ってやつだ。


「お主…。いや、その申し出。有り難く受けよう!!」

「ちっ。何だよ、それ。まあ、良いけどさ」

「かーっはっはっ!!城主となって少しは成長したようだな!!」

「偉そうに上から目線でなに言ってんだ。言っとくが、今回の件と道三のおっさんがしたことは別問題だからな。後で、たっぷり賠償請求させてもらうからな。覚悟しておけよ?」

「な…。鬼か、貴様は!?」

「うーん、そうだな。鬼よりは、魔王と呼んでくれ。その方が強そうだし、格好良いだろ?」


 実は既に魔王と呼ばれていたりするのだが、俺の耳には届いてない。あの件、その件。心当たりが多いから知らないが事実、裏ではそう呼ばれていた。


 今の時代。勇者より魔王の方が格好良い。それに、魔王を倒す勇者とは親友というのも、今っぽい。悪いが、魔王は死なねーよ?


「一城主が王を名乗るか…。世も末だな…」

「ま、俺と同盟組んだ時点で、道三のおっさんも悪運尽きたってことだ。道三のおっさんが俺に何をくれるのか楽しみだなーっ!!」

「最悪だ…。まさか、うつけと呼ばれた若造に儂の至宝を奪われることになるとは…」


 さて、示談交渉も終えたし。後は、またミツに新しい条約を作ってもらって解決かな。

 この店のことが、ミツにバレることになるが仕方ない。実は既にバレてる気もするし…。




 後日。織田信長と斎藤道三の同盟が結ばれた。

 改めて条約が締結して、美濃も道三のおっさんも一安心というところだ。

 勿論、此方からの報復という真似はしない。家中の者は道三のおっさんに難癖つけてきたが、俺が責任をとると言うことで黙らせた。

 実際、賠償金を貰うから被害は少ないはずだ。

 その他あれこれと手続きは終わり、道三のおっさんは美濃へ帰って行った。


 一歩間違えたら、道三のおっさんと戦争となっていたのか…。

 それも、判らず無闇に煽っていた家臣には、キツーいお仕置きが必要だな。信友と一戦やるときには捨て石に…。間違った。俺の野望の礎になって貰おう。


「それにしても、道三のおっさん…。随分、老け込んじゃったみたいだけど大丈夫か?」

「まあ、今回の件は仕方ないよ。それだけ、斎藤道三も追い詰められてはいたってことかな。時間が過ぎれば、また元気になると思うよ」

「だと良いけどさ。でも、賠償金を請求したときのおっさん、かなりヤバかっただろ?」


 泣きが入ってた。俺は端に、おっさんが一番大切にしている宝を寄越せと言っただけなのに。

 それほど、スゲー宝なのか。だとしたら、ちょっと悪いことしたな。二番目くらいに負けてやってもよかったか。だが、くれると言うなら拒否るつもりはない。貰えるなら貰うのが俺のやり方だ。


「確かに、アレは僕でも正直引いたね…。でも、あの斎藤道三の宝が何なのか、結構興味あるよね」

「あ。それには同感。道三のおっさんが手放すのを泣いて惜しむんだもんな。国宝級の宝?いや、史上最強の魔剣とかかな」

「それはどうかな。僕としては、過去の魔法書とかの方が期待できるけど…」


 それは、どっちかと言うとミツにとってのお宝のような気がする。魔法書なんてあっても俺は読まないし、宝の持ち腐れだ。ここは断然、魔剣に限る。


「ま、後は来てみてからのお楽しみ。当選は景品の発送を以て返させて頂きますってやつだな」


 と、そんな話で盛り上がった。

 道三のおっさんから、お宝が送られて来たのはひと月も経ってからのことだった。




 普通のメイドにするか、和風のメイドにするか悩んだ結果…。普通のメイドになりました。

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