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信勝謀叛

22)信勝謀叛


 時期的に梅雨真っ只中。ジメジメとしている。天気と同じで俺の機嫌も最悪だ。

 戦から時間は過ぎたってのに、親父の怪我は快気の様子をみせない。

 怪我の療養のために、かれこれ1ヶ月近く休んでいる。政に無関心な俺でも、流石に国を放置するワケには行かねーし。足りない頭を振り絞って政務に励んでいる。

 褒められもしないのに、何でこんな事やってんだかなぁ…。


「ノブ…。こんなところで何してんの?」

「別に。ただ、なかなか雨止まねーなって思ってさ」

「心配はいらないよ。きっと、信秀様もすぐに元気になるよ」


 そんな心配してねーし。別に元気になっても嬉しくねーし…。ただ、政治事から離れられるなら、早く元気になって貰いたいと願うけどな。


「あ、少し雨止んだな」

「のようだね。もう少しで梅雨明けかな」


 雲の切れ目から日差しが零れる。ミツの言うとおり、もう少しで梅雨明けのようだ。


「信長様。お館様がお呼びです……」

「ん? 分かった。すぐ行く」


 心配する意味なかったな。あ、心配なんてしてねーけどな。

 そんなことより、親父が呼んでんなら早く行かねーとな。こんな時まで怒られたくねーしな。




 俺が親父のところへ向かう最中、親父と市は────。


「市よ…。お前の気持ちは人としては間違っているやもしれん。が、だが、女としては正しきものぞ」

「父上…。父上は……」

「お前の気持ちが続く限り信長を支えてやってくれ。お前に何も残せず逝く儂を許してくれ…」

「私は…、父上を恨めしく思ったことはございません。こうして、お兄様と居ることを許してくれている父上を…。恨む理由が、どこにありますか…」

「そうか…、そうか。しかし、市に見せてやりたかったぞ。信長が活躍する姿を。 …あの信長がだぞ、あの信長が敵の主力を崩したのだ。 しかも、たった二十足らずの兵で、だ。上位武士が三人しかいなかったのだぞ」

「はい。はい、聞き及んでいます」

「ははは…。だからこそ、心配でもあるのだがな…。 ────助けとなってくれ、信長の。あいつはあれで弱い。その弱さを晒され、敵に敗れることもあるだろう…。自分に驕れ、自身に負けることもあるだろう。人であれば誰もが持つ弱さだ」

「その弱さ。私も存じてます。いつもお兄様の側にいましたから」

「ああ、そうだったな。何時、折れるやもしれん心を。市、お前が支えてやってくれ」

「是非もなく……」


 雲の切れ目から零れる日差しが、寝所を明るく照らす。

 ドタバタと歩く足音が、響き渡るのだ。




 親父のヤツ…。まだ具合よくないみたいだ。

 そこまで重傷だったようには見えなかったが…。うーん、治癒魔法の効果もないってのは何か可笑しい。


「信長か…。わざわざ済まんな。見ての通り、体が動かなくてな」

「別に構わねーよ、そんなこと。…それより何の用だ?」

「うむ…。今後のことだ」


 今後か。親父、こんな身体でやり合う気かよ。

 ホントは傷治ってんのか?


「やっぱり、あれか? 信友に報復をしようってのか?」

「強くなれ、信長」

「はあ? いきなり何を言ってんだよ。ボケるにはまだ早いんじゃねぇーのか」

「よく聞け、信長。儂が亡き後はお前が城主だ。貴様ならば、儂を超える佳き城主となろう」

「な、何を言ってんだよ。ホント、意味わかんねーし!!」


 まるで、別れの挨拶だ。遺言なんて聴く気はねーのに…。


「親の我が儘なのは分かってはいるが…。強くなれ。信長、お前を苦しませてしまったのは分かってはいた…」

「親父、親父!!親父!!」


 親子としての情なんてないと思っていたのに、何でこんなことを言うんだ。

 らしくねえっての。親に反発するなんて子供の努めみたいなもんだ。親父のしごきは、確かに厳しかったが、今の時代なら当然だとも思っていた。


「だが…。強くなったな…」


 強がってはいたが、決して強くなんてなってない。前世がどうとか、そんなことは関係なく織田信長は初めから強かった。

 俺はその強さに乗っかっていただけだ。

 最近は大人しくなったとか、丸くなったとかの評判は前世の記憶によるもの。前世オレの影響でそう見えるだけのことだ。

 俺は。俺という人間は、親父が期待しているような人間じゃない。期待されていいような人間でもない。フツーの中学生だった。

 もしかしたら、親父の「強くなれ」とは、前世の俺に向けられた言葉なのかもな…。


「全て…は、信長…お前に任せる…。すまんな…、先に…休ませて…貰う、ぞ……」

「父上…」


 そして、親父は眠るように逝った。


「市。親父は…。いや、良い。眠らせてやろう」

「はい。後のことは私が片付けておきます。お兄様は、少しお休み下さい」


 市の言葉に甘えさせてもらうとするか。何だか、急に力が抜けてしまった。疲れがドッとでたんだろう。

 俺も仕方ねー奴だ。情けねー。




 親父の死後、葬式が行われた。家中の者、市井の者も参列する中、俺は一人部屋に籠もっていた。

 親父は偉大だ。

 居なくなってみて分かることがある。俺にとって、親父は大きな存在だったようだ。

 今の俺の浮き沈みが激しく、前世の俺が揺らいでいる。自分への呵責が、俺を苛むのだ。

 俺が居なければ、こんな事にならなかった。俺が殺したようなものだ。


 だけど。そう、だけどだ。

 けじめってヤツは、つけなければならない。

 親父から水曜の才を継承し、魔法を使えるようになった信勝。それが指し示すのは…。


「ノブ。葬儀は終わったよ。でも、出なくて良かったの…?」


 ミツのヤツ…。顔を出さない俺を心配して来てくれたのか。

 ま、ホントなら俺が喪主をやらなきゃイケねーんだけど。…この様だ。

 魔法を使ってないのにMP0の状態。つまり、真っ白け。親父には強くなれと言われたが、逆に衰弱してしまった。


「出られねぇよ。どの面下げて出れば良いんだよ」

「そうだね。もう一つ、言っておくことがある。信勝様が、信秀様の魔法を継承したよ」

「それは知ってる。市に聴いたからな。あいつ、魔法が使えないこと悔しがってし…。良かったんじゃないのか?」


 魔法の継承は失敗が多い。その中で、成功したのは血統によるもの。親子だからだ。

 赤の他人から継承はほぼ不可能とされる。親子で八割。他人で一割なし。と言うのが継承の通説だ。

 これで信勝も、名実ともに継承者ってわけだ。


「そう言うわけにもいかないんだよ。嫡男はノブだ。それを弟の信勝様が魔法を継承したとなるとノブの立場が危うくなる」

「別に良いさ。けど、ま。決着はつけないとな…。親父の葬式だ。派手に行こうか、派手にさ」


 親父の遺言だ。

 だっつても、実際、城主になれと言われてもピンと来ない。

 そもそも、俺は中学生だったのだ。

 国を任せると言われたところで、何をしていいのかも分からない。フツーの生活を送っている方が、至極まともだ。


「喪主は、ノブだよ。そろそろ僕の方も、この葬式に飽きてきたところだし…。織田信長流葬儀を始めるのも良いかもね」

「ミツ…。なんか、カッコイいな。織田信長流葬儀って響き。必殺技みたいだ」

「準備はしていたよ。証拠も揃ってる。後はノブのその必殺技で決着をつけに行こか?」

「おう!!と、なれば!!ハァアッ!! ────魔力回復!! 魔力、全・解・放!!」


 魔法とは気の持ちようだ。魔力とは精神の状態だ。

 やるべき事。やりたい事があるのなら、自然と魔力は復活するし、魔力を高めることも出来る。


 でも…。全てが終わったら俺はどうすんだろ?




「の、信長様!? そ、そのお姿は!!」


 家臣の一人が俺を見て驚いた。

 俺、覚醒!!

 何てのは、半分冗談だ。目覚めたのは俺の鎧の方だ。

 西洋風軽鎧。美濃で造ったあの黒塗りの鎧だ。

 何を思ったのか、鎧が覚醒してしまった。どうやら俺の魔力に中てられたらしい。魔剣ならぬ魔鎧だ。

 だからと言って、魔剣ののように意思のようなものはないみたいだ。

 生まれたばかりだからか?

 それでも、魔剣“大蛇”と同様に形を変えることができる。

 俺の魔力をもとにした影響で、俺以外扱えない。完璧、俺専用鎧ということだ。


 まあ、そんなことより。何故、鎧を着ているのかと言えば、これが武士の正装だからだ。勿論、俺なりの、…なのだが。

 それを証明してか、葬儀の席は「空気読めよ」の雰囲気に包まれている。


「祭りだよ。祭り。そんなの見れば分んだろ。親父に涙の分かれは似合わねーよ!!咲き誇れ、桜!!乱れ咲け、桜!!極魔法、桜花爛漫!!」


 季節はずれの桜を咲かせる。これは多少、俺の皮肉も込めている。すぐに散る花、桜だ。


「…バカか…。その格好で、祭りだと? 葬儀と祭りの区別もつかぬ、うつけ者めがっ!!」


 当然の反応だ。呆れる者もいれば、驚く者もいる。

 俺から贈る、桜の花道だ。俺もミツも一度は死んだ身だ。こんなことに意味のないことは分かっている。


「兄上。流石にこれはやり過ぎです。父上の葬儀ですよ」

「何だ。気に食わねえのか、信勝?」

「当たり前です!!こんなことをして父上が喜ぶはずないでしょう!!」

「なら、表に出ろよ。ケリをつけよう」

「兄上?それはどう言う意味ですか?」

「手っ取り早くて良いだろ。お前にとってはさ」

「………」


 信勝は答えない。本心を問うているだけなのに、な。


「俺が気づいてないとでも思ってたのか、信勝。」

「………」


 またもや信勝は答えない。核心を問うているだけなのに、な。

 もっとも、俺は別に答を求めていない。答えを聞いたところで、結局やることは変わらなねーし。


「俺はお前を認めてるところが一つある。いや、違うな。羨ましいと思っているところだよな。何だと思う?」

「………」

「人を扱う上手さだよ。その才能は、魔法なんかよりずっとスゲーことなんだ」

「………」

「だがな。お前はその才能の使い方を間違えた。人を操り、人を騙す。そうやって親父の側近を動かして親父を殺したんだろ?」


 親父を刺して返り討ちにあった男。名前は何つったか。

 まあ、そんなヤツのことはどうでもいい。問題は、そいつを使って信勝が親父を殺した事実だ。


「人聞きの悪い言い方です。その方が勝手に裏切ったのでしょ?」

「そうだな。裏切りは死罪。そんな馬鹿な男を親父が側に置くはずねーだろ。得したのはお前で、ソイツじゃねえ。親父から魔法を継承。後は邪魔な嫡男を殺せば織田は手には入る。そう言うことだろ?」


 俺の天眼通は全ての罪を見抜く…。と言うのは、もちろん嘘だ。ホントはミツと秀吉の調べで確証を得たことだ。


「兄上は本気で僕が父上を手に掛けたと?」

「なあ、いい加減さ。いい子ちゃん振るのやめてくれねーか。虫唾が走るんだよ」

「ふ、ふふ。はーっははっ!!そうでした。兄上は昔っから僕のこと嫌ってましたもんね!!父上も、信長信長と兄上のことばかり!!魔法を使えなくとも優秀なのは僕の方だと言うのにね!!僕だって魔法さえ使えれば、兄上如きに後れをとったりなんてしませんよ!!」

「そっちの方が似合ってんじゃん、いいキャラしてるよ。俺も遠慮なくブチのめすことができそうだ」


 うんうん。やっぱり、崖の上に追いつめられた犯人はそうこないとな。

 残念ながら、俺は名探偵ではないので、追いつめた犯人を崖から落とすのだ。


「良いでしょう。僕も本気で行かせて貰いますよ。────この太刀で、兄上に引導を渡してあげますよ」


 そう言うと、信勝は刀を抜いた。見た感じフツーの刀だ。

 他の奴らが見たら、だけどな。俺の目には禍々しい魔力を帯びた刀に見えている。

 きっと、あれが親父を刺したものだろう。フツーの刀傷なら、市の治癒魔法で治っていたはずだ。

 信勝は、別段に魔剣に中てられた様子はない。

 それは信勝が、魔剣を使いこなしていることに他ならない。昨日今日で手に入れた刀ではないという事だ。

 …まったく、厄介なものを。

 それでも、負ける気はしない。魔剣なら俺も持っている。使う気はないけどな。


「いつまで、そうして睨んでいるつもりですか? 兄上が来ないなら、こちらから行きますよ」


 刀を振るって駆けてくる、信勝。その表情は笑みを浮かべている。

 ホント、兄を兄と思ってねーんだな。

 だが、その方が俺もやり易い。同じ血を分けた兄弟とは言え、生死をかけた死闘には関係ないことだ。


「ああ。どこからでもどーぞ」


 上段からの一太刀。鋭い太刀筋だ。

 今まで信勝は魔法を使えなかった。それ故に剣を鍛えて来たのだろうけど…。真っ直ぐで正直過ぎる。

 弱いワケではないが、秀吉や山賊と戦ってきたから俺のような素人でも分かる動きだ。人を殺すための工夫がない。卑怯と言われても戦場ではその言葉に意味はない。勝てれば良いのだ。


「く…。兄上のくせに生意気な!!」


 さらにブンブンと刀を振り回す。

 ホントお坊ちゃんだな。稽古じゃねーんだし、動かない的を相手にしているのとは違うんだっての。


「ダメダメだな、信勝。そんな程度で俺は倒せねーよ」

「それは、こちらの台詞です。手に入れたばかりですが、これが僕の魔法です!!水牙衝!!」


 信勝の放った水飛沫が、鋭く尖った牙になって飛んでくる。

 これもまた真っ正直に真っ直ぐな攻撃だ。


「何が僕のだ…。それは親父の魔法だろ。風砂嵐舞サンドストーム!!」


 風によって巻き上げられた砂が水牙衝をかき消す。だが、俺の魔法はそれで終わらない。

 俺の操る風も砂も、信長の魔法とは質も量も違う。巻き起こした砂嵐が周囲を覆う。


「目くらましですか? やはり、兄上。大うつけですね!!水に風など!!明鏡止水!!」

「砂塵。─────


 サンドストームに更に砂を混ぜる。


「またですか? 明鏡止水!!」

「石塵。─────


 そして、更に石を混ぜる。


「気でも狂いましたか? 明鏡止水!!」

「岩塵。─────


 次は、岩を…。


「いい加減!! 明鏡止水…!?」

「巌塵。


 岩は磨かれ、やがて鋭利な刃に。


「何度も何度も…。明鏡止水…」

「嶽塵。


 それが数十、数百、数千、数万。

 信勝の周囲を無数の刃で覆っている。それにようやく気がついた信勝は慌てる。


「め、明鏡…、止水!! ………な、なんで魔法が出ない!!」


 信勝は分かってないみたいだが、明鏡止水は防御のための魔法じゃ、ない。

 これは回避のための魔法だ。逃げ道のないこの空間ではほとんど意味のない魔法だ。つまり、魔法の無駄遣い。


「どうしたよ? 随分と顔色悪くなったな、信勝?」

「こ、これは!?これは、兄上の仕業ですか!!」

「ちげーよ、バカが。調子乗って、親父の奥義魔法を連発したお前が勝手に自滅しただけだっつーの。昨日今日で、魔法を覚えた奴が親父の魔法を簡単に使えるかっての」

「自滅?ふざけるな!!僕が、そんな愚かな失敗をするはずないだろ!!」

「あっそ。でも、お前の状況は何も変わんねーぞ。お前の運命もな?」


 少し風の流れを変えてやれば…。

 規則的に渦を巻いていた風が乱れる。風にはじかれ無数の刃が、音を立てて地面へと突き刺さった。

 これにビビったのは信勝だ。もし、それが当たればどうなるか。

 想像したくなくても、考えてしまったのだ。信勝の注意は上に向く。

 どこから、さっきのように刃が飛んでくるか分からないからだ。


「極魔法、無間奈落ゴー・ヘル……」


 つい、イタズラ心が芽生えてしまった。

 上に向いた意識の不意をつく、この意表を返すイタズラ。

 信勝の顔が面白いことになっている。それも一瞬のことだ。

 俺の開けた落とし穴に無様に落ちる。バラエティー的には超スロー再生で、それもあらゆる角度から繰り返される映像だろう。


「は?え、な!?あーにーぅーぇー────」


 反響して響く声も、直ぐに聞こえなくなる。出したサンドストームだが、結局無駄になった。勿体ないので全てを穴に放り込む。

 穴が狭すぎた。穴を外れズカズカと突き刺さった岩の刃が剣山のように積み重なっている。

 信勝には過ぎた墓標だ。


「安心しろ、信勝。お供も一緒だ。先に行ってまってろ」

「の、信長様!?これは、こんな真似をしてただで済むとお思いか!!」

「おいおい、何だ。信勝側に付いてる奴らってこんなに多いのか? じゃ、俺の邪魔だから信勝と一緒に落ちろ。無間────」

「お!!お待ち下さい、信長様!!我らは、信長様を見誤っておりました!!やはり、嫡男として相応しいのは信長様!!我らは…」


 人のこと、散々バカにしておいて…。


「お前ら、宗家の出だろ? 信勝に付いていたのも、宗家の意志ってやつだろ?」

「いえ!!我らは!!」


 生き残るために必死だな。はっきり言って見苦しい奴らだ。


「残念。聞く耳持ってねーよ。俺、バカだもん。でも、情けはかけてやる」

「の、信長様!!か、かたじけない…」

「半殺しくらいで良いよな? 半間奈落ゴー・ヘル?」


 さっきの半分程度で抑える。まあ、抑えたところで罰は変わらない。運が良ければ生き残るんじゃない?くらいの落とし穴だ。


「この、大うつけがあぁぁぁぁぁ─────」

「安心しろ。途中で地面にぶつかって止まるよ。登ってきたら見逃してやんよ。ま、邪魔だから穴は塞ぐけどな」


 ドンと上から岩で蓋をする。関係のない誰かが落ちたら大変だ。

 だが、何だろうな。城に余計なものが増えてしまった気がする。ま、いっか。


「さて、これで俺が城主だな。他に異論があるヤツはいるか?」


 誰も何も答えない。無言だ。


「み、皆の者。それでは、信長様が次の城主で宜しいか?」

「う、うむ。これより、我ら家臣団。信長様に忠義を尽くすといたします」


 沈黙を破ったのは、柴田の…。

 確か、コイツも信勝を推していたヤツだ。だけど、野心家と言うより尾張を思っての行動だ。

 どちらが主君として相応しいのか、秤に掛けて出した答えで、欲に目の眩んだ他の信勝派とは違う。

 織田の重臣でもある、その柴田がまとめ役となってくれた。


「そうであるな。しかし、今は葬儀の場である。跡目の話は、全てが終わったあとでも構わないのであるか?」

「信秀様の家臣達も色々と話し合うことも必要でしょうし……」


 そうだな。俺が城主になることに反対はないが、扱い方が分からないというやつだな。


「分かった。後は、お前たちが答えを出せ。城を離れるのも自由だ。好きにしろ」


 結局、こいつらは親父の家臣で、俺に従う必要はない。気に入らない奴に無理について来ることはないのだ。


 まあ、その場合は退職金でも払ってやるけどな。


「はい。では、そうさせて頂きます。して、信長様…」

「うん? 何だ。まだ何かあるのか?」

「いつまでそのような格好でいるおつもりですか?」


 それは、それ。これは、これ。

 やはり、俺の格好が気に入らないようだ。仕方ないからフツーに着替えた。

 これ以上は、無駄な争いをしたくないし…。真面目な奴を怒らせる。その怖さは身にしみて分かっているので、当然の措置だ。


 親父の葬儀が終わったのは一週間後のこと。そして俺は正式に城主となった。



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