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急変

21)急変


 人力トラックがゴトゴト音を立てて走る。実際にはモーターを付けたものだ。人力でモーターを回して走るトラック。言わば、人力式電動トラックだ。

 乗り心地は思っていたより良い。振動も少なく、車内も広くなっている。それこそ足も伸ばせる広さだ。

 不満があるとすれば、エアコンがない。ということだけだな。


「ふぅ。アッチいな…」

「お兄様、大丈夫ですか? 何でしたら、私が扇いで……」

「いやいや。暑いのはみんな同じ。ここは、俺が───」

「ノブ? 何をする気だよ」

「涼むんだよ。魔法でな。───冷風微弱クールダウン!!」


 車内を冷たい風が包む。結界魔法の応用だ。

 正しい使い方としては、弓矢などの対応が主になる。


「おおっ!?涼しいッス!!」


 キコキコと自転車を漕ぐ、秀吉。汗だくな姿が今更ながら見苦しい。

 冷気に当てられ、元気を取り戻したようだ。


「秀吉、大丈夫か。休憩入れてもいいんだぞ?」

「まだまだ行けるッス!!」

「なら、良いんだけどさ。疲れたなら言えよ。お前にヘバられたら、今度は俺の番になるんだからな」

「あ、そう言う意味ッスか…」

「冗談だ。あんま無理するなよってことだよ」


 いくら何でも、俺もそこまで鬼じゃねぇーよ。化け物じみた体力を持つからって、そこまで酷使するはずねーじゃん。

 これだって、秀吉を想っての魔法なんだから。


「まあ、あと少しで峠を越えるからね。そこまで行ったら休憩にしよう」

「だってさ、秀吉。もうちょっと頑張れ」

「うっす!!」


 流石、体育会系だな。アツい男だ。


 その後も、何事もなくトラックは進む。安全運転だ。

 来たときと同じ道を通っているが、今回は山賊は出て来ないようだな。俺としては、魔法銃の一発でもお見舞いしてやりたいが…。襲ってくる気配がない。て、不謹慎だったか?

 山賊も山賊なりにプライドがあるんだろうし…。


 峠を過ぎると、なだらかな傾斜の下り道だ。

 秀吉も楽々といった感じだ。苦もあれば楽もある。水戸のご老公様も歌っているしな。

 尾張国内に入り、親父の城も見えてくる。俺達の旅も終わりだな。

 懐かしき我が家。懐かしき黒煙。え、黒煙?

 …何か様子が変だ。


「ミツ…。これは何が起きてるんだ…?」

「マズいね。これは」

「うっす、そうみたいッスね。光秀さん、急ぎますか?」

「いや、遠回りして迂回して行こう。こちらには市姫様達も乗っているんだ。気づかれないようにゆっくりでいい」


 俺を置いてけぼりにして、勝手に話を進めるなよな。イマイチ、状況が掴めないが…。二人の雰囲気がただ事じゃないと言っている。


「もしかしなくても、ミツ。これは戦が始まってるんじゃねえか?」

「ん。うん。まあ、そうだね」

「そうだねって!?なに冷静に言ってんだ!!俺の街は?!畑は無事なんだろうな!!」

「大丈夫だよ。田畑に手を出す侍はいないよ。攻めてくる敵だって占領した後のことも考えているよ」


 ほっ。なら、良し。いや、良くないけど…。せっかく育てた作物が踏み荒らされるとこなんて見たくねーよ。


「占領後ね…。俺のモンを横取りする気かよ」

「言っとくけど、このまま戦場に突っ込むのは、駄目だかんね」

「当然だ。市を…。市たちを乗せたままで戦場に行けるかよ。だけど、城に戻ったら────」

「うん。分かってるよ。僕達も参戦しよう。ここまで攻め込まれてるってことは、かなり旗色が悪そうだよ」

「うっす。じゃあ、早速後ろの荷物の出番っすね」

「そう言うことになるな。準備しておく」


 積み荷。銃の威力を試す絶好の機会だ。見逃す手はない。

 とは言え、銃の暴発を防ぐために日緋色金の魔力は全部抜いてある。魔力補充しておく必要がある。

 ついでに、魔導砲にも魔力充填。これは一発分で良いだろう。


「しかし、なんつーか。俺も成長したもんだ。まだ余裕あんな」


 フルチャージしても、まだMP的に余裕がある。全然、戦える。

 しかし。一体誰が攻めて来たんだ?

 城攻めとなると、山賊ではないのは確かだろうけど。

 どうしよう。心当たりが多すぎて困る。俺と違って、親父には敵が多いからな。


「ノブ!!そろそろ、城に着くよ!!」

「おう、分かった!!こっちの準備は終わってるぞ!!」


 固く閉ざされた門も、俺の姿を確認した門番によって開かれる。見慣れないトラックに驚いていた様子だが、説明している時間はないのだ。

 市たちを降ろすと、俺の所に家臣の者達がやってくる。

 俺の下で働く奴らだ。俺の不在で、城に残って守りについていたようだ。


「信長様、お帰りをお待ちしてました!!」

「挨拶は要らねーから、状況を教えろ。一体、どこのどいつが攻めて来たんだ」

「はい!!相手は清洲城城主の織田信友です!!先の一件、星落としの件で信秀様に謀叛の疑いありと戦を仕掛けてきたようです!!」


 へ…。つまり、俺の責任かよ!?あの件に関してはちゃんと説明したはずだ。

 なのに親父が責められるってのは、可笑しな話だ。確かに親父と清洲の叔父とは仲は悪かったが、言いがかりにもほどがある。


「ミツ。これは返り討ちにしても問題ないよな?」

「当然だよ。謀叛も何も、何の証拠もなく攻めて来るんだ。守るものはちゃんと守らないといけない」

「よし!!じゃ、決まりだ!!お前たち、トラックに乗れ。武器と鎧がある。着替えが済んだら一気に行くぞ!!」

「はい、信長!!」


 魔法の使えない奴らには軽鎧を着せる。武器は銃を持たせる。使い方を簡単に説明。

 俺の家臣になりたいと来た奴らだ。バカだが、頭の回転は早い。すぐに呑み込んだ。

 魔法の使える奴は大鎧の方を着せる。ミツと秀吉も大鎧の方だ。それで丁度、5着分になる。

 武器は各自で、それぞれ用意してある。槍を持った奴。弓を持った奴。二本差しを持った奴。ミツは刀で、秀吉は手甲だ。

 既にそれぞれの魔法は把握済みだ。連携も取れる。後は、銃の働き次第で行動を変えていけば良い。

 さて、俺も準備を終える。道三のおっさんの所で造った自前の鎧だ。やはり、俺のセンスは抜群だな。

 他の鎧とは比べるべきもねーほどの仕上がりだ。西洋甲冑をベースにした軽鎧だ。

 当然、武器に刀は外せない。この刀は、道三のおっさんからの貰い物だが、これも魔剣だ。扱えない類いの魔剣じゃない。しっくりくる程ではないが、俺に馴染む感じではある。


「道三のおっさんには感謝だな。いきなり使うとは思ってなかったが、早速役に立つようだぞ」

「お兄様…」

「どうした、市。ここは危ねーから、城に入ってろよ」

「はい。ですが、お見送りはさせて下さい」

「大丈夫だ。ちゃんと戻って来るから、心配すんな」

「信じてお待ちしております。ご武運を、お兄様」

「ああ!!行ってくる!!」


 再びトラックは門をくぐり、今度は城の外へ出る。カッコウの鳴く城下町を抜け、親父が居る戦場へと向かう。


「そうだ、ミツ。親父の所に行く前に一発お見舞いしてやらねぇーか?」

「ノブらしくて良いんじゃないの」

「秀吉、トラックを回転させんぞ。お前らもしっかり掴まっておけよ!!」

「じゃあ、行くよ!!」


 急ハンドルを切って、トラックを回転させる。半回転して荷台が前方を向いた。

 魔導砲もまだ完成とは言えないな。台座に固定して砲身を動かすことが出来ない仕様だ。360°回転とか上下角調整とか出来たら戦車として使えそうだ。


「前方に味方は居ません、信長様!!」

「なら、発射だ!!テエェーーッ!!!」


 白馬の艦長さんの如く発射命令を出す。

 魔導砲。コイツは魔法銃とは根本が違う。魔法銃は日緋色金に溜めた魔力を弾として撃ち出す銃だ。

 魔導砲の弾は日緋色金そのものだ。砲身にも日緋色金が使われている。

 魔力補充された日緋色金は、吸収した魔法の属性により性質を変える。天属性同士は互いに反発し合う性質を持つことが分かっている。

 その性質を利用したのが、この魔導砲だ。強力な電磁場を生み出し、弾となる日緋色金が超加速して撃ち出される。


「っつ…!」

「だ、大丈夫ッスか!?」


 あまりの加速に空気も焼けてしまった。

 実射したのは、これが初めてだ。

 だが、成功だ。流石、夢兵器。想像以上の威力だ。地面も吹き飛ばし大穴を開けた。

 親父の軍勢を包囲していた敵の一角が完全に崩壊したとこで。ここは、間髪入れず攻め込む。

 突然の攻撃にまともに動ける者はいない。


「お前ら!!行くぞ!!」

「お、オオーッ!!」

「秀吉。僕らは信秀様の加勢に行くよ!!」

「うっす。分かりやした!!」


 俺達の強襲を受け、混乱状態の敵陣。

 親父の方が劣勢なのは見て分かる。いくら親父でも、この戦況をひっくり返すのは無理だろ。かと言って、俺達が加勢したところで焼け石に…。

 ならばこの混乱の中、更に魔法銃で攻撃すれば、時間を稼げる。それで立て直しは効くはずだ。


「銃を撃ち終わった奴らは俺の所へ来い!!魔力補充すっからな。したら、もう一度撃ち込め!!」

「はい!!」


 魔法銃の魔力補充に属性は関係ない。

 俺の他の魔法を使える奴らも魔力補充に協力する。

 撃ち出される魔法弾一つ一つが大砲並みの威力、貫通力を持っている。人が羽毛のように飛んで行く様子は、敵味方ともに茫然とさせた。

 勿論、俺もビックリだ。やっぱり、銃の制圧力はスゲー。遠距離最強だな。

 更に続けられる砲撃に敵の数も減ってきた。だが、逆に混乱も治まってきようだ。防御魔法による防御部隊が敷かれ、魔法銃の攻撃が弾かれてしまう。攻撃魔法や弓矢による反撃も来るが、魔法銃の射程距離は段違いだ。

 こっちに被害は出てない。今のところは…、だ。

 半兵衛はこのまま銃部隊を任せて後方支援に回すとして。利家と長秀は、そろそろ前線に回すべきか…。


「銃部隊は縦列待機だ。魔力補充は半兵衛に任せる。俺と利家、長秀は前に出て討ち漏らしを叩くからな!!」

「分かりました。後ろの守りは私が!!」

「ああ、頼む!!」


 にしても、なんつー数で攻めてきたんだ。ホント、焼け石に水だな。チクショーが!!


「とりあえず、敵の注意をこちらに向かわせる!!親父達が立て直すまで持ちこたえろ!!」

「はい!!我が槍の冴え、見せてやるでござるよ!!」

「何を!!俺の方が、お前より手柄は上げてやるさ!!」

「言ってろ!!部下に負けるほど、俺もヘタレじゃねーぞ!!」


 俺と利家、長秀で敵の防御を崩す。そうすれば、また銃による攻撃が通るはずだ。

 銃声が響く中を駆け回り、幾多の敵兵を討ち取り続ける。こっちは無双してるんじゃねーってのに、倒しても倒しても沸いてくる。

 この数だと、魔法もあまり効果がねーな。


 <主よ…。>


「あ? 誰か、何か呼んだか!?」


 主と呼ばれる謂われはねーけど。俺を呼んでいる、ような気がした。


「何のことでござるか!!」

「信長様、どうした?」

「ん。やっぱり、気のせいか?」


 <我を呼べ…。我は大蛇オロチの太刀。主の振るう太刀の化身…。>


「な!?んじゃ、それ!!」


 <我を呼べ…。>


 魔剣がしゃべってるって?

 あるはず…、ない。でも、あるからにはあるのだ?

 流石に俺もマジビックリだ。ま、魔剣だし…。それくらい、フツーなのか?


「何か、知らんが。お前を呼べばいいのか? ───まあ、呼ぶくらい何でもないけどな。来い!!オロチ!!」


 <身命承った。主よ、我が力存分に振るうが良い!!>


 我が意を得たり、と言わんばかりに刀の魔力が膨れ上がる。天魔の時と同じだ。


「て!!またかよ!?魔剣ってやつは何でこう刀身がくねくねと曲がるんだよ!!」


 俺の魔力をガンガン吸収して行く。だが、力が抜けていく感じはしない。

 抜けた分の魔力をこの刀が俺の方に送って来ている。


 <我は蛇神。毒であり薬でもある。何も不思議ではあるまい。>


「不思議だろ!!どう見ても不思議だっつーの!!でもいい!!その力、俺に貸せ!!オロチ!!いや、大蛇オロチ麁正あらまさ!!」


 うねる刀身が十本に分かれ、天を覆うほどに巨大化した。

 扇状に広がる刀を振り下ろし、大地に叩きつける。押しつぶされたのは敵兵のみ。場合によっては丸のみだ。

 圧殺、絞殺、毒殺。

 刀身が蛇なモンで勝手に動きまわる。俺の意思じゃない!!ホントにだ!!


「おいっ!?敵味方、ちゃんと分かってんのか!!」


 <当然よ。主の敵のみ討ち滅ぼすのは容易いことよ。>


「………ねーよ。ありえねーよ!?何、魔剣ってこんなスゲーのかよ!!」


 <この程度で驚かれては困る…。既に敵大将も確認した。このまま連れて行く。>


「お、おいっ?!何するつもりだ!!」


 十本に分かれた刀身が一つになる。残った蛇が縮まって、俺は切っ先の蛇の頭のあるところまで引っ張られた。

 この状態…。まるで蛇に絡め捕られる獲物だな。

 まったく、迷惑な蛇だ。俺の今の姿はともかく、つまりだ。そこに敵大将がいるってことだ。


「な、に。なに者だぁー!?き、貴様はわぁー!!」


 半物体の蛇。徐々に薄れていく蛇の姿から現れるのは、俺!!

 魔剣の蛇とは言え、蛇に睨まれた蛙、状態ってやつだ。ビビり入ってる敵大将は油汗まみれだ。


「なあ? いつも思うんだが、死んでいく相手にわざわざ名乗る必要ってあんのか?」

「うつけ者め…。そ、そうか!!貴様が織田信長か!!」

「連想ゲームみたいに俺の名を言うな!!それじゃあ俺の代名詞がうつけ者みたいじゃねかよ!!」

「かぁっ、はっはっ!!儂の目的である織田信長が、自らノコノコやってくるとは!!やはり、天は我の味方よ!!」


 え? 何、コイツの目的って俺なの?

 …ああ。そう言や、そうだった。そもそもの名目が俺だったな。

 だが、ここまで攻め込まれて命乞いするのは癪に障る。今の状況を鑑みるに、形勢逆転だろ?

 頭を下げる必要皆無!!


「俺の敵がお前でも天だろうと関係ねーよ。まぁ、何にしても戯れ言は俺を倒してから言えばいいさ」

「身の程をわきまえろ!!我は、織田信友!!貴様とは格が違うわ!!水狼群!!」


 放たれたのは小さな水の狼達。群がる狼だが、一匹一匹は弱い。刀の一太刀で2~3匹は簡単に断ち切れるほどだ。

 これなら、親父の方がよっぽど強い。


「何だ? こんなもんで格が違うとか言ってんのか。お前こそ身の程を弁えろって感じだな!!」

「ふん!!この程度で図に乗るなよ、うつけ者めが!!水群狼王!! ───どうだ。水群狼王は、倒された水狼群が多いほどに力を増して行くぞ!!だが、これで終わらぬ。水狼群よ!!再び出でよ!!」


 信友の生み出した一匹の狼が、倒した小狼を飲み干して巨大化する。

 新たに生まれた小狼も倒せば、その分あの狼が巨大化していくってことか?


「っとに!!面倒クセーな!!」


 チマチマとやっていくのは時間の無駄だ。


「どうした!!手も足もでないか、うつけ者が!!」

「うつけうつけって、ウッセーんだよ!!不死鳥之一矢フェニックス・アロー!!」

「愚か!!所詮、見かけ倒しよ!!」


 属性の相性くらい俺も理解している。しかしだ。水は温められれば蒸発するものだ。

 当然、巨大化した狼もその体積を奪われる。

 今もぶつかり合う不死鳥と巨大狼。モクモクと沸き立つ水蒸気だが、最後は不死鳥の勢いが押され巨大狼だけが残る。


「随分と小っさくなったな?」


 最初の半分もないサイズだ。巨大化しようにも、周りにいた小狼も一緒に蒸発している。

 信友の顔色は悪い。再度、水狼群を使えるだけのMPは残ってないはずだ。


「ふん。それでも貴様を倒すには十分だ!!行け、水群狼王よ!!」


 その命令は届くことはない。一歩も動くことなく水群狼王は立ち尽くしていた。

 信友に理解できるはずがない。俺の魔法の本当の意味ってヤツを。


「何故だ!!何故、命令を聞かんのだ!!」

「決まっている。俺にだって分かることだ。その魔法はすでに死んでんだ」

「何を馬鹿な……」

「不死鳥は何度でも蘇る。不死鳥之輪廻リヴァイバル・フェニックス!!」


 水群狼王の腹にくすぶる炎が勢いを増し、不死鳥ははらわたを食い破る。

 尚も燃え盛る不死鳥は、水群狼王を焼き尽くし蒸発させた。

 俺の魔法不死鳥は健在。優勢は決まったも同然だ。やるからには徹底的に!!


「クッ?!おのれ!!」

「これで、終いだ!!煉獄之インフェルノ────」

「ノブ様!!大変っす!!ノブ様!!!」

「秀吉、ちょっと待て。今……」

「それどころじゃねーっす!!ノブ様!!信秀の親父さんが!!」

「親父?親父がどうしたんだ?」


 つーか、秀吉が何でここにいる。ミツと一緒に親父のところへ行ったはずだろ。


「ふっ…。はっはっはっ!!やったか、やたったな!!信勝よ!!」

「信勝? 親父と信勝がどうした。てーか、お前!!何を知ってんだ!!」

「信秀は裏切られたのよ!!自分の息子にな!!」

「いくら何でも、それは────。まさか、信友!!お前の策略か!!」


 元々、城の内部には二つの派閥があった。俺には興味のない話。権力闘争、派閥争いってヤツだ。

 信秀の跡目は誰が継ぐのか。

 俺の派閥は少ない。もっぱら、弟である信勝が継ぐべきだという意見が多い。

 だが、親父は俺を跡目にすると決めている。それは魔法の才で決められたことだ。

 信勝には俺のような魔法の才はない。魔法が使えない以上、信勝にその可能性は…。信勝の狙いが分かんねーな。

 もしかして、別の目的があるのか?


「覚悟しておけ、信長よ。次に相見える時は貴様も終わりよ!!その時こそ、我が前にひれ伏すがよいわっ!!」

「て、お前!!逃げるのかよ!?」

「ノブ様!!そんな奴は放っておきましょ!!今は信秀の親父さんっすよ!!」


 だな…。

 親父のことだから、そんな簡単にやられるはずねーし。戻ればピンピンしてるに決まってる。

 …はずだ。

 何にしても、情報が足りねー。信勝が裏切ったとなると、現状を維持するのも難しいか…。


「秀吉。親父のところへ行くぞ!!全軍に撤退命令を出せ!!」

「分かったっす!!」


 信友が逃げたことで、敵軍も撤退を始めている。これ以上の戦闘は無意味だ。

 グズグズもしてられない。急いで親父のところへ向かう。


「親父!!生きてるか!?」

「うむ…。信長か、大丈夫だ。生きているぞ」


 多少、顔色は悪いが無事みたいだ。


「信勝か? 信勝にやられたのか?」

「信勝がどうかしたのか? まあいい。この傷は側近の一人にやられてな…。その場で首を跳ねてやったが、この様よ」

「そうか…。まさか、俺が親父の心配をすることになるなんてな。思ってなかった」


 信勝は無関係か。じゃあ、信友のあれは俺の注意を逸らすための嘘ってことか。

 うわ。ガキから逃げるのに嘘までつくのか。サイテーな大人だな。


「お前に心配されるほど、儂は落ちてないわ」

「ま、無事で良かった。早く城へ戻るぞ。その傷だ。手当てが必要だろ?」

「うむ。早く、市に治癒して貰わねばな」

「ズリーな、親父」

「これも親としての特権よ」


 ホントは元気満々じゃねーか。マジ、心配して損した。

 それでも、不意の一撃を喰らったのだ。軽い怪我でもなさそうだし、城へは超特急で向かう。

 ミツが残ってくれると言うので、俺も仕方なーく城へ戻る。

 出迎えてくれるのは、市だ。他にも治癒系統魔法を使える者達も来ている。

 市にではなく、別のヤツに治癒させてやろうかと思ったが…。親父の顔を見たら、な。


「市。親父の治癒を頼む」

「はい。お任せ下さい────」

「市よ…。後は頼むぞ」

「はい、父上……」


 親父の傷を見た市は真剣な面持ちだ。流石に、こんな時にお兄ちゃんお兄ちゃんとは言ってはくれねーか。


「親父。また、後でな。話したいこともあるんだ」

「美濃の土産話か?」

「まあ、うん。そんなところだ」


 実際は、信友の言ったことだ。信勝の話は、いちおう親父にも聞いて貰った方がいい。


「お前ら。親父の側には市以外近づけさせねーように見張っとけ」

「はい」


 信勝にも見張り付けといた方がいいか?

 でも、今はその人員もいねーし…。俺しかいねーじゃん。


 天眼通。こんなことで、この魔法を使うとは思ってなかった。確かに、親父の言うとおり信勝は城に籠もっていたようだ。

 俺の考え過ぎか…。なら、それはそれで良い。信友が次はどんな手で来るか対策打っておかねーとマズいし、やることは多いのだ。


 とりあえず、危機は去った。親父の快気を待ってから行動となるだろうし、今日はゆっくり休もう…。

 と、その前にミツ達も呼び戻しておかねーとな。


 城の外はまだ慌ただしい。尾張を覆う暗雲は、やがて雨へと変わる。今日、戦場で流れた血を洗い流す涙雨のように、数日と降り続けた…。




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