鉄砲伝来
20)鉄砲伝来
郊外に建てられた真四角な建物。連日連夜、ガンガンと音の鳴り止まない様相に街の者達も首を傾げていた。
熱い鉄。熱い男達。ここは戦場と化している。
現代なら騒音で訴えられても可笑しくないレベルだが、ここは戦国異世界!!誰も止められる者は居ないっ!!つまり!!
「好き勝手やり放題。美濃に来たのは正解だったな!!」
「それは、ノブだけだ!!僕の方が手が回らないよ!!」
「そうッスか。俺は結構楽しいッスよ?」
「秀吉は何気に器用だよな。細かい部品とかもサクサク組み立てちゃうし」
俺が部品を作って、秀吉が組み立てる。出来上がった物はミツが、職人達の下へ。見本を見ながら職人達が量産する。これが一連の作業だ。
「ノブ様。俺だってやるときはきっちりやるっす。人を見かけで判断したらダメッスよ?」
「分かってはいるけど、秀吉だろ? 結構、難しいよな」
「それが見た目だけの判断ってヤツッスよ!!」
「悪かったって。でも、頼りにしてんのは確かだ。理屈は分かったし、ここからが本番だぞ。秀吉!!」
「うっす!!気合い入れるっす!!」
現在、製作中なのは銃。…何故って? それは、カックいーからだ!!
そもそも、何でこんなことをしているのか。その原因が魔法にある。
電気がない世界で電化製品は作っても意味がない。魔法があるから、作るにしても利便性に欠けている。
て、それは俺だけか…。俺の魔法が万能過ぎるのだ。
魔法を使える人間は少ない。魔法を使えない奴らのための技術。機械技術の基礎を作ろうとしていた。
機械技術が発達すれば、生み出されるものも多いだろうし、発明家も増える。平賀源内的な人とか?
まあ、それでも電気の代用が出来ないかと開発していたら────。
これまた、変な物が出来上がった。
魔法で生み出したものだから、当然といえば当然。鉄なのに鉄じゃない結晶体。不思議物体。
この不思議物体は、魔法を蓄えることができるのだ。正確には魔力と言うべきだな。
出来たのはホントに偶然だ。バッテリー的な感じで、雷の力で電気を生み出せないかとやってみたら、生まれたのが不思議物体だった。この不思議物体は、あらゆる魔法を吸収する。ミツの無属性や市の月属性は無理だったが、それでも驚きの発見だ。
調べて行く内に分かってきたのは、この不思議物体。どうやら魔剣と同じ物質らしい。
これ使って魔剣量産してやろうと思ったが、加工不可能ときた…。
天魔を造った刀鍛冶に一度会ってみたいが、誰が造ったのか知らねーから無理だ。
それでも、他に使い道がないか探していた。
不思議物体は、電池と同じように電極を作ることで、蓄えられた魔力を放出させることが出来る。
それで思いついたのが、銃だ。
銃と言っても普通の銃じゃない。魔法銃、光線銃みたいな銃の製作だ。
部品として銃に組み込み、魔力弾を発射する。俺が前に貰った刀、天魔のようにビームを出せるとなお良し!!
残念ながら、まだ完成には至ってないけど…。形にはなってきた。近代兵器て言うか、未来兵器ではあるが…。
うーん。
それについては、「俺が作るから。」としか、言いようがない。当初の目的も忘れて夢中になったのだ。
…仕方ねーよな…。
「邪魔するぞ、のぶッへ!?また、これはなんてものを!!」
来るなり、うるさいおっさんだ。だけど、その通りだ。
道三のおっさんには、銃を作ると伝えてあったが、どう見ても銃には見えない。銃とは全くの別物が出来上がっていれば、道三のおっさんのその反応は当たり前だ。
「道三のおっさん、よくそんなに驚けるもんだな。この前も自転車を見て驚いていただろ。ここに来るたびに驚いてねーか?」
「あれは…。あれも確かに驚かされたな…。だが、これもまた言葉にならんわ!!まるで仕組みが分からん!!」
胸を張って言うことか?
それもしょうがないか。これは空想上の未来兵器。銃とは、構造からして似て非なるもの。ビーム兵器と言えなくもない兵器だ。
「まあ、まだまだ改良が必要なんだけどな」
「何だ? これは大砲なのではないのか?」
「大き過ぎて使い物にならねーよ。もっと小型化して誰でも使えるようにしたいんだ」
形には成ったが、どこの巨大人型兵器が使うんだよ!?ってサイズになってしまった。
道三のおっさんの言う通り、大砲としては使えるかもしれないが…。俺の目指すものとは違う。
「これまた、恐ろしいことを考えているな。こんなものが戦場に出たら…、一方的な戦になるぞ」
「それを言うなら火縄の銃だって似たようなものだろ? 遠距離狙撃されたら防ぎようがない。戦場で常に魔法で身を守るなんて不可能だ」
俺でも無理なのに他のヤツに出来るとは考えられない。侍達が、動き難い鎧を着るのもそのためだ。
刀や槍の近距離よりも、弓矢や銃の遠距離からの攻撃を防ぐために、わざわざ重い鎧を着ているのだ。
魔法は強力だけど持続力がない。1対1ならともかく、戦場に出てしまえばスポーツみたいに休憩時間は取れない。だから、戦場では魔法は切り札として使われる。
無闇やたらに使いまくっては自滅するだけだ。
「一理あるな。自軍の損害を減らし、相手には甚大な被害を…。これも戦だ」
「それでも、あまり使いたくはねーよな。威嚇の為…、くらいでも十分効果的だろ」
「確かに、こんなものを見せられたら、儂でも裸足で逃げ出すな。しかし、今のご時世それは甘い考えだぞ?」
「仲間の屍越えて行けって? だけど、実際は損害三割で撤退だろ。戦を早く終わらせられんなら、それに越したことはねーんじゃね?」
「ウム…。その通りだな…、しかし……」
黙り込む道三のおっさん。俺、何か可笑しなことでも言ったのか?
俺のことすっげー見てるし…。不安になる。もしかして、道三のおっさんって。…そっちの気があるのか? だとしたら、別の意味で不安だ。
「お主…」
「な、何だよ?」
急に改まって…。まさかマジで愛の告白か!?
「お主のことを見直した。いや、惚れ直したぞ。噂とは当てにならないものだ。うつけ坊主とは程遠い。お主は本当にあの織田信長か?」
「おい!!それ、どう言う意味だ!? 暗にバカにしてるようにしか聞こえねーぞ!!」
「すまんな。普通にバカだと思っていた。どうやら、儂の目が曇ってしまっていたようだ」
「そうか。なら仕方ねーな…って!!謝るんならフツーに謝れよ!!」
何で、バカにしてからじゃねーと誤ってくれねーんだよ。俺を一体何だと思っているんだ。
「うむ。すまん」
「なら、良し。許す!!」
「光秀さん…。ノブ様って…ホント何者ッスか?大名様に頭下げさせましたよ…」
「まあ、あんな真似できるのはノブだけだよね…」
はぁ…。ギリギリ助かった。
愛の告白なんてされたら、俺の人生終わってたな。
しかし…。戦じゃねーところで、命のやりとりする事の方が多い気がするのは何故だ?
「で、道三のおっさん。今日は何の用なんだ。これを見に来たってだけじゃないんだろ?」
「そうであった!!実はな、儂の方でも色々とやってみたのだ。主から貰ったあのゴムなる物で何か出来ないかとな」
ああ。確かに上げたな。
自転車作ってた時にゴムが必要だからって、こっちでもゴム作ったんだった。他にもあれこれ作るのに必要だから生産量も増やした。
その余った分を道三のおっさんに上げている。道三のおっさんはそれを使って何か作っていたようだ。
「それで、おっさんは何を作ったんだ?」
「よくぞ訊いてくれた!!儂はなんと戦鎧を作ったのだ。新しき鎧だぞ!!」
「そ、そうか。それはスゴいな…」
鎧って言われても、何かビミョーだな。俺のアレを見たあとだと尚更に…。
確かに鎧の重要性は分かるけど、何とも言えない。
反応の薄い俺だが、道三のおっさんはテンション高い。温度差があり過ぎだ。
「まあ。羨む気持ちは分かるぞ!!どうだ、実際に見てみないか?」
「あ、ああ。分かったよ。じゃあ、今から見に行くよ」
「うむうむ。さ!さ!!早く行くぞ!!」
何をそんなに急ぐのか。そんなに急かさなくてもいいだろうに…。
「ほら、こっちだ。どうだ?」
「どうだ、って言われてもな…。見た感じ何がどうとか分かんねーんだけど」
実際、俺に鎧の知識は無い。一目見て、これはスゴい!!とか言えねーよ。いや、お世辞としては言うけどもさ…。
「鎧板の裏にゴムを使ってな。更に隙間もゴムで覆っておる!!さらに更に、一部だが鎧自体にもゴムを使っているのだ!!」
「これは積層構造?」
柔らかいゴムの上に木の板、木の板の上に堅いゴムで更に鉄板を重ねている。弓矢だけでなく銃弾でも防げそうだ。
とは言え、魔法は無理だろ。
「見た目のほどは、一回り大きくなってしまったが、頑丈さは折り紙付きよ!!大袖には防御系統の魔法を仕込んでおってな。多少ではあるが魔法への耐性もある。どうだ?」
「うーん。そう言われると、確かにスゴい気がする」
「ハッハッハッ!! ───だろ?流石に多くは作れんが武将位の侍達に着せれば一騎当千よ!!」
「軽鎧…。部分的にだけなら、量産は可能なのか?」
「うむ。そうだな…。必要最小限で抑えれば確かに量産は出来ると思うが…」
そうか。それだと、俺の理想に合ってるな。「勇者装備だ!!」なんて言うつもりはないが、兵達の防御力を高めることは生存率に繋がる。
農民達をわざわざ兵として使う必要もなくなるはずだ。
「なら、その鎧。俺が買うから大量に作ってくれ。金ならあるし、必要なものがあるなら俺が用意するぞ」
「戦の話をするかと思えば、今度は商売か。ますます、織田信長なのか疑わしいな」
「いちいち茶化すなよ!!俺だって、一応は領主だ。ちゃんと考えて行動するさ!!」
「うむ。将来は立派な城主となると思っておる。おっと、違ったな。天下人だったな。天下人になるぞ!!」
人をバカにするのかと思えば、随分と買われたもんだな。
「道三のおっさんも他人事じゃねーぞ。俺と手を組んだからには共犯者だ。これからも協力してもらうかんな?」
「望むところよ!!して、次は何をする気だ?」
「とりあえず、銃の完成を目指す。鎧が立派でも武器がナマクラだと意味ねーだろ」
「そうだな。儂も手伝ってやりたいところだが…」
「無理しなくていいって。だいたい、こんな所で油売ってる暇はねーんだろ?」
「油売りは儂の専売特許だが…。うむ、その通りだ。その代わり、職人達を幾人か送ろう。自由に使ってくれ」
「おう。じゃ、そうさせてもらうわ」
「………待て!!くれぐれも無茶な使い方はせんでくれよ?!」
「当然じゃん。なにをそんなに慌てるんだよ。任せてくれよ。俺だって人の使い方くらいは分かってるって」
何が心配なんだかな?
いくら何でも、会ったばかりの人間に無茶させるはずねーじゃん。
ま、そんな事はどうでもいっか。今は魔法銃の完成を急がないとな。
道三のおっさんはブツくさと言っていたが、寄越してくれた職人達はかなり腕の立つ人達だ。
あれで、信用されているようだ。
彼らのお陰で小型化は出来たし、軽量化にも成功した。そう言えば、あの不思議物体は日緋色金と呼ばれるものらしい。あれを扱えるのは四象天院の秘術を継承した鍛冶師だけとのことだ。
またしても、四象天院。一体、四象天院って何なんだ?
まあ、今は存在しないらしいし、何が何でも知りたいワケでもなし…。関わっても禄なことにならない気がする。放置だ。放置。
製造出来たのは20丁の魔法銃。魔導砲1門。後は、魔法大鎧5領に魔法軽鎧20領だ。
これはかなりの戦力になる。まだ、どこかしらと戦争になることはないが、戦力は多いに越したことはない。
まあ…。うん…。自分でも、分かってる。またやり過ぎてしまったってことくらい…。
「なあ、ミツ。これ持って戦ったら、どんな感じになると思う?」
「それは、こっちの損害? それとも相手の被害?」
あ、ミツのこの顔はヤバい。青筋立ってる。
だけどねー。ミツも怒るに怒れないよねー?
この件に関しては、ミツも同罪だ。
ミツの趣味…、じゃねーな。ミツの仕事は、魔法研究だ。今回の件は、魔法研究が諸被りしているから、ミツもノリノリだった。
止める人間が居なくなっては、これは当然の結果だ。
「うん?いや、もう分かったからいいや。にしても、これどうやって運ぶ?」
「ノブの造った物の中に、トラック的な物があっただろ? それを使ってみたらどうかな?」
「まんまトラックだけどな。でも、あれはエンジンも何もない見かけ倒しだぞ?」
車を造ろうにも、何の知識もない俺に作れるわけがなかった。あれは言わば、巨大なミニチュアカーだ。
「うん。分かってる。でも、トロッコを利用すれば走れると思うんだ。他にも考えが…。ま、そこは僕に任せておいてよ」
「良し。じゃあ、ミツに任せる。だけど、これでやること終わり。尾張に帰るのか…」
「駄洒落ッスか? ノブ様、面白くないっすよ」
「ウッサイ!!俺だって分かってるっての!!ちょっと言ってみたくなっただけだ!!」
「じゃあ、僕はこれから作業に入るから、ノブ達はゆっくりしてていいよ」
えぇー!?ミツまでスルーかよ!!恥ずかしい。チョー恥ずかしい!!完全に滑ってるじゃん!!
「はい、光秀さん。後はお願いするッス。行きますよ、ノブ様」
「痛っ!?秀吉、引っ張るなよ!?」
数日後。
ミツの改造トラックが完成して、俺達は尾張へ帰ることになった。
俺的には、なかなか充実した美濃滞在だった。 すっかり放置していたが。どうも、市は市で遊んでいたらしい。
帰り道すがら、市の話を聞くのも面白いそうだ。
トラックに荷物を載せ終えると、ミツが運転席に。俺は助手席に乗り込む。市と三人娘が後部座席に乗り込むと、トラックの人力エンジンが動き出した。
人力エンジンの燃料はバナナとなっている。うん。バナナで動くとは燃費のいい車だな。
道三と職人達に見送られ、俺達は美濃を後にした。




