美濃へ行く
19)美濃へ行く
美濃の斎藤道三との交易が始まった。
で、尾張国内はちょっとした騒ぎになってるらしい。隣りの国の大名が来て、同盟を結んだとなると不思議もない。
まあ、俺に政治のことは分からない…。どうやら俺は注目されているらしいのだ。
毎日毎日、「家来にしてくれ」「嫁にしてくれ」と尾張各地の侍やその娘やらが押しかけてくる。
家来って言われても、見も知らない人間を家来にする気はない。嫁と言われても、初めて会った奴と結婚なんて出来るワケない。
断ってるのに、次の日も同じ問答の繰り返される。俺的には、時間の無駄遣いとしか言いようがない。
暫くの辛抱だとミツは言うが、暫くって一体いつまでだよ!!
思春期真っ只中!!俺がこんなことに耐えられはずねーだろ!?
そんな事情で……。
今は山道を越えて美濃に逃亡中…いや!!出張中なのだ!!
元々、俺が美濃に行く予定はあった。それを前倒し、じゃなくて。道三のおっさんが早く来てくれと催促するから仕方なくだ。
俺が待ち遠しいとは、道三のおっさんも可愛いおっさんだ。
「お兄様? そろそろ、お昼にしませんか?」
「そうか。もう、そんな時間か。じゃ、メシにしようか」
前言撤回。可愛いのは、やっぱり市の方だ。市可愛い。市、チョー可愛い。
「はい。お兄様の分は、私がご用意させていただきました…。あ、ご迷惑でしたか?」
「迷惑なわけないだろ。市が俺のために作ってくれたんだ。その気持ちだけで腹一杯ってもんだ」
「お上手ですね、お兄様。でも、気持ちだけじゃなくて、ちゃんと食べて貰いたいです」
「ああ、勿論だとも。気持ちじゃ腹は膨れねーよ」
「まあ、お兄様ったら」
「アツアツですねー」
「本当に、その通り」
「うわぁ。兄妹で、それは気色悪いですよ」
ヒドいこと言う。ロリ茶、ロリ江、ロリ初の3人だ。
これだから、子供ってヤツは。
う…。
睨まれた。勘の鋭い奴らだ。
茶々、江、初が3人のホントの名前だ。
俺の所へ嫁に来た3人。当然、ロリ趣味はないので断固拒否ったのだが、何故か居座って市と仲良くなってしまった。
まあ、市にだって友達は作って欲しかったから良いんだけど…。市と仲良くなってくれたのは良いんだけど…。
何でか、今度は俺を敵視してきた。意味が分かんねーし、面倒くさいヤツらだ。
大体、何で着いて来たんだかな?
「お前ら…。いい加減にしろよ。つーか、これからメシなんだ。そんなところにいねーで、お前らもこっち来て食えよ」
「え。今度は私たちも狙ってる!?」
「そんなワケねーだろ!!ミツも秀吉もこっちで食べるんだし、お前らも一緒にどうだって話だよ」
この美濃行きの旅は、俺と市に、ミツと秀吉。何時ものメンバーに、この3人が勝手について来た感じだ。
旅慣れてない俺と市だ。ミツだけだと不安。秀吉も付けても、女の市が不安だ。そういう意味では三人娘がついて来てくれたのは、正直なところ有り難い。
とは言っても……。
「えー。でも、お市の方様を邪魔するのも……」
「そーそー。何でしたら、私たちと光秀様はこっちで食べますよー?」
「信長様だって、二人っきりの方が、嬉しいでしょ」
そうそう。その方が嬉しいって!?やかましいわ!!
最近はコイツらの影響なのか、市が妙に色気づいてきたんだ。俺の境界線が崩壊の危機だ。
「いいから、お前ら来い!!ミツも秀吉も、来い!!」
「照れ隠し、照れ隠し。ね、お市の方様?」
「信長様は素直じゃない」
「お兄様は優しいのですよ。みんなを気遣ってくれているのです」
「市に、そう言われるのは俺としても嬉しいけど…。すでに誰も聞いてないようだぞ?」
「ですね……」
アウトオブ眼中。
既に市の用意した弁当を囲んで、ワイワイ。賑やかなのは良いが、その中心はミツだ。
「光秀様ー。こちらのおにぎりは如何ですかー?」
「抜け駆けは、良くない。光秀様には、塩キュウリが似合う」
「て、アナタも抜け駆けかい!?私のも食べて下さいよ、光秀様!!」
「いや、うん。まあ、はい」
ミツはモテモテだな。やっぱり女からしたら、男は顔か…。
「なんだ。光秀さん、食欲ないのか。食わねーなら俺が頂くぞ」
秀吉は色気より食い気だな。女達のブーイングもなんのその。モグモグ食ってしまった。
「大丈夫ですよ。お兄様のお弁当は別に用意しています」
「ああ。じゃあ、頂きます。うん、美味い」
「フルーツも用意してますよ」
「流石は市だ。用意がいいな」
戦国の世なのに、のどかなものだ。
木漏れ日の日差しが暖かい。既に春は訪れているのだが、俺の春は遠いようだ。
「あ、そう言えば秀吉─────」
「ういっす。何スか?」
「お前の食ってるバナナ。ちゃんと残しておけよ。一応、道三のおっさんへの土産なんだからな」
「それなら大丈夫っすよ。土産の方はまだ青くて堅いヤツっすから」
秀吉の目利きは、ホントにレベル高いな。移動時間も考えて選別しているのか…。
「何ツーか。あれだな、秀吉も立派になったな」
「ノブ様に言われたくねーっすよ」
「秀吉もそうだけど、ノブも成長しているよ。国のことを考えられるようになったもんな」
ミツに褒められると、やっぱりテレる。実際のところは、調子に乗ってあれこれ、あれこれ…。それが、この結果だ。
ホントは、褒められることじゃないが。ここで調子に乗らないと俺じゃないだろ。反省はしても後悔はしないぞ!!
「俺でも成長してるってのに………。成長しない奴は、ホント成長しないんだな。追っ払った奴らだろ。あれ?」
「うん。そのようだね」
「あー。確かに見覚えあるっすね、コイツら」
ザ・山賊!!てね。
まったく、代わり映えしない格好をした侍崩れ。顔は覚えてないけど、格好だけならみんな同じで覚えやすいな。
「ハッ!!覚えてたなんて、嘘だろ。うつけの若様が!!」
「お前のせいで、俺らの食い扶持台無しだ!!」
「逆恨みだろ。何でもかんでも人のせいにするなよ。お前らだって、真面目に働けばいいだけのことだろ?」
「うるせー!!この間も坊主の侍にやられて、腹減ってんだよ!!今すぐ食い物よこせや!!」
まるで野犬だな。よく吠える。
てぇーか…。坊主の侍って、あれだな。道三のおっさんのことだな。
何気にあのおっさんも大名だ。実力も相当なものらしい。俺は知らんけど。
「にして、エラい美女がいたもんだ。ついでに、女も攫ってやるぜ。なあ!!」
「誰に手、出そうとしてんだ? キタねー手で触るな。ゴミ虫が!!氷雪餓狼!!更に、おまけだ!!餓狼滅砕牙!!」
「手、手がぁ!?」
親父の魔法の上位版だ。
触れた物全てを氷漬けにする魔狼と噛み砕く魔狼の牙。
俺の宝。親父の宝に触れようとするなら、この魔法はまさに打ってつけの魔法だ。
「騒ぐなよ。市に唾が飛ぶだろ? そのまま凍りつけ…。氷雪餓狼之咆哮!!」
俺の意思に反応して氷雪餓狼が吼える。
一瞬で人間が氷漬けだ。
冷凍マンモスのように後世にまで残るだろう。なんちゃってな?
「さて、後の奴らは……。ミツと秀吉で十分か。俺の出番少ねーな」
気が利くことに、三人娘が市の守りについてる。懐から短刀を取り出して構える。武家の嗜みってやつだ。
ますます、俺の出番なしだ。
しょうがないから、俺は王者の如く見守ってやろうか。水戸のご老公様みたいに。
「コイツ、ちょこまかと!!風斬!!」
「んなの、当たらねーよ!!こっちだ、こっち!!」
なるほど。秀吉の相手は風属性の使い手か。それで、あれが風魔法の基本技かな?
風を纏った剣戟。家臣の奴らも、あの手の魔法をよく使う。
しかし、あの程度で秀吉がやられるワケがない。秀吉の運動能力と木属性の魔法は相性抜群だ。特に木や草の多い場所なら尚更効果高い。
「クソ!!猿みたいな奴だ!!」
「ハッハッハッ!!その程度の魔法で山賊なんて笑っちまうっすよ。猿合戦、これが俺の魔法っす。やれるもんならやってみるっすよ!!」
「クオッ?!ウゲ!?ブホッ!!」
草木を利用して飛び跳ねる、秀吉。体操選手のような動きだ。草木がトランポリンや鉄棒の役割を果たしている。
秀吉の一方的な攻撃で山賊を苦しめる。秀吉の木属性魔法は支援系統はないから、あの動き…。秀吉の地力だ。
大分、大人しくなったと思ったが、野生児は健在だな。
「これで、仕舞いっすよ!!双猿掌!!」
秀吉の強烈な打撃に、山賊は声も出せずに崩れ落ちた。
心配はしてなかったが、秀吉の方も大丈夫か。後はミツだな。て…、ミツにこそ心配はホント無用だったな。
「…あまり、僕に近づかない方がいいよ。僕の魔法は物も人も消し去ってしまうからね」
「ヒェッ?! まさか、お前が無明の……?」
「その呼び名は止めて欲しいんだよね。ノブが不機嫌になるから」
ま、ミツの魔法は無敵だな。残っていた山賊達が逃げ出すくらい無敵だな。
ミツの二つ名は、山賊も裸足で逃げ出すほど有名のようだ。
「おいおい。それじゃあ、俺が羨んでいるみたいじゃねーか。全然、そんなことねーのに」
「あれ、そうだっけ? まあ、いいじゃん。腹ごなしも済んだことだし、そろそろ行こうか」
「誤魔化すなよ!!」
それからの道中は何事もなく、美濃に入った。そのまま道三のおっさんのところに直行する。寄り道はなしだ。
また、変なのに絡まれたらイヤだしな。
美濃に到着すると、道三の家臣達からお出迎えを受ける。
そのまま、道三のおっさんのところまで案内された。今日はしっかりした着物を着用している。この前は、山賊に襲われたせいで汚れていただけだ。
改めて、大名やってる道三を見ると、それらしく見えるものだ。
「よく来たな、織田の坊主。待ちわびたぞ」
「ひさしぶりだな、おっさん。土産持ってきたから食ってくれ」
「うつけにしては気が利くな。おお、バナナか!!」
何故か知らんが、美濃ではバナナが人気らしい。なので、バナナが土産だ。
「で、そっちはどんな調子だ?」
「うむ。尾張から来るものはどれも評判は良いぞ。特にフルーツなるものはどこも売り切れる程だ」
「うん。狙い通りだな。じゃ、これからはフルーツの量を増やすか」
俺の作った新しい野菜が、こうして利益を上げている。尾張では、利益が上がらないため美濃へ送っている。勿論、俺の食べる分、街の奴らの分を残してだ。
「それは助かる。して…。今日は、前に言っていた例のアレだな?」
「ああ、当然!!早速、と言いたいけど今日はもう疲れた。初めての長旅に山賊達に襲われたりもしたからな」
まあ、山賊達は弱っちかったから別にどうでもいい。徒歩の長旅に疲れた。
車か電車、新幹線でも作るしかないな。だが、その前に工業の発達だ。
ミツと話し合って魔法で出来そうなことを考えてきたのだ。
「未だに世は乱世だ。治安の乱れは仕方あるまい」
「それも終わるかもよ。俺、天下狙ってるからな。いずれは平和になるんじゃねーの?」
道三、大爆笑。俺は冗談言ったつもりはないんだけどなぁ…。
「馬鹿な人間は、願う夢まで馬鹿なのか!!ならば、それに付き合う、儂も馬鹿だな!!」
「何、ツボってんだよ。他の奴らだって、似たようなもんだろ。だから世の中、こんなに乱れちまってんだ」
歴史的に言えば、織田信長に乱世を治めることは出来なかった。だけど、それは違う世界の歴史。俺は別人、別次元の中学生だ。
それに魔法も使えるなら、天下を取れる可能は高いと思ってる。
わざわざ、危険に身を晒す真似をする必要はないが、俺が生きている時代が荒れているのは、何となく嫌だ。
出来るなら平和であってほしいと、そう思うのは俺のわがまま。きっと俺が織田信長じゃなかったとしても同じことを考えたと思う。
それに、他人から笑われるのも慣れた。今の俺には親友がいるから、誰に笑われてもへっちゃらなのだ。
「いやいや、笑って悪かったな。儂もお前のその夢に付き合ってやるのだ。そう思ったら可笑しくなってな。悪気があったわけじゃない」
「なら、いいけどさ。そんなことより、早く休ませてくれよ!!」
「だったな。まあ、信長の屋敷に比べて貧相な城だが、ゆっくり休んでくれ」
「おう、そうする。で、部屋は?」
テクテクと歩いてくる女中さん。この人について行けば良いようだ。
女中さん、…か。
現代風にいうとメイドさん?
やべえ…。ちょっとトキメいてしまった!!
「お兄様…。後でお話が…」
「か、かしこまりました!!」
背筋が冷えるって!?また、市が恐ろしいことに!!
なんて、ウソウソ。ホントは市のこれからの予定を話し合うのだ。
寂しいが、お兄ちゃんはこれから忙しくなるから、市にあまり構って上げられない。なので、その間の市の行動予定を決めるのだ。
こんな時に、市の友達がついて来てくれたのは、ホントに有り難い。市も良い友達に恵まれたもんだ。
「んじゃ、市。また後でな」
「はい!!お待ちしてます!!」
ここからは市と別行動。部屋が別々になっている。俺としては市となら同室でもいいのだが、三人娘のせいで別部屋になった。
まあ、でも。市のことだから、ちょくちょく俺のところへも来てくれる。…はずだ。
「で、ノブ様。俺らは、これからどうすんスか?」
「どうすんスかって。いつも通りだよ。ミツが道三のおっさんに、これからやることを説明して、俺が実践して試す。で、秀吉が肉体労働な?」
「マジっすか…。ホントにいつも通りッスね…」
「それが一番効率が良いんだよ。文句を言うな、秀吉。それとも、秀吉が全部やってくれるのかな?」
「力仕事は任せて下さい、光秀さん!!」
そりゃそうだ。秀吉の判断は正しい。適材適所が一番良いに決まってる。
俺に説明求められても答えられねーし、秀吉はもっと無理。細かい事務的な仕事はミツの得意分野だ。
「んじゃ、今日は休もうぜ。と、俺はその前に…」
「市姫様のところッスね。行ってらー」
「秀吉!!また、バナナか!!」
客人用に用意されていたバナナを食っている。
「うん。市のところ行ってくるけど、お前らあんまケンカすんなよ」
「うーす」
荷物を置いて、ソッコー市の所へ。着替え中で、「キャー!!」なんてことはないだろうけど、ちょっと期待している。
「───市。入るぞ?」
「はい。どうぞ、お兄様」
残念…。着替えはもう終わっていたか。
三人娘も同様だ。コイツらには何も期待してないので良し。
因みに、女子組のほうはジャージから着物へ着替えている。
ジャージはサイコーの衣服。動きやすいし、着心地抜群だ。
とはいえ、余所の城で流石にジャージはマズい。礼儀に欠ける。なので、市達は着物に着替えたのだ。
「市の着物姿もひさびさな気がするな」
「そう言えば、そうですね。お兄様の考案したジャージの着心地が良いもので。つい…」
正確には、俺が考えたものじゃないし。でも、市にも気に入ってもらえたならジャージを考えた人も嬉しいだろうな。
勿論、俺は嬉しい。
「着物姿は見慣れていたと思っていたけど…。改めて見ると、やっぱり着物姿も良いな。似合ってるぞ」
「は、はい…。お兄様に言って貰えるのが、何より一番の褒め言葉です!!」
「あのー。私達居るの忘れてませんか?」
「なんだ。居たのか?」
すっかり忘れてた。やっぱり、俺にはロリの素養はないな。良かった良かった。
「ちょっと!!信長様、それは酷いですよ!!」
「そうですー。せっかく、邪魔しないように部屋の隅っこに居たのにー」
「いや、それなら部屋から出て行けば良いんじゃね?」
「うわ。やっぱり、コイツないわ。有り得ないわ。市姫様、これのどこが良いんですか?」
コレって。人のことコレ呼ばわりかよ…。口の悪いヤツだ。
「初。言葉が過ぎますよ。でも、そうですね。強いてあげるなら、何時でも何処でも…、私を守ってくれる。…ところです」
「あ、俺ってそんなイメージなのか…」
誰だよ、ソイツ。格好いい兄貴だな。て、俺か?
市の理想像カッコ良すぎて、俺じゃねー。
「それってー? 誰の話なんですかー、お市の方様ー?」
「理想高過ぎ。信長様に期待し過ぎ」
コイツらに言われなくても分かってるっての!!でも、市に期待されてるなら応えるのが兄の努め!!
「江も初も、分かってないですね。お兄様は本当に凄いのですよ?」
その後も続く、市の兄自慢。
本人を前に話盛りすぎだ。その人、一体誰ですか?
話を聞く俺は顔から火が出そうだ。
「ま、まあ。その辺でやめてくれ、市。俺、褒められるの慣れてないから。な?」
「はい。仕方ありません、お兄様が言うなら…」
「で、市達はこれからどうすんだ? 美濃に来たのは初めてだし、色々見に行くのか?」
「そうですね。観光して来たいと思ってます」
女子組だけで行動させるのは多少不安だけど。まあ、山賊達に襲われた時も三人娘は市を守ってくれていたし大丈夫か。
この三人娘も何気に魔法使えるし、ある意味攻撃的だ。親父みたいに過保護も良くないし…。
「分かった。道三のおっさんに話しておくよ。初めての街だし、案内して貰うと良いよ」
これじゃ、俺も親父のこと言えねーな。案内役を名目に護衛を付けようと言うのだ。
こんな事なら、護衛の者を連れてくれば良かった。て、それが過保護だっての!?
まあ、これで男組と女子組の行動予定が決まった。
俺も美濃は初めてだし、観光してーよな…。時間的に余裕ねーし、無理か。無理だな。




