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古渡城フルーツ侍 番外

16)古渡城フルーツ侍・番外


 この度、古渡城フルーツ侍の職につきました織田信長です…。

 やること、ありません。

 暇です。

 暇なんです。

 チョーっ暇!! 何故、こんなことに…。


 ミツが言うには、魔法での成長促進を止めて自然栽培にしようとのことだ。つまり、生育を待つだけの仕事。何この退屈な仕事…。

 生育状況の観察もあるが、城の裏手にある。それも城外だ。

 チマチマ見に行くのも手間だし、人を雇って果樹園の手入れをさせて、毎日報告はさせる。マジ俺の仕事ねーよ。


 俺が何もしなくても、育成は上々。暇な俺は暇つぶし。

 仕方なく、ゴロゴロとしていた。仕方なくだ。


「ミツ。クッキー食いたい」

「無理言うなよ」

「クッキー出してくれよ、ミツえも~ん!!」

「ノブ太くんみたいに言うなよ。僕は猫のロボットじゃないんだぞ」

「分かってるけどさ…」


 ここで、素直に引き下がる俺じゃない。何としても、クッキー食いたい!!

 フルーツ飽きた!!お菓子だ!!今度はお菓子食いたい!!


「砂糖…、小麦…、バター…。最低限これらはないとできないよ?」

「ミツ…。良いのか? そんな事言うと、俺やっちゃうぞ?」

「僕が言わなくても、やるつもりなんだろ。ノブは」

「ミツがいなけりゃ始まんねーって!!て、言ってもな…。麦も砂糖も牛も土地がないと始まんない。どうしよう」


 あの果樹園は、もう使えない。あそこでこれ以上は、何も作れないよな。

 どこか、別の場所を探さなきゃならんか…。だが、他に場所ツってもどこにもないよな。


「土地か。西の荒れ地は分かるよね?」

「ああ、勿論だ。田んぼも畑も作れないって放置してた場所だろ」

「そう。そこ、ノブの管理になったから。そこで、作ってみたら?」

「管理!?何それ!?そんなの聞いてねーよ!!いつから!?」

「ノブがフルーツ侍になった時に、ついでに貰っておいたものだよ」

「ブふぉ!?フルーツ侍言うなよ!!」


 今もっとも、呼ばれたくない名前だ。それ!!

 しかも、正式名称だから、否定出来ない。デジャヴだ…。


「ゴメンゴメン。でも大丈夫。その呼び名もすぐ変わると思うよ?」

「え…。どう言うこと?」

「ホントに心配な造りをしているね、ノブの頭は…。一体、何のためにあの荒野を貰ったか考えてみてよ」


 うむ。荒野か。

 つまり、何もない土地。荒れ地だが、結構広いし…。作物も育たない大地だ。

 だが、作物が育たないのは手入れされていないから。魔法を使えば、解決出来る問題だ。

 田畑が作れるなら、人も集まる。それはつまり。そう言うことだ。

 もしかして、ミツ。俺の為にあの土地を貰ったってことか?


「それって、俺が領主になったってことか。じゃあ、俺…。フルーツ侍じゃなく…、殿様に、なる?なるのか!?」

「ならないよ!!城もないのに殿様になれるはずないだろ!!」


 即、否定。全、否定ですか。地味に傷つく。

 でも、自分でも殿様は言い過ぎたな。


「分かってるって。まあ、しばらくはこのままだろうけど。俺もいずれは親父の後を継ぐことになるんだろうし、領地を持って勉強しろってことだろ」

「なんだ。ちゃんと分かってるじゃん。心配させないでくれよ、まったく」

「そりゃ、あれだけヒントくれたら俺でも分かるって。でも、領地か…」


 今は領民もいないから、好き放題できるけど…。大変そうだよな。

 何して良いか、分かんねーもん。


「その時は僕も一緒に行くし、勿論秀吉もね。一人じゃないから、今は難しく考えなくても良いよ」

「でもな。不安は不安だろ。俺はどう見ても人の上に立つ器じゃねーよ」

「自信があるんだかないんだか…。ノブは天下狙っているんだろ。この程度でビビってどうすんだよ」


 う。それ言われると逃げられないじゃん。逃げる気はないけど、いきなりだ。

 多少の不安くらいは良いよな、別に。覚悟なんて何時でも出来るし!!


「よっしゃ!!やってやるか!!じゃ、先ずはクッキー食いたい!!」

「やっぱり、そこに戻ったね。分かっていたけどさ」

「第一に小麦だったよな。じゃあ、麦だな。早くそこに行ってみようぜ!!麦畑、作りに行こうぜ!!」

「慌てなくも逃げはしないよ。それに小麦作るって言ったって、どのくらい時間がかかるか分からないんだよ」

「あ…、そうだった…」


 せっかく、やる気出したのにコレだもんな。いや、考えなしの俺が悪いんだけどさ。


「先ずは、準備してからだよ。こっちである程度、麦作りに必要なものを作ってから。いいね?」

「了解であります!!隊長!!」

「では、ノブ隊員。早速、麦を出してみたまえ」

「はい!!────出来ました!!」


 言われるがままに麦を作る。

 手近にあった鉢植えから、ニョキニョキ伸びる麦の稲穂。

 俺も慣れたものだ。麦から麦を、自分の意思で品種改良だ。


「うん。良いね。じゃ、次はこれを小麦粉にしてみようか」

「え、それはやったことないぞ。でも、いっか!!それ、アチョー!!」


 こう言うのは、イメージだ。麦の挽き方なんて知らないが、小麦粉くらい見たことある。

 完成型があるなら、イメージは簡単だ。


「て、これっぽっちしか出来ないもんなのか?」

「そうだね。でも、これだけあれば十分。次は砂糖だよ」


 よく分からんが、ミツが納得したなら大丈夫なんだろう。

 …にしても、人使いが荒いな。流石、ミツ隊長だ。


「おう!!任せろ!!先ずはサトウキビだな。アチョー!!」


 これも問題なく完成。甘みある糖分の塊に変わった。


「良いね良いね。これなら、問題なさそうだよ」

「マジか!!ヨッシャ!!これで食える!!」

「まだまだ、これからだよ。バターも牛乳も卵もない。これは、動物由来のものだよ。ノブの魔法でも生命は作れないでしょ?」

「そ、そんな…。ここまで来て失敗なのか…」


 命を造るって、んなの無理に決まってる。魔法を使えても神様にはなれない。ミツの言う通りだ。


「諦めのはまだ早いよ────。あ、………」

「どうしたんだ?」

「お兄様。また、私をのけ者にして今度は何をしているのですか?」


 さ、寒い。空気が凍る??

 もしかしなくても、市の奴が怒ってる証拠だ。心当たりがあるとすれば…。あれだ、最近あまり構ってないからだ。


「い、市!!ちょ、丁度良いところに来た!!な、ミツ?」

「え!?ノブ!!────は、はい。市姫様に、実はお願いしたいことがあったんです!!」

「ほ、本当ですか!!お兄様のお役に立てることなら、私何だってできます!!」


 やっぱり、市。チョロい。

 急にご機嫌だ。でも、だよな。仲間外れは良くないな。これからはちゃんと市も誘わないとな。


「で、ミツ。何だっけ?」

「う、うん。えっと…、市姫様にノブの作った小麦粉でお菓子を作って欲しいんです」

「そうそう、お菓子作りな?って!!え!?」


 だ、大丈夫なのか?

 市はお姫様だぞ。絶対これ失敗するパターンじゃん。

 爆発、黒こげ、地獄見るぞ…。


「お菓子?」

「はい。ノブがどうしても食べたいと言ってきかないんです。となれば、それを作るのに相応しい人と言えば…」

「私…ですね!!確かに、お兄様が望むのを助けるのは妹である私の役目。それで、その小麦粉とはどんなお菓子なのでしょうか?」

「いや、市。小麦粉がお菓子じゃないぞ!!やっぱり、市は無理しなくても良いんじゃないのか!?」


 根本が違うし!!市がクッキー知ってるはずないし!!


「照れるなよ、ノブ。古来から女子の手作りクッキーは、男子にとって夢のお菓子じゃないか。それも市様の手作りだぞ?」

「ミツ………。お前、天才か!!まさか、こんな形で市の手作りクッキーを食べれることになるとは!!」


 浅はかなり、俺!!

 ミツの真の狙いはこれだったのか。バレンタインもチョコ貰えない俺が、まさか、クッキーを貰える日が来るとは…。

 爆発?

 黒こげ?

 何を言う!!それこそ、女子の手作りクッキーの見本じゃないか!!


「なら、決まりだな。市様、作り方は僕が指南します。どうぞ、存分に腕を振るって下さい」

「明智殿…。ご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願いします」


 新たな師弟関係の誕生。祝ってやりたいが、二人揃って土間に行ってしまう。

 残される俺は、ドキドキと完成を待つのみだ。


 あれ? また、俺やることねーじゃん。




 半時、一時と時間が過ぎ。城内に甘い香りが漂う。

 否が応でも、期待してしまうってもんだ。

 まだか、まだかと待っていると足音が…。

 これは、来たか?出来たのか?


「お待たせッス!!出来たっすよ!!」

「秀吉!!何でお前が来るんだよ!!」

「ヒドいっすよ!!人に仕事押し付けておいて、何てこと言うんすか!!」


 おっと、そうだった。とりあえず、今のところ収穫できそうなフルーツ達の収穫を頼んでいたんだった。


「何だ。秀吉も来ていたのか? なら、丁度良いな。クッキーが出来上がったんだ。お前も食べていくといい」

「嬉しいッス。でも、クッキーって何すか?」

「食べてみれば分かるよ。て、ノブ何て顔してるんだよ。大丈夫、これは僕が作ったクッキーだ。市様が作ったのは…、ほら?」

「お待たせしてごめんなさい、お兄様。やっと焼き上がりました。どうぞ、召し上がってみて下さい」

「おう。ありがとうな」

「初めて作りましたが、自信作です。お兄様もきっと満足できると思いますよ?」


 市が自慢したくなるのも分かる。

 確かにキレイな焼き上がり。ミツの指導の賜物だ。


「じゃあ。いただきます!!────あん、モグモグ」


 このサクサクとした食感。間違いなくクッキーだ。

 秀吉も、ミツの作ったクッキーを頬張っている。あの様子からして、かなり気に入ったみたいだな。


「うん。美味い!!けど、やっぱりこういうの食べてると喉が渇くよな?」

「お兄様、ご安心を。抜かりはありませんよ。…なんて、本当は明智殿からご教示していただいたのですけど…。これをどうぞ」

「フルーツジュース?」

「はい、その通りです。ミックスジュースとかいうものなのだとか。お兄様もお知りだったのですね? 明智殿にも劣らぬ博学家ですね、お兄様は」


 この程度のことで、ミツと比べるって、本気で言っているのか?

 いや、当然か。新鮮な果物と、その果物を絞って飲み物にする。その知恵は前世なら当然でも、ここでは未知の知恵だ。

 前世の記憶とか言いづらいし、市が驚くのも無理ないか。ま、あんまりやりすぎるとボロが出そうだし、言動には注意だな。


「まあ、俺も勉強中なんだ。早速、ミックスジュースも頂こうかな。────ゴクゴク。うーん、これも美味いな」


 仄かな酸味と喉に絡みつく甘味。ひさびさの味わいだ。

 市め…。いや、ミツめ。なかなかやってくれるじゃないか。


「ノブ様、ノブ様!!何すか!!これ、すっげえんすけど!!クッキー?ミックスジュース?マジパッないんすけど!!」

「唾を飛ばすな!!汚いぞ!!少しは落ち着いて物を食えよ!!」

「しゃあないッス!!」


 て、聞いちゃいない。ガツガツと食い尽くしていく。


「ほら、市も食えよ。せっかく作ったんだろ?」

「私はお兄様に食べていただきたくて…。私が食べるなんて、そんな!!」


 市は遠慮しがちでしょうがないな。妹の面倒をみるのも兄の努め!!


「ほら、あーん」

「あ、あーん。────モグモグ、サクサク」


 差し出されたクッキーを顔を赤くしながら、可愛らしく食べる。


「ほらほら。これも飲んで」

「で、でも…。これは、お兄様がお飲みになった────」

「良いから、良いから」

「は、はい。それでは。────ゴクゴク。これは、本当に美味しいです!!」


 うんうん。それは、やっぱりみんなで食べるからだろう。


「ノブ。その辺で止めておいてよ。イチャイチャラブラブは、人目からは暑苦しいんだよ?」

「ち、違うって!!そんなんじゃねーって!!」

「ノブ様達見てっと、俺でも胃凭れしそうっす」

「豊臣殿?」


 うおっと!?若干、空気が冷えるぞ?


「はい!!何でショーか、市姫様!!」

「私とお兄様は、そんなにお似合いでしょうか?」


 え?市、何言ってんの?


「勿論ッス!!お似合いッスよ!!」


 え?秀吉、何答えてるの?


「そ、そうですか。豊臣殿…。どうぞ、こちらのクッキーも召し上がって下さい」

「い、良いんすか?じゃ、じゃあ遠慮なく!!────モグモグ。グエッ…………」


 蒼い…。顔が蒼くなったぞ?

 ヒクヒクと痙攣してない?

 あ、今度は泡を吹いてるな。て、え!!


「ひ、秀吉!?死ぬな!!秀吉ぃぃーー!!」

「ご、ごめんなさい。豊臣殿、そちらのクッキーは失敗したクッキーの方でした!!」


 マジでか!?失敗パターンもちゃんと用意してあったのかよ!!

 俺にくれたのは成功したものだったのか。良かった。市に常識があって本当良かった…。




 その後、意識を取り戻した秀吉は…。市に軽いトラウマを植えつけられたようだ。

 これで、市に悪い虫がつくことはなくなったのなら、それで良し!!

 秀吉の犠牲は無駄ではない。尊い犠牲だ。




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