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サル山・前編

11)サル山・前編


 さて、今朝の目覚めもサイコーだ。

 マイエンジェルは兄を起こすことに天性の才能を持っている。

 この天使の目覚ましに何とお礼を言っていいのやら…。

 俺のホクホク顔とは逆に、最近のミツの顔は冴えないようだ。

 つーか、マジやばい。だが、何があったの?とは聞けないし…。

 元凶は勿論オレ。いや、違う。アイツだ!!


「えーと。若様? ここに居たのか」


 噂をすれば…。

 親父に頼み、住み込みで働かせている。

 藤吉郎改め、今は秀吉だ。紛らわしいから変えさせた。

 農民を武士に取り立てるとか反対されるかと思ったが、秀吉の類い希な運動能力は、親父のお眼鏡に適ったようだ。

 俺の説得も必要ないくらいあっさり受け入れられた。拍子抜けもいいところだ。


「一体、朝っぱらから何の用だよ」

「光秀さんが呼んでるんだ。俺も一緒に来いってさ。一体何の用だろうな?」


 どうやら、秀吉も知らないようだな。完全にパシり扱いか。

 直接、ミツ本人に話を聞いた方が早いだろう。

 それにしても、秀吉の態度…。変わんねぇよな。

 俺は別に気にしないけど、城勤めでそれって不味くないのか?


「若様。行くなら、早く行こうぜ。光秀さんは口うるさいから、遅くなると面倒くさいんだよ」

「ミツはいいやつだぞ。話が長いだけでな」

「それは分かってるけどよ。俺だって城で働くなんて初めてだ。ちょっとは勘弁して欲しいよ」


 ああ、そうか。ミツの冴えない顔はそのせいか。

 今のところ、秀吉はミツの下で働いている。

 元は農民の秀吉。仕事を覚える前に言葉遣いに礼儀作法と覚えないといけない。全く覚える気配はないけどな。

 俺のお目付役に秀吉の教育係り。ミツは、やること多くて大変だな。


「真面目な奴なんだよ。ミツの苦労も分かってやれ」

「うーす」


 軽いなぁ。ホント、分かってるのか?

 やっぱり、ミツの苦労が偲ばれる。


「お兄様も忙しい様子。私はそろそろ失礼しますね」

「ああ。ありがとうな。明日も頼む」

「はい、それでは」


 俺は別に忙しくないけど、市はそそくさと部屋をあとにした。

 あぁ…。俺の天使が行ってしまった。

 市が居なくなると、途端にむさ苦しい男部屋だな。


「さぁ、俺達も行こうぜ。秀吉」

「うっす」


 ミツの部屋に行くのも久々な気がする。

 相変わらずの散らかりよう。いや、前よりヒドいことになっているな。


「やっと来たか、秀吉。ノブを呼びに行くだけでいつまでかかっているんだ」

「ああ、すいませんした」

「はぁ…。もう良いよ。で、ノブ。こういうことだから、暫くは稽古出来なさそうなんだ」

「そうか。それなら仕方ねーよな」


 そんなことを言うために、わざわざ呼んだのか。余程、忙しいんだな。


「うん。だから、宿題を出しておくよ。僕が居ない時はこのメニューをこなしておいてね」

「何だよ、このハードメニューは!?俺を殺す気か!!」

「だから、死なない為のメニューだよ。ノブはまだ実戦経験ないだろ?」


 うわ。事実なだけに言い返せねえ。でもでも、これはキツいって。魔法に武術の基礎だけで、何でこんな山盛りメニューになるんだよ。

 俺のためなんだろうけど、四象天院まで…。

 全部が全部。これ、資料集かよ。

 部屋の散らかりようは、これのせいか。


「なんだ? 織田の若様はまだ戦知らずなのか?」

「何言ってんだ。秀吉、お前だって同じだろ!!山暮らしの農民が戦を知ってるはずねえもんな」

「んなわけないだろ。山ん中に住んでると山賊やら落ち武者やらが襲って来るんだよ。それに俺は木曜の魔法が使えるからな。ガキの頃から戦わされてたんだ」


 ありゃ。じゃあ、この中で実戦経験ないの俺だけか。秀吉のこと、ちょっと見くびっていたな。


「ん? でも、秀吉の住んでた里はどうしたんだ。魔法も使えるし、その上サル並の運動能力だ。山賊や落ち武者如きに負けることはないはずだろ?」

「ああ、そうさ!!俺達の里は強かったぞ!!今まで、どんな奴が来ても追い払って来たんだからな!!それをどこぞの侍に!!」


 襲われたってワケか。手薄な隙を狙われたか、大群で攻めてきたか。

 秀吉とガチで勝負して勝ったとなると、かなり強い奴なんだろうな。一体どんな奴なんだ。


「侍か。どこの国の侍だったか分からないのか、秀吉?」

「だから、知らないって言ってんだろ!!」

「あ、うん。だったな。でも、どんな姿かくらいは分かるだろ?」

「…鬼だ。鬼のような鎧を着た侍だった…。俺の里は小さな集落だったが、それを皆殺しにして…。俺だけは運良く生き残ったけどな。…あいつ…、まだ、あの里に居座っているらしいが…」


 秀吉の性格なら、ソッコー敵討ちに行きそうなもんだ。なのに何もしないで逃げ出して来るって、その鬼武者…。鬼強いのか?


「なら、案内しろよ。俺が敵討ちしてやるよ!!これで貸し借りなしだ」

「はあ?!若様、あんた本当に馬鹿か!?里を一撃で破壊する化け物だぞ!!若様が勝てる相手じゃねぇぞ!!」

「だからって、放っておく事できねーだろ。な、ミツ?」

「そうだな。どこの国の侍かは知らないが、これは武力偵察だと思う。ノブの言った通り放置は出来ない」


 それこそ、いつも通りの俺の発言にミツの冷静な判断だ。気持ち、ミツの語気が強いのは、俺と同じく秀吉に同情したからだ。

 ましてや、虐殺なんて蛮行、許せるものじゃない。秀吉じゃなくてもブチ切れる。


「じゃあ、決まりだな。秀吉、早く案内しろよ」

「いや、だから!!若様じゃ勝てねぇって!!」

「ノブ。丸腰で行くのはさすがにマズい。装備を整えてからにしよう」

「光秀さんも!!そう言う問題じゃねえから!!」

秀吉サル、うるさいぞ。少し黙っていてくれ」

「うきっ!?」


 流石、教育係り。キーキー騒ぐ秀吉を黙らせた。

 別に秀吉に戦えと言ってるわけじゃないし、案内だけしてくれればそれで良いんだ。

 ミツの言った武力偵察ってのは分からんけど、そんな理由で攻撃してきたのなら、歯には歯をだろ。て、これはこの世界じゃ意味通じないか。


「ミツの言うとおりだな。武器は必要だ。城の蔵から借りて行こうぜ」

「信秀様にも、話は通しておくよ。一応、援軍も用意してから出発しよう」

「分かった。じゃあ、武器は俺が用意する。ミツの武器は刀で良いか?」

「いや、自分のが有るからノブは自分の分だけで良いよ。それと、秀吉の分も…。武器より防具重視で見繕ってやってくれ」

「オッケー。じゃ、出発は昼ぐらいになるか?」

「そうだな。多分、それくらいだと思う。ノブ、僕が遅くなったからって一人で勝手にいくなよ。ちゃんと待っててくれよ」

「分かってるって。俺だって、そこまで馬鹿じゃねーよ」

「なら良いんだ。じゃあ、行って来る。待っててくれよ」


 駆け足で親父の所に走るミツを送り出し、俺は俺で準備を始める。

 とんとん拍子に進む話に、秀吉が事態に着いて来れてない。まったく、これだからバカは困る。

 これから忙しくなると言うのに、ホントにまったくだ。

 俺がしっかりしなくては!!

 先ずは、武器防具だな。

 秀吉を連れて、くらに急ぐ。ここからだとちょっと遠い。ミツに習って駆け足だ。


「おい、秀吉!!置いていくぞ!!」

「…あ、ああ。悪い」


 敵討ちを前にびびる気持ちも分かるが、ゆっくりしている場合じゃないだろ。


「秀吉。お前に戦えって言ってるんじゃないんだ。バスケの時みたいにシャキッとしろよ」

「いや…。俺はただ若様達が何でそんなに張り切ってるのか分かってねえだけだ」


 これだから教養のないヤツは。少しは空気を読めよ。


「いいか、秀吉。こう言うときは黙って流れに乗るんだよ。そうすれば大概何とかなる!!」

「え、そう言うもんなのか?」

「ああ、そう言うもんだ!!」


 良し、これで秀吉の説得終わりだ。少しはやる気出してくれただろう。



 蔵に来るのも久しぶりだな。

 そう言や、俺…。蔵の鍵持ってねぇ…。まあ、良いか。


「秀吉、ちょっと離れてろ。蔵開けるからな」


 こんな時は、勿論魔法を使えば、お茶の子さいさいってな?

 発動範囲を最小限に…。だけど、威力は最大で。


「ウォーターガン!!」


 鍵穴どころか錠鍵ごと風穴開ける。いつ見ても惚れ惚れする鋭い切れ味だ。

 秀吉も当然、俺を見直したことだろう!!

 さあ、褒めるがいい。褒め称えるがいい!!


「若様!?あんた何やってんだ!!蔵の鍵なら、俺が預かってるよ!!」

「…さ、先に言えよ。そう言うことは!!どうすんだよ。また親父に怒られるじゃん!!」

「俺は何も見てないぞ!!知らないぞ!!」

「そうだ。俺も何も見てないし、知らない。これは鍵が開いていただけなんだ!! と、そう言うことなら仕方ない。さっさと用を済ませるとしようか」


 無い物は無い。始めっから鍵なんてなかったのだ。

 必要なのは鍵じゃない。武器と防具だ。

 蔵の中には刀とか槍とか一杯だ。鎧もあるが、出来不出来の目利きなんて俺には分からない。

 ある物を適当にで良いか。


「秀吉。鎧はこれで良いか?」

「何つーモンを着せる気だ!!その大鎧は信秀様の物だろ!?」

「え、そうなのか? なら、こっちのちっちゃいヤツか?」

「まあ、そんなモンだろ。若様は着ないのか?」


 うーん。俺か…。


「俺はいいや。動きづれーし。第一、格好悪いじゃん。勇者は軽装備って決まってんだよ」

「意味が分からん。そんな格好じゃ、光秀さんに俺が怒られるから、せめて胸当てだけでも良いから着けてくれよ」


 仕方ないか。こんな事でダメ出し食らって時間を無駄に遣いたくないからな。

 とりあえず、見た目重視。格好良いやつを選ぼう。

 ───と、これなんか良さげだ。

 まさに勇者!!という感じがする。尻尾テールS’的主人公ぽくて格好良いじゃん!!

 これに決定。あとは武器だ。刀だ。


「うーん。難しいな…。これは迷う」

「おいおい、時間が無いんだろ。早くしてくれよ」

「バカだな。刀は武士の命だぞ!!そう簡単に選べるものかよ。ここはジックリとだな…」


 おっと。これはまた良い物を見つけた。長巻ながまきの太刀だ。

 名刀とか云われるものじゃないだろうけど、俺としては惹かれるものがある。

 二刀流というのも憧れるが、俺にはまだその技量が圧倒的に足りてないしな。まあ、それは追々と言うことで。


「よし。じゃあ、これで準備万端だな」

「後は光秀さんが来るのを待つだけだな」


 何だ。この念押し感は…。

 言われなくても分かってるっての。


「もしかして、秀吉? 俺がミツのこと置いて行くとか考えてない?」

「え!?違うのか!!俺はてっきり」


 秀吉のヤツ、俺を何だと思ってんだ。俺は約束を破ったことがないのが自慢なんだ。

 親友との約束なら尚のこと。一人じゃ戦えないなんて、実戦にビビっているんじゃないんだよ。ホントだよ?


「それにしても、遅いな」

「光秀さん、何かあったんすかね」

「何かって、何だよ。ミツのことだから準備に時間かかっているだけだって」


 一番時間が取られそうなのは親父だな。俺達だけで行くと言えば絶対に反対しそうだ。

 まあ、ミツの説得があれば大丈夫だろうけど。


「悪い、ノブ。少し遅れた。準備に手間取ってしまったよ」


 見れば、完全武装。鎧甲冑に刀に槍…。

 なるほど。確かに、これなら準備に時間かかっても仕方ない!!


 んなワケあるか!?どんだけ武器必要なんだよ!!


「ミツ…。一体、何の準備してんのよ。流石にそれはやり過ぎだろ。戦争でもする気かよ」

「な!?ノブに言われたくない!!これが普通!!ノブは何で足軽みたいな格好なんだよ!!」


 あれ?足軽って、下っ端のことだろ?

 俺のどこが下っ端なんだよ。どう見ても勇者じゃん。勇者!!


「だって、動き易いほうが良いだろ? この格好良さが分からないなんて、ミツ…。この世界に染まり過ぎじゃねーの?」

「なんだよ!!心配してやってるのに、何で僕の方が心配されてるんだよ!!」


 これはあれだ。互いのセンスの違いと言うやつだ。

 俺カッコイいとか思っても、ツレからはダサいとか言われる、あの悲しいやつだ。

 …なんだろう。前世でも同じ記憶があるぞ。不思議だな。


「二人とも仲良いっすね。信頼し合ってるって言うんすか。こう言うの」

「当たり前だろ。親友ダチなんだからな」

「まあ、ノブの言うとおりだよ」

「羨ましいっすね。そう言う関係は…」


 何やら、重たい表情。無理もないか。

 秀吉は里ごと家族も親友も奪われたのだ。失って辛いのだろうし…。

 余計なことを思い出させてしまったか…。


「なら、お前も加わるか?」

「はあ!?若様、何言ってんのさ。俺は平民なんだぞ!!」

「親友なら、そんなの関係ねーだろ。立場で友達選んでんじゃねーよ。サルのくせに」

「ちょ!!光秀さんも何か言ってやって下さいよ!!若様、またバカなこと言ってんすよ!!」


 そうだ。ミツのこと忘れていた。ミツは秀吉のこと嫌っていたっけ…。


「別に構わないんじゃないのか。秀吉の人と成りは分かってきたし、信頼できる。悪いヤツじゃない。口は悪いけども」

「てことは、ミツも友達になりたいってことで良いのか」


 そりゃそうだ。あれだけ四六時中一緒に居れば、嫌ってばかりもいられんわな。

 元々、秀吉の方に殺意はないし。ミツも殺す気が失せるってものだ。


「まあ、そうだね。ノブの言っていたとおり、見ていて面白い奴だしね」

「なら、決まりだな。俺らと友達になろうぜ!!」

「あんたら、ホンモノのバカだ!!」


 またしても顔を真っ赤にする、サル。ホントに分かりやすいヤツだ。


「素直になれよ、秀吉。ホントは嬉しいんだろ?」

「そう言ってやるなよ。秀吉だって羞恥心くらいあるんだろうしさ」

「はあ!!何言ってんだ。嬉しくねーし、恥ずかしくもねーよ。仕方ないから、友達になってやるだけだかんな!!」

「なんだ、そのツンデレ。男にやられても、ぜんぜん萌えねーな。まあ、でも…。宜しくな、秀吉」


 初の実戦。つまり初陣を前に新しい友達が出来た。これは、俄然やる気出てきた!!

 敵はサル山!!

 案内を頼んでおいて、秀吉を危険に晒すワケにはいかない。負けることも尚更だ。

 これはあれだ。燃える展開!!胸がドキワクだ。




「あ、そうだ。秀吉、言い忘れたが…」

「なんだよ。若様」

「市に手を出したら、親友でも切腹な?」

「出さねーし!!若様、あんたは親友よりも妹のが大事かよ!?」


 と、なかなかのツッコミセンス。これは道中が楽しいことになりそうだ。




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