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黒の竜騎士  作者: 西谷東
5/15

増殖

「くしゅん」


誰かが噂をしている。だが、今はリノスにはどうでもよかった。


「あの、男の人を見ませんでした? 眼鏡を掛けて、くたびれた白衣の」


「見てないなぁ。そもそも、ここは普通の人間には危険だよ」


見張りの竜騎士が答える。


「そう、ですか」


誰も父の姿を見ていない。

夜になると魔物が活発的になる、と追い返されてしまった。



(オレが竜騎士なら……)


苛立ちを抱えながら、リノスは村へと戻る。


「おーい、坊主」


背中のカゴに玉ねぎを積んだ農夫が声を掛ける。


「あ、オッサン」


いつも村長の家に、野菜を運んでくれる人だ。


「村長の家の離れの方、灯りがついてるんだが……ひょっとして」


「え……」


村長の家の離れは、父さんが資料置き場として使っていた。


自然とリノスの足は早まる。


オッサンが言った通り、珍しく灯りが灯っている。


村長の家の離れに向かい、リノスは勢い良く扉を開けた。


「父さん!」


入った瞬間、何かの資料を踏んだ。


一度出した資料は、次々と床に散乱させるズボラ考古学者。


間違いない。


「あのさ、帰ってるなら声ぐら……い」


グサリ、背後から何者かがリノスの左脇腹をナイフで刺した。


ポタポタ、と鮮血が床へと滴り落ちる。


「……なんでキミなの?」


背後で、抑揚のない声が呟いた。


ガリラヤ村、山頂の神殿。


「お兄様が、魔物召喚用のオベリスクを破壊したおかげで、明日からの調査は比較的に楽になりましたわ」


及第点ですわ、と褒めていたカエルレウムだが


「召喚用のオベリスクなんて、とっくの昔に破壊したと思っていましたが……まさか、ウロボロス族の遺跡に残っているとは思いませんでしたけど。おまけに、外壁は石碑でカモフラージュされていたようですが、よくお分かりになりましたね」


祭壇の上で伏せているたアートルムは


「人間を見たが、その近くで見失った」


片目を開いて、気だるそうに言う。


「あんな場所に人間が居るとは思えませんわ」


ドドドドド、勢いよく誰かが山道を登ってくる足音。


「あら、この品がない足音は……」


嬉しそうな妹の顔を見て


「お前の相棒か」


「村で、子供が攫われた!!」


大声でミシュナが告げる。


アートルムとカエルレウムは顔を見合わせ


「名は? この村はガキが少ないからな、聞けばすぐわかる」


「リノスだ、村長の所で世話になってる子供」


「確か、お兄様のお友達ですわね」


「あれは、公害の一種だ。しかし、あいつが」


顔見知りの子供が行方不明、気分がいいものではない。


「彼は、セトの知り合い……奴が、何かしらの口封じのために接触したのかもしれん」


「ミシュナ、流石にそれは飛躍しすぎですわ」


カエルレウムは肩を竦める。


「セトのは、竜騎士の英雄じゃねーの?」


アートルムの言葉に


「それは、昔の話です。今じゃ、竜殺しのウィルスをばら撒いてると噂されてますわ」


カエルレウムは首を横に降る。


「とにかく、これから現場を調査する。レウム、貴様も来い!」


「強引ですわね……そこがいいのだけど」


二人の後ろ姿を見送り、


「これから、面倒なことに巻き込まれる気がする」


アートルムは深いため息をついた。

































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