王都からの訪問者
「おお、アートルム様。ご機嫌いかがですかな?」
村長ジオが、跪いて一礼する。
「普通だ」
アートルムはそっけなく答える。
ジオは神殿の周囲を一瞥すると
「リノスは、来てないようですね。まったく、勉強をさぼってどこへ行ったものか……父親は有名な考古学者だというのに、あの子は遊んでばかりで困ったものです」
(あのクソジジイ)
ギリギリと、リノスが微かに石柱に爪をたてる。
「……まあ、遊びたい年頃だからな。それよりーー」
アートルムの視線は、ジオの背後に立つ小柄な人物に向けられる。
「お前が来るとは、穏やかじゃないな」
コホン、と小柄な人物は咳払い。
「お久しぶりですわね。お兄様」
「久しぶりだな、カエルレウム」
アートルムと対峙しているのは、神秘的な雰囲気の青髪の女の子。
(アートルムはどう見ても竜だけど、あの子は人間だろ)
カエルレウムと呼ばれた女の子は、リノスより一、二歳位若い、十歳くらいだろうか。
「しばらく見ないうちに、小さな友達ができたようですね」
マリンブルーの瞳が、リノスが隠れる石柱の方へ向けられる。
「誰が小さいって!?」
カエルレウムの巻いた餌に、ホイホイひっかかったリノスが姿を現す。
「この馬鹿……「お前と来たら、またアートルム様にご迷惑を!!」
アートルムが呆れるより早く、ジオの説教が炸裂。
「ジジイうぜえ……じゃあな、アートルム。また来るからな」
「あー、お前は当分こなくていいぞ」
「これ、待たぬか!」
逃げるように参道を降りるリノスを、ジオが追いかける。
「人間はさわがしいですわ、そこがいいんですけど」
「焚きつけた本人が言うな。それで、寂しくなって兄の顔でも見に来たのか?」
アートルムが茶化すと
「そんなわけありませんわ」
カエルレウムは、いたずらを思いついた子供のように瞳を細める。
(こいつ、性格悪いのは相変わらずだな……)
「実は王都で、竜族限定の妙な病が流行っています。ここ数日で、下級竜族の死体が何体かみつかっていますが、詳細は不明。外傷がないことから、医療機関は、新種のウィルスと予測していますわ」
「おいおい、生命力の強い竜族に感染するウィルスって、シャレにならんぞ」
「そこで、お兄様にも協力してもらいたいの。このガリラヤ村の街道沿いに点在している遺跡は、ウロボロス族のものです。わたくしたちと同じ竜族ですが、ウロボロス族の血には病を癒す効果があるとか」
「遺跡があるなら、奴らの集落に通じる転送機が近くに存在するだろう。つーか、ウロボロス族の集落を探索するだけなら、騎士団だけで十分だろうに」
「それが……」
カエルレウムは溜息まじりに肩を竦めると
「遺跡周辺に魔物が集まっていますの。わたくしたちの隊だけでは、殲滅力に欠けます。そこで、調査をおえるまでの間、魔物の足止めをお願いしたいのです」
「……俺はパシリですか」
やる気のなさそうなアートルムの長い尾は、さらに祭壇から垂れ下がる。
「隠居ぐらしは、どうせ暇ですわよね。さあ、竜族の危機を救うため手伝ってくださいな」
「面倒くせえ……」
そう口にしながらも、アートルムは珍しく身体を起こした。




