プロローグ
「おい、アートルム。勝負だ」
無駄に長い参道を登り、いつものバカが来た。
中央の祭壇に佇む巨大な生き物は、トカゲのような胴体に、鉱石のように硬い皮膚とコウモリのような羽を持つ。この世界で竜と呼ばれる存在。
黒竜アートルムは真紅の瞳を開くと
「お前さん、懲りないね」
今にも火の息を吐き出しそうな口からは、長い溜息。
銀髪の少年は木刀を片手に
「やめて欲しかったら、契約しろ」
「俺の意思は無視ですか、このちんちくりんは」
「ちんちくりんじゃんねぇ!! 名前で呼びやがれ」
ドスッ
巧妙にも、少年の持つ木刀は鱗の柔らかい腹を突く。
「あー、分かったからヤメロ。リノスくん、だっけ? 俺はこれから昼寝の時間なんだ。また、今度な」
「おまえはいつも寝てるだろ」
このぐーたら竜が、とリノスは呆れ顔。
「こんなんじゃ、王都へ行けないし」
王都と竜との契約。
必然的に答えは導きだせる。
「なんだお前、竜騎士なんかになりたいのか?」
真紅の瞳が、見下ろす。
「なんかとは、なんだ!」
また、木刀がアートルムの腹を突く。
「オレを助けてくれた竜騎士様は、すげぇカッコよかった」
「……ほう」
口を開けば「勝負」「契約」しか言わないリノスが、自分のことを語るのは珍しい。
「オレは強くなりたい。そしたら、父さんを探しに行ける」
「親父さん、行方不明なのか?」
アートルムの問いに、リノスは首を縦に振る。
「この村の近くにある遺跡、そこで魔物に襲われた。オレはセトって竜騎士に助けられたけど、父さんはどうなったか分からない」
「……そうか」
アートルムは再び深いため息を吐く。
(ウゼェ子供だと思ってたが、こいつ苦労してるんだな……)
近づいてくる複数の足音を捉え
「……リノス、石柱の後ろに隠れろ)
アートルムは長い首を上げた。
「なんだよ、急に?」
「村長の足音も混ざっている。勉強さぼってここに来てるのがバレると、また小言がはじまるぞ」
「あ……うん、耳いいな」
石柱の後ろに身を潜めたリノスを横目に
「竜は人間より優れてるんだ」
アートルムが言う。




