7話
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翌朝、遺失物センターの入口は、ブルーシートだった。
「……で」
本部会議から戻ったセンター長は、ブルーシートを見て、窓口の奥の壁に走る切れ目を見て、最後に俺と鳴海さんを見た。
「どっちが、どっちだ」
「ドアがあたしで」
「壁が俺です」
センター長は長いため息をついて、破損報告書の用紙を二枚、カウンターに並べた。
それから、もう一度だけ壁の切れ目を見た。剣の届かない距離に走った、まっすぐな線。処分待ちの棚の古い剣にも、ちらりと目をやった。
何か言うかと思ったが、センター長は何も言わなかった。
湯呑みを持つ手が、少しだけ震えていた。笑いをこらえているのだと気づいたのは、鳴海さんが「センター長、肩揺れてる」と指摘してからだった。
◇
その子が窓口に来たのは、午後三時を少し過ぎたころだった。
カウンターの縁から、つむじだけが見えている。背伸びをして、ようやく目が出た。
ランドセルを背負った男の子だった。小学二年生くらい。ランドセルの名札に、『三浦颯太』とある。
「いしつぶつせんたーは、ここですか」
「はい、ここです」
「おとしものの、とどけを出しにきました」
男の子は、折りたたんだ画用紙をカウンターに置いた。
開くと、クレヨンの大きな字が並んでいた。
『いしつとどけ
なまえ:みうら そうた
おとしたもの:パパのたからもの(ぼくがつくった)
おとしたばしょ:ダンジョン
とくちょう:せかいにひとつ』
隣で報告書を書いていた鳴海さんが、顔を上げた。
「……かわいい」
「かわいくないです。ちゃんとした届です」
颯太くんは真剣だった。俺も、真剣に受け取ることにした。
俺は届を受け取り、端末に打ち込んだ。颯太くんが、カウンターの縁から画面を覗き込もうとして、また背伸びをする。
「それ、ほんとうのとどけになる?」
「なります。ちゃんと受理しました」
颯太くんは、ほっとしたように息を吐いた。
「お預かりします。もう少し、詳しく聞いてもいいですか」
「はい」
「パパの宝物は、どんな形ですか」
「どんぐりのペンダント。いちばん大きいどんぐりに、ぼくが顔をかいて、ひもをつけた。パパのおたんじょうびにあげた」
「パパは、それをいつも持っていたんですね」
「ダンジョンに行くとき、いつも首にかけてた。おまもりだって」
颯太くんの声が、そこで少し小さくなった。
「でも、こないだ、なくしてきた。パパ、『落としちゃった、ごめんな』って言うだけで、どこで落としたか教えてくれない」
鳴海さんが、カウンターの横からしゃがみ込んで、颯太くんと目の高さを合わせた。
「それで、一人で探しに来たの?」
「うん。ここなら、なんでも見つけてくれるって、ヒカルの配信で言ってた」
俺は、思わず手を止めた。
「……日野さんの?」
「けさの配信のアーカイブ。窓口のおにいさんが、剣で爆弾きったって。あと、ものをこわすおねえさんがいるって」
鳴海さんが、ゆっくり立ち上がった。
「あいつ、そこまで話したんだ」
「全部話すって言ってましたからね」
颯太くんが、鳴海さんを見上げた。
「おねえさんが、こわすひと?」
「……そうだけど」
「ペンダント、こわさないでね」
「こわさないよ」
鳴海さんは珍しく、両手を背中に回した。触らない、という意思表示らしかった。
◇
お父さんがダンジョンに潜った日を聞くと、四日前の土曜日だという。お父さんは探索者で、主に三層で仕事をしているらしい。
三層なら、もう流れ着いていてもおかしくない。
今朝の回収箱の中身を、ひとつずつ確かめた。
折れたナイフ。空の水筒。片方だけのゴブリンの靴。もちろん左。
その下に、それはあった。
大きなどんぐり。油性ペンで、にっこり笑った顔が描いてある。頭のところに小さな穴があけられ、色あせた毛糸が通してあった。毛糸は途中で、ぶつりとちぎれていた。
「あった」
颯太くんが、カウンターに飛びついた。
「ちょっと待ってください。確認します」
俺は手袋を外した。鳴海さんが、颯太くんの肩にそっと手を置いて、一歩下がらせた。
素手で、どんぐりに触れる。
◇
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