5話
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【霞ヶ淵】ダンジョン雑談スレ Part412
51:名無しの探索者
ヒカルの配信、四日前の落石からずっと止まってるな
52:名無しの探索者
本人のSNSは「無事です、機材回収待ち」だけ
いつもの元気ないの気になる
53:名無しの探索者
八層の赤柱って落石あったっけ
あそこ天井かなり安定してるはずだけど
54:名無しの探索者
話変わるけど霞ヶ淵の遺失物センター行ったことあるやついる?
55:名無しの探索者
>>54
ある
財布受け取りに行ったら「二層のきのこの群生地で、しゃがんだときに落としましたよね。右から三本目のあたり」って言われた
合ってた
56:名無しの探索者
こわ
57:名無しの探索者
俺もある
届の状況欄ちょっと盛って書いたら、窓口で真顔で「スライムですよね」って言われた
58:名無しの探索者
>>57
ミノタウロスの人?
職場の先輩がその話してたぞ
59:名無しの探索者
>>58
なんで広まってんの
60:名無しの探索者
あの窓口の兄ちゃん何者なん
落とした場所どころか落とした理由まで当ててくるの意味わからん
61:名無しの探索者
回収班の鉄槌のお姉さんもやばい
五層でミミックの蓋、素手でねじ切ってた
62:名無しの探索者
遺失物センター、人材の振れ幅どうなってんだ
63:名無しの探索者
そういや昨日、その鉄槌のお姉さんが八層の赤柱のほう歩いてくの見た
若い職員っぽいのと二人で
64:名無しの探索者
>>63
ヒカルのドローン回収じゃね?
65:名無しの探索者
落石で落とした機材、わざわざ八層まで取りに行くもんなの
◇
閉館後の遺失物センターは、やけに静かだ。
昼間はひっきりなしに鳴る電話も、カウンター越しの「すみません」もない。壁一面の保管棚に並ぶ落とし物たちが、持ち主を待って黙り込んでいる。最上段の古いお守りも、いつもの場所にあった。
照明を半分落とした窓口で、俺は日野さんにドローンを差し出した。
白い機体。羽根に青いテープ。
「……本当に、見つけてくれたんですね」
受領書にサインをもらってから、機体を渡す。日野さんは両手で受け取って、しばらく黙っていた。人目を避けたいから閉館後に、と言ってきたのは日野さんのほうだ。
鳴海さんは別件の回収で潜っている。センター長は管理局の本部会議で、今夜は戻らない。
「日野さん」
俺は、できるだけ普通の声で言った。
「あれ、事故じゃないですよね」
日野さんの肩が跳ねた。
「岩の割れ目が焦げてました。それに、配信を切ったのは日野さん自身です。ドローンも、自分で投げてる」
「……なんで、そこまで」
「落とし物を見れば、だいたいわかるんです」
日野さんは長いこと俺を見ていたが、やがて力が抜けたように、カウンターに手をついた。
「赤柱の結晶、勝手に掘ってる連中がいるんです」
八層の赤い結晶は、管理局が採掘を禁じている。回廊を支える柱だからだ。
「配信で何回も同じ回廊を映してたら、柱が少しずつ細くなってるのに気づいて。それで、こっそり撮りに行ったら……発破を仕掛けてるところに出くわして」
焦げた断面。あれは、発破の跡だったのか。
「逃げるとき、そいつらのリーダーに名前を呼ばれました。俺の配信、観てたんでしょうね。顔もチャンネルも割れてる。だから、事故ってことにしておけば、見逃してもらえるんじゃないかって」
「黒い手袋の男ですか」
日野さんが、ぎょっとした顔をした。
「発破を扱う人がはめる、耐熱の手袋です。たぶん」
そのとき、背後で自動ドアが開いた。
閉館の札を掛けたはずのドアだ。
「話が早くて助かるな」
入ってきたのは、がっしりした男だった。作業着の上に探索者用の胸当て。両手に、黒い耐熱手袋。
低い声。記憶の中で、日野さんの名前を呼んだ声だった。
「郷田……さん」
日野さんが、ドローンを胸に抱えて後ずさった。
「つけられてた……? ちゃんと、遠回りしてきたのに」
「配信者のくせに、尾行に気づかねえんだな」
「B級の郷田だ。よろしくな、窓口の兄ちゃん」
郷田は、ゆっくりカウンターに近づいてくる。
「そのドローン、渡してくれ。中身を消したら、それで終わりにしてやる」
「落とし物は、持ち主にしかお返しできません」
「固いこと言うなよ」
郷田が、手の中で何かを転がした。赤く脈打つ、卵ほどの魔石。表面に、細い術式の線が刻まれている。
発破用の魔石だ。
俺は、カウンターの下から短槍を引き抜いた。
郷田は笑った。
「昨日の八層、見てたぞ。それじゃムカデの殻も抜けなかったろ」
見られていた。鳴海さんと潜っていたあいだ、ずっと。
「あの鉄槌の女がいなけりゃ、あの場でもらってたんだがな。今夜はいないんだろ」
だから、今夜を待っていたのか。
郷田の親指が、魔石の術式をなぞった。線が、赤く光り始める。
「待て、ここで使ったら――」
日野さんの声が裏返った。
「建物ごとはやらねえよ。そのドローンと、ついでにお前らが吹っ飛ぶくらいだ」
郷田が魔石を放った。
まっすぐ、日野さんの腕の中のドローンへ。
短槍じゃ、間に合わない。
俺は振り返った。窓口の奥、保管棚の一番下の段。三か月の保管期間が過ぎ、持ち主が現れなかった物を並べた「処分待ち」の棚。
その端に、一本の剣が立てかけてあった。
三か月と少し前に届いた剣だ。鞘も柄も古びていて、刃こぼれもある。持ち主の届は、ついに一件も出なかった。
俺は今まで、手袋越しにしか触れたことがない。
武器の落とし物に素手で触れると、記憶が見えるだけじゃない。
体が、持ち主の最後の一振りをなぞろうとする。
折れた剣や錆びた槍に、これまで何度か、うっかり素手で触れてしまったことがある。最初は窓口で、受け取った鉈に触れた瞬間、カウンターを叩き割りかけた。それ以来、武器の落とし物は必ず手袋越しに扱うと決めている。
この剣の最後の一振りが何なのかは、知らない。知らないまま、ここに置いてきた。
手袋を引き剥がし、柄を握った。
◇
暗い。底の見えない、どこまでも深い場所。
目の前に、山のような影がそびえている。
息を吸う。剣を構える。
踏み込みと同時に、斜めに一閃。
影が、音もなく二つに割れた。
剣が手から滑り落ちていく。指に、もう力が入らない。
落ちていく刃の面に、遠ざかる光が映っていた。
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