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【異世界日常ほのぼの?】呪われ皇帝一家は転生令嬢を離さない  (恋愛よりもファンタジーよりの話が多めな気が……)  作者: ねこのなかみ
【ほのぼの】めざして、たまに問題解決

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コリドランドへようこそ ②

 人間側も魔獣側も、問題を起こさないようアリアとの約束を遵守する空気ができあがっていた。

 初めてコリドラに会った面々のために、基本情報を一緒に確認していく。


「白コリが一番懐きやすく、回復やバフ系の魔法が得意です」

 我先にと、呼ばれたと思った白い魔魚たちがアリアを押し倒す勢いで揉みくちゃにしだす。

 彼女が倒れないでいられるのは、背後やサイド、四方八方から身を寄せてくる白コリたちで支え合う形になっているおかげだ。


「青コリは水魔法と風魔法が一番得意なので機動力が自慢ですね。火山にも棲める赤コリはちょっと怒りっぽく、本気を出したら硬い岩盤も掘れちゃう一番の穴掘り名人……」


 離れた場所で、逆立ちになる勢いで元気に地面をモフモフ耕して(ついばんで)いる一匹の赤コリに視線が集まる。

 古代魔生物の討伐を手伝ってくれた個体、シュカだ。

 赤コリに多く見られる怒りっぽさよりも食いしん坊の一面が強いが、エサについて口を出し過ぎるとキレるので、やはり色別の傾向に当てはまる。


 一足先に来たことがあるシュカは我が物顔で、早くも小腹を満たすのに忙しい。

 コリドラとの再会場所として作ったミニチュアの予行練習をかね、領地にいたシュカを呼び出した。

 ここで別のミニチュアに入ってもらい、一緒に辺境へ転移して古代魔生物を討伐したのだ。


 現在はコリドラを帝城に連れて行こうとしても、城から来た誰かが辺境に行こうとしても、転移陣に弾かれる設定になっている。

 城に魚群が雪崩れ込む心配も、暗殺者が紛れ込む可能性もない。


「斑(ぶち)コリは毒性だけでなく殺傷・隠密能力が一番高いので、絶っ対に敵認定されてはいけません。煌(きら)コリは一番希少価値のある魔石、宝石、金などを生み出せます。この辺のオレンジやエメラルドグリーン、金色の子たちです」


 次々と挨拶に来る魔魚を撫で、アリアの説明は長くなるが、一同は静かに聞き入っている。

 すべての特徴に『一番』と付いているのは、これらの能力や特性がほぼすべてのコリドラに共通しているからだ。


 便宜上、色や柄で括っても、各グループの傾向に当てはまらない個体もいて、実にコリドラは多種多様。


 例えば、やさぐれた白コリは空飛ぶ綿毛にさえケンカを売る。

 人懐っこすぎて人間にまとわりつく斑コリは、意図せず恐怖の大王として有名だ。

 水を浴びるとヒレがつって溺れかける青コリなども、アリアの興味を引き付けて離さない。

 暇つぶしに世界を破滅へ導こうとする愉快犯には手を焼いているが。


 ユニークな個体についても伝えるべきか迷うアリアに、皇子の一人がスッと手を肩まであげ、控えめな挙手をした。

 ダークブラウンのつるりとした甲殻肌の顔立ちは優しく、時に仏像を思い出させるウィルシェルだ。


「もう喋っても大丈夫ですよ」

「水玉模様も斑コリなのは何か理由がありますか?」

「最初に柄コリでまとめたら、ガラで出汁とる気かって怒られまして」

「エルムガルド嬢が付けたんですか?」


「勝手に呼んでたら広まってしまいました。――なんにせよ、ブチ切れたコリドラは色柄に関わらず、ぶち破ったり、ぶち壊したり、ぶち撒けたり……何をかは、ご想像にお任せします。不用意に近づかず、つつかず、怒らせないのが大事」


「まさに斑コリの歌ですね」

「歌までご存じでしたか」

「弟たちには教えていないのですか?」


「教えていいものか確信が持てず……。ですが、危ない部位はばっちりです。――グラウ様、スレィアム様、コリドラのどこに毒があるか、覚えてますか?」


「せなかのビョーンと、おっぽ」

 身体の輪郭を魚の形に似せた――が、はた目には帽子の横で皮がむかれ始めた太っちょバナナの――スレィアムが身振り手振りで答えた。


 竜の背に腹ばいで抱き着いていたグラウクスも上体を起こし、首の後ろとお尻を両手で触っている。

 幼児のセクシーポーズもどきは、ただただ可愛い。


「斑コリは~?」

「ぜんぶぅ」

「ぶ~」

 スレィアムは身震いして全身ごとヒレをゆすり、グラウクスは手足をヒレに見立ててバタバタさせた。


「他にも怖いのは?」

「あたまで、どーん」

「どーん」


 コリドラダッシュと呼ばれる頭突きを真似し、兄同様に勢いよく頭を振ったグラウクスはバランスを崩す。

 横にいた次男坊が末っ子を支え「よく勉強したね」と二人の頭を撫でて褒めた。


「一昔前に乱獲され、今では辺境伯領以外ではほとんど生息していないのですよね」

 今日のために予習復習したウィルシェルも、弟たちに負けじと知識を披露した。

 目を輝かせる彼は珍しくやや興奮した様子で、いつもより感情豊かだ。


「どのように共存しているのですか?」

「うちの領では自然に落ちた素材のみ採取します。普段はどの子もほぼ野生で、誰かのお願いを叶えてあげている最中だけ使役獣の扱いですね」


「コリドラは気に入った相手の種族に関係なく、素材や収集物をプレゼントする習性があり、自発的に能力も使ってくれるというのは本当ですか?」


「ふぅ、話続けるの、なかなか大変……」

 問われたアリアが喉を押さえて咳払いすると、青と白が混ざった光、魔力が降り注ぐ。


「喉は潤い、疲れも取れた! ありがとう」

 水魔法と白魔法をかけてくれたコリドラたちのカマ部分をくすぐったアリアは、甲殻皇子に「――ご覧の通りです」と、キリっと答えた。


 話が盛り上がっている間もコリドラたちはアリアにすり寄り、押し合いへし合いし、時々ポケットに何かを吻《くち》で突っ込み去っていく。

 彼女のエプロンはポケットに補強が必要になることだろう。


 ぶちキレない限り、コリドラは優しく頼もしい。

 古来より人間はコリドラを恐れつつも感謝し、彼らを刺激しないように暮らしてきた。


「だからこそ人間の都合に合わせて手伝ってもらうなら、その時にコリドラをその気にさせるしかありません」

「過去に頼めた依頼でも、タイミング次第では断られる……?」

 理解の早い皇子の独り言にアリアは頷く。


「名分けによるコリドラとの専属契約は、ここ数十年で数件です。白コリに弟子入りをお願いして医療革命を成し遂げた女性とか、青コリを助けた少年が恩返しに来た子とコリドラ便を始めたとか」

 少なからず帝国全土に影響を与えた出来事で、帝都の人間のほとんどが聞いたことがある。


「名分け……。魔人と契約を結んだり、魔生物をテイムする方法ですね」

「はい、複数のテイマーがつくと人気度を示すかのように、どんどん名前が長くなります。逆に人間は短くなるので、テイムはたくさんできません」


「王侯貴族の名前が長い理由の一つが、名分けに備えてだって知ってましたか?」

「なるほど。残った音がプとかキだけなら、ケンカ売ってんのかと不快な呼び方を問い詰めても、言い訳されますもんね」


 名分けは簡単ではないが、改名機会を作りやすい貴族女性にとっては一種の持参金代わりだったのかもしれない――というアリアの推測も正しい。


「では平民の名前が短いのは……」

「テイマーによる魔生物を使った反乱や暴動の防止目的です」

 やはり帝国民の名前の長さには理由があったのかと、アリアは博識なウィルシェルに感心した。


「ちなみに、悪食のシュカとあそこの鞍付き青コリのクラは、ただのあだ名です。将来、彼らにテイマーが現れたら、きっと違う名前になりますね」

 二匹を指さしたアリアは少し寂しそうだったが、すぐに明るい表情になった。


「――というわけで、単発依頼が多い領民たちは報酬片手に歌って、手当たり次第にお願いします」

「贈り物で厄災級の魔獣と仲良くなれるとは……」


 しかしながら、普段からコリドラに友好的な分、誰か一人が飛びぬけて気に入られるのは難しい。

 名分けと恩恵めあての計画はアリアが知る限り、全て失敗に終わっている。


「エルムガルド嬢はとても好かれていますね」

「運よくコリドラの王様、ボスコリにも気に入ってもらえましたので」


 尊敬のまなざしを受け、アリアはちょっと誇らしげだ。

 喜びを隠さないコリドラと彼女の触れ合いを、ウィルシェル以外はおとなしく眺めている。

 静観し話に耳を傾けるのは、国の上層部としての資質なのだろう。


 ケイリィの口が開きかけたのを察知した幼なじみ二人が静かな一撃を食らわせた。

 彼が「コリキングじゃないんかい」とツッコもうとしたことは誰も知らない。


 アリアの生存を確認して満足した魔魚たちの多くは帰って行った。

 ミニチュア内に残って思い思いに過ごしている個体は最初と比べるとかなり少ない。


「群れとしての仲間意識が半端ないので、一匹に嫌われたら全コリドラに嫌われると思ってくださいね」

 怖いほど真剣な顔のアリアに、念を押された全員がしっかり頷く。


「過去の乱獲者は、仲間を傷つけられたコリドラたちが根絶やしにしたと」

「その通り、さすがです、ウィル様。卵や赤ちゃ(べビ)んコリが狙われたのと、我が身を顧(かえり)みずに人間を滅ぼそうと反撃し、人獣お互いが絶滅寸前になったそうです」


 自業自得の密漁者をコリドラたちが追い回しても、善良な市民に被害が出れば、大義名分を持っていても討伐対象となるのが世の道理。

 かといって乱獲者の身勝手で、お互いの種の存続をかけ戦うのは論外である。

 そのジレンマに終止符を打ったのがアリアの兄、ヴォルグだ。


 アリアがスレィアムくらいに幼かった頃、煌コリ目当ての命知らずな密猟者がまた現れた。

 しかも数匹のべビコリと一緒にアリアが攫われた。

 その当時、まだ辺境伯令息だったヴォルグと事情を知ったコリドラたちは、世界を滅ぼすのではないかとばかりに怒り狂った。


「今では兄の怨敵。この世に逃げ場をなくし、乱獲者はいなくなりました。ちなみにコリドラたちは敵討ちを手伝った兄も大好きです」


 彼らは早くも各地で伝説と化している。

 被害者たちの奪還は言わずもがな、犯人たちの捜索から懲罰までを疾風迅雷の対応で完了したのだ。

 コリドラの怒りを鎮めた功績により、成人と同時にヴォルグは辺境伯と認められ、皇帝からウ音で終わる名への改名許可という栄誉を得た。


 ようやくアリアへの熱烈歓迎も終わり、ほとんどのコリドラがリラックスしている。

「そっと、なら、触っても、大丈夫、でしょうか?」


「こちらにどうぞ。――まずは白コリで試してみましょう」

 やや緊張気味に希望を伝えたウィルシェルにしたように、微笑むアリアが手招きすると白コリの集団が寄ってきそうになった。


「ごめん。一匹、まずは一匹だけでいいの。一番ちっちゃい子がおいで」

 自薦他薦の結果、一匹の白コリが二人に近づいてくる。

 アリアの隣で立ち止まり、ウィルシェルとは少し距離をとった。


「ではウィル様、白コリの目を見つめて、ゆっくり近づき……コリドラの目がカワイイままなら、手を静かに差し出してみてください」


 ウィルシェルは助言に従い、好奇心に首をかしげる白コリとしばし見つめあう。

 彼が手をゆっくり差し出すと、白い魔魚がパクリとかぶりついた。

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