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【異世界日常ほのぼの?】呪われ皇帝一家は転生令嬢を離さない  (恋愛よりもファンタジーよりの話が多めな気が……)  作者: ねこのなかみ
【ほのぼの】めざして、たまに問題解決

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19/30

アリアが「婚約者」と呼ばれない理由

 顔合わせはあっさりと終わり、もてなしを受けたというより水分補給を済ませた感の辺境伯を、ドュレイグとアリアは並んで見送った。


「家族はリアと呼ぶのか。私も特別な呼び方がしたい。アリアがくれた愛称に合わせ、アリーはどうだ?」

「兄のアニーとかぶるので却下でお願いします」


 耳元でささやいたドュレイグの案を、すげなくアリアは断った。

 しゅんと縮こまってうつむく――アリア以外の人間には飛びかかるための力を溜めている格好にしか見えない――竜が、彼女の罪悪感を刺激する。

 ドュレイグはアリアの眉が下がるのを見逃さなかった。


「ドュ……ディー様」

 ドュレイグは親密さアップを言い訳に、アリアだけの愛称を考えてくれと早いうちに頼んでいた。

 意識していない時に愛称を忘れることがまだあるが、言い直す頻度は確実に減っている。


 敬称が余計だという不満は少しあれど、愛称で呼ばれる度、微笑みに似たアリアの顔が見られるため、呼ばれる本人はたいへんご満悦。

 もちろん、ケイリィが適当に候補に挙げたドリーやドグ、レッグなどは比較対象にもならなかった。


「兄への仲良しアピールとしては不発するかもです。実は以前、兄が『アリ』という名はダメだと言っていたので、アリーも好まれないかもしれません」

「辺境伯は意外とこだわる男だな。嫌われてアリアを連れ帰られては大変だ。今はやめておこう」


 竜と婚約者は珍しく二人きりで城内を歩いていた。

 ユーリウスとケイリィは撤収する弟皇子たちに付き添った後、アリアが呼び寄せた人材に会う場で合流する手はずだ。

 

「さきほどの、実家に帰る発言はいつの話だろうか?」

「できるだけ早くですね。コリドラが集団で暴れると世界規模で困るので」

「そんな大災害を防ぎに行って、アリアは危なくないのか?」


 心配するドラゴンをよそに、アリアは平然としている。

「各コロニーでだいたいのコリドラに会ってくるだけです」

「それだと結構な時間、城を離れてしまうな」

「グラウ様たちを連れていくわけにはいかないので、仕方ありません」


 真剣な顔のドュレイグは頭をフル回転させる。

「……アリアが城を離れずに、コリドラが会いに来る方法でも問題ないか?」

「そんなことが可能なら最高ですね……っと、ディー様、その話はまた後で」


 廊下にケイリィとユーリウスが立っていた。

 アリアは彼らの間にある客室の扉をノックし返事が聞こえると、ドラゴンと側近たちを従えて中へ入る。


「ディー様、領地から来てもらったミカとダンテです」

 ソファに座らず立ったままで待っていたのは、アリアよりも少し年下の少女と、その彼女と血縁関係を感じさせる顔の男。

 二人は震える身体と声でそれぞれの名を告げ、ドュレイグたちに挨拶した。


 隠そうとしつつも隠し切れない怯えが見える様子は、呪われた皇子(おうじ)たちの周りではよく見る光景である。

 やはり初対面からケロリとしていた辺境伯家の兄妹が特殊なのだとドュレイグは再確認した。


「二人とも来てくれてありがとう。お兄様と一緒なら道中も安全だったと思うけど、問題はなかった?」

 アリアはうなずく彼らに着席を勧めたが、全員立ったままで話をすることになる。


「不思議に思うかもしれないけど、私、城ではディー様の婚約者だと認められるようがんばってる『婚約者の皇子との関係には触れないでくれ令嬢』なの。二人にも箔がつかなくてごめんね」

『はぁ……』

 いまいち腑に落ちない兄妹は揃ってあいまいな返事をした。


 当人たちの意思を無視して婚約する帝族たちは、婚約破棄されることが多い。

 意に反して婚約者となってしまった女性には、誤解されたくない相手がいる場合や、婚約期間が終われば何事もなかったかのようにフェードアウトを希望する場合もある。


「城内の人たちは滞在中の女性の希望に合わせて、彼女たちへの対応を変えるんですって」

「どのようにですか?」

 恐怖よりもミカの中で好奇心が勝ってきた。


「某(なにがし)殿下の婚約者という立場を最大限アピールして未来の帝族と崇め奉るとか、婚約の事実には触れずにただの居候あつかいでそっとしておくとか」

「ご婚約者様が立場を隠して何か得があるのでしょうか?」


「そりゃ、あるわよ。婚約破棄をほのめかせるでしょ。それに『誰々殿下のご婚約者様』と扱われなければ、帝族の婚約者だけが得られるメリットがない代わりに、婚約している皇子以外とデートしても問題ないし、覚えることだって……」


 アリアは解説の途中で、皇子たちの世話がなくとも妃教育は免除だった可能性に思い至る。

 視線が合ったドラゴンは他意なく目元を細めるが、彼女の目には、してやったりの顔に見えてしまった。


 六番目ではなく一番目の皇子の婚約者と呼んでくれ――そう頼むのは図々しいとしか思えなかったアリアは当然、婚約者扱いを拒んだ。

 本当にドュレイグの婚約者になっていたとしても(いるのだが)、婚約破棄をする予定の者が不相応な特別待遇を享受するのは心苦しいとも考えている。


「えーと、お嬢様は殿下の婚約者として滞在しているけれど、お立場を示す接し方をしてはいけないので、エルムガルド辺境伯家のお嬢様として今まで通りお仕えして問題ないという意味ですか?」 

「そうよ。でも、もし誰かに私たちの関係を訊かれたら、グラウ様はのびのび成長中で、ディー様と私は蜜月状態って答えてね」


「はいっ」

 細かいことはよくわからなくても、アリアがいつか帝族に嫁いで手が届かなくなる存在ではなく、変わらず自分たちのお嬢様でいてくれるのだと知ったミカは元気に返事をした。


「それって結局、お嬢様と殿下は……」

 竜の意に反して虎の尾を踏みたくないダンテは細かいところを確認したい。

 そんな彼に忍び寄ったケイリィが、彼にだけ聞こえるよう、こそっと囁く。


「ズボズボな関係になりたくても、ズブズブどころか、せいぜいズバズバ言い合う仲だ。アリア嬢は城でズビズビしてないから心配しなくていいって」


「はぁ……」

 なんとなく、この人の命と職が無事なら、帝族に喧嘩を売る気のない自分たちも城でやっていけそうだと感じたダンテは肩の力を抜いた。


 ドュレイグの婚約者名はきちんと(・・・・)周知されているが、特に活動範囲が被らない場合、彼女の名前と顔が一致しない勤め人も多い。


 強制指名は正式発表(アリアに告知)前だったため、対内的にもアリアが婚約者になった経緯はうやむやになり、真相を知っている者は城内でも限られる。

 ただ当主には、ドュレイグがアリアと強制的に婚約した旨の書簡が、彼女と入れ違いで届いていた。


 アリアが寝込んでいた間に急いで口止めしたが、彼女の生家で働いている者は知っている可能性が高い。

 後で改めて二人に箝口令をしこうと決めたドュレイグは話を逸らす。


「彼らには何を任せるんだ?」

「元々はミカの姉が私の専属侍女をしてました。彼女が出産育児休暇を取ってからは、見習いとして学んでいた妹のミカが付いてくれていて。こちらでも無理のない範囲で私の世話を頼もうと」


 贈り物を届ける旅路にも同行するとミカは申し出たのだが、野宿に付き合わせるなんて申し訳ないとアリアは断っていた。


「兄のダンテには細々(こまごま)したことをお願いするために来てもらいました」

「雑用なら、城にいる者でもでき……」

「いえ、彼でなくては!」


 頬を赤らめ瞳をキラキラさせるアリアの前のめりな勢いに、竜の目じりがピクリと動いた。

 不機嫌なオーラを出しつつ、ダンテだけをじーっと睨め付ける。


「この男を、わざわざ?」

 地の底から響くような低音に、首の後ろが総毛立ったダンテはガタガタ震えて冷や汗を流す。


「お、お嬢様、僕の【祝福】や仕事内容を、詳しくお伝えください。お願いします。僕のために、ぜひ、お願いします!」

「もうっ、それだと色々バレちゃうじゃない」

「いや、なんか、僕の人生がかかってる気がします」


「まさかの売り込み? 今さら出世欲をたぎらせるとは思ってもみなかったわ」

 それでも彼の将来につながるならと、残念そうにしつつもアリアは白状した。

「実はダンテには絵を描いてもらいます」


「絵師はいるが?」

「彼は見たモノを忠実に再現できるんです。他人が見た光景――記憶を描くこともできます。なので殿下たちが長時間じっとしている必要がなくて。負担なく自然な姿をたくさん描けるんです」


 それこそ高性能カメラが王宮のいたるところにあるようなもので、アリアの脳は描いてほしい記憶で早くも容量オーバー寸前だ。


「すべてお見せして、なにか問題がある絵は処分しますので。……この前、ディー様が見逃したポポゥ狩りの見せ場や参加者が集合した場面を試しに描いてもらっていいですか? 絵があると思い出話が盛り上がりますよ」

「かまわない。完成したら、ぜひ話そう」


 両手を広げたアリアは飛び跳ねそうになった。

 揺れるものに狩猟本能が刺激されたドュレイグは反射的に彼女の胸に飛び込みそうになった。

 二人が自制心を持ち合わせていたおかげで激突は避けられ、それぞれの挙動不審な動きに感づいた周りも胸をなでおろす。


「……………………絵師の数を増やすのでダメなのか?」

「記憶を共有して一瞬を切り取り、忠実に、臨場感と魅力あふれる絵をそこそこ早く描ける人がいれば、他の人でもかまいません」


 条件の内どれかなら見つかる可能性は高いかもしれないが、全てを備えている能力者は貴重だろうことが、絵にさほど関心のないドュレイグでも、

「……わかった」


「やった」

 アリアは領地から来てくれた二人に抱き着いた。

 ミカは嬉しそうに頬を染め、顔を青くしたダンテはすぐさま距離をとる。


「お嬢様は僕を殺す気ですか?」

「何言ってんの、兄さん。――うれしいです。誠心誠意、お仕えいたします、お嬢様。あっ、仰っていた画集(アルバム)たちもお持ちしました」

「ありがとう」

 アリアは抱きしめていたミカの頬に感謝のキスをした。


「といっても、ほとんど旦那様と兄さんが運んでくれたんです……」

 手柄を横取りしてしまったミカは気を利かせたつもりでも、急に狭くなった兄の喉からは笛のような音が短くもれた。


 第一皇子と側近たちの視線を集めていることに気づいたダンテは顔の前で手を激しく振る。

「ほぼ見てただけです」

 ダンテは両腕を伸ばし、手のひらをアリアに向けた。

「僕への労いには、いつも通り、好待遇の仕事環境をお願いします」

「そのつもりだけど?」


 変な人を見る目のアリアにミカが問いかける。

「これでご挨拶は終わりですか? お嬢様の視察中に完成した絵もお持ちしました。ご覧になります?」

「もちろんよ」


「アルバム運びを手伝おう」

 手を繋ぐようにして出て行った少女たちの後ろを、いそいそ のそのそ、ドュレイグもついていった。


 ポン――っと、ケイリィはダンテの肩に手を置いた。

「殿下に目をつけられるなんてな」

「ぼ、僕の命、大丈夫ですか?」

 ダンテはケイリィではなくユーリウスに問うた。 


「殿下が保存しておきたい、もしくは見逃したアリア嬢の姿を絵にして差し上げればいいのでは?」

「おぉ~、やっぱりお前賢いな、ユーリウス。そうだな。とびきり可愛い笑顔とか、寝顔とか、キス待ち顔とか、どれも一発じゃね?」


「でも……それ(・・)を見た僕は許(生か)されるのでしょうか?」

『………』

 何とも言い難い顔と無表情で無言になる二人。


 要注意人物リストに載ってしまったダンテは、最強生物の機嫌を損ねるなと妹に言い含めると決意した。

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